WebPage請け負います!
−インターネットを利用した地元商店街との連携事業−

高等学校3年生・商業
山口県立徳山商業高等学校 八木祥之
キーワード 高等学校,3年,商業,Webpage作成,地域との連携


インターネット利用の意図
 商業高校では,商業の各分野に関する知識と技術を実践的活動を通して総合的に習得させ,経営活動を主体的,合理的に行う能力と態度を育てることを目的とした「総合実践」という授業がある。これは,商業経済,簿記会計,情報処理などの関係知識・技能を総合的に身に付けるために,模擬会社,模擬市場による取引実習を中心に学習するものである。しかし,これは学校内だけの顔見知りによる取引実習となりやすく,現実のビジネスの多様性や厳しさ,また,緊張感や達成感も得にくい状況になってきている。そこで,地域の協力のもと,実際のビジネスに近い形の実習はできないものかと考え,地元商店街のWebPage作成を請け負うベンチャ企業的な実習を実施することにした。現在本校では,インターネット関連設備が充実しており専用Webサーバもあるため,生徒が作成した各商店のWebPageを実際に全世界へ発信することができる。つまり,実際の企業との物販的取引は金銭が絡むため難しいが,サービス的取引であれば金銭的な問題を回避しながら,実際のビジネスに近い体験ができると考え,インターネット関係サービス分野での実習をすることにした。


1 生徒による商店街WebPageコンテスト
(1) ねらい
 本校では商業科目の「総合実践」という授業で,3年生160人の生徒が3〜5人のグループを作り,毎年,「徳商ビジネスコンテスト」と称した地元商店街の活性化の調査研究を行っている。これは,街頭・校内でのアンケート調査などを通し,現在の商店街について足りないものや要望事項をリサーチし,その結果を基にして現状を分析し改善点を指摘,及び今後の方向性と提言を添えて発表するというものである。これについては校内だけの発表にとどまらず,商店街での発表,報告,提案ということをしてきた。それに対する地元経済界からの反響も大きい。
 しかし,調査研究をして報告・発表するだけでなく,商業高校であるからには,もっとビジネスの現場を体験させる必要があるのではないかと考えた。そこで,今年度は,本校の充実したインターネット環境を利用し,昨年度までの商店街の調査研究を発展させるかたちで,生徒に4人1グループでWebPage作成を請け負うコンピュータソフト系ベンチャ企業を作らせ,商店街各店のWebPageを作成し,実際に公開することにした。従って,教材とはいえ現実の商店へ行きお店の方から情報を収集し,その商店情報をインターネットで全世界に発信するのであるから,いい加減な対応や内容は絶対に許されない。また,現実の情報をインターネットで発信するのであるから,当然そこには様々な問題や危険性が潜んでいる。これらについて生徒は,学校の教員,商店の方の両者から指導を受けることになり,生徒にとってなお一層の学習効果が期待できる。
 さらに,地元商店街のWebPageを作成・発信することによって,地元経済の活性化に寄与すると同時に,地域の人々と交流することによって生徒に地域にもっと目を向けさせる。
 このような創造的・体験的学習を通して,校内の実習や模擬取引では得られない,ビジネスの現場の緊張感,厳しさ,多様性,おもしろさなどを体験させることにより,生徒により一層の社会性を身につけさせたい。そして,学校以外の大人,つまり,教員以外のビジネスで活躍する大人からこれまでと違った刺激を受けることにより,生徒自身の活性化も図りたい。
 なお,本校ではこの企画も,情報通信産業を視野においた一種のインターシップではないかと考え取り組んでいる。

(2) 指導目標
(a) 企画力の育成
 これまで学校内の学習では,教員側が準備し内容・方法まで決められていることが多く,生徒自ら新たに考え出す,創造するという機会はほとんどなかった。しかし,社会からは何かを新たに作り出していける創造的な人材が求められている。情報を収集し,クライアントの要望を聞きだし,自分たちのアイディアも織り交ぜたWebPageを作成させたい。

(b) コミュニケーション・プレゼンテーション能力の育成
 いかにコンピュータ関係の技術を持っていても,最後は周りの人とのコミュニケーションがうまくとれないと良い仕事はできない。商店の人(クライアント)とのコミュニケーションとグループ内,つまり職場内でのコミュニケーション。会社でうまくやっていくためにはどちらのコミュニケーション能力も必要である。

(c) WebPage関係知識・技能の深化
 WebPageを作成していく上で重要なことは「3S」と言われ,「スキル」「センス」「スピード」をさす。情報を伝える技術とそのデザインセンス,そして素早い更新が良いWebPageのポイントだと考えられいてる。WebPageを作成しながら,必要な知識・技能は自ら学習して身につけていく姿勢が大切である。

(d) ビジネス感覚の育成
 ビジネスでは時代の流れ,消費者のニーズなどに敏感に対応していかなければならず,絶えず相手のことを考えた行動が成功の秘訣である。今回の場合,WebPage作成を依頼していただいた各商店の要望を的確につかむと同時に,その商店がターゲットとする消費者のニーズも考えながらのWebPage作成が求められる。少しでも担当商店のプラスになるようなWebPageを作成させる。

(3) 利用場面
 ここでは,次のような学習場面でインターネットを活用していく。

(a) 情報収集の手段
 WebPageを作成する前に,まずWebPageとはどんなものかを生徒に調査させた。これまでは,単純にWebPageを見るだけであったが,WebPage作成するという視点で見ていくと,様々なデザイン,構成,テクニックなどを認識するようになる。

(b) WebPage作成段階
 4人1グループ38チームが,地元商店街の各商店と綿密な打ち合わせの後,各商店ごとにWebPageを作成する。完成までには何度か画面をプリント印刷して商店に持参し,打ち合わせをかさねる。また,既にインターネットを利用している商店とは,電子メールでの打ち合わせをしているチームもあった。

(c) WebPageの公開
 平成11年12月に,完成した38商店のWebPageを本校のWebサーバにアップロードし生徒が作成した地元商店街のWebPageを公開した。その後も商店の要望により,また,クリスマスや正月の歳時に合わせたWebPageの更新を行っている。

(4) 利用環境
(a) 使用機種 Fujitsu40台 Frontier90台(すべてAT互換機)

(b) 使用OS Windows95/98

(c) サーバ環境 第1サーバ(ファイルサーバ/Linux)
第2サーバ(ファイルサーバ/NetWare)
第2サテライトサーバ(WindowsNT)
第3サーバ(校内Webサーバ/Linux)
第4サーバ(Web・DNS・Mailサーバ/Linux)
第5サーバ(DHCPサーバ/Linux)
キャッシュサーバ(Linux)

(d) 通信環境 LAN:100Mbps(光ケーブル/UTP)
WAN:1.5Mbps(光ケーブル)
ISDN回線:3回線
専用アクセスサーバ ルータ ファイアウォール

(e) 使用ソフト WWWブラウザ(Internet Explorer)
メールソフト(Outlook Express)
WebPage作成ソフト(Home Page Builder)他
フォトレタッチソフト(Potoshop,PhotoMagic)他

(f) 周辺機器 デジタルカメラ スキャナ カラープリンタ 他

2 指導計画

期間

指導計画

留意点

4月
5月

・総合実践の目標を提示
・1,2年で学習してきた知識・技能の復習
・ビジネスマナーについて
・これからの情報社会を生き抜いていくためには(インターネットを使っての情報の収集方法)
インターネットの利用

・総合実践の授業は,他の授業と違い会社と同じ感覚でやっていくことを強調し,生徒に社会人としての自覚を芽生えさせるようにする。
・また,個々人の仕事だけでなく,グループでの仕事を多く与えることによって,会社で仕事をうまくやっていくためには,協調性が必要だということを認識させる。

6月
7月

・本年度の徳商ビジネスコンテスト「生徒による商店街WebPageコンテスト」の説明と準備
・HTMLによるWebPage作成の練習(
Windows98のメモ帳で作成)
・インターネットでWebPageのデザイン,構成,テクニックなどを調査
インターネットの利用

・今回の実習は,実際の商店のWebPageを作成し公開するわけであるから,いい加減な対応や作品は絶対に許されないことを強く認識させる。
・簡単なHTMLを理解しておいた方が,今後WebPage作成専用ソフトを利用するにしても便利がよいことから,練習段階ではHTMLそのものをテキストで記述して,WebPageを作成させる。
・WebPageの調査については,見やすく分かりやすいページとはどんなものかを調査させ,時にはWebPageのソースを見て学習させる。

9月

WebPage作成ソフトによるWebPage作成の練習
・フォトレタッチソフトによる画像の加工練習・デジタルカメラの利用方法
・スキャナの利用方法
・ビジネスマナーの実習
インターネットの利用

・オリジナリティーを出すために,ソフトに付属の部品などもなるべく加工させる。
・画像関係は特に容量に注意させる。
・商店の方との打ち合わせなどの時を想定したマナー実習をして,WebPage作成ソフト会社の社員という設定の生徒にとっては,WebPageを作らさせていただく商店の方はお客様だという認識をさせる。

10月

・生徒のグループ分けと役割分担の決定・各グループごとに担当商店を決定
・担当商店との打ち合わせ,WebPage作成開始・担当商店業種と同じ業種のWebPageを検索し参考にする。また,まだWebPageを見たことのない商店の場合は,同業種のWebPageを印刷し,商店との打ち合わせ時に役立てる。
インターネットの利用

・各商店のWebPageの原案を考える際に商店側の希望だけでなく,生徒自らのオリジナリティーのあるものを考えるようにする。そのためには,商店との打ち合わせ時に,その商店の特徴や雰囲気,アピールできる点などをしっかり観察してくることが大切であることを強調しておく。
・打ち合わせ時は,後でトラブルにならないように記録簿を作らせる。

11月

(引き続きWebPage作成)
・下旬には,第1回目の「生徒による商店街WebPageコンテスト」校内予選発表大会開催。生徒と教員で審査。38グループ中12グループが決勝大会へ進出。
インターネットの利用

・どのような人が,何の目的でその商店のWebPageを見るのか,ということを考えてコンテンツを決定させる。
・生徒は,アニメーションなど様々な機能や部品を使いたがるが,果たしてそれが本当に見やすくわかりやすいWebPageになるのかをよく考えさせる。

12月

(引き続きWebPage作成)
・上旬に,地元商店街のイベントホールにおいて「生徒による商店街WebPageコンテスト」決勝発表大会開催。市役所・商店街の代表者と教員で審査。・生徒の作成したWebPageを本校のWebサーバにアップロードし公開を開始,コンテスト後も引き続き,WebPageの内容を更新させる。

・発表は,WebPageの内容もさることながら,プレゼンテーションの能力を磨く場でもあることを認識させ,わかりやすい発表を工夫させる。
・今回のコンテストは途中経過であって,基本的にWebPageは絶えず最新情報を掲載していくものだということを理解させる。

1月

(引き続きWebPage作成)
・中旬には,第2回目の「生徒による商店街WebPageコンテスト」校内予選発表大会開催。生徒と教員で審査。38グループ中10グループが決勝大会へ進出。
・下旬には,校内で決勝大会を開催。CGデザイナー,コンピュータ関係会社社員,教員などで審査員。・次年度に引き継ぐための記録簿の整理とWebPage関連ファイルの整理・総合実践の反省と感想文の提出
インターネットの利用

・第2回目のコンテストの発表大会には,コンピュータ,インターネット,CGデザイナーの専門家も審査員に迎え,専門家の立場から,指導・助言をもらい,生徒の興味関心をさらに高める。
・3年生が卒業しても商店街のWebPageの作成を続けていくため,後輩がすぐに引き継げるように様々な記録をまとめた記録簿をきちんと整理させておく。また,使わない写真の画像ファイルなどは削除するようにさせる。

2月

(引き続きWebPage作成)
・授業時間は無いが,2月中はWebPageの更新を現3年生が行う。また,各担当商店への挨拶参りをさせる。
インターネットの利用

・最後まで,責任をもって仕事にすることの大切さを理解させる

3月・4月は,商店からの要望があれば,情報処理系の部活動の生徒がWebPageの更新にあたる。5月からは,新3年生がWebPageの作成・更新にあたる予定。

3 利用場面
 担当商店との1回目の打ち合わせが終わり,商店側の要望や店内,商品等の写真やパンフレット,資料など,WebPage作成のために必要なものがほぼそろって,実際のWebPage作成に取りかかる時の授業展開。

(1) 目標
(a) 実際の会社での仕事に照らし合わせ,仕事は1人でするものでなく周りの人と一緒にやっていくものだということと,その時に,どのようにすれば効率よく仕事が遂行できるかを考え理解させる。

(b) WebPage作成関連の知識・技能の向上と自己学習能力の育成

(2) 展開

学習活動

指導上の留意点

収集した情報をもとに,担当商店のWebPage上のイメージカラ,コンセプトなどを考える。また,商店の紹介,商品の宣伝など,内容をどこまで踏み込むかもよく検討する。

漠然とした内容ではなく,何を伝えたいかをしっかり絞ったWebPageにするようにさせる。

ロゴやボタン,デザインなど統一する部分を考える。

作成側だけの個人的趣味で決めるのではなく,いかに見やすくわかりやすいページにするかを基本に置く。

サイト全体の構成を考える。トップページのどの項目からどこへリンクをはるかなど,全体の流れを考える。

必ず「戻るボタン」を入れることを確認させる。

各ページの原案図を作成する。また,必要な写真,ボタン,イラスト,その他部品を調達する。

ページを見る時のスピードを考えて,写真や各部品はなるべく少ない容量で抑える。

各ページを4人で分担して,WebPageを作成する。細かい部分は,作成しながらページ間の統一を図っていく。

4人で絶えずコミュニケーションをとりながら作業を進めていくことが大切なことを強調する。

習っていない知識,技能については,教室においてある解説本や,実際のインターネット上にあるWebPageのソースを見たりすることで,自分たちで学習する。

WebPageのテクニックについては教員もわからないことが多いことを伝え,自分たちで調べて使うように指示を出す。

各ページが概ね完成したら,それぞれのページにリンクをはり,全体のイメージを確かめる。

ファイル名は半角英文字でないとうまくいかないことを確認する。

最後にプリントアウトし,次回の打ち合わせ時に持っていき,商店側のチェックを受ける。

全てのWebPageは,必ず担当商店の了解を得てから公開することを再確認する。

 

4 実践を終えて
 生徒に実際の会社と同じ様な体験をさせる方法として,会社などに出向いて行う職場実習(インターンシップ)がある。また,学校内で行う場合は,校内で会社組織をつくり物品販売をする販売実習がある。そして,コンピュータソフト系ベンチャ企業を生徒に作らせて地元商店街のWebPage作成を請け負わせ,それを実際のインターネットで公開するという今回のこの企画は,上記2つの実習を合わせたようなものである。ただ,関係会社に直接的損害を与えることや,物販取引のように金銭的問題の可能性が非常に少ないために,上記実習よりもかなり大きな自由度,決定権を生徒に与えることができる。逆に,その分責任も大きくなり緊張感も出てくる。そこから,生徒自身が自ら考え,自ら実行するということの大切さが理解できたのではないかと考える。これまで生徒の様子を見ていると,こちらのねらいは概ねうまくいったようである。来年度も引き続きこの企画を続けるつもりであるが,今年度以上に実際のビジネスに近づけた実習にしたいと思っている。

ワンポイントアドバイス
 この企画は,本校の総合実践の担当者4人を中心に学校全体,地元商店街等の協力のおかげで実施できたものである。日頃から地域との関係を持っておくことが大切である。生徒には,将来のベンチャ企業をめざせと夢を持たせることも動機付けに効果的である。

 

利用したURLなど
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