総合的な学習のひろば
− インターネットを利用したデータベースと教材開発支援システムの構築 −

中学校および高等学校・総合的な学習
広島大学附属福山中・高等学校 高地秀明
キーワード 総合的な学習,中学校,高等学校,データベース,教師間交流,教材開発


インターネット利用の意図
 「総合的な学習のひろば」は,ネットワーク上に,全国の学校の実践事例や関連資料を検索閲覧できるデータベースを構築するとともに,意見や情報交換のできる掲示板などを備えた,教師を支援する場をつくろうとする試みである。
 ネットワークをとおして,総合的な学習についての資料や情報を共有し,教材開発の支援と教師間の交流の促進を期待するものである。

 総合的な学習の広場(http://camellia.fukuyama.hiroshima-u.ac.jp/)


1 「総合的な学習のひろば」の概要
(1) ねらい
 この度の学習指導要領改訂の柱の一つである「総合的な学習の時間」については,小学校・中学校を中心に様々な試案が示されているが,内容と展開そして評価について,まとまった理論があるわけではなく,それぞれの学校が独自に模索している状況にある。とりわけ,高等学校については,未知の部分がほとんどで,具体的な単元やカリキュラム開発にあたって多くの課題が山積している。
 ネットワーク上に開設された「総合的な学習のひろば」(図1)は,二つの機能を持っている。一つは,全国の学校の実践事例や関連する情報を閲覧するための検索機能を有したデータベース,もう一つは,掲示板やメーリングリストを利用して意見や情報交換のできるフォーラムである。これらを活用して情報を共有することにより,教師間のコミュニケーションを促進するとともに総合的な学習についての理解を深め,具体的なカリキュラムや教材の開発を支援することを目的としている。

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 (2) データベース化する資料の収集
 現在,Web上のデータベース(図2)に掲載している資料の主な内容は次の通りである。
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全国の中学校・高等学校の総合的な学習の実践事例(主に国立大学附属学校の事例)
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広島大学附属福山中・高等学校(以下当校)の実践事例
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全国の総合的な学習に関する研究会等のテーマと日程
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総合的な学習に関する単行本などの文献一覧
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総合的な学習に関するWebのリンク集
 このプロジェクトの最初の課題は,総合的な学習の実践事例等の資料をどのように収集のかということであった。既にWeb上には実践事例をリンク集という形で整理しているものは多くあるが,実践事例そのものを収集してデータベース化している例はあまりない。 当プロジェクトでは,事例の収集の際,それぞれの実践について,内容の分類,キーワード,目標,実施形態,推進組織,年間の指導計画,具体的な実践内容など,収集整理するための共通のフォーマット(図3)を決めて取り組み,それらをできるだけ詳細に公開しようと試みた。こうしておけば,データベースとして多面的な検索が可能となり,閲覧者も多様な切り口で情報を探すことができると考えたからである。
 具体的な資料収集の方法は,まず,全国の国立大学の附属中学校・高等学校の研究紀要からそれに関わる内容をピックアップすることから始め,約30件を集めて上記のように整理した。次の課題は,それらの文献をネットワーク上に公開するための著作権の問題を処理することである。実践事例を紹介するという書式で,それぞれの文献を抜粋・引用しながら当校が独自にコメントを加え執筆したものを,著作者に送付して許可を求めるという方法で解決することができた。その際,著作者には加筆や追加の資料をいただくなどの多大な協力を得た。これらの文献は,ワープロで編集して冊子にまとめ,後述するデータベース化のために備えた。

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(3) データベース化の作業
 収集した資料をネットワーク上に掲載するためのデータ整理の方法やデータベース化する際の形式について様々な検討を行った。当初はWebサーバ機能を持っている市販のデータベースアプリケーションを利用することを検討したが,文献のデータ量は膨大であり,表や図版を組み込んだものもが多いため,ハイパーテキストの形式(HTML)を採用することが最も整理・編集しやすい方法と考えた。しかし,HTML化はかなり手間暇のかかる作業である。変換や編集のためのツールを利用しているのであるが,自動変換では細部の体裁やレイアウトなどがうまくいかないため,最終的には手作業となる。また,HTML化にあたって留意した点は,ナビゲーションのデザインを工夫したことである。閲覧者がWeb内の多くの情報の中で道に迷うことが頻繁にあるため,必要な情報まで容易にたどり着けるように関連する情報同士にリンクをはり,さらに,ホームページのフレーム機能を利用してトップページと現在位置との関係を常に認識できるデザインで制作した。

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(4) データベースの内容と特徴
 データベースの最も重要な機能は,目的のデータ(情報)を容易に探し出せることである。そのためにいくつかの工夫をおこなった。それは,情報を探すための入り口を多面的に用意することである。Webの最大の特徴であるリンク機能を有効に活用するために,予め総合的な学習に関係するキーワードを選定(例えば,環境,健康,福祉・ボランティア,国際理解,課題探求,など約50件)しておき,このキーワードを有するすべての文献のその箇所にリンクを設定した。文献の総データ量はA4紙に換算して約200ページもあり,リンクの設定は大変な作業であるが,こうすることですべての文献が有機的な関連を持ち,必要な情報の場所をつかむことができる。さらに,そのキーワードをいくつかのグループに整理して多様なインデックスのページを作成した。具体的には,あいうえお順検索,「国際,情報,環境」といったテーマ別,「クロスカリキュラム型,自由研究型」などの実施形態別,時間割編成や教科を切り口にしたものなどである。また,フリーウェアーのサーチエンジン(CGIプログラム)を利用しての検索システムも用意した。これは,閲覧者が任意のキーワードを入力して検索するものである。前述のHTMLでの検索との相違点は,HTMLでは予め設定してあるリンクをたどりながら目的の情報を探すのに対して,サーチエンジンは任意のキーワードを複数使って,いわゆるOR検索などが可能となる。これらによって,閲覧者は情報を多面的な視点から探し出すことが可能なるのである。
 データベースには,その他の関連する情報も多く掲載している。文献集のページでは,総合的な学習に関する単行本を著者名順,書名順,発行年順,発行年逆順,出版社別に一覧表でみることができる。また,全国の公開研究会のテーマや日程,関係するWebのリンク集なども作成している。

(5) ネットワーク上のフォーラム
 総合的な学習は教科書もマニュアルも無く,各学校の主体的な創意工夫に委ねられているために,取り組みについては未だ準備・検討段階にとどまっている学校が多い。担当となった先生からは多くの課題や悩みが寄せられている。
 「総合的な学習の広場」では,教師間の交流を促進するために,書き込み自由な掲示板(図4)とメーリングリストを運用している。さまざまな情報を共有して総合的な学習についての理解を深めるとともに,教育現場の抱えるそれぞれの課題について活発な意見交換がおこなわれることを意図したネットワーク上のフォーラムである。
 総合的な学習は独立した教科ではなく,専門の担当教師はいない。担当する先生の教科は様々で専門も異なることから,このフォーラムでは,教科の枠を超えた多彩な論議やユニークなアイデアが生まれる可能性がある。また,遠隔地の学校や異なる校種間の交流も盛んになることが期待される。

   図4

 (6)  Webの運用とメンテナンス
 「総合的な学習の広場」のWebは,当校の他のWebサーバやイントラネットサーバからは独立したリナックスのサーバに構築している。CGIプログラムの動作によるサーバの負担を軽減することと,セキュリティやメンテナンスの面で管理し易いことが理由である。運用は本プロジェクトのメンバと研究部(校内の部署)でおこなっているが,掲載している情報の内容によっては,頻繁に更新を要するものも多く,掲示板やメーリングリストの運用も含めて日常的に取り組んでいる。

2 成果と課題
 データベースには多くのアクセスや問い合わせがあった。前項(2)で紹介したように,関係する多くの情報を掲載しているので,いろいろな場面で役立っているようである。例えば,「総合的な学習に関する書籍を探すのに役立った」,「掲載されている実践事例を見てその学校へ視察に出かけた」,「公開研究会の日程を知ることができた」,「カリキュラムや単元の開発に参考になった」などである。また,実践事例が出版社の目に留まり,原稿の執筆依頼が舞い込むなど思わぬ効果もあるようである。今後の課題としては,データベースを生きたものにするために,常にタイムリーな情報を収集し掲載することが求められる。また,情報の有機的なつながりを考慮しながら,多面的な視点で整理提供することも必要である。
 掲示板やメーリングリストを利用したフォーラムでは,残念ながらねらいどおりの成果があったとは言えない。この理由は,事前にフォーラムへの協力校や参加者への呼びかけが不足していたためであると思われる。これからの総合的な学習の内容を考えるためには,教科や学校の枠を超えた教師間の幅広いコミュニケーションが必要である。その一つの方法として,ネットワークの利用は極めて有効であると考える。

ワンポイントアドバイス
国立教育研究所の教育情報・資料センター文献情報研究室の総合的な学習に関するリンク集「総合的な学習らんど」(http://www.nier.go.jp/homepage/jouhou/literature/sougou.html)は,全国の総合的な学習の実践および研究などが整理されている。総合的な学習を実践している学校のうち,インターネットで紹介されている学校だけでなく,インターネットで紹介されていない学校についても掲載されている。また,総合的な学習の理論・指導計画,単元展開の構想等, 資料・文献検索サイト,国研での研究,全国の研究発表会・研究大会等など,多くの情報がわかりやすく整理されており,総合的な学習を検討する上で参考になる。

 

利用したURLなど
学校検索(http://sagasu.jr.chiba-u.ac.jp/)
兵庫県立教育研修所「総合的な学習の時間」文献リスト
(
http://www.hyogo-edu.yashiro.hyogo.jp/kenshusho/tosho/sogo-index.html)
一中学教師のメモ帳〜総合的な学習の時間〜
(http://doki02.dokidoki.ne.jp/home2/seiki/sougou/index.html)