ネットワーク利用における環境学習の設計と展開
〜「ふるさとの川とともに生きるみんなの川守り隊世界への提言」の実践より〜

小学校第5,6学年合同・環境学習
岡山市立平福小学校  三宅 貴久子
キーワード 小学校,5,6年合同学習,遠隔合同学習,総合的な学習


インターネット利用の意図
 環境教育においては,子どもたちが身近な地域の環境を見つめる目を鋭くし,自らの環境に対するかかわりを考え,行動することが重要である。そして,そのような学びを展開していくためには,他地域との遠隔共同学習が有効であると考え,平成9年度よりネットワークを利用した環境学習の実践研究に取り組んできた。今年度は,子どもたちの環境に対する見方,考え方をより広げ深める支援として,ネットワークを二重にも三重にも組み合わせることを考えた。具体的には,子どもの課題別に岡山エリア,日本エリア及び世界エリアの3つのエリアに分かれて,旭川流域のネットワーク,メディアキッズネットワーク及びオーストラリアの学校とのネットワークを基盤にして共同学習を展開する。


1 「ふるさとの川とともに生きる」の学習の誕生〜昨年度の子どもたちの思いをつなぐ〜
  昨年度,「ぼくたちが汚れた水を出さないようにといくらがんばっても,上流の方からゴミは流れてくるから旭川はきれいにならないんじゃないかなあ。」と子どもの一人がみんなに疑問を投げかけた。それがきっかけとなって,旭川守り隊プロジェクトが誕 生した。それまで,他地域の友達と身近な水環境のことについて交流学習を展開し,他地域の川と実態を比較することによって,地域の川の問題点も実感できた。しかし,自分たちが問題点を解決しようと行動したことが,果たして効果があったのかどうかが,子どもたちにとって疑問として残ったのである。「旭川の現実をもっと旭川流域の多くの人たちに知ってもらいたい!そして,共に行動する仲間の輪を広げたい!」というの が,子どもたちの思いであった。そこで,子どもたちは旭川流域の小学校に自分たちの作ったパンフレットを配付しようとしたが,取り組み始めたのが3学期後半であったため結果的には実践途中で終わった。今年度になり,この経過を教師が子どもたちに説明し,全員で話し合った結果,昨年度の子どもたちの願いを今年度も受け継ぎ,環境学習に取り組む視点を【身近なところから】,【自分とのかかわりで】というキーワードを大切にし実践していくことを共通理解した。
 そして,身近な環境の改善を実現したいという思いの実現をめざして「ふるさとの川とともに生きる!〜みんなの川守り隊世界への提言〜」という総合的な学習の単元を構想した。

2 年間計画
(1) 単元名:「ふるさとの川とともに生きる」〜みんなの川守り隊 世界への提言〜
(2) ねらい
 ・地域の川と自分たちの暮らしを自然,歴史,文化等の様々な視点から見つめ直し,身近な環境に対して興味・関心をもつことができる。
 ・ネットワークを活用して地球全体の環境について交流相手と情報交換をし,その保全の大切さについて理解し,自分たちが何をしなければならないか考え,仲間とともに行動していこうとする態度を身につけることができる。
 ・「インターネットたったひとつの地球」などの放送番組や電子メール及びテレビ電話等の様々なメディアを個々の目的に応じて活用することができる。また,その様々なメディアで収集した情報を選択,整理,加工し,自分の思いを世界中の人たちに発信することができる。
(3) 総時間数:110時間(1学期23時間,2学期60時間,3学期27時間)
(4) 単元構想図(年間プランから2学期のみを抜粋)

2 実践例(2学期の実践より)
(1) 地球の環境問題を探ろう
〜身近な自然「旭川」から地球の環境問題へ〜
 夏休みの自由研究発表会後の話合いの結果,2学期は調査・研究テーマ「地球の環境問題を探ろう」と行動テーマ「伝えよう・行動しよう・作ろう」の2本のテーマで取り組んでいくことになった。それは,認識と行動の両方の重要性を子どもたちが感じてきたからである。具体的には,調査研究については,子どもたちの個々の興味・関心・問題意識によりその対象地域を基に3つに分かれて共同学習を展開した。
 ・岡山エリア:旭川流域のネットワーク:オオサンショウウオ及び用水路等の調査研究
 ・日本エリア:メディアキッズのネットワーク:酸性雨及び川等の調査研究(図1,2)
 ・世界エリア:オーストラリアの学校及びブラジルのジョゼ先生:水環境の情報収集


図1 会議室への書き込み画面

 


図2 平福小の子どもが共同研究仲間に送ったメール

 各エリアでの共同学習を通して,子どもたちは,身近な環境改善へ向けて行動することの重要性が理解できた。そして,今自分たちは何をしなければならないのかについて自分たちの考えを提案にまとめ,行動する仲間の輪を広げる実践活動を取り組みたいと考えた。そこで,子どもたちは共同学習仲間も含めて,みんなで話し合う場である『世界エコキッズ子ども環境会議』を企画し,運営することにした。
(2) 世界エコキッズ環境会議にチャレンジ!
 〜認識と行動の一体化をめざして〜
(a) 目標
 多様なメディアを活用して,各エリアで収集した情報をもとに考えを発表し,身近な環境の改善へ向けて,何が自分たちにできるのかについて話し合い,提案をすることができる。
(b) 学習過程

学習活動

教師の支援

メディア等

1 今日のテーマについて確認する。
2 各エリアからの考えを発表し話し合う。
3 提案をまとめる。
4 アドバイザの方々の感想や意見を聞く

○議長団の子どもたちに,自分たちの役割をみんなに伝えるとともに,アドバイザーの方々の紹介をすることを事前に伝えておく。そして,この会議は自分たちの他にも交流相手の仲間も間接的に参加していることを意識できるようにパネル等を掲示しておく。

世界エコキッズ環境会議をしよう
(図3)

○各エリアの代表者は,5分以内にプレゼンテーションをすることを事前に伝えておく。他の友達に,自分の調査・研究が分かりやすく伝えられる工夫をすることを助言しておく。
○各エリアのプレゼンテーション内容をテーマと関連付けて聞くことを伝えておくとともに,質問や意見はワークシートにメモしておくことを助言しておく。
○この会議は自分たちの他にも交流相手の仲間も間接的に参加していることを意識して提案をまとめることを助言する。
○今までの子どもたちの活動を振り返って,どのように感じたか,今後の課題はなにかについて意見をいってもらう。

・交流相手の写真
・テーマカード

★TV電話
・コンピュータ
・VTR
・デジタルカメラ
・実物
・教材提示装置
・ワークシート
・図表
・振り返りカード



図3 世界エコキッズ環境会議での話し合い

3 世界エコキッズ会議後の子どもたちは?
世界エコキッズ環境会議後,子どもたちは会議での意見を【食器ふき作戦をしよう】,【クリーン作戦をしよう】,【ゴミの徹底分別作戦をしよう】,【リサイクルをしよう】の4つの提案にまとめた。
 特に「給食の食器ふき作戦」については,交流校の美甘小の子どもたちから反対意見が出された。「新聞紙で食器をふくのは,かえってゴミを増やすだけだ」という意見である。確かに,同じ環境グループ内でも意見の分かれた点であった。「新聞紙ではなくへらにしたらいい」「いらない布で拭いたら・・」「タウンページは?」という修正案も出されたが,どれも問題点があるのだ。話し合っていくうちに,「絶対にごみはなく ならないのだ」ということを子どもたちは,痛感した。このように,子どもたちは,行動しながら,その活動の意味についても共同学習の仲間と考えながら,身近な環境改善へ向けて自分なりの考えを明確にもち意欲的に行動しはじめた。

4 実践を終えて
今回の実践では,ネットワーク利用を学習支援の柱の一つとして重視して取り組んだ。
その結果,次のような成果があげられる。
・自分の興味・関心・問題意識と同様の課題をもっている仲間と積極的に情報交換及び意見交流を通して,環境問題に対する見方・考え方を広げ,深めることができた。
・オンライン上だけではなくオフライン会も設定したことによって,身近な地域の環境改善への同じ思いをもっていることが実感でき,行動化へのエネルギーとなった。
このように,ネットワーク利用は,子どもたちの追究意欲をかきたてるとともに,心のかけ橋となって,同じ思いの仲間の輪を広げることを可能にする。それが,子どもの学びを深化させることにもつながると考える。

ワンポイントアドバイス
 メディアキッズのネットワークでは,夏休みにオフライン会としてのキャンプを毎年開催している。今年度は,岡山で川の全国大会である清流ワークショップの中の一つのプロジェクトとして旭川上流域及び中流域で実施された。全国から約100名のメディアキッズの仲間やアドバイザーの方々が参加し,中和村のフィールドを舞台に調査研究に取り組んだ。オンラインとオフラインの両方が子どもたちの学びに効果的に機能している。本実践は,このネットワークを活用したプロジェクトである。

注:利用環境:使用機種 PC-9821CX13S5T/mode1A
周辺機器 デジタルカメラ QV10A QV11 25台
稼働環境 コンピュータ室 PC-9821CX(64Kでインターネット接続)

利用したURLなど
 メディアキッズのホームページ: http://www.mediakids.or.jp/
 メディアキッズinOkayama: http://www.hikari-jhs.yamaguchi-u.ac.jp/Camp99/indexMKC.html