津田小学校 バーチャル音楽会プロジェクト

小学校第4学年・音楽・総合的学習
松江市立津田小学校 神門誠司
キーワード 小学校,音楽,学習発表会,総合的学習,著作権,ストリーミング,MPEG4,
      JAVAアプレット,インターネット,


インターネット利用の意図
 最近,全国各地の学校でホームページ(正確にはwebサイト)が開設され,そこで児童生徒の学習の様子が公開されている。その多くが静止画と文章である。しかし,近年の技術の発達により,ビデオ画像を公開することも可能になった。そこで本校で行われる音楽を中心とした学習発表会「松原祭 うたごえひろば」の様子を,静止画像だけでなくビデオ画像も使ってインターネット上で公開することを企画し,これに「バーチャル音楽会」と名付けた。


1 なぜバーチャル音楽会を行うのか
(1) 期待される教育的効果
 今回バーチャル音楽会には,下記のような教育的効果があると思われる。
 
子どもたちが自分自身の演奏を視聴することで,学習を振り返ったり,今後の活動の参考にできる。
 
次学年以降,類似の学習活動の際の参考資料となり,児童間で学校文化が継承されるのに役立つ。
 
時間の都合で学習発表会に来ることの出来なかった保護者や地域の方にも視聴していただくことで,地域に開かれた学校としての機能を高める。
 
映像・音声という多様な情報を公開することで,身体に障害のある児童生徒や社会人の方にも音楽会の様子と伝えることができる。

(2) インターネットを使って公開する利点
 上記のことはビデオレターなど,従来の方法でも可能である。しかし,インターネット(ホームページ)を用いることには,下記のような利点がある。
 
インターネットに接続した端末さえあれば,自宅など,いろいろなところで好きな時間に視聴することが可能である。
 
不特定多数の方々に視聴していただくことができ,それだけ多様な交流を行うきっかけとなる。たとえば本校ではホームページを開設して以来,卒業生からのアクセスや電子メールがあるが,これがきっかけでさらに交流が広がる可能性もある。
 
本校では数年前から,福祉教育の一環として身体障害のある方がボランティアで教育活動に参加しておられる。その中にはインターネットを使うことで障害を補っている方もいる。このような方にも音楽会を見ていただける。

(3) 高速専用回線を使って
 本校は「先進的教育用ネットワーク」に指定され,市内12校とともに高速専用回線でインターネットに接続している。またこれとは別に,本校の所在する松江市内では,一般家庭にもインターネット用の高速専用回線を引く実験も行われている。これらの学校や家庭では,ふつうの電話回線では困難なホームページを使った高画質ビデオ画像公開も可能であると考えられる。そこでいろいろな画質のビデオデータを公開し,いろいろな種類の回線を使ってどのような画像公開が可能か,実証実験も試みることにした。

2 バーチャル音楽会を行うためには何が必要か
(1) ホームページでビデオ画像を公開する方法
 ホームページを使ってビデオ画像を公開する際,「ストリーミング」という方法が使われることが多い。その中でもリアルオーディオという方式が有名で事実上の世界標準になっている。これはたいへん高画質であるが,かなり技術面で困難な点が多く,本企画ではもっと簡単な下記の2つの方法に注目した。
 
MPEG4形式のビデオデータを用いる方法(以下「M4法」)
 
JAVAアプレットのビデオデータを用いる方法(以下「J法」)
 前者は新しく開発されたインターネット用のビデオ画像形式であり,この形式で記録のできるデジタルカメラがある。これで撮影したビデオデータはそのままホームページに掲載することができる。後者は本来,ホームページでアニメーションや音声を再生するための形式であるが,特殊なソフトを用いるとビデオ画像をこれに変換し,ホームページに掲載することが可能である。以上のことを図示すると下記のようになる。それぞれ長所短所があり,その双方を使って比較してみることにした。

(2) 必要になる器具・ソフト
 ア.MPEG4形式でビデオ画像収録が可能なデジカメ(M4法で必要)
 イ.ビデオカメラ(J法で必要,撮影は地元ケーブルテレビ局の業務用カメラに依託)
 ウ.ビデオキャプチャー(J法で必要,ビデオ画像をパソコン用データに変換する装置,本企画ではパソコンに内蔵する形状の物を利用した)
 エ.コンバータ(J法で必要,一般的なパソコン用ビデオ画像データをJAVAアプレットに変換する役目をするソフト)


1 ビデオ画像をインターネットで公開する方法の概念図

(3) テストをしてみた結果
 
上記2通りの方法でテスト用ビデオ画像を公開してみたところ,下記のようなことが分かった。
 
M4法を採用した場合,高速専用回線を使わないと再生できないくらい高画質なデータを使わないと,実用に耐える画像や音声が得られない。
 
J法を採用した場合,画面を小さくしたり,1秒あたりのコマ数を減らすと一般の電話回線でもかなりスムーズに再生できる。
 
J法を用いて最高画質のビデオデータを作ると,再生不良が起きやすくなる。
 
J法では画像無し,音声のみのデータも作れ,これはスムーズに再生される。
 
どちらの方法を採用するにしろ,ビデオデータが長時間になると,再生開始までの時間が長くなる。
 以上のことから,下記のような方針にした。
 
M4法は演奏の公開ではなく,簡単な挨拶や学校紹介などに使う。
 
J法で演奏の公開を行うが,様々な形式のデータで公開し,これを視聴しようとする端末のつながっている回線の状況に応じて最適の物を選んで使えるようにする。
 
演奏全体を多数のデータに分割して公開する。

(4) 著作権・児童のプライバシーの保護について
 本企画では,当初「うたごえひろば」に参加する全ての学年の演奏をインターネット公開する予定であった。しかし,下記のような著作権上の問題があることが分かった。
 
発表内容に有名歌手の歌があったが,これには作曲者や作詞者の著作権があり,その許可がないと,放送・インターネットなどでの公開ができない。
 
民謡や唱歌など作詞作曲者が特定できない曲についても,採譜者や編曲者の著作権が生じていることがある。
 
インターネットで公開する場合,たとえ会員制のようにしてもサーバにデータを置く行為自体が著作権の侵害にあたる可能性がある。
 
日本国内の音楽関係の著作権を一括管理している日本音楽著作権協会(JASRAC)に著作権料を払えば公開が認められるが,インターネットを使う場合料金体系が決まってないので,自粛を要望された。どうしても公開したい場合には,料金体系が決定した時点で遡って支払うことになる。
 その結果,第4学年「組曲 津田の松原」のみ公開が可能であることが判明した。これは本校のある津田地区にかつて存在した天然記念物「津田の松原」について,児童が作詞作曲したオペレッタである。
 また,インターネットで児童の映像を公開する場合には,プライバシーの保護に十分留意しなければならない。本校ではインターネット使用開始の際に設けたガイドラインにより児童個人が特定できる映像をホームページに掲載しないようにしている。今回も顔が判別できるようなクローズアップは避けた。さらに公開にあたっては,担任を通して第4学年の児童全員の意志確認をとった。また保護者にも学年通信などを通して趣旨を伝えると同時に了承を得た。

3 「組曲津田の松原」の公開
(1) 学習素材「津田の松原」について
 本校が所在している松江市津田地区には,かつて天然記念物「津田の松原」が存在していた。これはおよそ400年前,松江市が松江藩の城下町として開府した際,数キロにわたって街道沿いに松が植えられたものである。軍事目的(非常時に切り倒してバリケードとする)の他,参勤交代時の道しるべ,旅人の休憩所などの役割をしていた。
 戦前には絵画や紀行文などで広く紹介されるなどたいへん有名で,本校の校章や校歌にもこれが使われているなど,まさに津田を象徴するものであった。また,子どもの遊び場や農耕牛の繋ぎ場に使われるなど,人々の生活の中にとけこんでいた。今でも高齢者の中には,その当時のことを懐かしく語る方もいる。
 しかし,戦中戦後の混乱の時期,松根油(松の樹皮から抽出される樹脂,ガソリンの代用になるといわれた)の採集による樹勢の低下や,食料増産のための伐採(木陰や落ち葉が周囲の水田耕作の障害になった)のため次々と枯死し,ついにその最後の1本が平成5年に伐採された。
 しかし,その伝統を伝えようという動きが盛んで,本校の児童用昇降口の前に卒業生の手による「ミニ松原」の植樹,かつて松原が続いていた地点での新松原造成活動などが行われている。

(2) 活動の概要
 本校では平成9年度10年度にわたって福祉教育の研究を行ってきた。その一環として地元の高齢者の方々と児童の交流活動も盛んに行ってきた。そのような活動を通して郷土の歴史やよさを直接学び,日常の学習活動に生かすことを試みてきた。
 第4学年では社会科で「郷土を開いた人々」を学ぶ。本校ではその際,地元の歴史に詳しい高齢者の方をお招きし,「津田の松原」について学ぶ活動を行った。子どもたちは松が枯れても人々の心の中にその姿が生き続けていることに深く感銘を受け,学習意欲が高まった。そこでこのような一連の活動を総合的学習に発展させ,学んだ成果を児童自作のオペレッタの形でまとめ,学習発表会「松原祭 うたごえひろば」で発表することにした。

(3) 指導計画


指導計画・指導内容


留意点


地元のお年寄りから津田の松原についてのお話を聞く(1時)
 ・津田の松原には400年の歴史があること
 ・かつては天然記念物であったこと
 ・戦前までは地元の人々の生活に密接にとけ込んでいたこと
 ・戦中・戦後の混乱の中で津田の松原が次々に枯死していったこと
 ・ミニ松原植樹などの活動を通して,津田の松原について伝承され続けていること


 各自,予め質問したいことをまとめておく。


第4学年の全学級で分担して作詞活動を行う。(3時)
  1組:第1楽章 津田の松原の歴史,江戸時代の様子
  2組:第2楽章 戦前,津田の松原に人々が親しんでいた様子
  3組:第3楽章 戦中戦後に次々に松が枯死していく様子
  4組:第4楽章 保存活動や津田小学校校歌などを通して人々の心の中に津田の松原が生き続けている様子
 ・いろいろな意見を出し合いながら歌詞を決める
 ・歌詞を見ながらメロディーをいろいろと口ずさみ,その中で「これは」と思う物を,音楽を得意とする児童を楽譜にしていく
 ・子どもたちが作った旋律に教師が和音コードをふり,伴奏ができるようにする
 ・必要に応じて寸劇やナレーションを挿入したり,効果音をつける
 ・必要になる小道具類を考える
 ・準備や発表の際の役割分担を決める


 教師は必要に応じて助言を行うが,児童の自主性を重んじ,なるべく指示的なことはしない。
 状況に応じて学級全体で話し合ったり,個人やグループごとに分業したりする。


「うたごえひろば」発表の準備を行う(4時)
 ・それぞれの学級で分担して小道具を作ったり,地元の高齢者の方に招待状を書く
 ・歌や演技の練習を行う


 練習の際には音楽専科教員の協力も得る。


「うたごえひろば」で発表する。(1時)
・ビデオカメラやデジカメを使い,ビデオ画像や静止画で発表の様子を記録していく


 児童のプライバシーに十分配慮し,公開に際しては保護者の同意を得る。


収録した画像をインターネット用のデータに変換して公開する。
  
インターネットの利用


公開された映像を学習活動に役立てる
  
インターネットの利用
 ・演奏活動を振り返ってみよう
 ・いろいろな人との交流に使おう

 

*デジカメを数台自由に使える状態にしておき,必要に応じて学習の様子を記録できるようにした。



2 地元の高齢者の方から津田の松原について学ぶ


3 「うたごえひろば」で発表している様子

4 まとめ
 本企画の実施にあたっては,著作権の問題をクリアするためにかなり時間がかかった。これに対応して感じたのが,教育現場には意外と著作権についての情報が少なく,無意識的にこれを侵害していることがある,という点である。これは「知らなかった」ではすまされない問題であり,今後研修や対応体制を組んでいく必要性を痛感している。
 さらに,技術面での試行錯誤がたいへん多く,現時点(平成12年1月末)では,ようやく公開準備が整った段階である。これを本格的に活用してその効果を確かめるのはこれからであり,たいへん心苦しく感じている。
 インターネットの教育への活用は時間や手間を要求されるものであるが,本企画の実施を通してそれをまた痛感することになった。教師が通常の勤務の合間に行うのには限界がある。学校外部の人材の活用,学校内での効率的な分業体制などが求められる。

ワンポイントアドバイス
 
音楽の著作権問題については,日本音楽著作権協会に問い合わせるとよい。この関係の法律は大変複雑であり,慎重な態度が求められる。
  http://www.jasrac.or.jp/

 

参考文献
 週刊アスキー(アスキー)

利用したURLなど
 日本著作権協会(http://www.jasrac.or.jp/)
 ホームページ実験室(http://www2h.biglobe.ne.jp/~hnakamur/technolab/)
 FreeVOD(http://www.info-japan.com/mcs/)
 mblaze製品情報ページ(http://www.jp.emblaze.com/home_.htm)
 松江市立津田小学校(http://www.dandan.ed.jp/school/tsuda/)