総合的な学習へのインターネットの活用
−熊野学の取り組みを通して−

中辺路町立近野中学校
教務主任 庄口和志
Mail  chikano@mb.aikis.or.jp
URL  http://www.aikis.or.jp/~chikano/index.html
キーワード 中学校,総合的な学習,インターネット,電子メール,学校間交流,地域学習


インターネット利用の意図
 本校は,和歌山県南部に位置する人口約850人の山里にあり,全校生徒数は17人(平成11年度)という“へき地校”である。また,この地域では平安時代以降,熊野詣での宿場町として栄え,教科書に登場する多くの偉人や文学者が数多く訪れた歴史を持っている。折しも,平成11年度には南紀熊野体験博が開かれ日本全国から多くの人々が訪れた。このような背景の中で,本校の特色である“ふるさと学習”をコンピュータの活用でさらに発展させ,生徒にふるさとの素晴らしさを再認識させたいと考えた。さらに,インターネットを通じ,多くの人々と交流を深めることが出来れば,少しでもへき地のハンディを克服できるのではないかとも考え実践を企画したものである。


1 実践内容
(1) 本校のシステムとその特徴
 本校の取り組みを紹介するには,そのシステムを理解して頂きたい。一般的に学校が研究を行うときは教育委員会または関係機関からの委託を受けることが多い。しかし,本校のコンピュータに関しては本校の職員で構成する近野情報教育研究会が自主的に行っているものであり,CECの研究課題への応募もこの団体が自主的に行っている。
 現在のコンピュータシステムが完成したのは平成11年7月30日である。その特徴としては
(a) 現場と教育委員会の綿密な連携の中で設置された。
(b) 当地方では初めてホワイトパソコンが導入された。(仕様は教育委員会との綿密な連携の中で現場の意見を主体に取り入れた内容となった)
(c) 当地方では初の無線LANの利用。
(d) メンテナンス,研修は校内の自主的な運営。
(e) 一人1台のコンピュータ環境。
などである。概要はホームページで公開予定である。

(2) みんなが使えるコンピュータシステムを目指して
(ア)コンピュータ室の開放
 本校のコンピュータ室は原則としてカギをかけず開放している。生徒は自由にコンピュータをいつでも使うことができる。ただし,インターネットについては通信料の問題から昼休みに限定している。

(イ)個人データの管理とデータの共有化
 生徒は各自MOを1枚持っており,個人データはこれに保存している。また,全員がHotmailのアカウントを持ち,Outlook Expressを使ってメールの管理をしている。一方では,デジカメのデータなど,みんなが使えるデータは共有フォルダを使って管理しており,生徒も教師も,各種の便りなどで自由に活用している。

(ウ)職員研修
 本校では,定期的な職員研修を実施していない。しかし,お互いが職場の中でいつでも聞くことができる環境と雰囲気があり,日々が研修とも言える。このような状況の中,9名の職員のほぼ全員が,何らかの形でコンピュータを活用している。

(3) コンピュータ操作能力の向上を目指して
 本校に現在のコンピュータが設置されたのが平成11年7月30日。本研究の目的の一つであるホームページの作成期限1月20日までのわずかな期間の中で,不安ばかりの取り組みであったが,コンピュータが設置されたその日から,夏休みのクラブ活動の前後を使っての生徒の自主的なコンピュータ室通いが始まり,2学期の初めには,起動や終了はもちろんワープロを使った文字入力まで,全ての生徒がマスターしていた。このような状況を受け,2学期には,生徒のコンピュータ操作能力の向上を目指す取り組みが行われた。以下に内容を示す。

(ア) 基本的には,技術家庭科の時間(3年生においては情報基礎),学活の時間,総合的な学習の時間の一部を使って実施した。3年生においては情報基礎の時間を使い効率よく実施できたと考えている。次々と自主的に新しいことにチャレンジしたり,質問したりという姿が今でも毎日のように見られた。

(イ)Publisher(マイクロソフト)を使った名刺の作成
 DTPという概念を学習させるために,全学年で実施した。この中で,使用する写真も初めて手にするデジタルカメラを使って自ら撮影し,コピーや削除,張り付け等について基本的事項を学習させた。また,MS-DOSの時代にはなかったネットワークという概念も学習させた。指導時間は各学年とも2時間を確保した。後は各自が休憩時間などを利用して作品を作っていた。

(ウ)プリ王を使ったプリクラの作成
 コンピュータの楽しさを知り,グラフィックデータの学習をするために1・2年生で教材に採用した。授業での指導は1時間であったが,あとは生徒が自由に作品作りに取り組んでいた。

(エ)筆まめ(クレオ)を使ったカレンダーの作成
 コンピュータを使った作品作りの一つとしてカレンダーの製作を行った。Wordや一太郎でも作ることができるが,多くのソフトに触れさせることで,コンピュータをより身近に感じてもらうことが出来たように思う。

(オ)マイクロソフトPicture Itを使ったCGの作成
 3年生は,MS-DOSマシンとの違いを自覚してもらうために,「アルバムを作ろう」という課題でグラフィックデータの加工に挑戦した。

(カ)マイクロソフトWord,ジャストシステム一太郎の基本的操作
 基本ソフトの一つであるワープロについては,一太郎,Wordの双方の基本的操作を指導した。

(4) 総合的な学習の取り組み
(ア)学習のテーマ
 テーマ「熊野学」
 熊野学とは,熊野地方の歴史や文化は言うに及ばず,自然や言葉なども含めて熊野地方のこと全てを対象にしている学問である。本校では,校区を通る熊野古道に着目し,古道に点在する王子の学習を中心に,ふるさとの良さを見直す取り組みを本年より総合的な学習の柱として位置づけ実践した。

(イ)時間設定
 毎週火曜日5時間目を総合的な学習の時間に位置づけ,森脇教頭の指導のもと,年間を通じて実施した。この他にも,幾つかの体験学習を実施し,ふるさとの良さを見直す機会とした。

(ウ)実践内容
 1.熊野古道の成立と王子についての学習
 古道が成立した大きな要因となった熊野信仰についての学習や,京都から熊野へ“蟻の熊野詣”と言われたほど多くの人々が歩いた時代的な背景。さらに古道に点在する各王子の学習を京都から熊野本宮まで,順に自作のビデオなども用いて学習した。さらに,現地を訪ねての学習なども企画し実施した。

 2.「私の推薦する熊野」を作成
 夏休みの課題として,「私の推薦する近野」の課題を全員に出した。南紀熊野体験博で近野を訪れている人に,近野の良さを知ってもらうという視点で生徒一人一人が考え各自が考えた場所について,自分の推薦する場所の絵を描くこと,俳句を作ること,推薦文を書くことの3点で実施した

 3.「私の推薦する近野」の作文を各自でタイプする。
 先に記述した「私の推薦する近野」の作文を各自でワープロを使ってタイプすると同時に,ファイルの保存や呼び出しを学んだ。また,この作文は,3年生の協力を得てホームページとして一部を現在公開中であり,2月中旬には全てをホームページ上で公開する予定である。

 4.「私たちの南紀熊野体験博」のイベントで学習成果を発表
 1学期に実施した王子の学習や「私の推薦する近野」の調べ学習の成果を,9月13日に中辺路町が熊野体験博のイベントの一つとして企画した「私たちの南紀熊野体験博」の場で発表した。発表に際しては,生徒の発表と同時に,発表の内容をパワーポイントでスクリーンに表示した。作成したのは教師であるが,当地方では,パワーポイントをこのような場で使ったのは初めてであり,以後,多くの研究会でパワーポイントが使われる先駆となった気がする。もちろん,聴衆の驚きも大きく,コンピュータに対する興味関心をかきたてたと考えている。また,この発表の内容は地元の新聞に取り上げられ大きな反響を呼んだ。

 5.「熊野古道を歩く人100人に聞きました」のアンケートを実施
 熊野古道のどこが素晴らしいのか,魅力は何なのか,近野以外の人に聞いてみようというアンケートも今回で3年目になる。世界遺産に登録しようという動きさえある熊野古道について,地元の生徒たちは案外知らない。そこで,今回は一歩前進し,古道を歩く人にアンケートを取るだけではなく,アンケートの分析までも生徒に実施させることで,より深く,ふるさとについて考える場として設定した。アンケートの結果は2年生を中心にホームページとして作成中であり,2月中旬には当校のホームページで発表する予定である。(昨年度までのアンケート結果は当校のホームページで公開中である)

 6.ネットサーフィンでの情報の収集
 常時接続ではないもののインターネット専用回線が導入され,いつでもインターネットに接続できるようになった。生徒は学習の中でも,個人的にでもネットサーフィンを楽しんでいる。この件については,共通の約束事は作って指導はしたものの,コンピュータ操作の指導は僅かであったが,自由に操作できるようになった

 7.ホームページの作成
 ホームページビルダー2000を使って,3年生が個人のホームページを作成した。ホームページの課題は自由としたが,製作にあたり,最初に著作権や,プライバシーについて指導し,以下の事柄を共通認識として確認し,製作をおこなった。
・個人の住所,電話番号を絶対に公開しない
・他人を誹謗中傷するような表現はしない
・雑誌の記事や写真はこれを絶対に使わない(スキャナーはその使用方法を指導しているが,ホームページ上では,雑誌などからのコピーの私用は禁じた)
・現在の個人写真については,氏名が特定できるような形での使用を禁じた。
・暴力的なものなど,学校のホームページとしては好ましくないページの作成を禁じた。

作成の際の手順を以下に示す。
1)企画書を作成し提出…ホームページを何にするか,内容をどうするか,企画書を作成し提出させる。必要ならば再度検討させ,一定の形に仕上げていく。

2)紙の上でホームページを仕上げてみる…はじめてホームページを作るわけであるから,すぐにコンピュータに向かっても失敗が予想される。そこで,紙を画面に見立てて,ホームページをペンで書かせた。

3)ホームページの最初を飾るバーナを作成しよう…ビルダーに付属のWebアートデザイナーを用いて,自分のホームページのバーナを作った。

4)トップのメニューページを作ろう…自分で作ったバーナ,ビルダーに付属のグラフィックデータなどを使って,ホームページとトップページを作成した。この頃には,全員,ネットサーフィンて目が肥えてきたこともあったと思われるが,“あれもしたい,これもした”,“こんなことはできないのか”など,意見が続出してきた。

5)幾つかのページを作り,リンクを張ろう…トップページが出来たら,複数のページを作り,リンクを張る作業である。作業は簡単にマスターしたが,不満なところを直すのに終わりのない作業にかかった。昼休み,放課後など使える時間はすべて使って,最終締め切りの12月18日ぎりぎりまで製作に没頭していた。

(5) “熊野学”以外でのコンピュータの活用
活用の内容
 本校で12月におこなっている人権学習発表会や,進路学習,他の授業の中での調べ学習で積極的にインターネットを活用するようになった。学年によっては,情報を加工し,発表の資料として活用した学年もあった。また,電子メールによる交流もおこなわれている。学校間の交流には発展していないが,個人レベルでは,メール交換をおこなっている。

 本校では,コンピュータの地域への学校開放も積極的に取り組んだ。講座の開設に留まらず,授業で使っていなければ常時,地域の人々に開放している。

2 成果と課題
 取り組みの中で,本校の特色の一つとなったホームページの作成も教師中心から,教師と生徒の共同製作へと変えるための下地が出来たと考えている。ただ,コンピュータは学習の道具の一つにすぎないことを忘れてはいけない。本校の情報教育が軌道に乗ったのも,学校生活が安定して行われている中で教室を開放できているという下地があり,その上で,各教科を中心とした教育活動が活発に行われているからである。
 ただ,2年後に迫った新教育課程の完全実施に向け,本年度にコンピュータに対して芽生えた興味や関心を,総合的な学習の中で生かしていくことが必要と考える。特に,来年度はコンピュータの操作能力をさらに向上させ,VTRを使うのと同じような感覚でコンピュータを道具として使えるようにしたい。また,インターネットでの学校間交流を促し,視野の狭くなりがちな生徒の目を世界に向けてみたいと考えている。
 さらに,総合的な学習という視点から見ると,週2時間以上の実施や,選択の拡大など新教育課程の実施をにらみ時間的な位置づけ,他教科との関連づくりなど,計画面での課題も多い。

ワンポイントアドバイス

 本校のような小規模校の実践が大規模校でそのまま役立つとは考えないが,小規模校で,コンピュータやインターネットを活用するためには,その特性を生かし,自由にコンピュータに触れさせる事が必要だと考えます。特に絶対に生徒にコンピュータの使用を強制せず,教師自ら使い方を示す中で,自然とコンピュータを身近にしていくことが大切だと考える。コンピュータを道具として自由に活用できるようにすることが大切である。

また,へき地校においてはインターネットを積極的に活用していくべきだと考える。本校でも始まったばかりであるが,メールによって交流を推進し視野を広げることは特に大切である。ただ,教師個人のつながりによる個人的な交流は気軽な反面中断しやすいというデメリットもある。継続的に行うには,学校教育の中に位置づけ学校ぐるみの交流を考えるべきである。