小規模校におけるインターネットの有効利用
―テレビ会議を利用した体育科の交流学習―

小学校第5,6学年・体育科
甲奴町立宇賀小学校 湯浅 康司
キーワード 小学校,5年,6年,体育科,インターネット,掲示板,テレビ会議,小規模校,学校間交流


インターネットの利用意図
近年,出生者数の減少に伴い,小・中学校の児童生徒数が減少傾向にあり,全体的に学校規模は縮小することが予想される。特に山村の過疎化の傾向とともに,極小複式・飛び級複式等が増加し,廃校・統合等,教育効果などの点で問題が生じることが予想される。
過小規模校(5学級以下)においては,教職員の目が十分に行き届き,子ども一人一人に丁寧な指導が可能である。しかし,指導が行き届きすぎるあまり,過干渉となり児童の積極性が損なわれたり,固定化された集団が特定のリーダーの意思に左右されることがあり,お互いが切磋琢磨しながら養われる向上心が損なわれる傾向もある。
このように,小規模校にはメリットとデメリットがあるが,このデメリットを克服するため,教室や学校という枠を越えたつながりを可能にするところに,インターネット利用の大きな存在意義がある。また,学校間の交流は,行事や時間の調整が難しく,深まりや継続という点で課題があるが,掲示板やテレビ会議を利用することにより,教職員同士の打ち合わせもできるため,インターネットの利用が有効であると考える。


1 ボール運動で交流学習
(1) ねらい
 小規模校における体育科の学習では,器械運動や陸上競技など個人の克服種目については指導も十分にでき,学習も深まるが,チームプレーを必要とするボール運動ができにくい。人数が少なくチームが組めないので,全校で体育をしている。全学年で体育をすると,体力差が大きいため普通のルールではできない。そのため,ルールを工夫しながら進めているが,高学年は力が出し切れないところもある。
 そこで,インターネットを使い,同じような思いを持っている学校に呼びかけ,合同で学習することにより,小規模校の抱えているデメリットを克服したい。
(2) 指導目標
 ・他校との交流学習を進める中で,相関的に高まりあっていく子どもを育てる。
 ・一人一人が積極的にゲームづくりにかかわっていけるような,主体的な子どもを育てる。
 ・集団の中での規律や,協調性を養い,みんなで楽しくゲームをしようとする子どもを育てる。
 ・情報機器の活用能力を育成する。
(3) 利用場面
 この学習では,次のような学習場面でインターネットを利用する。
(a) ホームページによる呼びかけ
宇賀小学校のホームページに,小規模校交流のページを作成し,体育科でゲームを思いっきり楽しみたいという同じ思いをもっている人に参加を呼びかける。
(b) パスワード付ホームページで自己紹介
呼びかけに応じてくれた学校と,専用線接続のサーバを借りて,パスワード付のホームページを使い,外部へは名前や顔写真が見られないようにして児童一人一人が自己紹介をする。
(c) 掲示板を使っての学校紹介や実態交流
自己紹介と同じく,パスワードのかかるホームページを利用し,他からはこのページが見られないようにして,学校で最近はやっている遊びや,児童数,気候,地域の特徴など,掲示板に書き込み交流する。
(d) チャットによる意見交流
掲示板への書き込みでは,質問したことへの返事がすぐに返ってこないため,チャットを使い,自分たちの実態に合った体育科のボールを使ったゲームについて意見交流をする。児童自らキーボードを使って文字を打つ。
(e) テレビ会議システムによる交流
体育科のボールを使ったゲームについて,リアルタイムに交流する。コートやボールの種類,詳しいルールについて,話し合ったり討論したりする。
(4) 利用環境
(a) 使用機種 組み立てパソコン ADM K-6 350MHz 3台
(b) 周辺機器 USBカメラ 3台
(c) 稼働環境


図1 稼働環境

ネットワーク環境としては,図1に示すように,甲奴町立宇賀小学校,比和町立古頃小学校,吉舎町立八幡小学校徳市分校に,それぞれADM K-6 350MHzを置き,ISDN64kで各インターネットプロバイダーまで接続した。しかし,この3校はどこもダイヤルアップ接続のため,フォルダへパスワードをかけたり,IPアドレスを固定することができない。そのため,パスワードつきホームページや,掲示板,チャット,Cu-SeeMe Reflectorは,専用線で接続されている呉市立三坂地小学校のサーバを使わせていただいた。
(d) 利用ソフト インターネットエクスプローラ 5.0
Cu-SeeMe reflector-bsd-4.0-b3
ホームページ作成ソフト ホームページビルダ

2 指導計画

指導計画

留意点

(a) ホームページで呼びかける。
小規模校交流の呼びかけページを作成する。
☆ホームページ作成ソフト(ホームページビルダー)

・子ども同士で見てもわかりやすいように,また,交流の意図がはっきりと伝わるようにする。

(b)(c) 学校のようすを交流しよう。
交流校同士が,パスワードつきホームページに自己紹介のページを載せたり,掲示板に,地域の紹介や,学校での生活のようすを書き込む。(図2)
★インターネットの利用

★パスワードがかかっていて,交流関係者以外は,このページを見ることができないので,写真や名前,特技など詳しく載せることができる。
★掲示板に書き込んである質問などには,なるべく早く返事を書く。
★小規模校における不満や,少人数のための遊びの工夫などをしっかりと載せ,体育科への発展となるようにする。

(d)(e) チャットで交流
★インターネットの利用

★体育科のボール運動を中心に話し合いをする。
★文字入力には時間がかかるので,次々と書き込みをしないで,返事を待ってから書き込みをする。
★学校内での話し合いにも時間を確保するため,話し合っているときには,相手がじっと待つことのないよう校内で話し合いをしていることを相手に伝える。

(f) テレビ会議で交流
これまでに決まったこと(図3)をもとに,詳しくルールを決める。
★インターネットの利用

★3点接続のため,同時に話すのを避けるため,進行役の学校を決める。また,話すときには,どこの学校が話しているのかを明確にするため,初めに学校名を言ってから話す。
★音声が入りにくい場合には,チャットで伝える。紙とペンも準備し,画像での伝達もできるようにする。

(g) 交流校同士が集まりゲームをしよう。
これまで交流してきた学校が実際に集まり,交流の中で作ったゲームをする。

・掲示板,チャット,テレビ会議で交流してきたことを通して,交流計画を立てる。
・それぞれ違う学校の者同士がチームになり,作戦を立てたり,ゲームをすることで交流を深める。
・交流の感想を発表しあう中で,次への発展とする。



図2 掲示板での交流


図3 ゲームのルール



3 利用場面
(1) 目標
 ・一人一人が積極的にゲームづくりにかかわっていけるような,主体的な子どもを育てる。
 ・テレビ会議を使い,体育科のゲームづくりをしていく中で,互いに認め合い,より良い関わりを持つことで,交流の楽しさを実感する。
 ・小規模校で,同じような環境にあるところの子ども同士が,交流学習を進める中で,意見を言ったり,聞いたりしながら,相関的に高まりあっていく子どもを育てる。
(2) 展開

学習活動

支援と評価

教育機器活用の視点

1 これまでに決まったことを想起する。
 ・コートはドッジボールのコートとする。
 ・ボールはソフトバレ用のものを使う。
 ・1チーム5人とする。


自作ゲームのくわしいルールを決めよう。


2 テレビ会議をするときの約束を確認する。

3 ゲームのルールについて話し合う。

 ・どのように得点するか。

 ・試合時間は何分か。
 ・反則を決めるか。また,反則があってからの再プレはどのように行うか。




4 話し合ったことのまとめをする。

5 次回,交流の計画を確認する。

・これまでの交流をホームページにまとめ,このページを見ながら確認していく。

(意欲・関心)
 これまでに決まったことを整理し,意欲的に発表できたか。



・どこの学校も一斉に話すと音声がまざり聞こえないので,司会者を決め進行をする。
・話す前には,必ず学校名を言う。
・音声が聞き取れない時のために,紙とペンを用意する。
・Cu-SeeMeのチャットも使い進行状況を確認する。

(知識・理解)
 互いの意見をよく聞き,ルールについて理解し,自分の考えをいうことができる。

(思考)
 主体的にゲームのルールを考えることができたか。

小規模校交流のホームページに,まとめたものを載せておく。
3校が同じものを見て確認できる。




テレビ会議
Cu-SeeMe(図4)
 テレビ会議は,音声と画像で交信ができる。リアルタイムに情報を送受信できるため,相互の学び合いを深めることができる。

Reflector
 テレビ会議の多地点接続に必要である。多地点接続をすることにより,広い交流となる。




図4 テレビ会議での交流


4 実践を終えて
本校のような小規模校の抱えている課題として,児童が互いに意見交流をする中での相関的な高まりができにくいということがある。しかし,おなじような課題を抱えている学校同士が交流すればこの課題を克服するのに効果的であることがわかった。また,何度も実際にあって交流する事は不可能であり,インターネットの利用が,交流を深めていくのに有効であることがわかった。
今回,体育科のボール運動で子ども達が考えたのは,ドッジボールをもとにし,人数の少なさをバスケットボールの得点方式を採用することによりカバするゲームである。互いのコンビネーションをもとに,パスを駆使してシュートにつながるゲームであり,各校が入り乱れてチームを作ることにより,いっそう交流が深まった。また,自分たちの実態に合ったゲーム作りは,規制のゲームのように,ただルールを受け入れるだけでなく,児童の主体性も育成することができたし,安全面にも配慮するなど,深く思考することができた。
この交流に参加した児童からは,「体育科のボール運動では,低学年がいると本気でできないが,今日のように同じような学年ですると,力が思いっきりだせて楽しかった。」「インターネットでのチャットやテレビ会議の交流も楽しかったが,実際にあって交流するのがいちばん楽しかった。」「いままでにないゲームが創作できてよかった。」「ゲームを決めるときに,いろんな意見が出てまとまらないかと思ったけど,うまく決まってよかった。」「チャットで文字を早く打つようになりたい。」などの感想が聞かれた。この感想の中に「実際にあって交流するのがいちばん楽しい」とあるように,人と人とのつながりや,出会いを大切にしていかなければならないことを再認識した。
今後の課題としては,この小規模校のネットワークを,体育科だけでなく,他の教科にも積極的に活用していくこと。また,本校のように,インターネットへのダイヤルアップ接続では,十分なサービスを利用することはできない。そのため,専用線接続されている学校の協力を得て,児童の個人情報を守るためのパスワードつきホームページや,テレビ会議の多地点接続を可能にするReflectorを設置し使用させていただいた。インターネットでの交流を深めていく場合,専用線での接続が必要であり,どう確保するかが今後の課題である。

ワンポイントアドバイス
これまでテレビ会議を利用した交流学習ではPhoenixを利用してきた。しかし,このシステムが高価で他の交流校に導入できないことと,多地点接続には,テレビ会議専門の会社に契約が必要で,多額の費用がかかることから,今回はCu-SeeMeを利用した交流となった。接続試験が十分におこなえず,また,どこも僻地のため,回線の品質が悪く十分な結果が得られなかった。交流校の回線のチェックや,事前の接続試験と設定が必要である。
交流学習を進める上で,ホームページで呼びかけるだけでは不十分で,職員同士,メーリングリストやサークル活動などを通した日頃からの結びつきが必要である。

利用したURLなど
 呉市立三坂地小学校 (http://ns.misakaji-es.ed.ctnet.ne.jp/~sschool/index.html)
 吉舎町立八幡小学校徳市分校 (http://www3.justnet.ne.jp/~tetsuya-morimitsu/)
 甲奴町立宇賀小学校 小規模校交流のページ (http://www.fuchu.or.jp/~uga/sschool/sschool.html)