画像データのリアルタイム配信と教材化

             和歌山県立和歌山高等学校 浜口 美千夫
キーワード インターネット放送,遠隔操作,地域連携,コラボレーション


企画の目的・意図
 種々の画像をインターネットを使ってリアルタイムに配信する技術を習得すると共に,日常の効果的な学習が可能になるように教材化をめざす。これにより定点観測やロケーション画像をインターネットに取り込む上での実践的なノウハウの取得と応用を可能にするものとする。
 これらは,本校が近い将来開局を予定している,仮称インターネット和歌山高校放送局(WHB)につながる実験的プロジェクトとして位置づけるものである。


1 実践内容
 平成11年10月30日・31日に和歌山市毛見の和歌山マリーナシティWAVEで開催された第6回和歌山県産業教育フェアで,会場での意見発表等の催し物と各ブースにおける展示物やデモンストレーションの様子をインターネット放送を行った。
 今回,主会場である県産業教育フェア会場には,固定式カメラと移動用カメラの2種類のビデオカメラを設置した。
 固定式としては,遠隔操作が可能なリモートカメラ(Canon VC-C3)を1台設置した。これは,会場内に特設された発表用の舞台映像を撮影できる位置に三脚上に固定した。それを和歌山市内の小倉小学校に設置したパソコンからインターネットを介して上下左右移動及びズームアップして遠隔操作できるようにした。これは,主として特設舞台でのセレモニーや催し物の映像を撮影した。撮影した映像を会場内に設置したリモートコントロール用のサーバ(JNS StreamVision
II)にRS-232Cケーブルで送り,そこから和歌山県庁に会場内LANを介してINS64で送信し,和歌山県庁からはOCNエンタープライズ(6MBPS)で配信した。
 遠隔操作を行う和歌山市立小倉小学校には,リモートコントロール用のPCとWEB受信用のPCを設置し,画像受信用のパーソナルコンピュータ(以下PCと略記)にはビデオプロジェクターを接続して会場のスクリーンに投影した。当日は,小倉小学校のパソコン部の6年生が遠隔操作を行い,和歌山高校3年生の女子生徒2名が指導にあたった。
 ロケーションのための移動用としては,デジタルビデオカメラ(SONY DCR-TRV900)を使用し,USBインターフェイスを介してノートブック型のPCに接続した。
 接続したノートブックPCを発信サーバ(NTT WebLive3)として使用し,無線LAN(FSAS Instantwave)を介して会場内LANに接続してから,リモートカメラ映像と同様にINS64で県庁内に設置した配信サーバに送信した。このロケーションカメラは,和歌山高校の男子生徒2名がカメラと発信用サーバであるノートブックPCを携行して会場内の各ブースや会場外の催し物を撮影した。また,隣接した別会場で行われた高校生の意見発表の様子も撮影した。
 また,小倉小学校会場からのリクエストに応じて撮影した。リクエストの伝達は携帯電話を使用した。
 会場内では配信している映像をモニタするために受信用のPCに19インチCRTを接続して放映した。一般公開用としては,県立図書館講義研修室にPCとプロジェクターを設置し県産業教育フェア会場からの発信映像を放映して入場した来館者に情報提供した。 

2 成果と課題
 リモートコントロールカメラ関係については,当初発信サーバと配信サーバを分離して配信サーバは県庁内に設置するように考えていた。これは,会場から県庁までの接続が予算的な制約から高速回線を設置できないため,せいぜい128kBPS程度の専用線しか使用できるめどが立たなかったからである。実際は,種々の事情から想定していた最低基準のINS64になってしまった。ところが,ソフトウェアの方に原因があるのかハードウェアの方に原因があるのか不明であったが,動作が極めて不安定であり,結局発信サーバと配信サーバを分離することを断念した。そこで,産業教育フェア会場内から映像発信する形態となったが,危惧していたとおり小倉小学校から児童が遠隔操作を行った際に少しシビアに操作するとすぐにフリーズしてしまう結果になった。これは産業教育フェア会場と県庁とがINS64で接続しているため,いわゆるバルク方式(Multilink PPP/Multilink Protocol Pluse)で転送しても最大128kBPSであるため無理もないことであったと思われる。
 また,リモートコントロール側のPCの動作も決して安定した動作ではなく,リモートコントロール用のソフトウェアをインストールした機種によっても動作したりしなかったりという状況であった。これは,当初はOS(WindowsNT4.0)によるインストールPCのスペックの問題かも知れないと判断したが,動作するPCよりも遥かにスペックが高い最新型のPCでも動作しなかったことから別の原因があるものと思われる。
 しかし,これを解決しなければ,今後,定点観測をWEBで行うような実践の際には,カメラを遠隔操作する必要がある場合は相当困難な状況に陥ることが考えられるため,今後の大きな課題となった。
 今後は,インフラの問題とソフトウェアの開発という両面で検討を加えていく必要がある。
 ロケーションカメラ関係については,画面がフリーズするような大きなトラブルは発生しなかった。画像表示についても,ほぼ実用に耐える品質であり表示速度において大きな問題は発生しなかった。ただ,ブラウザのプラグインとしての表示ソフトウェアが多少不安定な動作をするときがあり,特に図書館で放映した際に発生した。これは,たぶんにブラウザとの微妙な相性が影響しているとも考えられる。そのような不安定な状況に陥ったときには,ブラウザを起動せずに直接表示ソフトウェアを起動すると動作が安定し,良好な映像を表示することができた。
 運用面では,デジタルビデオカメラについては,バッテリが長時間維持できて1日の撮影時間(6〜7時間)内に支障を来すことはなかったが,発信用のノートブックPCのバッテリの持続時間が短いため,時々AC電源に接続して充電する必要があったため制約がでた。したがって,予備の電池(それも,大容量バッテリが望ましい)を用意しておく必要があった。補助照明については,特に用意はしていなかったが,カメラレンズが明るかったことと晴天にも恵まれ大型特設テント内での日中の撮影であったため特に不便は感じなかった。
 無線LANに関しては,会場は1つの大きな常設テントであったため電波状態がよく,全く支障無く運営できた。また,会場外のSL等のイベントや隣接会場(これも,常設テントである)でのロケーションでもきれいな映像と音声を送信できた。移動中であっても音声がとぎれたり映像が乱れることは一切無かった。当初心配していた音飛び現象も発生せず極端な駒送り画像や画面のフリーズも発生しなかった。これからすると,相当の帯域を確保できたものと思われ,十分実用の範囲であると思われる。
 ただ,カメラワークについては,撮影にあたった生徒が機器操作に十分習熟できていなかったため,見ていて疲れるような画像を配信した場面もあったことは今後の課題となる。
 インフラについては,県庁LANと会場内LANをルータ対抗でINS64を使用して結んだが,ロケーション映像については大きな問題はなく発信できた。これは会場から県庁までは,ほぼ一方向でありINS64程度の回線でも十分実用に耐えうることが判明した。県庁からはOCN6MBPSで配信できたため2カ所(小倉小学校会場と県立図書館会場)とも全く問題はない状態であった。ちなみに,小倉小学校はINS64でINFOWEBに接続し,県立図書館は192kBPS専用線で和歌山県庁に接続している。
 これから分かるように,配信サーバの設置を適切な場所になるように考慮することが必要になる。本校で近い将来予定している「和歌山高校放送局」のサーバについても,現在の回線(DA128)では,本校に配信サーバを設置することは実用上問題があることから,もし本校の回線が現状のままであるのなら配信サーバを和歌山県庁に置くことも含めて計画する必要があるかも知れない。
 IPアドレスの問題については,今回相当苦慮した。
 現在,和歌山県庁LANはORIONSとOCNの両方に接続して各プロキシサーバによってルーティングするようなマルチホーム的なシステムになっている。オリオンズからはクラスCを4つ取得しており,こちらについては十分余裕のある状況である。しかし,OCNからは16個のIPアドレスが振られているだけなので余裕がなく,県産業教育フェアの時点で,開いているアドレスが2つしかないことが判明した。そこで会場内LANをプライベートアドレスで振ることを提案されたが,以前にCU-SeeMeで実験を行った際にポート番号の認識問題からうまくいかなかった経験があるため,プライベートアドレスを振る(IPマスカレードを使用する)ことは避けた方がよいと判断した。
 そこで,ORIONSのIPアドレスを使用することも考慮したが,いくつかの問題点があると判断して選択肢の中から除外した。残った方法は和歌山高校のクラスCのIPアドレスを使用することであった。県庁の担当者は和歌山高校のサーバも含めて産業教育フェア会場に設置することを提案したが,機器移動の面倒さと再構築の煩雑さ及びデジタルアクセス128(DA128)の確保の困難さを考慮して形式的に移動することとした。産業教育フェアの期間中は県庁内のルータを機能停止して和歌山高校のサーバを使用休止することとした。つまり,物理的には繋がってはいるが機能はしていない状態になった。そうしておいて,産業教育フェア会場内に和歌山高校の仮設LANを設置した格好になった。
 そうすると,困ったことが発生した。その期間中に和歌山高校のサーバが使用できないため,当然のことながら,メールの授受はおろかWEBページすら見ることができなくなる。実は,和歌山高校のサーバには産業教育フェアに合わせて小倉小学校の児童が作成した「小倉小学校のホームページ」があった。これは,学校間連携で小倉小学校の児童と和歌山高校の生徒がコラボレーションで作成した貴重なものであった。和歌山高校のホームページが見られなくなるのは仕方がないにしても,産業教育フェアの開催日に自分たちの作成したホームページをオープンするのを楽しみにしている小倉小学校の児童を落胆させる訳にはいかない。そこで急遽,和歌山大学経済学部の佐藤周研究室にあるサーバにデータをftpして,そこで一時的に公開していただくことで解決した。
 各方面のご協力・ご支援のおかげで,所期の目的は達成できたものと考える。
 地域連携における小倉小学校との交流については,次のとおりである。

平成11年 8月21日 インターネット操作研修
         小倉小学校教員研修(7名)
平成11年10月 7日 インターネット操作研修
         小倉小学校6年生「総合学習」ジャイアントメディア班(18名)
平成11年10月 8日 和歌山高等学校文化祭見学
         小倉小学校5年(93名)
平成11年10月28日 小倉小学校ホームページ制作
         小倉小学校担当教員
平成11年10月30日 和歌山県産業教育フェア会場映像放送受信
         小倉小学校2年生〜6年生全員
平成11年11月10日 小倉小学校ホームページ更新
         小倉小学校6年生「総合学習」ジャイアントメディア班(18名)


<児童感想文の抜粋>
  わたしは,インターネットを見るのははじめて。わくわくどきどきしました。
 小倉小学校のホームページで,先生の名前当てクイズをしたり,たこやきマップや新しい池に入れる魚とりの写真を見たりして,とってもおもしろかったです。
 心待ちにしていた,マリーナシティからの生中けい。移動カメラでどんどん走り回っているのがすごかったです。特に,高校生の人が,ソーラーカーを自分たちで作っているのがほんとうにすごいと思いました。
 わたしもいつか,そんなことができたらいいなあと思いました。
(5年H子)

 マリーナシティの産業教育フェアの様子がおくられてきた。
 小学校の作品で,絵などがしょうかいされるなかで,私の夏休みに作ったウォールポケットが映った。
「あっ,ちゃあこのんや。」
と,みんな拍手してくれて,すっごくうれしかった。
 家に帰って,真っ先にお母さんに言った。
 次の日,マリーナシティに行ったら,ちゃんとかざってあった。すぐ分かった。
「このウォールポケットのことは思い出に残るなぁ。インターネットってすごいな。」
と,つくづく思った。
(6年S子)

 私は,インターネットを見るのは初めてなので,すごく楽しみだった。私は,1番前の席にすわった。私のとなりは,Sさん。
 大きな画面に,まず学校しょうかいの絵がうつった。わたしは,さっきよりわくわくしてきた。じっくり見た。
 次に,マリーナシティとつながった。どんどん場面が変わっていく。そして,
「あっ,うつった。」
 Sさんの作品。みんなではく手した。Sさんはとてもうれしそうにわらっていた。私までうれしいような気持ちになった。みんなから,「すごいなあ。」と言われていた。わたしは,少しうらやましい気持ちになった。
 あんなにもきょりがはなれたところの様子がうつるなんて,すごいと思った。
 インターネットって「どこでもドア」みたいだなあ。
(6年M子)

 コンピュータで,世界のいろいろなことを見られるのはすごいと思いました。マウスを動かしながら見ていくと,「おっ,これを世界のだれでも見られるのか・・・」
「小倉小学校がこっちで有名になってくれたらいいな。」と思いました。
 マリーナシティとつながっている移動カメラの映像を見ていると,SさんとSくんの作品がありました。
「うわあ,かっこいい」
 みんなかん声をあげました。はっきり言って感動しました。
 いろいろな情報が送られてくるのですごいなあと思いました。
(6年T子)

 私たちの学校が写っていると思うと,うきうきしました。
 インターネットは「みんなの世界の窓」だなと思いました。
 今日のマリーナシティからの映像とかを見て,これまであまり興味のなかったインターネットを初めて見直す気持ちになりました。悪いことに使わなかったら,メディアとして,たくさん情報がキャッチできるからです。その場に行かなくても,様子が見られるからです。
 こんなインターネットがどこの家にもあるようになったら便利だけど,みんな外に出なくなり,一人きりの部屋に閉じこもってしまわないかなあ。けど,やっぱりインターネットってすごいなあ。
 私も機械を動かしてみたいな。
(6年M子) 

ワンポイントアドバイス
 インターネット放送を行う場合は,相当の帯域を確保する必要がある。特に,遠隔操作でカメラ等をコントロールする際には,128kBPS程度の回線速度では実用にはならないことがわかった。また,リアルタイム配信をする場合は,配信用サーバはできるだけ高速の回線につながっているネットワークにおくことが必要である。 

 

複数の参加・協力学校等名
 和歌山市立小倉小学校
 和歌山県立図書館
 和歌山大学経済学部佐藤研究室
 和歌山県情報化推進協議会
 和歌山県企画部情報システム課
 富士通和歌山システムエンジニアリング