ローカルネットワークを活用して自然のふしぎを見つめる目を培う
―電子会議室「自然ふしぎ図鑑」の活用―

中学校 3年生・理科
山口大学教育学部附属光中学校
神 村 信 男
kamimura@hikari-jhs.yamaguchi-u.ac.jp
http://ymg.mediakids.or.jp/
キーワード 中学校,電子会議室,自然観,ネットワーク,学校間交流,オフライン


インターネットの意図
 理科の学習において,生徒に先人のすばらしい知識や知恵にふれさせながら,自然のしくみやそれらの形成過程に興味関心をもたせたい。そうすることで,生徒は自然に対しての自分なりの考え方をもち,それらを表現することで自分と自然との距離を推し量る。
 この授業では,生徒に自分の自然に対する考え方の裏付けをさせるために,コンピュータやネットワークを活用する方途を弾力的に行わせた。それは,授業時間内だけではなくそれ以外の時間にホームページを中心に情報検索が可能な時間と場所を提供することと,授業中の実際の意見交流だけではなく,学級・学年間,あるいは他の学校間での生徒達の考え方をかかわりあわせ,学ばせるために次のような3つの電子会議室の設定する。
○学校内ネットワーク 【私たちの学校】,「理科の部屋」の掲示板「進化の過程追究」
○山口県内のネットワーク 【山口マップ】ので掲示板「カブトガニの部屋」
○グローバルなネットワーク【メディアキッズ】の「自然ふしぎずかん」
 このような学習で,生徒たちは,ホームページを閲覧して自分達のテーマに関することを検索する。そして,自分の課題と照らし合わせ,整理し直し,それを学校内の掲示板上に課題解決に必要な情報として書き込む。
 それによって互いの情報を共有しあうと共に,自分なりの考えを交流し合うのである。以上の考えを元に,次のような授業実践を行った。


1 進化の過程を追究する 「自分の進化論をつくろう」
単元のねらい
 子供たちの意識の中では,「進化」は,単純な変化としてしかとらえられていない傾向がある。それは,生物の表面しか見ていなかったり,あるいは,現存する生物の派生してきた道筋を知ったりするだけの知識を得る活動だけにとどまっているからであろう。そのために,現存する生物には興味をもっているが,太古の生物に興味を持ちにくく,太古から現在までに起こった科学の領域を超えた自然の営みの偉大さに気づいていない。また,高等生物といわれているヒトの器官にはこれまでの個々の生物が進化して獲得してきたのと同じ経緯を体の各所で発見してはいない。かりに,それらを発見したとしても,他の生物と比較して関連を深く見つめようとしないであろう。
 しかし,進化の過程を多面的に捉えさせることで,生物のことを単に知るだけではなく,生物以外の様々な要素(例えば,気圏の大気の様子や,水圏の海水の様子,地圏の大地変動の様子)とがかかわっていることに気づくことができる。そこで,現在見られる自然の様々な現象を観察,実験し,それへの影響を考えることで,自然のすべての内容をわかろうとする活動が必要とされる。これは,理科教育における自然を追究して自らの自然観を培うことには最も適する活動であると考える。
 また,進化の過程を多面的に捉えさせることで,私たち人類が現在どのようなルーツの元に存在しているかを知ることの重要性に気づき,ヒトや動物のこれからの進化の様子を推測することができる。そして,私たち人類がどのような立場をとって何をしていかなければならないかを考えさせると共に,その結果に対しての責任をも十分に感じさせたいと考えている。本学習の「進化」において「わかる」とは,進化の過程を追究していくことで,世の中に誕生した生命の種を,自分たちの命を長らえていこうするだけではなく,永遠に生物の足跡を築いていこうとするその壮大なロマンをかいま見ることができる。あるいは,かいま見ようと様々なアプローチをしようとしていることに対しての自分の姿と自分のもつ自然観を見いだすことができるのである。

2 単元の学習内容とネットワークメディアの活用

学習内容

主   眼

手だてと自己評価

グループ課題の設定
★ホームページによるデータ検索

・動植物の進化について不思議に思い自分なりの疑問を出し合うことでグループの課題を設定することができる。

・自分なりの課題の根拠となる不思議やなぜを強く問わせるためにビデオやマルチメディアを活用する。

仮説の設定および追究活動
★ネットワークの活用

・グループ活動に対する個々がもっている情報を出し合って仮説を立てることができる。
・課題を明らかにするために,追究していく内容と方法について見通しがもてる。

・ワークシートを活用し個々が得た情報をクラスやグループ内で閲覧させる。
◎情報手段の広がり度と深まりが高まったか。

中間発表

・自分たちの仮説を立証するために,追究して明らかになったことから自分たちの考えをまとめることができる。
・他の班の発表内容を自分たちの考えと関連づけて聞くことができる。

・自分と他の班との相違点に気づかせるために,発表後に討論の時間を設定した。
◎自分の意見と発表内容との相違点が見とれたか。

疑問点の追究活動
★ネットワークの活用
★電子掲示板の活用

・中間発表で出てきた新たな疑問点を明らかにしようと意欲をもって追究できる。

・共に解決していこうとする気持ちを高めるために,班や学級内で自由に成果を発表させる。
◎多面的に課題をとらえ,疑問点を他とのかかわり合いから解決する見通しがもてたか。

自由討論
実践本時授業案

・進化の不思議や疑問について自分なりの考えをもち,納得がいくまで話し合うことができ,その生物の進化の考えを打ち立てることができる。

・自分の考えを吟味するために主体的に話し合いたい相手へと関わる場として自由討論の場を設定する。◎話し合いたい相手へどれだけ主体的にかかわれたか。

まとめ
★電子掲示板を利用

・自分たちの考えを「こだわりの進化論ファイル」として自然ふしぎ図鑑などにまとめることができる。

・電子掲示板に書かせることで自他の考え方を関わり合わせ,自分の自然観に気づかせる。

3 利用授業場面(掲示板の内容を討論用のプレゼン資料として活用する)
(1) 題  材
 自分たちの進化論を立てるための自由討論

(2) 本時を設定する意図
 これまで、生徒は「生物のつながり」の学習の中で、植物の仲間わけや動物の類縁関係調べたりする学習活動を通して、進化に関してこれまでの概念に浸っていたことへの不安を感じてきた。さらに、共通のテーマ「生物のルーツを探ろう」というテーマの下、グループ毎にテーマを決めさせ、それに対する仮説をたてさせた。そして、その仮説を検証する活動では様々な追究方法を使って行い中間発表を行っている。その結果、浮かび上がってきた様々な視点からの疑問や意見がでてきている。本時は、その疑問を新たな課題としてグループに再び追究させたことの結果を再び、全体の場において発表し、それに対する考えを個別に討論させることで、明らかにさせ、進化に対する自分なりの考えを打ち立てる場面である。本時で自由討論を仕組んだのは、一人一人のわかろうとすることを情報交換させることで、「ああ、自分の考えていたことはそうだったのか」などと気づき、自分がどの方向に向かおうとしているかに気づかせたいと思ったからである。さらに、この後に個別に得た考えを全体討論で発表させることで、個々のわかろうとしたことを全体の理解へと向かわせようと思ったからである。このような互いにこの考えをふれあわせ、それをまた全体にもどし、共有することで、進化についてわかろうとする、あるいは、いつまでも不思議に対して問い続ける態度を育成していきたいと思っている。このことが、より豊かな自然観をはぐくむことになると確信している。

(3) 主 眼
 進化の不思議や疑問について自分なりの考えをもち,納得がいくまで話し合うことができ,その生物の進化の考えを立てることができる。

(4) 学習の展開

学習活動

活動への働きかけ

情報を活用する視点での留意点

1 今日の学習目標の確認

・前時までの活動から、自分たちの課題、本時の活動の目標を明らかにさせる。

・自分たちの中間発表に対しての疑問点を書いたカードを黒板に掲示させることで、グループやクラス全体でわかろうとすることを明らかにさせる。

2 疑問点とわかったことの発表

・中間発表時に出てきた各班への疑問点とそれを解決しようと自分たちなりに明らかにしたことを発表させる。(グループ別、各班あらかじめ用紙に書いておく)

・疑問点とわかったことを並べて掲示することで、どのように「わかろう」としているかを確認させる。
・TPを補助資料として提示することで、わかったことを明確にさせる。
・簡潔に述べさせることで聞き手に吟味しやすくさせる。

3 個別自由討論


○コンピュータを中心にして,ネットワーク掲示板を利用してグループ別に討論を行う。

・もう少し聞いてみたい、自分の意見を言いたいと思った友達と納得がいくまで語り合って見よう。

・必要に応じて小型ボードやコンピュータを使って話し合いの内容を提示させ、論点を焦点化させる。
・根拠を問わせることで、自分たちが考えたことを明確に伝えさせる。
・新たに推論した根拠や疑問に思った理由を簡潔にいうことで、相手の考えをうまくわかろうとさせる。
・参観者も話し合いに加わり、その多様な考えに触れることで、考えを深めさせる。

4 自由討論から全体討論

・今日の発表や自由討論によって明らかになった考えを全体に発表させる。

・明らかになったことと新たな疑問を分けて板書して確認することで、どこまでわかったか、どこまでわかろうとしたかを明らかにさせる。
・新たな疑問を各班のテーマに関連つけさせることで、さらに「わかろう」とする意欲を高めさせる。

5 本時のまとめと自己評価

・これまでの自分の活動を振り返り自己評価をさせたり、最終発表に向けての本時の成果をまとめさせたりする。

・感想を書かせることで本時の活動を振り返らせる。
・これまでの発表や自由討論での問答の内容を振り返らせることで、自分たちが追究してきたことの意味を考えさせる。
・新たな疑問に対する答えの糸口をつかませるために、情報の必要性を確認させる。

(5) ネットワーク利用
 この学習では,次のような学習場面でコンピュータネットワークやオフラインネットワークを活用した。

(a) 自分たちのテーマに関連する調べ活動
課題の設定や書籍やインターネットのホームページから,自分たちのテーマにあった情報をコンピュータ室やホームルームのコンピュータから,インターネットのホームページを検索する。
その結果は,自由にコンピュータ室に設置されたレーザープリンターで打ち出し,自らの情報にする。また,同時に,グループでの追究活動に必要な情報はファーストクラスで構築された校内電子掲示板システムの個人メールフォルダに記録する。

(b) 電子掲示板への書き込み
個人フォルダ上にある書籍やインターネットのホームページからの情報を,自分なりに解釈をし,グループの共有するデータとして掲示板に載せる。また,それに対しては他の生徒が閲覧できたり,それに対しての意見を書いたりすることができる。

(c) 学校間交流でのかかわりあい
山口マップというネットワーク広場の中で,この学習に関係する動物として「カブトガニの部屋」を構築した。この会議室では,実際に飼育し,研究している県内の秋穂中学校も参加しており,カブトガニの生態に関して理解するための情報を互いに交流し会った。

カブトガニの部屋
  図1 カブトガニの部屋

(d) オフライン活動での情報収集
上記のように実際に,ネットワークで交流しているうちに,実際の生態に関するカブトガニをもっと知りたいという意欲が湧いてきて,交流相手である秋穂中学校の科学部との実際にあって,話をきくという活動を行った。
さらに,この活動がきっかけで,このグループは,電話等で質問をしていた岡山県笠岡市にあるカブトガニ博物館での調査活動を行った。
(e) 自然ふしぎ図鑑に登録する
学習の過程で自分たちの考えファーストクラスネットワーク上の会議室「自然ふしぎ図鑑」に、こだわり進化論ファイルとしてコンピュータを使って作成し,互いに意見の交流するきっかけをつくる。

自然ふしぎ図鑑
  図2 自然ふしぎ図鑑

(6) ネットワーク利用環境
(a) 使用機器 Apple Macintosh コンピュータ30台
(b) サーバ FCIS (ファーストクラスイントラネットシステム)
(c) 稼働環境 校内10Baseイーサネット,外部128kbpsデジタル専用線

共同研究
  図3 オフラインでの共同研究

中間発表ポスター
  図4 中間発表でのポスター

4 実践を終えて
 こだわり進化論ファイルには、自分の進化論やその根拠の元になる情報がまとめてある。このことで、他の生徒も教師も、互いの考え方をいつでも閲覧することができたり、それに対しての意見や感想を書けたり、新たな情報源の存在に気がついたりするのである。そして、自分たちの学習の過程を振り返ることや、他者の学習の過程を見ることが即時にでき、他者の学びにふれたとき、自分なりの学習意欲面での目標の設定や、新たな追究活動への発展が考えられるのである。このように自らの学びの成果にふれたとき,子供たちは自らの自然観を培っていくのである。

ワンポイントアドバイス
イントラネットサーバ(FCIS)・・・・学校現場において,コミュニケーションをより密にするために,FCISでは会議室を作成することができる。これは,プライベートなメールボックスを使用することなしに,特定の話題のメッセージやファイルを交換するための,ディスカッションエリアとして共有されるものである。会議室はフォルダ形式で提供され,マウスクリックでアクセスして,簡単に利用することができる。しかも,このシステムを使うことの最大の利点は,どのPCからでも即座に自分独自のメールボックスやデスクトップを利用できる。


参考文献
 メディアキッズダイジェスト99