ネットワーク管理者養成講座初級編
-コンピュータ教室のネットワーク管理からインターネットまで-

沖縄県立沖縄工業高等学校 本村 金三
沖縄県立森川養護学校 幸地 英之
沖縄県立名護高等学校 玉那覇 哲
-ワード ネットワーク管理者,インターネット,沖縄工業,森川養護,名護


インターネット利用の意図
 タイトルのとおり,ネットワーク管理者の育成を目的とした講座である。ここ数年多くの学校で,コンピュータ教室内や校内LANなど何らかの形で,コンピュータネットワークが構築され,学校では誰かがネットワークを管理しなければならないという状況が生じている。理想的にいえば,専門知識をもったエンジニアが学校をサポ-トする体制が構築されれば申し分ないのだが,じっさいには,多くの教師がネットワークについて十分な学習をする機会を与えられることもなく,ネットワーク管理の役割を担うという現実がある。今回の講座は,そのような状況をふまえて,教育現場でネットワーク管理のために何が求められているか,実際に講座を運営する中で,必要な知識やノウハウを探ってみたというねらいをもっている。


1 講座の内容において考慮したこと
(1)
県内の多くの学校では,サ-バとしてWindowsNT,クライアントとしてWindows95/98というネットワーク構成が一般的である。講座の中心的課題をWindowsNTのサ-バとしての管理・運用,およびネットワークについての基礎知識の習得におく。

(2) 講座は4回とし,Windows95/98から入りWindowsNTへと段階的にステップアップできる構成とする。これは受講者が,どのような知識レベルなのかまったく予測がつかないこと,今回の企画自体が入門編という位置付けなので,ネットワーク管理の経験が皆無の初心者を対象として想定した結果である。

(3) 多様な学校の教師が集まる機会をつくるので,お互いの意見や情報交換する場を設ける。これは,今後継続的に講座を開くことを考えた場合,学校や教師のニーズがどこにあるかを知るためにも,またお互いの協力関係を構築する上でもぜったいに必要なことと思うからである。

(4) 講座の進め方や準備および場所については次のような点に留意する。
 (a) できるだけ実践的な講座になるように,講義だけでなく実習をまじえるように心がける。
 (b) 講義はパワーポイントなどを用いたプレゼンテーション形式になると思われるが,その場合,対話的に進められるように配慮する。また紙の資料なども用意して,理解の便宜をはかると同時に講座の内容が具体的な形として残るようにする。
 (c) インターネットへの接続が可能で,プロジェクタやHUBなどの機器の設置,また実習の場合には十分に活動できる場所を確保する。

2 プログラムと実践内容
2.1 1回講座
沖縄インターネット協議会(OIA)と共催で開いた。
日時:9月25日(土)  12:30〜18:00
場所:琉球大学総合情報処理センタ内第3実習室(2F)
参加者:53名(教師35名)

(1) 簡単なLAN構成(Windows 95/98を中心に) 講師:澤岻 学氏
 --Windows 95/98だけでコンピュータをつなげてみよう。
 
ネットワークコンピュータのプロパティ(識別情報,LANカード,TCP/IPの設定など)を中心に,コンピュータネットワークについて,入門的な内容を解説。じっさいに受講者がもってきたノートパソコンなどを,HUBを経由して接続し,ファイル共有やプリンタ共有の仕組みについて説明。

(2) LANについての基礎知識(1) 講師:芝村 正志氏
 --インターネットを使った学校間交流を促進させるための環境整備について
 講座の名称と内容は必ずしも一致しない。大きく外れない程度に,講師の興味関心にしたがって話してもらうことになっている。今回は学校間交流をテーマに,ハード面よりも,ひろい意味でのソフト的な環境に関する話が主な内容である。

(3) 情報交換 報告者:玉那覇 哲氏(名護高校教諭)
--ネットワーク管理者のつぶやき
 現在名護高校のネットワーク管理者(コンピュータ教室および校内LAN)である玉那覇先生からネットワークにまつわる苦労話を聞く。他の管理者との情報交換,またこれから校内LANなどのネットワークを構築する予定の学校へのアドバイスなどを予定している。

(4) 講演「ネットワークとセキュリティ」(CISCO社の林田氏)
 
OIA主催のの学習会プログラムである。

【過程と結果】
 1)
1回は,今思い出しても冷や汗が出るほど,不手際だらけの講座であった。予定していた琉大の実習室が,台風でドアが吹き飛んだということで,室内がめちゃくちゃに荒れていた。前日大急ぎで後片付けをして,どうにか講座に間に合わせたが,事前の打ち合わせ時間が十分にとれず,記録係をおくことをすっかり忘れてしまった。そのため,記録がまったく残っていないのが大きな反省である。
 2) 参加者は50人を越え,椅子が足りなくなるほどだった。主催者としては予想以上の参加で,今後の予定にすこし自信がもてた。ただ,終わったのが6時半を過ぎで,長時間の講座になったのは反省点である。内容にもよるだろうが,講義が中心なるとかなりつらい。
 3) アンケートをとらなかったので,正確な数字はわからないが,会場での話などから,もっとも有効な宣伝が口コミ,ついでメーリングリストであることが分かった。各学校にファクスも送ったりしたが,その効果は小さかった。

2.2 第2回講座
日時:10月23日(土)  10:00〜17:00
場所:森川養護学校 参加者:33名

(1) 光およびメタルケーブル作成実習 講師:栗本 直人氏(滝高校教諭)
*本当は森川養護学校と隣接する病院をむすぶ「ネットデイin MORIKAWA」をおこなう予定だったが,時間的に無理ということで翌日に変更になった。

(2) 東海スクールネット研究会&滝高校の紹介

(3) LANについての基礎知識(2) 講師:芝村 正志氏
--学校でのLAN設計をするときのポイント
 
-ブル作成の実習に対応して,光ケーブルとメタルケーブルの違いや特性などの詳しい説明,学校でのLAN構築のポイントなどを解説する。

(4) 講演: 最近の子どもを取り巻くインターネット事情 講師:瑞慶覧 辰氏(沖縄パーソナルUNIX研究会)
 プロバイダ側からみた子供のインターネット利用状況,子供に特徴的な利用形態など,ある意味ではインターネットの現場からの報告。

(5) 情報交換会
上間 勉氏 (八重山農林教諭)
呉屋 光広氏 (美咲養護学校教諭)
鎌田 登志男氏(名護市立安和小学校教諭)

【過程と結果】
 1) 今回の連続講座のなかで,この回がもっとも力を注いだ講座であった。とくにめったに見られない光ケーブルの作成実習もあるので,本島北部や離島の先生にも,地域の報告を兼ねながら,参加していただいた。

 2) おそらく,教師を対象にした初めての作成講習会だったと思う。とくに光ケーブルについては,高価というイメージだけが先行していて,両端の成形が工具させあれば,素人でも習得可能な技術ということは驚きであった。メタルケーブルの作製は,ほとんどの人が初めての経験であった。1回でOKが出る人,何度も失敗する人など,人それぞれであったが,まるで子供のように夢中になって時間のたつのも忘れ,予定が大幅に狂った。時間調整が大変だった。

 3) 非常に状況判断のあまいプログラム設定のため,講師を依頼した栗本先生には,大変なご苦労をかけてしまった。すべての予定が1日で終わるはずだったのに,翌日半日かけて病院と学校間の光ケーブル接続を行う羽目になった。結局沖縄に2泊したにもかかわらず,学校に缶詰状態で,そのまま名古屋へ戻るというハードスケジュールになった。実習をともなう場合,時間的に十分な余裕をとる配慮が必要であるという教訓をえた。

 4) 上に書いたように,栗本先生の協力で病院からも常時インターネットに接続できる環境が整ったことは,今回の講座で得られた大きな成果の1つといえるだろう。このような機会がなければ光ケーブルの利用は実現できなかったであろう。生徒たちの喜ぶ顔を見たとき,つくづくとやって良かったという実感をえた。

2.3 第3回講座
日時:11月20日土曜日 14:00〜18:00
場所:教育福祉会館 4階和室 参加者:31名

(1) WindowsNTを利用したネットワーク 講師:久場 篤氏(県マルチメディア推進室,親子ネット)
-WindowsNTで使われるドメインと何か
-ユーザ管理・ファイル管理・プリンタ管理の具体的な作業とその必要性
-NTサーバ管理者の心得

(2) LANについての基礎知識(3) 講師:芝村 正志氏(琉球大学)
-ドメインとIPアドレスにまつわる話

(3) 情報交換
-南島スクールネット研究会のあり方ついて

【過程と結果】
 1) 本を読んだだけでは分かりにくいこと(たとえばWindowsNTのドメインの意味)が,質問をしながら話を聞くことで,よく理解できた。このような対話的な講座に参加することで,独学の欠点を補うことができる。

 2) 今回の企画のもっとも中心的なテーマの1つがWindowsNTに関する知識の習得であったので,今回はいわば要に位置する講座のはずなのだが,残念なことに盛り上がりを欠いたものになった。もっとも大きな理由は,参加者のほとんどがWindowsNTを知らなかったということにある。つまり私たちがターゲットとしていた各学校の現役のネットワーク管理者はほとんど参加せず,初心者ではあるが,ネットワークに関心の深い人が多く集まった結果である。(これは最後におこなったアンケート調査からも裏付けられる)これはまた次のようにも考えられるだろう。学校のネットワーク管理者は,必ずしも自分が管理しているサーバ(WindowsNT)についての知識を必要と思っていない。業者の設定したままで,使い続けるが最善の選択であり,トラブルがあれば(たとえ対応が遅かろうと)業者にすべて解決してもらうべきである。なまじ自分で解決しようとすれば,ただでさえ余分な業務の負担が増えるだけである。現在の学校の抱える本質的な課題の一つがここにある。

2.4 第4回講座
日時:12月26日(日曜日) 13:00〜17:30
場所:教育福祉会館中会議室(2階) 参加者:38名

(1) Windows NTを利用したLAN構成(2) 講師:久場 篤氏
-WindowsNTのセキュリティ ( WindowsNTをインターネットにつないだばあい)

(2) LANについての基礎知識(4) 講師:芝村 正志氏(琉球大学)
-ダイヤルアップルータのしくみと動き方

(3) 南島スクールネット研究会設立総会

【過程と結果】
 1)
セキュリティについての話はネットワーク管理者必須の内容であったが,肝心のWindows NTネットワーク管理者の参加が少なく,前回と同じく,質問は低調であった。OSにそった話よりも,むしろネットワークを利用する全体に関わる内容のしぼったほうが,現時点では現実的かもしれない。
 2) 講座とは裏腹に南島スクールネット研究会設立総会のほうは盛会であった。

3 成果と課題
(1)
学校においては,全体としてネットワークの管理や運営についての教師の理解が十分浸透しているとはいえないことが分かった。そのような状況にもかかわらず,常に30名を越える参加者があった点で,ネットワークおよびその管理・運営について認識を深める契機にはなったと思う。

(2) 南島スクールネット研究会が全県的な組織として再編できたこと。この講座を主催した段階では,小人数のグループに過ぎなかったが,講座に参加したメンバーの熱意で,教師以外にも多くの方々参加する研究団体になった意義は大きい。

(3) このような講座・研修会をひらくためのノウハウを得られたこと。はじめての経験で試行錯誤の連続であったが,回を重ねるごとに,押さえるべきつぼのようなものが朧気ながら分かってきた。注意すべき点なども明らかになった。

(4) 若干ニーズの方向性を見誤った点は反省するとして,アンケートなどの結果からも分かるように,今後もこのような企画の継続を求める声は強い。とくにLINUXなどフリーのOSについて,ぜひ講習会を開いて欲しいという要望があった。次回はこのあたりの要望にどう応えるかを課題として企画を練ってみたい。

ワンポイントアドバイス
このような研修講座を実施する上で留意すべき点
(1) 講師との事前の打ち合わせは可能な限り詰めておくこと。
 何々をテーマにやってくださいだけでは,こちらの意図はなかなか伝わらない。具体的に取り上げて欲しいポイントを箇条書きにしてお願いすべきである。また,そのために何が必要であり何を準備すべきか,全体の流れをイメージしつつ,講師および主催者側それぞれが準備すべき事柄を,できるだけ細部まで詰めておくことが望ましい。
(2) メーリングリストの活用は大きな意味をもつ。
 ボランティア的な活動なので,講師の都合などいろいろな事情で,日程の変更をはじめアナウンスしたプログラムと内容が変わる場合がかなりある。そのような変更を伝える手段は,現実にはメーリングリストしかない。参加者は必然的にメールアドレスを持っていることが必要になる。
(3) 事前準備にもメーリングリストは不可欠である。
 講座の実行委員が同じ学校であれば,問題はないが,そうでない場合,メーリングリストである程度話をつめて,打ち合わせの会合で検討する内容を整理しておく必要がある。これは,講師への連絡も同様である。しかし,メールは届かなかったり相手が読まないこともあるので,最終的な詰めは電話が確実である。
(4) WWWはあくまでも情報公開の手段。
 講座開催のお知らせなどWWWを利用することもあるだろうが,連絡用としてはメールよりもさらに不確実である。受講希望者がいつも見てくれるとは限らない。
(5) 受講希望者をある程度把握しておくこと。
 これはかなり困難だが,予想以上に多かったり少なかったりすると,会場が広すぎたり,狭すぎたり,資料が足りないとか,当日に大慌てすることになる。また,実習をともなう場合,必要な材料や機材の準備が難しい。資金的に余裕があれば多めに見積もることも可能だろうが,私たちはそうではなかったので,頭を悩めた。

 

参加校
 
森川養護学校

協力団体
 南島スクールネット研究会,教育文化資料センタ

参考文献
 「学校にLAN入しよう」(エヌ・ジー・エス)学校ネットワーク適正化委員会編

講座の内容については次のURLに掲載予定である。
 http://www.morikawa-sh.ed.jp/kouza/
 http://www.nanto-school.net/kouza/