異文化交流活動を通してふるさとを再認識する

中学校 第3学年・選択教科技術
下関市立長府中学校 中村 博尚
キーワード 中学校,3年,選択教科,国際交流


インターネット利用の意図
 このプロジェクトは,教室に居ながらにして国際コラボレーションを実際に体験する機会を提供しようとするものである。学校という物理的に閉ざされた空間では,このような試みは非常に困難と思われてきたが,インターネットを駆使することで,それが可能となった。本校では,平成7年度以来,異文化交流を行うためのコミュニケーション活動の一手段と捉え,ネットワーク環境の活用を考えてきた。今年度の活動では,交流活動の質的な面に重点を置き,生徒の内面の変容を大切にした交流活動を目指した。その際,テーマとして郷土下関や城下町長府といった自分たちの生活する身近な話題を題材に,活動を展開してきた。


1 課題学習
(1) ねらい
 中学校技術科では,コンピュータの活用という単元がある。この単元の学習では,通信端末としてのコンピュータを利用しながら,情報の収集・処理・伝達の各段階において,使用する道具や機器,資料などをあげることや,つくりだした情報を自分で利用するだけでなく,他人に伝えたり,他の人と共有することでネットワークの利用価値を理解するといった目標がある。
 この点については,本校の過去の実践事例にも取り上げてきたところではあるが,教育課程の移行期にさしかかる来年度から,「総合的な学習の時間」を設けて授業実践に取り組むこととなった。そのため,「ふるさと学習」という講座の設置を前提に,ネットワーク環境を活用することで可能となる活動内容を模索しながら,来年度の「総合的な学習の時間」の実施に生かす方向で取り組んだ。
(2) 指導目標
 情報の相互伝達の経験を通して,コラボレーションの楽しさと必要性を実感させる。
また,異文化を理解することで,身近な地域や自分の生活を見つめ直し,自国の文化に誇りが持てる生徒を育てる。
(3) 利用場面
 この単元では,次のような学習場面でコンピュータを活用する。
(a) 自己紹介セッション
交流にあたって,あらかじめ相手校コーディネータと交流日程・方法などについて連絡調整をした後,小グループの生徒同士で電子メールを使って自己紹介文を送り合う。
(b) 交流セッション
地域の特色となる文化財や,身近な生活についての話題などから各自がテーマを選び,交流活動を展開する。
(c) マルチメディアを利用した情報の伝達
英文の電子メールに慣れてきた段階で,デジタルカメラで撮影した地域の文化財や,音声データなどをつくり,相手に発信する。
(d) 交流のまとめ
生徒たちがコラボレーションで得られたものを広く公開するため,本校ホームページに成果を掲示する。
(4) 利用環境
(a) 使用機器
 Fujitsu SUN (web&mail&proxyサーバ UMIX)
 NEC PC-MA33DM5AAA42(イントラサーバ winNT Pentium2 333MHz)1台,
 PC-MA33DM7AAA42(教師用 win98 Pentium2 333MHz)1台,
 PC-MA23CC5AAA32(生徒用 win98 Pentium 233MHz)20台,
 Mac LC630(生徒用 MACOS)1台,生徒用大型モニタ1台,
(b) 周辺機器 デジタルカメラ,イメージスキャナ,ビデオカメラ,MOドライブ
(c) 稼働環境 64Kデジタル専用回線,校内LAN,スイッチングHUB,
(d) その他の利用ソフト アウトルックエクスプレス(マイクロソフト),インターネットエクスプローラ(マイクロソフト),キューブfor Windows(スズキ教育ソフト),with voice multi(ソフトリンク)

2 指導計画

活 動 計 画

留 意 点

(a) 交流の意義,これからの計画についてオリエンテーションを行う。

・交流の意義,相手校の所在地や概要,これからのスケジュールについて確認する。

(b) 自己紹介文の作成

・いくつかの例文をもとに,和英辞書などを利用して,英文で自己紹介文を作成する。その際,各自の趣味・特技や得意な教科などを盛り込むとともに,相手を意識したいくつかの質問を用意させる。

(c) 電子メールの基本

・電子メールの仕組みと使い方,英文の記述方法などについて知らせる。

(d) 自己紹介文の送信
 ★インターネットの利用

・前時の学習をもとに,自己紹介文を送信させる。その際,あらかじめ用意したグループごとの写真を添付させる。

(e) 受信メールの確認
 ★インターネットの利用

・送られてきた受信メールについては,必ずグループ内で返信する段取りを整えさせる。また,慣れてきた段階で,ボイスメールの送信にもチャレンジさせる。

(f) マルチメディアの活用
 ★インターネットの活用

・電子メールの送受信に慣れてきた生徒から,デジタル画像や音声データを作成して,添付書類として送信する。

(g) 活動のまとめ
 ★インターネットの活用

・1年間の活動を振り返って,自己評価をすると共に,活動の成果をWEB上に掲示し,広く一般公開をする。

3 利用場面
(1) 目標
 地域に関する適切な課題を設定し,情報検索をもとにふるさと下関についての認識を深める。
(2) 展開

学 習 活 動

活 動 へ の 働 き か け

1 本時の学習について理解する。

・手持ちの資料から得られた情報,フィールドワークで得られた知識,さらには電子メールの送受信から得られた情報などに加えて,地域の情報をネットワーク環境を通して得ることができる点を押さえたい。また,まとめにあたっては,異文化を知ると共に自国の文化にも誇りが持てるような配慮をしたい。

2 グループ別に設定された課題を確認する。

・班ごとにテーマを決め,調べてみたい課題について英文英文の原稿を考えさせる。その際,下関市の特色にあたるものは何かを十分に吟味させる。
・また,各班のフィールドワークで得られた情報も参考に活用させる。

3 グループ別に設定した課題について,情報 検索を行う。

・有用な情報は,あらかじめブックマークとして用意しておき,情報検索の支援にあたる。また,検索については効率よく作業できるよう,生徒の支援にあたる。

4 情報検索の結果をまとめる。

・補助プリントに授業の感想を記入させる。内容については,自分の言葉で,できるだけ詳しく記入させる。

(2) 展開
 本校生徒の自己紹介文の例

図1 本校生徒の授業風景

Dear Sil
Hi,we are juniorhighschool students.
we are very much interested in people and the culture of your country.
I hope that we can learn a lot about each other's country through letters.
First of all, let our introduce ourself.
My name is .......(中略)
I play table tennis after school. But I do not play tabletennis very well. Are you interested in playing tabletennis ?
I'm very excited if you read and reply my e-mail.

本校生徒が送信したふるさとについての課題学習の例
 Hello Bob
 How are you? I am pretty good. Summer is considerably hot in Japan.
 Some people go to summer resorts such as Karuizawa and Hokkaido.
 We have a rainny season called "Tsuyu", and it lasts about a month.
 Now, I inform you about the temle near our school.
 "Kozan Temple"
 The building of this temple is derignated as a national treasure and valued as a Chinese­style building.
 This temple was the Mouri's family temple where five coourt nobles hid themselves after escaping from
 Kyoto and where Shinsaku Takasugi raised arms against the ruling government.

本校生徒が電子メールと共に送った画像の事例


図2 国宝功山寺仏殿


図3 正門付近の風景


交流相手からの電子メールの事例
 I'm sorry to hear about the terrible typhoon. Is your family okay? I hope you are doing okay as well.
 I know how it feels like when there is a typhoon...it's scary!
 In Cairns, we have cyclones, which are similar to typhoons.
 Cairns is in the tropical part of Australia so we often get cyclone warnings around December.
 If the cyclone is very strong, it can cause structural damage to houses and cause severe floodings in the area.
 The university will finish in about 7 weeks. I have to complete all my exams and then I will be finished!
 The year has passed very quickly and I can't wait til next year to start my second year at Uni!
 I'm going to Japan again for the Christmas holidays so I am very excited.
 I don't usually go back to Japan twice in the same year...I normally go back everysecond year but I think I will have
 no time to go to Japan in my second and third year of Uni so that is why I am going to Japan again in December!

4 実践を終えて
平成11年度は,これまでの交流活動をふまえて,今一度交流活動のあり方について吟味することを目標に活動を行ってきた。また,異文化理解をテーマに置くことで,海外の人々の生活様式や文化の多様性を実感することが1つのねらいとなるが,もう1つのねらいとして,異文化を知ることで,自文化を見直すきっかけとなり,ふるさと下関や長府地区の良さを再発見することも必要と考えた。
生徒の思いを伝えるためには,英語で表現をしなければならないが,これまでは1人の教員がコーディネータとしての役割とネットワークの保守や機材などの条件整備,さらには英訳の補助などにあたってきた。これでは負担が重すぎるということもあって,今年度からは英語科の教員とのティーム・ティーチングという指導形態をとり,機材の保守と英訳の補助を分担しながら生徒の支援にあたった。そのため,交流活動も円滑に行うことができた。
また,交流相手については,これまでは一人の生徒に対して一人の交流相手を割り当てて活動をしてきたが,相手の日程によっては,ある期間交流活動が停滞してしまい,空白の時間ができることもあった。そこで,今回は一人の生徒に対して複数の交流相手を割り当てることで,この問題も解消できた。生徒の内面的な成長についても,これまでにない充実感が得られたようである。

ワンポイントアドバイス
生徒たちがネットワーク環境を活用して情報の相互伝達の経験を積み,実社会に出たとき,彼らはいとも簡単にネットワーク環境に順応していくと思われる。しかし,ネットワーク人口が加速度的に増大していく傾向は喜ばしいことではあるが,反面怖さも感じる。言うまでもなく,ネットワーク社会は仮想的な社会であり,そこには世代や国境を越えた「連の社会」が形成されている。また,そこは匿名性の強い社会でもあり,それゆえ人間の内面に関わる道徳心,倫理観が問われる世界である。この仮想的な社会を生徒たちに開放する前に,ネットワーク上の諸問題について十分に理解させた上で,教師側が支援にあたりたい。また,コンピュータの中で完結する授業に終始するのではなく,これが何らかの実際の活動につながるなどの配慮が必要と感じる。

参考文献など
 下関市の観光パンフレット(下関市役所),ふるさと下関「第1集自然編」,第2集「文化財及び諸施設編」,「第3集産業編」(下関市教育委員会)

利用したURLなど
 http://www.city.shimonoseki.yamaguchi.jp/