マルチメディア発表会

和歌山大学教育学部附属養護学校 小栗 信
キーワード マルチメディア,インターネット,学校間交流,WWW


マルチメディア発表会の意義と目的
 知的障害養護学校においてのコンピュータネットワーク利用は,文字情報のみではとうてい考えられない。絵,写真,音声,動画を効果的に組み合わすことによって,学習効果を上げられたり,コミュニケーションがとれることもある。
 新指導要領でも導入される選択教科による「情報」においてもコンピュータの操作を覚えるための授業で終えることなく,生徒の意欲を高めるために,様々な視聴覚機器(ビデオ,デジタルカメラ,録音機等)とパソコンを利用して教師と共にマルチメディア作品を作り,ホームページ上で公開することによって自己表現の喜びを学ぶことが大切である。
 また,他校との交流学習にマルチメディア作品を用い,他校生徒との交流を通して社会性・協調性の育成を図りたい。


1 本校の情報教育の経緯
 平成7年9月に近畿の附属養護学校の共同プロジェクト「近畿地区附属養護学校インターネットプロジェクト」が発足し,各校情報教育担当者が,養護学校におけるコンピュータインターネットの導入に関しての情報交換,コンピュータ・インターネットを利用した共同実践研究を行う。
 平成8年度に児童生徒,教材作成のためのコンピュータ,周辺機器が設置され,公衆電話回線によるインターネット接続がなされた。また,平成9年度には,校内LAN(5カ所),ISDN64kの導入により,複数台数のインターネット利用,TV会議システムの利用が可能になった。
 以上のインフラ整備により,「生活」「音楽」「美術」等の授業でブラウザー,エデュメントソフト,ペイントソフト等によるコンピュータを用いた学習,「作業学習」におけるデジタル印刷システム活用,他校とのインターネットTV会議交流を行っている。

2 美里中学校との交流
(1) 美里交流の経緯
 和歌山大学教育学部附属養護学校中学部では20年に渡って美里町立美里中学校と交流を重ねてきており,平成8年よりネットワーク(ホームページ,電子メール,TV会議)を利用した事前交流を行っている。
 過去3回のネットワークを利用した事前交流前後の意識調査や感想より,交流に対する見通し,交流相手に好感が持てる等の効果があることが分かっている。

(2) ネットワーク交流計画
 今年度の事前交流は,お互いにホームページにより自己紹介,交流前日にTV会議による交流を行った。ホームページ交流では,名前,趣味や当日の抱負をワープロ,手書き,先生に話す等で表現し,教師がHTML化(図1)し,リアルビデオを利用し,動画による自己紹介を試みた。

(3) リアルビデオを利用した自己紹介
 動画による自己紹介では,自分たちの得意なことをビデオで紹介するすることにしたほとんどの生徒は先生に撮影してもらったが,中学部3年生女子のAとBは,お互いに撮影し合うことにした。
 それぞれが自分の得意なことを紹介したい,ということでAはダンス(図2),Bは歌(図3)を披露することにした。ビデオ操作に関しては,ほとんど初めてであったが,撮影する喜び,撮影される喜びを感じながら取り組み,大変上手に撮影することが出来た。Aは,教師と共に自分が撮影されたビデオをパソコンに取り込み編集する作業を行った。インターネットを通して美里中学校の生徒が自分のダンスを見てくれることを大変楽しみにしながら,できあがった作品を繰り返し再生していた。


図1 自己紹介のページ



図2 Aさんのリアルビデオ

               


図3 Bさんのリアルビデオ

3 学校周辺マップのホームページをつくろう
(1) 高等部「言語経済生活」の授業について
 本校高等部「言語経済生活」の授業では,1人1人の生徒の課題に応じてグループ編成を行い,それぞれの生徒の生活に必要な言語理解・表現・数的処理を中心に学習を行ってきた。
 今年度「おぐりグループ」では,「情報」を学ぶことで上記「言語経済生活」のねらい,新指導要領で導入される養護学校高等部における選択教科「情報科」を視野に入れて,高等部生徒が卒業後の社会生活を送っていく上で必要な言語・経済・情報の力を身につける学習を計画している。

(2) 指導目標
○「情報」を学習することで,ワープロソフト等を利用して,簡単な文章の読み書きができるようになる。
○「情報」を学習することで,表計算ソフト(小遣い管理ソフト)等を利用して,簡単な計算,小遣いの計画的な使い方ができるようになる。
◎電子メール,ブラウザーソフト(ホームページ閲覧),BBCソフト(電子掲示板)を利用して,情報の収集・発信,コミュニケーションの補助的手段として活用する事ができる。
◎学校紹介のホームページを作成することにより様々な視聴覚機器や作成に必要なソフトの操作を習得し,作成した作品を発表することで自己表現をする力を付ける。

(3) 学校周辺マップづくりの単元について
 1学期はコンピュータの基本操作,ホームページ閲覧,情報検索,教師・友達・現場実習先等との電子メール等通信機能を利用したやりとりの中で,コミュニケーションや言語能力の育成の指導を行ってきた。その結果,コンピュータの操作能力も向上し,インターネット上から自分に必要な情報を得ることができるようになり,メール等のやりとりの中でそれぞれの生徒が抱えるコミュニケーションの課題が明確になってきた。しかしながら,メールの交換は,特にその必然性がなく,生徒自身がメールの目的や学習の到達目標が持ちにくい知識・技術を身につける時間となってしまっていた。
 生徒のコンピュータ等の操作能力向上と一学期の反省をふまえ,それぞれの生徒たちが自身の到達目標が持て,課題を解決していく力をもって,仲間と一つのものを作り上げていく過程の中で言語経済のねらい,情報のねらいが達成できるような授業を再検討した。
 本単元の到達目標である「学校周辺マップ」を作成していく過程で,インターネットからの情報収集・選択,初めての人に大人としてきちんとした態度がとれたり,質問し答えてもらう,また質問するといった取材を通して,恥ずかしがらず相手とコミュニケーションを持つ力,取材したことをメモし,簡潔にまとめ力,デジタルカメラ等の機器操作する力,絵・写真・文字を見栄えよくデザインする力,それらをホームページとしてまとめ,自己表現・情報発信する力等が,つくる喜びと共に,独立した形ではなく相互的・総合的に身についてほしいと考えている。
 また,本校高等部では,学校内の指導に止まらず,卒業後の地域生活を視野に入れた指導に取り組み,豊かに社会参加できることを目標としている。本単元では,学校を中心とした地域の見直し,再確認,積極的な社会参加をも目標としているが,本単元で学習したことが生徒自身の地域生活の再確認,積極的な社会参加につながって欲しいと考えている。

(4) 作成計画
第1次 学校周辺の地図とよく利用する商店等を模造紙に記入する。
第2次 取材する内容を考え,分担を決める。
第3次 取材,デジタルカメラの使い方の練習をする。
第4次 取材。
第5次 ホームページ作成。
第6次 作品のプレゼンテーション。

(5) デジタルマップ作成
 取材に関しては,2人1組でデジタルカメラ,インタビュー記入用紙を持って出かけ,許可を得て店の正面,店内の様子を撮影し,よく売れている商品やサービスのポイントなどをインタビューした。そのインタビュー用紙とデジタルカメラで撮影したファイルをホームページ作成ソフトを利用してまてめていった(図5)。同ソフトの利用は初めてであったが,色の変更や文字の大きさを工夫し,それぞれの班が見やすさを工夫し編集を行った。
 また,自分の担当した店のページが完成した班は,新たな店の取材,ドローソフトを使った地図作り(図4)に取り組んだ。


図4 学校周辺マップ

      


図5 お店の紹介

4 まとめと今後の課題
 2つの実践を通して,生徒の意欲的な取り組みは特筆すべきものがあった。新しいことにチャレンジすることや視聴覚機器を扱う楽しさ,動画や画像のわかりやすさがその要因であると推測される。無論それだけではなく,「人に見てもらう」ことの目的をしっかり意識できたことが大きかったのではないだろうか。
 パソコン,視聴覚機器,ソフト等の操作技術習得も予想以上であり,地図を作った生徒は,教わったことだけでなく,自分で新しい操作を見つけだし,より見やすい工夫を行っていた。また,単独での操作だけでなく,友達や先生と共に「教え,教わり」ながら一つの物を作っていく喜びが次の意欲につながっていた。
 課題として,1月の段階で「チャレンジキッズ」やホームページ公開にまで至ることが出来なく,自己表現できたことを人に見てもらう喜びにつなげることが出来なかった点にある。これは,残りの時間,または,新しい学期に取り組んでいきたいと考えている。

ワンポイントアドバイス
○機器操作の手順は出来るだけ単純化して指導する。
○パソコン操作を目的とするのではなく,活動の中で効果的にパソコンや視聴覚機器を利用する。
○生徒の自己表現を大切にする。マルチメディア作品を通して表現することで,自分に自信が生まれ,次の活動への意欲につながる。

参考文献
 佐藤尚武,成田滋,吉田昌義 編
 教室からのインターネットと挑戦者たち
  −チャレンジキッズによる出合い・学び−
 北大路書房 1999年 ISBN4-7628-2133-0