日本の方言をテーマにした学校間交流

4学年・国語「方言と共通語」
天水町立小天小学校 笠 哲郎
キーワード 小学校,4年,国語,方言と共通語,インターネット,電子メール,学校間交流


インターネット利用の意図
 本やホームページによる各地域の方言調べは,言葉の違い,ひいては文化の違いなどを知る点でおおいに価値はある。しかし,それにとどらまずメール交換によってそれぞれの地域の方言を,文字のみならず絵や音声で紹介しあうことにより,暮らしの中の生の会話を知り,それぞれの地域特有の雰囲気をも味わうことができると考える。特に,同じ物語をお互いの地域の言葉で紹介したり,学習した様子を発信したりして話し合ったりするとその成果はさらに大きくなるのではなかろうか。また,その話し合いの中から,分からない言葉があってどうしても共通語が必要だということや,普段が方言の方が話しやすいし感情がよくこめて話すことができるなどのよさが分かってくると考える。このように,進んで情報交換し,自他のよさをみつけることができる子どもの育成を目指して,インターネットを活用しての学校間交流を進めていく。


1 研修主題
 進んで情報交換し,自他のよさをみつけることができる子どもの育成

2 単元名
 
4年国語「方言と共通語」

3 本単元においてコンピュータネットワークを活用する意義
(1) 国語科の目標に関すること

 
他の地域の子どもたちが,日常的に使っている方言に文字と音声で触れることにより,方言のもつ独特の雰囲気も味わうことができ,言語についての関心を高めることができる。
(2) 主題に関すること
 
それぞれの地域の方言を発表しあうという課題のもとに,聞き取りや本などで調べたことを,文字と音声を使って報告しあう。他の地域の方言に触れることで,共通語の必要性に気づき,自分たちの地域の方言のよさを実感できる。そのことが,他の地域の方言のよさを認めていくことにつながると考える。また,自分たちが送ったメールへの評価を受けることで,喜びや満足感を得ることができるし,相手のメールに見られる表現や内容のすばらしさに目を向けていくことで,友達のよさに気づいていくことができると考える。

4 利用環境
(1) 使用OS
 
Mac OS 8.1 8.5
(2) 周辺機器
 デジタルカメラ OLINPUS CAMEDIA 2台 FUZIFILM FinPix 2台
 SANYO DSC-X  1台   CASIO QV200 6台
(3) 稼動環境
 パソコン室    iMAC 7台  MacintoshLC520 7台
 教室       Macintosh  Performa 5500 6台  5240 6台
 職員室      Power PCG3 350 1台 
 Power MacintoshG3  1台
 Power Macintosh 8100/80AV 1台
 Performa 5500  1台  5280 1台(データー管理用)
 Power Macintosh 7100/66AV 1台(FCサーバ)
 PowerBook1400  2台   PowerBookG3 1台
(4) 利用ソフト
 
ファーストクラス エクスプローラ キッドピクス フォトショップ その他
(5) 活用環境
 ア インターネット
  64Kで教育センターに接続して,ホームページを検索したりして活用している。
 イ メディアキッズ

  
全国の小中高校[含養護学校]100校を結んだコンピュータネットワークであり,電子メールを中心として共同学習や交流を行ったりしている。今回は特に「ことば」の部屋の活用をしてきた。28800bpsで接続している。


  1 メディアキッズのデスクトップ画面     2 ことばの部屋の画面

5 指導計画

過程

学   習   内   容

みつめる

・方言について調べたいことをもとに学習計画を立てる。

さぐる

・自分たちの地域の方言を調べ,メールを送る。(図3)

 

・他の地域を調べ,地域によりさまざまな方言があることに気づく。(図4)

深める

・方言と共通語のそれぞれのよさを考え,使い分ける場を考える。(図5)

 


3 自分たちの方言発信


4 他地域の方言


5 方言のよさの発信

6 ネットワークを生かした授業
(1) 本時の目標

 ネットワークを利用して,方言と共通語のよさや,それぞれを使い分ける場を考えることができる。
(2) 本時の展開

学習活動

教師の主な発問と子どもの反応

教師の支援・評価

1 他の地域の方言を聞いて,気づいたことを話し合う。


6 話し合いの様子

2 共通語のよさを考える

3 熊本の方言と共通語を比べて,方言のよさに気づく。


8 方言と共通語のよさ発見の様子


4 方言と共通語の使い分けの場を考える。



9 方言と共通語の使い分けの様子

○今日は,メールで届いている地方の方言を聞いてみましょう。
 ・楽しみだ。
◯聞いてみてどうでしたか。
 
・意味がわからない。
 
・共通語のほうがいいな。
 
・「もじゃっこ」ってたくさんという意味かなあ。
◯方言を言ったり,聞いたりしてわからなかったことはありませんか。
 
・鹿児島のおばあちゃんにお金を渡すと「どろはよか」と言われ何のことかわからなかった。
 
・大阪のおばちゃんから「ほかして」と言われて意味がわからなかった。
◯共通語のいいところは,どんなところかな。
 ・みんなにわかる。
 
・だれとでも話が通じる。
◯こんなに共通語はいいところがあるから方言はいらないんじゃない。
 ・うーん,どうかな。
 
・いると思うけどなあ。
◯みんなが使っている方言を共通語になおしてみましょう。
 ・むずかしい。
 ・「とっとっと」ってなんて言うかな。
◯言い比べてみましょう。どんな感じがするかな。
 ・方言が言いやすい。
 ・共通語はお上品すぎるなあ。
 ・方言が迫力がある。
◯どんな時に方言を使って,どんな時に共通語を使っていけばいいかな。
 
・メールや新聞は共通語を使う。
 
・近くの友達は方言で,遠くの友達は共通語で話す。
 
・授業はどっちかな?両方かな?
 
・家族とは方言がいい。

◯感想を聞いた後,メールの言葉を共通語になおして聞かせて共通語の必要性に気づきやすくする。



7 考えの発表の様子


★共通語のよさに気づくことができたか。



◯メールで送った熊本の方言の中から,子どもたちがよく使っているものをもう一度聞いて意欲を高める。




◯声に出して言ってみることで,両方の感じがつかめるようにする。
◯わからなかった地方の方言も,その地方の人にとっては熊本弁と同じように,大切な言葉であることに気づけるようにする。

★方言のよさに気づくことができたか。
★使い分ける場を考えることができたか。

7 考察

(主題についての成果)
 ・自分たちの地域の方言を積極的に祖父母に聞いたり,近所の人に尋ねたりたすることができていたし,インターネットを使って他地域の方言などを調べたり,遠くに住んでいる親戚の人に電話で聞いていたりしていて,主体的に学習しようとする態度を随所にみることができた。
 ・ネットワークを活用したことで,福井県・和歌山県・神奈川県・山口県などから方言の情報が,文字や音声で寄せられた。自分たちが発信したことをきっかけに,多くの情報が集まったことに子どもたちは,とても喜び学習意欲もたいへん高まった。特に,音声で聞く場合には,臨場感があり,文字だけの情報よりも方言のもつ雰囲気を味わうことができた。
 ・
他の地域の方言を聞いても意味がわからず,相手にもこちらの方言の意味が正確に伝わらないことに気づくことができたため,共通語の必要性を実感できた。
 ・熊本の方言を使う場面を絵で表わし,文字と音声を加えて送った。その際,くらしの中で使われている方言の中から,より雰囲気の表われているものを選択し,会話文を構成していった。この活動を通して,自分たちの方言をより深くみつめることができた。このことから,共通語にはない方言のよさに気づき,他の地域の方言にもそれぞれによさがあり,そこに住む人にとっては大切な言葉であることに気づくことができた。
 ・クイズ形式で出した熊本の方言「くちなわ(へび)」に対して,横浜の子どもたちから,「それは『静かに』という意味ではないか。理由は口になわをまくので。」という答えが返ってきた。その答えには,なるほどと感嘆の声があがり,メールを送ってくれた友達の考えのよさに気づくことができた。これ以後,他の地域の方言に答える時も考えた理由をつけてメールを送れるようになった。


 10 インターネットの検索


11 小天小からのメール


12 方言クイズを出している様子

 (その他の成果)
 
・授業で方言の学習が終わった後も,興味をもった子どもたちで交流が続いている。
 
・今まで,あまりパソコンに興味をもっていなかった児童が送ったメールに返事が返ってきたことをとても喜び,そのことでクラスのみんながより楽しい学習ができたことに満足し,自信をもつようになった。
 
・パソコンを班で協力して使えるようになってきている。「メールを送る時に,班のみんなで相談できることも楽しい。」と授業後の感想に書いている児童も多かった。
(課題)
 
・本単元に児童は意欲的に取り組んだが,パソコンに文字を入力するのに時間がかかる。メールでは簡潔な文で表わすことや班での教え合いが必要である。
 
・それぞれの学校の事情により,授業の時期がずれてくることもあったり,子どもたちが発信しても,返事が返ってこない場合に意欲をなくしてしまうことがあったりしたので,教師間の打ち合わせなど計画的な事前の準備が必要となるし,意欲をなくした子どもへの教師の支援も必要である。

ワンポイントアドバイス
 メディアキッズ(http://www.mediakids.or.jp/)は,自分の興味や趣味などに合わせて自由に学習,交流できるシステムを確立している。この中の「こんにちはプロジェクト」には「みんなでわいわい」や「アニメとゲームの部屋」などがあり初心者の人が気軽に参加できるようになっているし,「わいわいプロジェクト」には「かんきょうの部屋」や「地域とくらし」の部屋などがあり,継続的に参加している学校の子どもたちがそれらの部屋で実践したことを紹介したり話し合ったりすることができるようになっている。また数校で一つのテーマを設定し研究実践を進めている「プロジェクト」という部屋もある。子どもたちは,各学校で学習したことを知らせ合いより深く学習していったり,普段の生活で感じたこと思ったことなどを自由に発信し交流を深めたりしている。インターネットを活用する楽しみやよさ,ルールなどもこの中から自然と学んでいくことができ,活用の範囲はかなり大きいと思う。本実践は,このプロジェクトの一つに参加してものである。

 

参考文献
 小学校学習指導要領,小学校指導要領解説(国語),国語指導書,教育とコンピュータ,県視聴覚研究大会紀要(玉名大会)

利用したURL など
 ふるさとの方言(http://www.itl.atr.co.jp/dialect/
 方言の館(http://ww4.tiki.ne.jp/~rockcat/kougimenu.html