屋久島気象観測プロジェクト

屋久町立岳南中学校   山内 耕治
上屋久町立宮浦中学校  永留  貢
上屋久町立金岳中学校  内 祥一郎
キーワード  中学校,理科,天気,気象観測,TV会議,インターネット
電子メール,学校間交流


インターネット利用の意図
 屋久島は,周囲約140Kmの円形をした島である。「1ヶ月に35日雨が降る」「洋上アルプス」などさまざまな形容がされている。この屋久島に住んでみると,島内の気象が地域により異なることを感じる。しかしこれは,観測データをもとにしたものではない。そこで,屋久島の3中学校が協力し,それぞれの地域の気象観測を行い,そのデータを校内・地域ネットワーク上で共有し,各学校でデータ解析を行うとともに屋久島の気象現象について考察を加える。この過程で,電子メールやTV会議システムを用いて,報告や意見交換等を行い,各校間の交流を促進する。


1 気象観測の実際について
(1) ねらい
(a) 毎日の気温,湿度,気圧,天気,雨量など生徒自ら気象観測を行うことにより,気象観測の方法の基礎を身につけるとともに,身近な気象現象に興味をもち,学習や生活の中に生かして考える態度を養うことができる。
(b) 気象観測を継続することにより,気温・湿度・気圧などの変化の規則性に気づき,さらに身の回りに起こる気象現象と気象データを関連付けて考えることができる。
(c) 他校の気象データと自校のデータとを比較することにより,同じ屋久島でも気象環境がことなる場合があることに気づき,その原因を探求しようとする態度を育む。
(d) 気象観測を通して,同じ屋久島に住む者同士が,インターネットやTV会議シテムを利用し交流することができる。

(2) 参加中学校について
 参加した3校は,宮浦中学校・永留 貢教諭が管理する屋久島情報教育研究会ネットワークで結ばれている。電子メールやwebの活用ができるとともにTV会議システムを備えており,それらを用いた学校間の交流が可能である。(図1)


     図1

(3) 観測チームの編成
各学校で,2年生を中心とし,他学年も含めたプロジェクトチームを編成する。

(4) スケジュール
 ・夏休み期間中・・・各学校で気象観測を実施し,自由研究としてまとめる。
 ・9月1日・・・各学校のプロジェクトチームを発足させ,気象観測を開始する。
 以後継続して観測を行い,電子メールやTV電話を用いて情報交換をしていく。
 ・9月30日・・・TV電話を使って,各校「気象観測チームの顔合わせ」
 ・10月11日・・・気象観測プロジェクト合同研修会
 ・10月14日・・・TV会議を用いた各校比較検討会
 ・1月20日・・・報告書提出

 *報告終了後も引き続き気象観測を行い,年間の屋久島各地区の気象観測データを収集,蓄積し,考察を加えていく。

(5) 観測項目と機器について
(a) 天気 1日3回 8:00 13:30 17:00
(b) 気温・湿度・気圧
自動測定記録装置エコログ(中村科学)を用い,1日 24時間のデータを収集する。(図2)


   図2

(c) 風向・風速
携帯用風向風速計(大田計器製作所)を用い,天気の観測と同じ時刻に行う。(図3)


   図3

(d) 酸性雨
酸性雨採取器レインゴーランド(堀場製作所)で降雨を採取し,簡易pHメーター(Twin pH B-212:堀場製作所)で酸性度を測定する。データの信ぴょう性を上げるために,導電率も(Twin CondB-173:堀場製作所)並行して測定する。(図4)


  図4

(e) 雨量 上記の酸性雨採取器で採取した雨を測定する。

(6) 観測データの処理・管理について
 〜データの収集からそのWeb化まで〜
(a) データの計測とファイルへの記録
参加各校の気象データは次のようにして計測される。
A. 天気・風向・風速・・・観測担当の生徒が観測し,記録用紙に記入する。
B. 気温・湿度・気圧・・・データロガー「エコログ」により30分おきに自動観測。
 Aについてはおよそ1週間ごとに記録用紙を表計算ソフトのワークシートに転記し,デジタルファイル化した。(下表例参照)

   表1

日時

時刻

天気

くわしく

温度

湿度

気圧

風向

風速

雨量

酸性度

導電率

08:00

晴れ

雲量4

16.2

100

1025

 

0

 

 

 

 

 

13:30

晴れ

雲量5

17

100

1022.6

南南東

1

 

 

 

 

 

17:00

晴れ

雲量3

16.2

100

1022.6

北東

2

 

 

 

  Bについてもおよそ1週間ごとにロガーからコンピュータにデータを取り込み,そのデータをワークシートにコピーした。(下表例参照)

   表2

観測地  宮浦中学校   観測年月  1999年 9月27日〜10月31日

日時

 

 

時刻

天気

温度

湿度

気圧

風向

風力

雨量

酸性度

導電率

照度

27

0000

 

24.8

100.0

1017.9

 

 

 

 

 

0.0

 

 

 

0030

 

24.8

100.0

1017.9

 

 

 

 

 

0.0

 

 

 

0100

 

24.8

100.0

1017.9

 

 

 

 

 

0.0

(b) データの送信
 各校担当者は,(a)により作成したファイルをメールに添付してサーバのある宮浦中学校に送付した。担当者が生徒である場合もあったので,原則としてインターネットではなく地域イントラネットのメールを使うこととした。

(c) データの処理
 各校からのデータを受け取った宮浦中では以下の処理をすることとなる。
 A. メールに添付されたデータの展開とサーバーへの保存
 B. 各校データから学校間比較一覧シート(気温・湿度・気圧・天気・風向・風速・酸性雨などの比較一覧シート)への各データのコピー
 C. 数値データのグラフ化と,それらを画像ファイルとしての保存
 D. Webによる公開

(d) データのWeb化
 (c)の作業により,以下のファイルが作成される。
 A. 各学校の観測データファイル
 B. 観測データのグラフファイル
 C. 各観測データの学校間比較データファイル

D. 学校間比較データのグラフファイル>
 これらのデータをWebページ上から表示・ダウンロードできるようにした。(右の図参照)
また,そのWebページには各種データはもちろん,観測方法の解説,各校の観測チームの名簿,関連Webサイトへのリンク集なども用意し,データ閲覧のみではなくその活用まで配慮したつもりである。(図5)


  図5

(7) 気象データおよびネットワークの活用
(a) 気象データの収集・編集・解析・送信を行う活動により,コンピュ−タ操作の技術向上を目指す自主的姿が昼休みや放課後見られた。
(b) 学校間TV会議
 各校に設置されているTV電話(NTT Phoenixmini)を使って,気象観測に関するTV会議を行った。


  図6


  図7


  図8

・9月30日に3校を結んで第1回目のTV会議を行った。自己紹介等の簡単な内容に留めたが,初めてのTV会議ということもあってか緊張感は隠せなかった。


  図9

10月14日には,事前に電子メール等で各校間質問や連絡などをしておき,それに答える形で,3校TV会議を開催した。

(b) 報告・意見交換会


  図10

・10月11日に環境文化研修センターにおいて報告・意見交換会を開催した。その目的は実際に会うことによって気象観測に対する意欲を喚起することと,「実際に会う」事で相手との相互理解を深めようということであった。簡単な自己紹介の後,参加2校がお互いの観測方法およびデータの考察をプレゼンテーションした。

(c) 授業での活用
気象観測で得られたデータを使って,2年生理科の授業での活用を行った。この授業では,天気図の情報から雲のできている範囲を予想する活動を通して,その地域の天気を予報するという事を目標にした。また,ある天気図の翌日の天気を予想する活動にも発展させた。この授業では天気図データと衛星画像データを主に使ったが,学習用のWebページとワークシートを作成した。Webページや各種データを参照しながらワークシートに記述していくという学習活動にしたことで,ブラウザやコンピュータの操作になれていない生徒も活動しやすいようであった。インターネット上の情報を授業に活用する際,それらのデータを自力で探していくよりも,学習活動の流れに沿ったWebページをあらかじめ作成しておく事が学習活動をより効率的に進められるようである。


  図11

2 研究の成果と課題
(1) 成果
(a) 屋久島内の気象データの定期的な観測システムを構築することができた。
(b) 身近な気象データを得られるという点で,気象およびその指導に対する教員の関心が向上した。
(c) 基本的な気象観測の方法が身につき,身近な気象現象とデータを関連付けて考えることができるようになった。
(d) 3校のデータを比較検討し,屋久島の気象現象が微妙に違う事がわかり,その要因を追求しようとする意欲が生徒たち,教員に出てきた。
(e) 生徒も,教師も,コンピュータに関する興味が高まり,インターネットを用いて学校間で情報交換,情報収集,情報の発信など自分たちだけでできる操作力を身につけてきた。
(f) 生徒に身近な自然現象を,定期的,長期的に観察・観測させることによって,理科に対する興味・関心と問題意識を高めさせることができた。また,継続力や自分の役割に対する責任感もついてきた。

(2) 課題
(a) 「天気・風向・風速」は,生徒の手により毎日3回観測している。学校休業日である土日や行事等の都合で観測ができなかったり,また忘れていたりすることもあり,人手による観測の限界を感じる。
(b) 各校の観測データの比較表および比較グラフの作成も人手によるもので,かなりの時間と労力を要する。
(c) 長期的な視野に立つとこの一連の操作は,自動化が必要不可欠のように思われる。しかし,観測機器の購入予算の問題,自動化するためのソフトウェア開発にかかる技術的な課題等がある。
(d) データロガーの問題 操作性,ソフトウェア,バッテリーの寿命
(e) 気象データを活用する授業実践がまだまだ不足している。

ワンポイントアドバイス
(1) 長期間の観測の場合,気象観測システムは,生徒の手による観測も大切であるが,自動化も視野に入れられた方がよい。
(2) 気象データの処理はできるだけ自動化した方が良い。
(3) 授業における活用では,ワークシートおよび学習Webページの作成が効果的である。
(4) 本プロジェクト各校では「CatRace:教育のための気温連続測定・自動送信」プロジェクトにも取り組んでいる。一連の作業を自動化したもので,送信されたデータは自動的にデータベース化される。参考にされるとよい。

本プロジェクトを終えて
 屋久島は,世界から注目されている自然に恵まれた島である。この注目されている屋久島で,赴任当初から気になっていた地域で気象現象が異なることを,この企画で調べていくきっかけを得ることができた。約5ヶ月間という短い期間であり,気象現象についてのデータの蓄積もまだまだであるが,成果の中で特に,生徒のコンピュータ操作の向上はおどろくべきものがあった。現在では,コンピュータの操作に関する会話が,教師と対等にできたり,ホームページの作成などの技術もかなり向上してきた。逆に,コンピュータ操作になかなか慣れない教員が操作を忘れ,生徒に教わるという場面もあった。この企画では,気象観測という側面とコンピュータ技術の向上という2つの側面で大いに成果があったと確信している。
 この企画は,まだまだ始まったばかりであり,今後さらにデータの収集・蓄積を行っていきたい。そして,屋久島の地域社会に情報を発信できるようなことができたらと願う。

参加校URL
 屋久町立岳南中学校   http://www.d1.dion.ne.jp/~gakunan/gakunan/
 上屋久町立宮浦中学校   http://www.edu.pref.kagoshima.jp/jh/miyaura/top.html
 屋久島情報教育研究会HP   http://nagatome.com/yakushima/

参考URL
 CatRace「教育のための気温連続測定・自動送信」   http://www-rk.edu.kagoshima-u.ac.jp/catrace/index.html
 屋久島情報教育研究会   http://nagatome.com/yakushima/

参考文献
 『だれにでもできる環境調査マニュアル』左巻健男・市川智史編 東京書籍