インターネット教育利用の協働的実践研究

はじめに

 インターネットの教育利用を進める際に、学校単独では企画・運営また予算面など実施が困難な場合がある。

 従って、学校現場を含む教育関連機関に企画のアイデアを求め、実現性やその成果を具体的に研究することとした。また、複数の学校等が協働で研究活動や共同学習を実施する場の提供を図ることとした。

1. テーマの選定経過

1. 1テーマの公募

 ネットワークを活用してアイディアの公募を行い87件(アイディア募集分類表参照)のテーマの応募を受けた。

1. 2テーマの選定

 テーマの選定にあたって有識者の助言を得ることとし、推進協力者会議の主要メンバーによる選定委員会を設置した。

 選定委員会名簿(敬称略:順不同)
区分 氏名 所属
主査 坂元 昂 文部省メディア教育開発センター 所長
委員 赤堀 侃司 東京工業大学教育工学開発センター 教授
委員 岡本 敏雄 電気通信大学大学院 教授
委員 林  英輔 流通経済大学 教授
委員 苗村 憲司 慶應義塾大学 教授

87件の応募テーマの中から複数の学校で行うアイデアや企画を協働企画として次の5つに集約した。
 各企画の実施計画や参加校の募集については各企画の報告書で述べる。

 また、得られた成果はマニュアルの形で一般に公開することとした。

2. 各企画の概要

2.1 酸性雨/窒素酸化物(NOx)調査プロジェクト

「環境教育」としての活動に力点を置き、学校教育における環境教育の実践に有用な観測結果データを収集することを通して参加校同士の交流を促進し、環境問題を考えるためのネットワーク構築を目指す。参加校を募集して酸性雨と窒素酸化物(NOx)の観測調査を実施し、観測結果を共有して授業での活用を図る。

2.2 全国発芽マップ企画

ケナフを栽培する植物に選定して、各地で同一日時に播種し、その後の成長状況をを観察して報告しあうことで、気温の差による発芽・開花・結実の時期、成長速度などの違いを通して地域差や環境保全にかかわる知識を習得するため、観測結果を活用した授業を実践する。また、ケナフパルプによる葉書などの非電子媒体による交流により現実世界でのコミュニケーションを実感させる。

2.3 国際交流の継続的実践企画

既にインターネットによる国際交流の経験のある学校と、これから取り組みを志す学校を対象として、経験に基づいた実証事例とこれから取り組む学校の素朴な疑問とのやり取りを通じて、国際交流を継続的に行なうための教師や生徒、またはそれを取り巻く心理的・物理的環境の整備を行なう。これらの経緯について公開する。

2.4 同一河川流域内学校交流企画

同一河川の上流・中流・下流に位置する学校同士が、各種メディアを活用して河川の流域独自の自然と生活、歴史と文化、産業・経済の実態、流域間の特徴などを協働で調査し、インターネットを介して他流域の学校間および児童生徒との交流を行いながら、こうした地域にいる児童生徒 が、自分の地域の特色を認識・学習するとともに、地域比較による深い地域相互理解のための学習を行う。

2.5 家庭向け情報教育ハンドブックの作成

家庭教育を展開する保護者は一般に情報不足の状態にあり、児童生 徒については、特にマナーやモラル面での学習機会の不足が心配される。そこで、ワーキンググループを組織して情報の取り扱いに関する家庭教育用のハンドブックを検討・作成し情報提供を行うことで、家庭において情報および情報手段の正しい取り扱い方に関して教育を展開する際の支援を行う。

おわりに

 各企画毎の成果や問題点はそれぞれで述べるが協働企画全体を通じての評価と課題を述べる。

1. 評価

・ 技術の習得

距離と時間のギャップを補う交流の手段としてインターネット、電子メール、テレビ会議システムを活用した交流が進んだ。
 また、パソコンやデジタルカメラなどの活用技術も高まり、協働企画に参加した教師や子どもたちの更なるスキルアップが期待できる。

・ 地域との関わり

各種活動を通じて学校間の交流のみならず、協働企画の本来のねらいとも言える地域との交流、特にボランティアとの交流も生まれ地域展開のできる芽が育って来ている。

・ 校種を超えた協働学習・作品作り

一般に閉鎖的とも言われる学校が、インターネットの導入で校種を超えた学校間の連携の芽が育っている。
 年齢を超え学校の壁をこえて、それぞれの持つ感性と技量を活かした共同作品や調べ学習が活発に行われている。

・ 教師と生徒が共に実践する

豊富なインターネット活用経験をもつ教員ならば、悩むことは少ないかもしれないが、ほとんどの教員は、不慣れである。そこで、このようなプロジェクトでは、教員も生徒も、共に学び、共に実践しながら、プロジェクトの進め方を学んでいる。教員も、生徒も知らない未知な内容に取り組む中で、逆にお互いを知ることにつながる。そんなすごい能力を持っていたのかとういう驚きが、お互いを知ることにつながる。
 インターネットを通じた新しい交流に挑戦することでお互いに更に学びあうことの意義は大きい。

2. 課題
・ 継続性
学校という組織は数年にまたがる長期プロジェクトには対応し難い。教職員の異動や生徒の進級、クラブ活動における年度ごとの変動などがその理由である。データの収集や相手との継続的交流が途切れてしまうことがある。プロジェクトの立案実施に付いてはこのことを十分考慮しておくことが必要である。

・インターネット環境やマルチメディア環境

ハードウェアやソフトウェアという情報環境の問題である。交流の中で、生徒達がマルチメディア作品を作って交流しようとしても、そのような環境と技術力がないと、実際には無理であることは言うまでもない。情報環境の整備は土台であるが、まだ環境ができていない学校も多い。

・連絡調整の労力

交流を行うとなれば、待っていてはできないので、事前に連絡調整が必要となる。その連絡も電子メールが主な手段となるが、参加校が多くなると、その連絡調整だけでも労力はきわめて大きい。しかし、この連絡調整というコーディネータの役割が、プロジェクトの成果を左右するほど、重要である。日々の教育活動に加えて、このコーディネータの役割が付加されるので、担当教員の負担がきわめて大きくなる。

・労力や費用の負担

始まりは電子メールだけの交流であるが、やがて相手を知りたいと思うようになり、写真の郵送や、添付ファイルによる交流、ホームページでの作品や写真の公開、掲示板への意見交流、TV会議システムを用いた討論会、そして、対面による合宿交流などのように、インターネットだけで交流できるという訳ではない。
 掲示板の開設やTV会議システムによる交流では、技術力も必要とされるが、そのために必要とされる時間も大きい。  実際には、すべて教員のボランティアに頼っている。また、実際に対面による交流を実施するとなれば、移動費用、会場費、宿泊費など、膨大な費用がかかる。どこからその費用を調達すればいいのか、担当教員として、頭を抱える問題となっている。

・ハッカー・ウイルスなどの対策

ハッカーやウイルスが、急速に広がっており、プロジェクトの進行に支障をきたす傾向が見られるようになった。中には、防御がきわめて困難なハッカーやウイルスもあり、パスワードの変更や、再インストールなどの労力が大きく、活動に支障をきたすことも多い。このような悪質な攻撃に対する対応に、大きな労力を必要としており、頭の痛い問題となっている。
 

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