エネルギー・環境問題総合教育用地理情報データ
Webシステムの構築と活用


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5.総括

       全国規模での自然放射線測定を実施するにあたり、時期的な問題等により参加協力校の依頼には労力を要した。特に「放射線」という言葉を聞いただけで、辞退される学校があり「教育現場の放射線アレルギー」の存在を確認するとともに放射線教育の必要性を強く実感した。

       時期的、時間的な問題から物理など授業での実践結果の報告は少なかったが、クラブ活動、特別活動など様々な実践形態の報告が寄せられており、自然放射線の測定が生徒の興味、関心を喚起するテーマであることが確認できた。

       今後はより多くの学校の参加協力を仰ぎ、授業実践結果を本システムに継続的に反映させ内容の充実を目指したい。初年度の本プロジェクトの実施結果について、その意義と成果を次のように総括する。

      (1)高等学校レベルで都道府県別に実施する初の自然放射線測定

         参加協力校を全国規模で呼びかけ期間を限定し、自然放射線の測定を実施することは、本プロジェクトが初の試みであり、今後の放射線教育に対する1つの材料を提供できたと考える。また、地理的情報の表示機能と統計処理、可視化機能が豊富なGIS(Geographic Information System:地理情報システム)による処理結果を活用したWebシステムの構築により、他に類を見ない新しい教育手法と教育環境の提供ができたと考える。

      (2)自然放射線の測定実践は、放射線教育において高い教育的効果が期待できる。

         教科書を中心とした知識の蓄積に比べ、計測という測定実践による知識の定着は教育的効果としてより高いものが期待できる。自然放射線の存在と測定による定量的な認識は、「自然に親しみ、目的意識をもった観察、実験をおこなうことにより、科学的に調べる能力や態度を育てるとともに、科学的な見方や考え方を養うことができるようにする」や「自然を探求する能力や態度を育成する」といった観点からは、高い教育的効果が期待できると考える。

      (3)ネットワーク活用による参加校相互の情報交流

         掲示板の設置により参加校の生徒同志の情報交流の場を提供でき、また、放射線教育フォーラムのご協力により専門家との対話が可能となった。情報交流の可能性については、測定結果についての対話を通じて多様な価値観を持つ生徒同志の交流が生まれ、放射線についての知識の深化や、放射線利用についての合意形成など問題解決型学習に活用できるものと考える。

      (4)放射線教育のための情報提供ツール

         インターネットでは様々な情報源が散在しており、その中から役立つ情報を取得するためには、検索エンジンなどを使用し情報の絞り込みを行なうなど大変な労力を必要とする。そこで、本Webでは、放射線とその影響についての情報取得を効率良く行なえるよう放射線教育インデックスを作成し、的確な情報を迅速に提供できるようにしたことは、従来にない新しい教育環境の提供であると考える。

         自然放射線の測定という切り口から、エネルギー・環境問題を学習するというテーマは、理科総合、物理といった教科だけでなく、「総合的な学習」での実践も期待されるところが大きい。

         このテーマは、人類がより快適で安全な生活を確保することを目的とした人間活動から発生する問題である。エネルギー資源、とりわけ化石燃料の大量消費と「地球温暖化」、「酸性雨」などの地球環境汚染問題は、その原因を取り除くことが極めて困難なことから二極対立的な価値観の中での合意形成として、妥協点、共通点を見出すことが必要とされてきた。しかし、これからは地球という人類の生活基盤を持続させるために、自然との適合、共生、共存という考え方にシフトする必要がある。こうした状況の中、本Webシステムは放射線に対する安全性やリスク等の問題を含め、公正な判断できる思考力と放射線利用についての合意形成に対する資質の育成を目指した、21世紀の放射線教育のあり方の1つのモデルを提示できたと考える。

         今後は、本Webシステムをエネルギー・環境問題を総合的に理解することができる情報提供環境としてその機能を充実させ、ネットワーク上で開催する全国レベルでの放射線文化祭等の企画を通じて、多くの学校での活用が可能な運営体制づくりを目指していきたいと考えている。

実施企業・団体名:財団法人 日本科学技術振興財団



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