本校は,平成9,10年度「環境のための地球学習観測プログラム(GLOBE)」の文部省モデル校に指定され,環境調査活動を行っている。具体的には,気象観測や水質調査を行い,そのデータをアメリカのGLOBE本部に送信している。また,GLOBE本部からフィードバックされたデータを授業に活用したり,他のGLOBE参加校との交流活動を行っている。
GLOBEの気象観測活動にレインゴーランドによる酸性雨調査を加えるとともに,日本の参加校と酸性雨という話題で交流活動を行いたいと考え,この企画に参加することにした。
2-1.教育活動の中での位置づけ
(1)プロジェクトを実施した具体的な教育活動( 5)
- 理科の授業
- 理科以外の授業
- クラブ活動
- ホームルーム活動
- その他の活動(部活動・科学部,有志の活動・GLOBE委員会)
(2)測定を行ったのは誰ですか。 (1)
- 生徒
- 教師
- 生徒と教師の共同作業
(3)データの送信は誰が行いましたか。 (3)
- 生徒
- 教師
- 生徒と教師の共同作業
2-2.プロジェクトを教育活動の中で実施するとき、ネットワークの具体的な利用場面(1,2,3,4)
- データの送信
- 他校のデータの収集
- 他校との交流
- 他のホームページを使った資料の収集
- その他( )
2-3.プロジェクトの実施にあたり利用できたネットワークの環境。
該当するものを全て選び、その他のものがある場合は具体的にお書き下さい。(1,2,3,4,5)
- ホームページ
- 電子メール
- 電子掲示板
- テレビ電話(CU−SeeMeなど)
- チャット
その他
生徒の希望者を募って,GLOBE委員会を組織している。約20名のGLOBE委員(科学部員も含まれている)を中心に,理科教師の指導・助言のもとに観測活動を行なっている。すなわち,生徒に強制する方法をとらないで,あくまで自由意志で休み時間に観測を行なうことにしている。本校での観測データについては,アメリカのGLOBE本部のホームページに掲載されている。
ア. 気象観測
毎日,昼休み(13時)にGLOBE委員が当番制で雲の種類,雲量,現在気温,最高気温,最低気温,降雨量,降雨のpH,降雪量の観測を行っている。そして,観測データをインターネットを通して,GLOBE日本中央センター,米国商務省海洋大気庁の研究所(NOAA)に送っている。データの送信もできるだけ測定後すぐに(昼休みの間に)行なっている。ただし,降雪時は雪をとかしての測定もあるため,昼休みではなく清掃時の送信となる。
イ. 水質調査
学校付近を流れている農業用水(長坂用水)の水質調査を,毎週1回金曜日に,GLOBE委員6名で行っている。終礼前の清掃時に水を採取しに行き,放課後測定を行っている。観測項目は,水温,pH,導電率,溶存酸素,アルカリ度である。
GLOBEの観測活動の一環として新酸性雨プロジェクトにも参加し,平成10年11月からレインゴーランドによる酸性雨の観測を始めた。雨が降った次の日は,GLOBEの気象観測に加えて,レインゴーランドのところへ行って酸性雨の観測を行っている。ただし,金沢地区は冬には降雪があり,その時期レインゴーランドによる酸性雨の測定はできないので,降雪を溶かしてのpH測定をしている。(GLOBEの観測項目と同じやり方になる。)この酸性雨の観測は,基本的に科学部の生徒に任せた形で行っている。
しかし,強風により,レインゴーランドのふたがこわれたり,ろうとがなくなったりすることが何度もあった。そのため,観測を一時的に中断した時期もあった。
平成11年10月20日から11月11日まで窒素酸化物調査を行なった。科学部の生徒3人が行ない,結果を送信した。交通量の多い道路は学校前の道路(9の校門付近と同じ道路に面している),交通量の少ない道路は学校裏の道路というように学校のまわりに測定場所を設定した。測定時間も学校の休み時間にした。結果は図1のようになっている。
交通量の多い道路(1や9)と交通量の少ないところを比べると,確かに窒素酸化物濃度が交通量が多い道路の方が大きいことがわかった。その他については,目だった差はみられなかった。これらの結果や他校のデータを文化祭で展示発表するとともに,酸性雨の授業の際に紹介した。
雨の降りそうな日,日曜祝日を避けて測定を行なおうとしたため,実際には4回の測定で終わったことが反省点である。生徒の感想をみると,意外と簡単な調査ではあったが,交通量による窒素酸化物濃度に差があることが確認できたことに驚きと新たな地球環境への認識を深めたように思われる。
図1 窒素酸化物調査の結果 図2 理科室前の掲示板
本校でのGLOBE活動や酸性雨調査プロジェクトの活動,さらに世界的規模でのGLOBEの活動を全校生徒に啓発するひとつの機会ととらえ,展示発表を行っている。
平成9年は,GLOBE活動が始まって2ヶ月足らずということもあり,主にGLOBEの紹介を中心とした展示を行った。平成10年度は観測活動も2年目に入りデータも少したまってきたので,GLOBE観測についてはデータの紹介とその考察を中心とした展示を行った。酸性雨プロジェクトについては,これから本格的に始めるということもあり,「酸性雨とは何か」や酸性雨の観測の仕方(レインゴーランドについて)などの紹介を行った。この紹介は生徒がHTML形式で作成し,校内サーバーでも公開している。
- 毎日の観測活動のようす(HTML化)
- 酸性雨について(HTML化)
- 酸性雨プロジェクトの紹介(HTML化)
- 過去1年間の本校でのGLOBE観測データとその考察
- 本校とオーストラリアの学校との気温データの比較
- ダイオキシン問題について(インターネットで調べたこと)
平成11年度は,窒素酸化物調査についての展示を中心に行った。また,文化祭で展示したもののいくつかは,現在でも理科室前の掲示板に掲示している。(図2)このような文化祭での展示,掲示板等での展示は,全校生徒への啓発をねらいとしているが,一方では生徒たちの観測調査活動の動機づけにもつながっている。今年度の展示内容は以下の通りである。
- 窒素酸化物調査のねらいと方法
- 本校の観測データ,他の参加校のデータ
- リサイクル問題について
酸性雨の学習の際に,レインゴーランドを使った測定方法,本校での酸性雨データを紹介した。具体的には次の内容である。
・酸性雨の原因
・酸性雨の自然環境への影響
・酸性雨の測定をしよう
---測定方法とpHの調べ方(指示薬入りチューブを用いる方法)
・さらに進んだ測定方法(この企画の方法)
---レインゴーランドを使おう! 理由と方法
---pHの測定にpHペンを利用しよう!
---電気伝導率も測定しよう! 理由
・本校の酸性雨データの紹介,他の地域のデータの紹介
・酸性雨対策の国際的な取り組みの紹介
・窒素酸化物調査について 本校のデータの紹介
・私たちにできることは何だろう?
GLOBEプログラムの特徴は,自分たちの観測データをインターネットを利用して世界へ向けて送信するとともに,他地域のデータやGLOBEイメージデータを利用できること,また日本をはじめ世界のGLOBE学校と交流できることにある。酸性雨調査プロジェクトも同じようなねらいがある。すなわち,これらの企画にインターネットはなくてはならないものである。インターネットを利用するためにはもちろんコンピュータ機器やネットワーク環境を整備する必要があるし,コンピュータ機器の操作やソフトウェア(たとえばブラウザソフト等)の操作方法を習得する必要がある。しかし,真にインターネットを活用するためには,インターネットのしくみ,効果的な情報収集の仕方やネチケットと呼ばれるインターネット上のルールやマナーなどについて計画的に学習する必要があると考えられる。本校では,柏樹タイム(総合的な学習の時間)の中で,学年担当の先生が1年生から計画的に学習を行っている。1997年(平成9年)入学生の場合を紹介すると次のようになる。
- コンピュータの基本操作,タッチタイプの練習,クイズ問題つくり,ブラウザの操作など〔1年生〕
- インターネットやネットワークのしくみ,メール教育(2年生全員にメールアドレスを割り当てる),インターネット利用上のルールやマナー(ネチケット),著作権やプライバシー保護等の学習〔2年生〕
酸性雨やオゾン層の破壊,地球の温暖化など地球環境を扱う単元として,「地球と人間」という単元があるが,通常第3学年の受験前に学習することが多く,また,観察・実験の扱いがほとんどないため,単なる知識の注入になりやすいように思われる。平成10年に入学した1年生を対象に,これら環境問題を中学校理科の導入として取り組むことにした。授業内容の中に,本校でのGLOBE活動をはじめとした環境調査活動の紹介も含まれている。
気象単元を2つに分け,天気の変化に関する内容を4月に,日本の天気の特徴に関する内容を学年末に行うことにした。すなわち,気象の観測,湿度,雲のできかた,降雨,水の循環などの内容(約10時間)を4月に行った。これは,GLOBEで行っている気象観測の内容やGLOBE活動の目的を2年生全員に授業の形式で早期に紹介することをねらいとし,また,自主的に観測活動に参加する生徒を募集することをねらいとしている。
1.観測活動から
観測活動は基本的に生徒にすべて任せた形で行い,教師は観測やデータ送信の技術的な援助をすることにしている。また,観測活動は毎日の継続が大切な活動であり,しかも目立たない地道な活動であるため,途中で生徒の意欲も失われかねない。しかし,観測を忘れる生徒はなく,決められた日時に観測活動を行っている。観測の結果をインターネットを通して世界に発信するという意義づけ,同じように観測を続けている他地域の仲間との交流により,生徒による観測活動が生き生きとしたものになっているように感じられる。
2.啓発活動から
有志の生徒(自主的組織のGLOBE委員会)が直接の活動を行っているが,その活動内容を全校生徒に紹介し啓発することは非常に大切なことである。生徒集会での環境についての継続的な学校長の講話,文化祭での展示発表,GLOBE掲示板やGLOBE 新聞などを通して,生徒のGLOBE活動をはじめとした環境調査活動への認識,地球環境への認識は確実に深まってきているように感じられる。また,定期的な校内研修により,教師間の共通理解もできている。
酸性雨調査について,強風によるレインゴーランドの器具部品の破損および紛失により,観測を中断した時期があった。そのため,データ送信が滞ってしまったことが反省点である。
「継続は力なり」とよく言われる。観測活動は地味で目立たない活動であるが,継続してはじめて意味がある。観測活動への生徒の意欲を高める意味で,今年あまり活発に行なわれなかったと思われる参加学校同士の交流を進めたらよいのではないだろうか。
- 「身近な環境を調べる」,梅埜・下野・松原編著,東洋館(1992)
- GLOBEホームページ http://www.globe.gov/fsl/welcome.html
- HORIBA HONEST http://gaiapress.horiba.co.jp/
- 環境庁 http://www.eic.or.jp/eanet/
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