へき地校の総合的な学習を支えるインターネットの活用
中学校第2学年・「総合的な学習の時間」
椎葉村立椎葉中学校 根井 誠・佐藤邦浩
キーワード 中学校,2年,総合的な学習の時間,ホームページ,プレゼンテーション,掲示板
インターネット利用の意図
(1) 目的
インターネットは今やへき地校にとっては,なくてはならない存在になりつつある。へき地としてのへき遠性の解消としても情報収集ならびに情報発信において大きな教育効果をあげつつある。今後のへき地でのインターネットの活用が,生徒の学びへ真に有効なのかどうか,地域への貢献は,など今後の可能性を探り検証していく。
(2) このプロジェクトの特色
生徒が「生きる力」を育んでいくための総合的な学習においては,椎葉村の様々な環境のなかで,生徒が自らの興味・関心に基づいて,主体的に世代をこえた交流や,多様な生活体験,社会体験,文化体験,自然体験を豊富に積み重ねながら学ぶことがきわめて重要である。ここ椎葉にはその地域的素地は十分に備わっている。さらにその活動を力強く支えてくれるであろうインターネット利用環境も徐々に整備されている現状で,教科学習はもとより,選択教科,総合的な学習の時間にいたるまでその可能性はこれから大いに開拓の余地が残されている。
そこでプロジェクトを推進するために,推進委員会を設置し学校はもとより地域から教育委員会をはじめ,椎葉村民俗芸能博物館,椎葉の産業を支える椎葉村商工会,さらに大学関係者と融合を図りながら推進し新しい学校づくりに生かしていくことができる。
(3) 期待される効果
生徒は,このような恵まれた自然環境の中で,地域の人々の温かい人情に支えられて,素朴で素直に育っている。また椎葉村伝統行事の「平家祭り」や「神楽」,「焼き畑」などと多様なかかわりをもち,地域のよさを感じながら生活しており,地域で生きる力と情に満ちた生徒が育ちつつある。その一方で,じっくり考えたり,自らの意志で行動したりする機会が少なく,一人一人の生徒の主体的な判断力や行動力は十分とは言えない。したがって,さらに多様な体験を通して生きてはたらく学力を身につける機会を用意する必要がある。
1 椎葉サミット1999
(1) 活動の目標(ねらい)
・椎葉村にかかわる自然,産業,伝統文化,家庭風習など自ら課題をもち意欲的に調べることができる。
・現地調査や見学などを通して村の人々とのかかわりを深め,自分の生まれ育った椎葉村の理解と愛情をさらに深めることができる。
・自分と椎葉村とのかかわりについて考えを深め,それを他の人に発信することによってプレゼンテーション能力を高めることができる。
(2) 単元の位置づけ
生徒は,このような恵まれた自然環境の中で,地域の人々の温かい人情に支えられて,素朴で素直に育っている。また椎葉村伝統行事の「平家祭り」や「神楽」,「焼き畑」などと多様なかかわりをもち,地域のよさを感じながら生活しており,地域で生きる力と情に満ちた生徒が育ちつつある。保護者の意見の中にも,椎葉の伝統を子どもたちに受け継いでもらいたいという考えが多く,椎葉のよさを学習させることは重要なことである。さらに椎葉村全体に目を向けると,各地区が広域に点在し,その伝統芸能,風習など地区独特のものが残されている。そこで椎葉中を異文化集合コミュニティーとしてとらえ,ふるさと椎葉のよさを再発見していく学習を位置づけた。
(3) 活動に迫る手立て
生徒の活動面 − イメージマップ変容図,体験的な活動,インターネット,プレゼン,セッション
教師の支援 − 資料収集,情報発信,地域の人材との連携,TTによる情報交換及び指導保護者向け新教育課程づくりアンケート調査(1999,7月実施済)
2 指導計画
3 学習の展開
(1) 調査体験活動
生徒の主体的な活動を促すため積極的に地域とかかわる環境を用意した。そのために班編成については,出身地区で異学級混成班をつくった。また活動に対しての見通しをもたせ学習の足跡を残すため学習ファイルを準備した。これにより,教師側は,生徒の活動状況を把握したり次時からの指導を弾力的に運用したりできるようになった。生徒側も活動に見通しをもったり本時の活動を振り返ることができた。
実際の調査活動においては次の点を考慮した。
・生徒が選んだ場所や人物
・移動が可能な範囲
・地域の代表的な施設
・保護者の地縁者
などである。
そこで以下で調査体験活動が行われた。
・椎葉村役場
・椎葉村商工会
・椎葉村民俗芸能博物館(図1)
・八村杉
・尾向焼き畑資料館(尾向小)(図2)
・小崎神社
・椎葉ダム
・九州電力
・保護者,地域の人材(民謡/神楽等)
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(2) 発表にかかわる工夫
生徒の活動から自然に表現(プレゼンテーション)したいことを優先させた。その結果以下のことが発表方法として出された。さらに発表原稿を書かせる(図3)ことで,見通しをもちながら効果的な発表に生かせるようにした。
生徒が予定した発表方法
・コンピュータで
・実演で
・模造紙で
・ビデオで
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コンピュータについては,プレゼンテーションソフトを使用し調査したことを写真を織りまぜながら作成させていった。教師も随時支援(図4)し,発表順にハイパーリンクをつくり円滑に発表にのぞめるようにした。
4 実践を終えて
今回の試行実践では,生徒ははじめて体験する学習にとまどいは隠せなかった。 「あなたたちに与えれれた10時間。日頃の学習を生かして椎葉のよさについて自分達で計画を立てて学習していこう。」この教師の投げかけに最初は「やったー」と喜ぶ表情までみえたのであるが,次第に「どうやって?次時は何をしようかな?」と不安な言葉が聞こえてきた。
しかしながらなんとか教師も生徒も手探りで学習を進めていった。 このような状況の中で大きく学習を支えてくれたのは,何といっても椎葉村全体(物的環境,人的環境)であった。よくわからないまま地域へかえっていった生徒たちはだんだんと自分達の地区のよさを感じていた。これまで感じていたと思われたことは,実際にはそうではなくかかわりを持つことで新たな発見をしたのである。生徒はこのように述べた。「最初は調べなくても鹿野遊のことはよく知っていると思っていて,よだきかったけど調べていくにつれ,今迄知らなかったことがたくさん出てきて,調べてよかったなと思いました。・・」またある生徒は,「最初はめんどくさいと思っていたけど,自分の住んでいる椎葉村について調べてみて有名になっていることや観光客が増えているという話を聞いてうれしかったです。・・」と述べている。いずれもかかわりを深めたからこそ湧き出てきた感想とも言えよう。またそれを支えてくださった村の人々の温かさも同時に感じた。あるおじいさんは連絡するとたくさんの資料を家に準備して待っていてくださったり,役場の方や博物館の学芸員さんは急な申し出にもかかわらず懇切丁寧に生徒に語っていただいた。課題としては次のことがあげられる。
・施設や人を訪ねる場合の生徒の移動手段と安全管理はいかに
・弾力的な校時程はいかに
・保護者との連携をもっと密に
・調査体験活動にあてる時間の生み出しかた(教育課程編成)
5 成果と課題
今回の試行実践では,生徒のプレゼンテーション能力の育成も大きなねらいでもあった。発表の場になる文化祭で特に工夫がみられたのは尾向地区の生徒であった。感想に多くの生徒が「尾向が一番好きです。」という内容を書いているのである。この時間がはじまってすぐはあまり目立った活動もなかったのであるが,調査活動が増すごとに熱心な様子がみられ,発表形式も唄あり,劇ありと趣向をこらし,尾向のことをみんなにわかってもらいたいという気持ちが盛り上がってきたようである。生徒にとっては”調査大体験を通して心に感じた尾向”が本物になり,自分達でしっかり考え,プレゼンテーションできたことになる。このように生徒が本当に感じたことは素直に表現につながっていくのである。そこには当然感じさせる何かがないといけない。それは生徒にとっては「ふるさと”椎葉”」そのものではなかったのだろうか。また,掲示板機能を活用して学びの深まりを調査中である。確かにインターネットは総合的な学習の時間に欠かすことのできないものとなっている。生徒の声の発信や椎葉のよさの再確認において有効な手段となった。これから先,生徒が自ら進んで活用していく姿を追い求めたい。来年度の課題としては,
・コンピュータによるプレゼンテーションの活用度と教師の支援
・総合的な学習の表現の場はいかに(文化祭発表,インターネット,椎葉村の行事への参加)
・調査体験活動にあてる時間の生み出しかた(教育課程編成)
ワンポイントアドバイス |
参考文献
総合的な学習・指導案集 中学校(図書文化)
利用したURLなど
椎葉村教育委員会 (http://www.shiiba.ed.jp/)