インターネット利用による異地域,異年齢間での環境交流学習
〜特別天然記念物オオサンショウウオの保護啓発ネットワーク〜
中学校第3学年・選択理科
岡山大学教育学部附属中学校 藤本 義博
キーワード 中学校,3年,選択理科,総合的な学習,インターネット,テレビ電話会議,環境学習,交流学習,共同学習,保護ネットワーク,異年齢,異地域,特別天然記念物,絶滅危惧種
インターネット利用の意図
インターネットを活用した異年齢,異地域間での環境交流学習を通して,国の特別天然記念物オオサンショウウオの保護と環境保全のありかたを子供なりの見方考え方で学び合う保護ネットワークである。本校生徒は選択理科を履修する15名,小学校で理科や総合的な学習で地域の川の環境学習を行っている4年生から6年生とが交流学習を行う。具体的には,オオサンショウウオの生態や生活環境の調査研究や,生息地の小学校の児童から得た環境情報をもとに,環境交流学習を行うものである。それぞれの学校で,岡山県を流れる「旭川」の生き物・水質調査を体験し,互いの調査結果を紹介し合う交流学習をインターネットを利用して行ったり,近くの小学校の児童を招待して成果を発表しあう。オンラインの交流学習では,インターネットの他にテレビ電話会議も活用して学習を進めていく。
1 はじめに
20世紀に入って日本をはじめ世界各地では生物種の急速な減少が起きており,生物の多様性に及ぼす人間活動の影響が懸念されている。こうした中で,現在では日本と中国の極く一部にしか生息しない特別天然記念物のオオサンショウウオも例外ではない。岡山県真庭郡湯原町,川上村,八束村,中和村は,昭和2年に全国で唯一全地域が特別天然記念物生息指定を受け,文化庁,教育委員会による保護下にある。それにも拘わらず,平成9年度7月から平成10年12月までの河川調査では,23年前の「昭和50年度オオサンショウウオ緊急調査委員会報告」に比較してその生息確認河川数が激減していることが明らかになった。また,この地域住民のオオサンショウウオに対する関心が低いことも筆者の調査により明らかになった。オオサンショウウオの急速な減少問題や,環境問題を解決するためには,人間生活と生物多様性保全との両立を図ろうとする能力・態度を備えた人材を育成することが恒久的で有効な方法であると考えられる。さらに2002年から実施される総合的な学習において,地域の自然を生かした環境学習の展開が求められており,優れた地域教材の開発を行うことが急務とされる。そこで,オオサンショウウオ保護啓発活動を目的とした環境交流学習を,インターネットやテレビ会議システムを活用して異地域・異年齢間で行う保護ネットワークを企画し,第25回全日本教育工学研究協議会全国大会で研究授業を公開した。
2 保護ネットワークの構想と研究授業
(1)
ねらい
インターネットを活用した異年齢・異地域間での環境交流学習を通して,国の特別天然記念物オオサンショウウオ保護のための教材を生徒の手で開発し啓発活動を行う。
(2)
協力校
図1 保護ネットワーク
真庭郡中和村立中和小学校第6学年(6名)
岡山市立平福小学校「旭川を守り隊」(5〜6年生8名)
岡山大学教育学部附属小学校第4学年い組(38名)
(3) 保護ネットワークのとらえ方
世界では日本と中国の極一部にしか生息しないといわれる国の特別天然記念物オオサンショウウオは,昭和2年に岡山県の北部が特別天然記念物生息保護区として文化庁より指定された。さらに昭和27年にはオオサンショウウオそのものが,特別天然記念物として指定され保護されてきた。それにも拘わらず生息するオオサンショウウオの数は,この40年ほどで急激に減少しているのが現状で,平成7年には環境庁より絶滅危惧種に指定されたほどである。こうした状況の中で,地域特有のオオサンショウウオと私たちの生活を見つめて,保護に関する新たな価値観と手だてを生徒の柔軟な発想を生かしながら考えることは,オオサンショウウオ保護のみならず自然と人との共存を考える貴重な環境学習となる。
(4)
指導の考え方
保護ネットワークの目的は,オオサンショウウオ保護啓発にあるが,その目的を達成する過程で,オオサンショウウオの生態や生活環境の文献および実態調査の方法を身につけさせたり,小学生と環境交流学習を行う中で開発教材の評価を常に得ながらよりよいものを創造する能力態度を育成する。この調査研究や交流の際にはインターネットやテレビ電話などを,教材開発の際にはビデオカメラやデジタルカメラ,コンピュータデジタル編集機等の機器を必要に応じて活用する能力を育てるよう学習環境の整備を進めたい。
(5) 生徒の実態
選択理科を履修した15名の生徒は,理科の得意,不得意に関係なく,動物や植物が好きな生徒,自然の中で遊ぶ楽しい体験を積み重ねてきた生徒,地球環境問題に危機感を覚えて子供国会に参加したことのある生徒等々,自然環境とその問題に対して興味関心が高い。しかし,自分の考えを他の人に伝えたり,意見を聞いたり,話し合ったりというコミュニケーションに関しては大変消極的である。そこで,オオサンショウウオの保護啓発のための小学生用教材を開発する過程で,電子メールやテレビ会議などのオンラインでの交流や直接学校を訪問しあったりして可能な限り交流学習を行いながら,コミュニケーションの重要性を見いだし,オオサンショウウオ保護のために積極的に交流しようとする生徒を育成したい。
(6) 指導計画(24〜35時間)
活動段階 |
学習活動とインターネットの関わり |
(a) 目的設定 |
第1次「オオサンショウウオを知ろう」 |
(b) 計画 |
第2次「保護啓発計画を立てよう」 |
(c) 探究活動 |
第3次「保護啓発のための資料を集めよう」 |
(d) 表現活動 |
第4次「小学生と交流学習を行いながら保護啓発教材を作ろう」 |
(e) 交流活動 |
第5次「開発教材を保護区の学校へ送ろう,ホームページで保護をよびかけよう」 |
図2 TV会議のようす
図3 児童に生息環境を説明している生徒
(7) 研究授業案 (第4次10時)
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○小学校中学年〜高学年向けに開発したオオサンショウウオ保護啓発教材を,訪問した附属小学校の第4学年児童に紹介して,作成の意図が伝わったかどうかを評価するとともに,開発教材の改善案を説明できる。 |
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学習活動 |
指導上の留意点 |
備考 |
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1 交流学習のあいさつを行う。 |
1 訪問児童やテレビ電話で授業に参加する児童等の紹介を行う。 |
コンピュータ |
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3 生徒が作成した保護啓発教材
生徒が作成した保護啓発教材は,2.(7)の研究授業案に示したように,岡山大学教育学部附属小学校4年生38名を招待してオフライン交流の研究授業を企画,5つのブースに分かれて発表を行い改善点等をリサーチした。遠方のため訪問が困難な小学校は,テレビ会議で参加していただいた。
(1) 啓発ビデオ制作班
生徒達は,オオサンショウウオ生息地として特別天然記念物に指定されている岡山県の北部,真庭郡湯原町の川に夏休みに出かけ,2kmにわたり川の中を上流に向かって歩きながら生息環境の撮影を行った。2学期よりcanopus社製のDVREXを搭載したDOS-Vパソコンで担当の2名の生徒がノンリニア編集して2本の作品を制作した。1本は,オオサンショウウオの子育てに注目した3分間の啓発ビデオ「不思議な生き物オオサンショウウオ」,もう1本は,実際の川を歩いて調べた生息環境の悪化をクローズアップする2分間のビデオ「オオサンショウウオの住める川は残るんだろうか?」。研究授業では,「不思議な生き物オオサンショウウオ」(3分間)を授業の始めに訪問児童に視聴させた。もう1本の「オオサンショウウオの住める川は残るんだろうか?」の方は,ブースごとの発表の際に2台のテレビモニターで視聴,生徒が解説した。
(2)
生息環境ポスター制作班
3名の生徒がパワーポイント2000を利用して作成しA3版にカラーレーザープリンターで出力したポスターを21種類作成。生徒は,研究者からのインタビューやオオサンショウウオ調査報告書等の文献をもとに,オオサンショウウオの生息環境の悪化をポスターにして改善をうったえた。ポスターに使用した写真は,研究者から提供されたものの他,夏休みに実際に調査に行った川のようすである。研究授業では,ポスターを順番に説明しながら生息環境について啓発を試みた。
(3) 電子紙芝居制作班
3名の生徒が,「おおさんしょううお物語」と題した紙芝居を企画作成。1名がシナリオを作成し,2名がペイントソフトを利用して絵を描いた。パワーポイント2000で編集し,研究授業当日はスライドショーで展開しながら説明した。
図4 電子紙芝居の画面
(4) 生態CD-ROM制作班
4名の生徒が,オオサンショウウオの卵の数や子育て,食べ物等の生態について,文献やインターネットおよび研究者への取材をもとに設計。コンピュータのパワーポイント2000ではじめの画面からそれぞれの画面へリンクする解説CD-ROMを作成した。研究授業では,4台のコンピュータでCD-ROMを自由に使ってもらいながら,訪問児童に補足説明したり質問に答えたりした。
(5) マスコット開発班
3名の生徒が,オオサンショウウオはかわいいという気持ちを抱いてもらうことを目的に,マスコットの開発を行った。この班は,プラスチック板にオオサンショウウオを手書きしてオーブントースターで焼き,かわいいキーホルダーを作成。研究授業当日は,訪問児童に作り方を説明しながら一緒に作成した。オオサンショウウオをキーホルダーにするためにあらかじめ写真をB4版にのばしておいたり,本物のオオサンショウウオをスケッチできるよう許可を得て提示した。
4 おわりに
今回は,総合的な学習の試行として選択理科の中で,オオサンショウウオ保護啓発ネットワークを設計した。このネットワークでは,小学生向けのオオサンショウウオ保護啓発を目的として,生徒が体験したり,野外で調査したり,取材,文献等で調べたオオサンショウウオに関することを,それぞれのグループで取り組んだものである。この作品づくりの過程では,インターネット,NHK番組,ビデオ教材のほか文献検索で多様なメディアを活用したり,作品をまとめる段階でコンピュータのペイント,プレゼンテーション,ノンリニア編集の機能などを最大限活用することができた。また,川の環境学習を行っている小学校や,生息指定地内の小学校の児童たちともメールやテレビ電話を通じて交流を行いながら,保護啓発教材作りを行ってきた。
完成した保護教材の改善を目的に,附属小学校4年生(国語でオオサンショウウオを学習済み)をモニターとして保護啓発を試みる活動を研究授業では行った。このネットワークに参加した本校の15名の生徒達は,環境には興味関心があるものの,オオサンショウウオに野外で出会う体験をもったものは1名しかおらず,夏休みに全員で野外調査を行ったことは,貴重な体験となった。また,小学生と交流する中で,保護教材作りに一生懸命かつ誠実に取り組む頼もしい姿に出会えたことも生徒達とともに成就感,達成感を覚えた。中にはコミュニケーションが苦手な生徒がいて気にかかっていたが,交流を進めるうちに自分からビデオレターにコメントを残したり,研究授業では身を乗り出して説明をしようと努力する積極的な生徒へと変容した姿にも大変感銘した。
ワンポイントアドバイス |
参考文献
第25回全日本教育工学研究協議会全国大会研究発表論文集P.105〜108