子どもがつくりだす画像データベースとその活用

小学校 図画工作・総合的な学習
宮崎大学教育学部附属小学校  奥村高明

 
和歌山県下神野小学校  奥田吉彦
 
宮崎大学工学部 田伏正佳
キーワード 図画工作,美術教育,画像データベース,相互行為


インターネット利用の意図
 本企画は,子どもたちが学習活動の材料として使いたいときに自由に使える画像の集まりと,それを簡便に検索するシステムをインターネット上に構築するものである。これは,本校のサーバを中継として,お互いのサーバ内の画像を検索して表示するという検索システムで,画像そのものは,インターネットの領域の中にある。画像の提供者が増えるほど,子どもたちが利用できる画像は拡大する。また,参加者相互がデータを登録したり,意見を述べ合ったりすることによって,自律的に発展・形成していく特徴をもつ。


1 はじめに
 画像データベースは,画像の集まる場として成立しているプロジェクトで,細かな取り決めや準備を必要としないため,他のプロジェクトと共同することが容易になっている。そのため,2年の実践を終えた現在,後述するように様々な展開を見せた。本報告では,平成11年度における画像データベースの発展と授業実践について報告し,考察を加えたい。(
画像データベースの詳細については,平成10年度の報告書を参照)

2 11年度における画像データベースの展開
 11年度の主な展開は次の5点に集約できる。
 ・画像データベースの画像をもとに図画工作科の授業を行った。
 ・和歌山県の小学校の子どもが1年間撮影し続けた写真を,画像データベースとして教材化し,それを他の学校の表現学習の素材とした。
 ・町をキバナコスモスで飾ろうという秋田県の小学校の地域プロジェクトに参加し,その全国的な接続の場として協力している。
 ・60才の女性が,自作の水彩画を順次登録し,個人ギャラリーとして活用している。
 ・海外児童の日本語学習用教材として英語表示のできるシステムに改訂した。
 ・・・については,継続中の実践であるので,ここでは・から2例と・の概要について述べ,それぞれ考察を加える。

3 実践例
(1) 第5学年「画像データベースに画像を入れよう」
(ア) 授業の内容と展開
 「画像データベースに画像を入れよう。」という提案で,6人1グループにそれぞれデジタルカメラを与えて画像を撮影する。撮影する対象は子どもたちが選ぶ。画像データベースを参考にテーマを決めて撮影したり,思い思いに校内に出かけて撮影したりすることになる。使用したデジタルカメラは,液晶画面が背面についており,液晶画面を複数で覗き込んで,相談しながら撮影できる。子どもたちは「そこ,そこ」「もっと右」など,声を掛け合って撮影していた。2時間行って,約40枚の写真を撮影し,それを教師が画像データベースに登録した。次時に,子どもたちは登録した画像を見たり,それをもとにお絵描きソフトで絵を描くなどした。
(イ) 実践の結果
 活動や撮影した写真から下記のことがまとめられる。
 ○撮影のセルフガイドとして役立つ画像データベース
 画像データベース中の画像の構図や撮影の方法,テーマなどが子どもたちに影響を与えていることがうかがえた。例えば子どもたちが撮影した花キャベツの画像(図1)は,画像データベースの「あさがお」(図2)の画像と構図がそっくりである。画像データベースの「どうぶつ」「しょくぶつ」などの項目に触発されて撮影したり,平成7年の子どもたちの「見なれているけど不思議なもの」というテーマを取り入れた子どもたちもいる。画像データベースは,子どもたちの造形行為のガイド役として働いていたようである。


1 花キャベツ


2 あさがお

 ○自分たちが撮影した画像を使ったCGに見られる意欲の高まり
 これまでは,単に写真に落書きしただけのような作品が多かったが,画面を繰り返し構成し直していく活動が見られた。例えば,図3をつくった子どもたちは,まず自分たちの撮影した「生首」や「手」などの画像をもとにつくりはじめ,別のグループが撮った「目」の画像を加え,さらに絵の具がたれているようにした。恐怖感がテーマである。反転,複写などの機能を多用したり,一枚に時間をかけたりする点で,作品の密度は高くなっていた。これまでの画像データベースを使った学習に比較すると,自分たちや友だちの画像を使う場合には,意欲が高いようだ。


3 自分たちで撮影した画像をもとにつくった作品

(ウ) 考察
 まず,子どもたちは,画像データベースの撮影者の観点や,方法,内容などに触発されて,活動を展開した。そのようにして,撮影・登録された画像は,次に画像データベースを見る子どもたちの観点となるだろう。画像データベースは,子どもたちの造形行為を接続し,蓄えていくのである。コンピュータという道具を通して,子どもの見付けた造形要素がつながっていくことは,子どもたちの造形行為が文化として形成され,相互にかかわり合う可能性も含んでいるのではないか。
(2) 第4学年「ありえない世界をつくろう」
(ア) 授業の内容と展開
 画像データベースの画像と,自分が写っている写真を材料に「どこにもない,ありえない不思議な世界をつくろう」と提案した。3人1グループでコンピュータを用い,お絵描きソフトで絵に表した。子どもたちは,自分の写真を友だちの写真や風景写真と組み合せたり,その上からお絵描きソフトで描き加えたりした。
(イ) 実践の結果
 ここでは,画像を繰り返し貼り付ける技法が,子どもたちに広がった様子を報告する。
 まず,あるグループがサッカーボールを繰り返し貼り付け始めた(図4)。それは今まで見たこともないような世界になったので,この子どもたちは同じ方法で次々と作品をつくった。画像を繰り返し貼り付ける様子は,そこから何かつくり出すというよりも,繰り返すたびに画面が変わっていく様子を楽しんでいるようであった。そして,そのまわりの子どもたちが,この繰り返しを取り入れ始めた。ある子どもは,いちごや柿を繰り返し貼り付け「空に浮かんでいるようだね」といった。そこから「空には,魚が飛んでいる方が面白い」といって,アジの写真を画像データベースから取り出し,それを大きくしたり,小さくしたりしながら奥行きを考え貼り付けていった(図5)。そして「今までコンピュータで絵を描いた中で一番楽しかった」と感想を述べた。


4 サッカーボールの画像を繰り返し貼りつけて奥行きを生み出している


5 アジが空を多量に飛んでいる奥行きのある不思議な風景

(ウ) 考察
 これらの子どもたちに共通するのは,同じ画像を繰り返し貼り付けながら,奥行きや空間を感じていたことである。一般に,中学年は奥行きを考えた表現を始めるといわれている。子どもたちにとって,コンピュータの操作で奥行きを生み出すことは新鮮な驚きだったのではないか。また,そこには,子どもたちが,今,つくりだした画面に関わって発想し,さらに新たなるものをつくりだしていこうとする行為が見られる。それは,造形による意味生成の行為であるといえるだろう。しかし,この実践は,子どもたちの活動を,コンピュータという「道具」と画像データベースという「材料」のやり取りに閉じ込めている。子どもの造形行為による意味生成を語るには,条件が限定的過ぎるだろう。
(3) 6年生と4年生Tくんとの交流
(ア) 実践の内容と展開
 和歌山県下神野小学校の4年生Tくんは,コンピュータやデジタルカメラなどを使った学習が好きである。彼の撮影した画像は,これまでも花や木,クリスマスツリーなど画像データベースに多く登録されている。Tくんは担任の先生と,3年生のときから,学習の素材に学校の木を選んでいる。校内の木の名前をかいたり,撮影したり,覚えたりすることでカタカナの学習をしようと考えたのである。それは,1年以上も続き,いつのまにか四季を表わす豊かなデータベースとなっていた。そこで,奥村と奥田は,これを整備することは,彼の貴重な学習の記録となるだけでなく,インターネットにつながる子どもたちの学習の素材になるのではないかと考えた。そこで,題材名を「Tくんの木から〜」として,宮崎大学附属小学校の6年生に,紹介し,これをもとに表現してみようと提案した。


図6 Tくんの撮影した画像


7 Tくんの撮影した画像をもとにつくった作品

(イ) 実践の結果
 Tくんの画像が画像データベースに整備された段階で,宮崎大学附属小学校の6年生に紹介した。「1年間もすごい。」「きれい。」などの声が聞こえた。そして,子どもたちは,感じたことをもとに自分の表現を始めた。子どもたちが行ったのは,主に以下のような学習である。
・宮崎大学附属小学校の校内にある木を撮影して,それをTくんに送る。宮崎にはフェニックスや蘇鉄など特徴ある木があり,地域の違いに気付いた子どももいた。
・Tくんの木の画像をもとに,CGを使って絵を描く,2000年カレンダーをつくる。
・感じたことを作文や詩にまとめる。画用紙に絵を描く,また,研究を通して,教師も木の葉の色の変化,花の美しさなどに敏感になり,木の名前を覚えるようになってきた。
(ウ) 考察
 Tくんの画像をカレンダーとしてまとめたことは,Tくんの学習がそのまま素材となって,より新たな学習に発展したものである。また,校内の木を撮影した子どもは,Tくんの意欲や興味,学習方法を共有している。さらに,Tくんと画像や絵で交流した子どもは,他者理解を具体的な手段をもとに進めていることになる。また,子どもだけでなく教師も学習を通して変化したことは,学習が教材や人など様々な関係性の中で成立していることの一例になると思う。このように,本学習では,自然と人,コンピュータが相互に関連し合っている。また,Tくんと相手学校の子どもたちがお互いの具体的な実践を通して結び付いている。インターネットやコンピュータを用いた学習では,仮想体験や他者意識のあいまいさがよく指摘される。本実践は,相互理解を子どもたちが相互につくり出しているという点で一つの示唆になると考えられるのではないか。また,子どもたち自身の手で学習をつくりだしていることは,総合的な学習においてインターネットを使った例としても意味があると思う。

4 反省・今後の課題
 実践・からは,コンピュータが,子どもたちにとって文化的,社会的な媒体としての役割を果たすことが分かった。実践・からは,コンピュータを用いた意味生成の可能性を見た。実践・からは,インターネットを使った相互理解の在り方を見た。これらのことから以下のことがまとめられるのではないか。

ワンポイントアドバイス
 
1) 画像データベースは,百科事典や固定的なデータベースと異なり,学習者が参加することで,社会的,文化的な道具として成立する可能性がある。
 2) コンピュータは,自分以外の見方や行為と相互に関連し合うという意味において,造形活動の一端を担うことができるのではないか。
 3) インターネットにおいては,活動や,体験という身体的な手段を通すことで,相互理解を進めることができるのではないか。
 本画像データベースは,今後,地域プロジェクトや市民,海外児童との交流も進む予定である。学習に活用していきながら,子どもたちにとっての意味を確かめていきたい。

 

 画像データベースの構想運営は奥村,システム作成は田伏,Tくんのデータベース作成は奥田が行った。

利用したURLなど
 画像データベース(http://fes.miyazaki-u.ac.jp/zoukei/zoukei/zairyou.html)