広い目で世界を知ろう "international exchange project

小学校第5学年・総合的な学習
                       福岡市立早良小学校 龍造寺 譲
キーワード 小学校,5年,国際交流,電子メール


インターネット利用の意図
 今,新教育課程の中で小学校でも国際理解教育が取り扱われてきている。しかし,図書室の本やインターネットを使った資料だけでは,児童が主体になった教育活動は展開しにくいと考える。そこで,海外にすんでいる人たちに直接メールを送ることができれば,その国の実際の声を聞くことができ,児童が疑問に思ったことなどを直接海外の人に聞くことで,新鮮でより主体的・意欲的な活動ができるのではないかと考えた。しかも,その国の文化,習慣の違い,気候にあった暮らし方の工夫など,国際的な視野に立ったものの見方・考え方を培うことができるのではないかと考えた。 


1 実施にあたって(挫折の連続)
 この企画を実施するにあたって,メール交換ができる環境を作らなければならなかった。コンピュータ室ではなく,教室にメール交換のできるパソコンが必要だと考えたので,校長の許可を得て5,6年生の教室にコンピュータを置いた。電話回線はコンピュータ室のネットワークケーブルを教室まで延長して接続することにした。
 次に海外の学校と連絡を取り,メール交換のできる相手を捜さねばならなかった。私自身海外にメールを送るのはこれが初めてであり,見知らぬ人にメールを書くのは大変勇気のいることであった。世界中の学校のホームページを見ていたが,英語で書かれてあるページを児童に見せても読むことができないので,海外の日本人学校のホームページを見つけだし,読んでいった。
 日本人学校に交流の申し込みをしたが,今は日本人学校の方が日本の小学校からたくさんのメール交換希望があり,対応しきれないという返事であった。

2 どうすれば交流相手が見つかるか

ワンポイントアドバイス
 現在,国際交流という目的で日本人学校に交流を希望する学校が急増している。しかし,ほとんどが小規模で,しかも日本と同じ教育課程を実施している日本人学校にとって,いくつもの小学校と交流することは事実上不可能である。むしろ,現地校と英語を使って国際交流をしていく方が,簡単に相手校を見つけだすことができる。
 現在は翻訳ソフトの精度もかなり向上してきているので,児童の書いた作文などは翻訳ソフトを使って英語に直せばだいたい通じるようである。
 どうしても日本人学校とメール交換がしたいのであれば,その日本人学校のホームページをよく読み,ホームページを読んでの感想や,ホームページを読んだだけではわからなかったことなどを質問するかたちでメールを送ると返事が返って来る場合が多い。

 

 本校でもたくさんの日本人学校に交流希望のメールを出したが,ほとんどの日本人学校で受け付けてもらえなかった。そのような中で,ロンドンの日本人学校,ロシアの日本人学校,コタ・キナバル日本人学校と交流できることになり,メール交換を開始できることとなった。その後も私たちは交流相手校を探し続け,日本人学校だけではなく,世界中のホームページを閲覧し,国際交流を希望している学校がないかを探していった。そのようなとき,アメリカのある小学校のホームページにe-palsというシステムで交流しているというような内容のことが載っていた。
 そこで,このe-palsというホームページを開いてみた。


ワンポイントアドバイス                         e-pals(http://www.epals.com)とは,  世界中108カ国,およそ2万人の先生方が登録しており,教室と教室を結ぶパイプ役として,希望するペンフレンドを紹介してくれるホームページのことである。
 ここに自分の小学校を登録することにより,世界中から自分宛にメールが届くシステムになっている。
また,自分の目的にあった小学校を探すことができ,その小学校へメールを出すこともできる。
 ここで登録するとe-pals専用のメールアドレスも取得することができる。
本校の場合,1ヶ月の間に,およそ20の小学校からメールが届いた。
 日本の小学校はあまり登録されておらず,日本の中学校が圧倒的に多い。
一方,アメリカやカナダの国の場合,交流を希望しているのはほとんどが小学校である。
このような理由から,日本の小学校が登録すると,たくさんの交流希望校が見つかる。

 

 このような経過から,本校では5年生を中心にアメリカ,カナダ,イギリス,オーストラリア,トルコ,スペイン,ノルウエー,アラブ首長国連邦の国々とのメール交換が始まった。

3 言葉の壁を乗り越えて
 e-palsがアメリカのサイトであるので,当然言語は英語である。
 私達の小学校には,英語が得意な先生が一人もいなかった。
 そこで,英語の翻訳ソフトを購入し,日本語で書いた文章を英語に翻訳していくことにした。

ワンポイントアドバイス
 現在市販されている翻訳ソフトの翻訳精度は70%〜80%位であり,だいたいの文章は相手に通じているようである。価格も一万円前後と下がってきており,このソフトを使うことで,ほとんどの文章を翻訳することができる。 ただし,日本語を入力するときに主語をきちんと書いておかないと,おかしな文章に翻訳されてしまう。

 

4 授業実践内容
 では実際にどのようにして授業実践を行ったのか。
(1) 交流相手を決める。
(2) メールを交換するにあたって最低限守らなければならないルールを説明する。
(3) 交流の相手とメール交換をする。
 5年1組ではロンドンの日本人学校の児童とも直接メール交換を行い,それ以外にアメリカの小学校とも交流を行った。5年2組ではアメリカやカナダなどの英語圏の小学校と交流をしていった。このときグループで一つの小学校を割り当てた。すると5年生全部で14の小学校に英語の手紙を送らなければならなかった。翻訳作業は困難を極めるが,翻訳ソフトを使って,何とか全員のメールを送ることができた。
(4) 返事が返ってくると翻訳ソフトを使って,日本語へ変換する。
(5)初めは自己紹介から行い,クリスマスの習慣やお正月の過ごし方,学校での暮らし,休み時間の遊びなど,お互い共通のテーマで交流する。
(6) 用紙に手紙を書き,折り紙などを添えて,アメリカへ送る。

5 メール交換の具体的な交流内容
お互いのクラスのメンバーの自己紹介。
クリスマスに行われる習慣の違いについてお互いの国で行われていることを交流する。
算数科の割合の学習で使えそうな内容のもの(コーラの値段,キャベツの値段,ポテトチップスの値段,ポケモンの映画を見に行った人の割合)などについて交流する。
お正月ミレニアムについてお互いの国で行われていることについての交流。
日本のお年玉やクリスマスのプレゼントについての交流。
お正月に行われるもの,年越しそば,テレビ番組,夜遅くまで起きていることとアメリカで行われている行事の比較。
お互いの学校生活について,学習している教科,宿題について,通学の仕方,昼休みの過ごし方,給食についての交流。
e-mailだけでなく,手書きのメールや折り紙を一緒に添えて国際郵便で送る。

6 児童の感想から
他の国にも友達ができるので,とっても素晴らしいと思いました。
ロンドンや,アメリカの生活の仕方が,日本と違うということがわかった。
自分専用のメールアドレスを持って,他の国の人たちと交流を深めたい。
写真などもメールに添付して送ることができるので相手がどんな顔をしているのかもわかった。
今までメール交換をしたことがなかったけれど,いろいろなことを話すことができるので,楽しかった。
いろいろな国のことを知ることができ,教えることができたりして楽しかったし,いろんな人と友達になることができてよかった。
今度は,メールの中に自分が描いた絵や,声を入れたりして送ってみたいです。
食べ物や遊び方などいろいろな違いがあることに気がついた。
もっと世界中の人と,仲良くなりたい。
自分も英語で話すことができるようになりたいと思った。

7 成果と課題
児童の視野が広がり,いろいろな国の考え方や風習の違いに気づくことができた。
私たち自身が日本の文化について学習し,改めて日本の伝統や文化を知ることができ,再認識することができた。
相手の気持ちを考えて手紙を書くことにより,情緒的な発達,このようなことを聞いても相手が傷つかないだろうかという思いやりの心が育った。
世界のことについて図書室に行って調べるなど,児童の意識の変化が見られ,世界に目を向けるようになった。
日本人学校との交流の深まりで,いじめについての問題や仲間はずれにされたときの気持ちなどを伝え合うことで,学級とは違った仲間意識というものを作ることができた。交流することで,徐々に心が通じ合ってきたようである。
改めて日本を見つめ直す中で,日本人がいかに贅沢な暮らしをしているのか,ものの価値判断の基準が違うことなどについて直にふれることができ,児童の認識を深めることができた。
英語にすごく興味を持ち始め,自分もすらすらと話せるようになりたいと強く思うようになってきた。
交流が親しくなるにつれ,たくさんの手紙を翻訳しなければならなくなり,翻訳作業が大変になった。英語に詳しいボランティアの方などが,近くにいれば良いなと思った。
相手からの手紙が来ても,こちらは手書きで書いた児童の手紙を翻訳して書かなければならないのですぐに返事を書くことができなかった。
現在もこの授業は進行中であり,アメリカの小学校から航空便でメールが送ってきたので,これに対して折紙を添えたお手紙を作って返事を送り,心の通ったメール交換ができるようにしていきたいし,これからももっと発展させていきたい。

8 これからの総合的学習としての広がり
 現行の指導要領では,時間的に教科の学習を除外して総合的学習の時間を設けることは困難である。そこで,教科の指導目標との関連づけを行い,国際交流を進めていくことができればよいと考える。具体的には,
国語科・・・ メールを書くことそれ自体が相手意識・目的意識をもった作文が書けるので概ね作文の目標を達成しているが,これからは自分の書いた詩などを紹介して,日本人の季節感を相手に伝える。
社会科・・・ 世界とつながる日本という単元で,日本で作られている製品がどの国にどのくらいあるのかを調べることにより,貿易による国際的な日本の役割を知ることができる。
 また,地域による気候の違いを直接現地に住む人からのメールで知ることができるので,気候と生産されている農作物の違いなどを比較することができる。
算数科・・・ 割合の学習で,日本の物の値段と海外の同じ物の値段を比べることにより日本の方がどれくらいの割合で高いのか,安いのかを比較する。
 お互いの国で問題を出し合い,解いた答えを検討する。
 かけ算やわり算の筆算のしかたの違いを述べ合い,いろいろな解き方があることに気づかせる。
理科・・・・ 同じ種類の種をそれぞれの国で蒔いて育てていき,気温や太陽高度と植物の成長の違いなどを比較する。
 環境学習と絡めて,それぞれの地域の空気や水の汚染度を調べたりしてたった一つの地球を守り育てようとする意識を育てる。
音楽・・・・ 自分たちが作曲した音楽を聴いてもらい,日本人の節と海外の音楽の違いや使われている楽器の違いを学習する。
図工・・・・ ペイントソフトを使って描いた未来の地球の絵をお互いに見合い,それぞれの国の考え方,もののとらえ方の違いについて学習する。
道徳・・・・ 日本の生活習慣と海外の生活習慣の違いについて調査し,報告しあいながら,習慣の違いと文化の違いについて学習し,お互いのことを尊重しながら生きていくことの大切さを理解し,世界中の人が平和で豊かな暮らしができるようにする方法を考える。

9 終わりに
 最後に,これからますますe-mailを活用した授業が展開されていくと思われるが,メールを書くときに最低限守らなければならないマナー,モラルをきちんと指導していかなければならないと思う。
 また,一人一人個人にメールアドレスを割り当てるというやり方が,よりたくさんのメール交換を可能にすると考えられるが,翻訳ソフトを使うとき,正しい日本語で入力していかないと,翻訳するのにとても時間がかかるので,今回は教師のメールアドレスだけを使ってメールを交換していった。
 こうすることで,メールチェックが大変しやすく,確実にメールを毎朝チェックすることができた。複数のメールアドレスを割り当てた場合,複数のメールチェックをしていかなければならないので,管理ができなくなる可能性がある。
 メール交換をすることは相手の気持ちを考えて手紙に表現しなければならないので,児童の表現技能が飛躍的に高まってくる。また,相手意識をしっかりと持つことができるので,文章を書くことに意欲的に取り組むようになった。
 お互いの国のことについて話し合う中で,日本のことについて私達がもっとたくさん知らなければならないということに気づき,お正月のことについて,どうして年越しそばを食べるのか,しめ縄の由来,餅つきのことなどについて調べていった。外国のことを知るためには自国のことを知らなければならない,ということにみんなが気づいていったようである。
 このようにコンピュータを使ってメール交換をしていくことは,教室に居ながらにして諸外国の子どもたちと仲良くなることができ,相手の国の文化や考え方などについて触れることができるので,児童にとって素晴らしい経験ができたと考える。
 またこれからもこの経験を生かして,たくさんの国々と交流できるような子どもたちを育てていきたいと考えている。

参加交流校
 イギリス St.Mary's Middle School (Nortahmpton) 11歳から13歳の生徒たち
 ハワイ  Waimalu Elementary School (Oahu) 4年生
 カナダ  Beaumont Elementary School (Winnipeg) 5年生
 トルコ  Private Language School (Ankara)5年生
 オーストラリア Sacred Heart Primary School(Miludura)5年生
 アメリカ Twin Valley Elementary Center(Pennsylvania)3年生
 Keysor Elementary School(Missouri)5年生
 Gilmour Elementary School2年生
 Gateway Elementary School(St.Louis)6年生

利用したURLなど
 e-pals Home-Page  http://www.epals.com