へき地小規模校の児童の主張性向上プロジェクト

小学校第6学年,総合的な学習の時間
宮城県東和町立嵯峨立小学校 小松英明
hideaki@hide-family.net
http://sagatachi.myswan.ne.jp/

キーワード 小学校,6学年,総合的な学習の時間,テレビ会議,コミュニケーション能力


ネットワーク利用の意図
 本校は,宮城県の北部に位置するへき地小規模校である。従来,へき地小規模校の児童の一般的な特性として「内向的である。」「言葉による表現力が不足している。」などの特性が指摘されてきた(国立教育研究所1988,三好1977)。また,質問紙を用いた調査によって,他人を意識したコミュニケーションに関して大規模学校群の因子得点が小規模学校群の因子得点より有意に高いことが報告されている(小松1999)。
 ネットワークを利用して,擬似的に形成される集団を拡大することによって,情報教育で求められている「相手の状況をふまえて情報を発信・伝達できる能力」をへき地小規模校の児童にもつけさせたいという思いが本プロジェクトのはじまりである。

1.単元名 遠くの友だちへ伝えよう
  1. ねらい  
     当校の児童の実態として,「内向的であり,自校内でのコミュニケーションは円滑に行えるが,対外的なコミュニケーションは緊張してしまい不得手である。」ことが挙げられる。この実態の背景には,@対外的なコミュニケーションの経験が少ないことA自分の行っているコミュニケーションを客観的に見つめる機会がなかったことBコミュニケーション能力を意図的に付ける取り組みがなされてこなかったことなどがあると考えられる。情報教育のねらいに即せば,小学校で求められている「課題や目的に応じて情報手段を適切に活用することを含めて,必要な情報を主体的に収集・判断・表現・処理・創造し,受け手の状況などを踏まえて発信・伝達できる能力」=「情報活用の実践力」の「相手の状況などをふまえて発信・伝達できる能力」が不足しているということになる。
     本プロジェクトは,児童のコミュニケーション能力の伸長をねらうものである。
  2. 指導目標
     指導を通して,児童が相手を意識したコミュニケーションを行えるようにする。
  3. 利用場面
     本プロジェクトにおいては,情報機器を次のような場面で活用した。
    1. テレビ会議システム
       海峰小学校との児童の交流の場面で利用した。
    2. 電子メール
       テレビ会議システムの間に季節の話題や自己紹介などで折に触れてメールの交換を行った。ただし,両校とも児童が個人のメールアドレスをもっておらず,学校のメールアドレスや担任のメールアドレスを利用して送信しあった。
    3. FAX
    4.  コンピュータの操作(文字入力等)にまだ慣れていない春の段階で使用した。
    5. 電話
       担任の連絡調整用に用いた。また,総合的な学習の時間では児童が取材に使用した。
    6. OHP
       プレゼンテーションに利用した。(テレビ会議の時は使用していない。)
  4. 利用環境

    1. 使用環境
       NEC PC-9821 Cu10 4台,dos/v1台(自作),NEC PC-9821 Na75 1台,
       NTT Phenix mini 1台(借用)
    2. 稼働環境
    3.  ファイルサーバー1台,クライアント6台,ルーター(64kでインターネットに接続)
    4. 利用ソフト
    5.  インターネットエクスプローラー5.01
2.指導計画,指導案

指導計画

留意点

学校について紹介しよう
紹介する内容を考えよう。
どのように紹介するか考えよう。
紹介の練習をしよう。
練習を振り返ってみよう。
紹介の仕方を検討しよう。
学校の紹介をしよう。
学校の紹介を振り返ってみよう。
本校の何を海峰小学校に伝えたらいいのか,どんな方法で伝えたらいいのかについて考えさせる。
発表の練習とテレビ会議の様子をビデオに撮影し視聴することによって,自分のコミュニケーションを客観的に観察させる。
自分のコミュニケーション活動の課題に気づかせる。


シイタケの栽培について伝えよう
シイタケの栽培について調べよう。
どのように調べるか考えよう。
どのようにまとめるか考えよう。
調べたことをまとめよう。
発表の練習をしよう。
練習を振り返ってみよう。
シイタケの栽培について伝えよう。
伝え方について振り返ってみよう。
家庭への取材の方法を検討させる中で,質問紙による調査の方法に気づかせる
発表する段階では,相手に分かりやすく伝えるためにフリップを使用させる。
発表の練習とテレビ会議の様子をビデオに撮影し視聴することによって,自分のコミュニケーションを客観的に観察させる。
自分のコミュニケーション活動の課題に気づかせる。

 

学校紹介ビデオの感想を伝えよう
学校紹介のビデオを見よう。
学校紹介のビデオの感想を書こう。
感想をまとめよう
感想を伝える方法を考えよう
感想を伝える練習をしよう
練習を振り返ってみよう。
ビデオの感想を伝えよう
伝え方について振り返ってみよう
感想をまとめる段階で,KJ法について理解させ,KJ法を使って意見をまとめさせる
発表の練習とテレビ会議の様子をビデオに撮影し視聴することによって,自分のコミュニケーションを客観的に観察させる。
自分のコミュニケーション活動の課題に気づかせる。

 


3.学習の展開
図1 嵯峨立神楽を舞う児童

(1)学校について紹介しよう(61)
 テレビ会議システムというメディアに対する新奇性もあり,非常に意欲的だった。1回目のテレビ会議では,お互いの学校を紹介することとなり,当校からは,学区の立地や特産品,そして,地域に古くから伝わっている嵯峨立神楽を舞ってみせるという紹介を行った(図1参照)。海峰小学校からは,学校の立地や氷見市の様子等の紹介をしてもらった。
 1回目のテレビ会議を行う準備として,児童に何を準備したらいいかを考えさせたところ,「台本を準備した方がいい。」ということになった。当校の児童にとって,交流学習は全く初めての経験であり,期待も大きい反面,不安も大きかったのである。そこで,台本を準備し,リハーサルを行った。リハーサルは,ビデオに録画しておき,あとで視聴した。ビデオの視聴は,自分の話す姿を客観的に観察する場となった。ビデオの視聴により,視線をカメラに向けること,表情がこわばらないように気を付けること,自分の話す内容を全く初対面の人でも理解できるようにする事などに気づくことができた。また,相手に自分たちのメッセージを伝わりやすくするために実物を用意した方がいいということになった。当地区では,ダチョウの飼育に取り組んでいるが,ダチョウの卵と剥製を借りて当日に見せることとした。
児童の感想(M.T 女)
リハーサルの感想:つっかかって(話すのが)とまるときがあった。言うことを覚えていないと手に持っている台本を見てしまい,目が下にいってしまった。小声で相談している声が相手に聞こえてしまっていた。無表情だった。話す人が交代するときに時間がかかりすぎた。
テレビ会議の感想:言うことがうまくまとまっていなかったかも・・・聞かれたことに上手に答えられなかった。でも,練習したところは練習の時よりもうまくいったと思う。でも,ちょっと押されまくってしまった。

(2)シイタケの栽培について伝えよう(75日)
 2回目の交流は,海峰小学校の児童が椎茸栽培に取り組んでいるが上手に栽培できないということを聞いて,当地区の地場産業が椎茸栽培であることから,椎茸栽培の仕方について説明することとなった。児童は,家族に対して取材を行い,その取材を元に話す内容を決めていった。やはりリハーサルを行いそのビデオを視聴する中で,児童は,「説明するときには,ニュース番組のようにフリップを使った方が分かりやすい。」ということに気づくことができた。また,2回目の交流前後に海峰小学校からはケナフ煎餅や椎茸煎餅が届き,本校からは特産の椎茸を送った。
児童の感想(N.O 男)
思ったより緊張しなかった。相手に押されてしまった。テレビ電話のスピードが遅いのを忘れてしまい,ちょっと失敗した。テキパキと司会ができなかった。よけいな動きがあった。質問を言えなかったし,相手に「質問はありませんか」と言わなかった。でも,思ったより手応えがあった。これから回を重ねてうまくなろうと思った。

(3)学校紹介ビデオの感想を伝えよう(922日)
 3回目の交流は,海峰小学校で作成した学校紹介ビデオを視聴した感想を発表した。国語で,集団発想法であるKJ法について学習した児童は,KJ法を使って,ビデオに対する意見の集約を行った。意見の集約をするまではチェックできたが,交流の直前になって担任の急な出張と体調不良が重なり事前の台本に目を通せない状況になってしまった。事前に海峰小学校へも連絡するタイミングを失い,児童も予定した日に実施したいという意見だったのでテレビ会議を予定通り行った。当校の児童は,自分たちで集約した意見を素直に発表した。しかし,その内容はあまり海峰小学校の作成したビデオを誉める内容ではなかった。むしろ,改善点を挙げ連ねる内容だった。児童は,「ビデオを見た感想をしっかり言わなくちゃ。」ということにのみ集中してしまい,意見を聞く立場である海峰小学校の児童の立場に立つことを忘れていたのである。情報活用の実践力で言えば,受け手の状況などをふまえないままに情報発信を行ってしまったのである。テレビ会議後にテレビ会議を録画したビデオを視聴した。その場で,児童に「海峰小学校の人は,みんなの意見を聞いてどう思っただろうか?」と問うたところ,児童からは,「相手の立場に立って,話す内容を検討すればよかった。」等の意見が出された。
児童の感想(S.T 男)
(テレビ会議)
自分たちだったらできないのに,相手の悪いところだけ言い過ぎてしまった。直すところばかりでなく,いいところも混ぜて言った方がよかった。久しぶりと言うこともあったのか,それともただの失敗か?表情もしゃべり方も駄目だったと思う。

4.成果と課題
 本プロジェクトは,ネットワークの利用促進やネットワークリテラシーの育成を正面からねらうのではなく,ネットワークを利用しながら児童のコミュニケーション能力の育成を目的に取り組んだ。手だてとして,上記の取り組みだけを行ったわけではなく,総合的な学習の時間での学校外の方々との交流や主張性訓練などにも取り組んだ。以下に記す成果は,上記の実践のみでの結果ではないことをはじめに断っておきたい。

(1)コミュニケーション能力について
 3回という数少ないテレビ会議の利用であったが,児童は,@自分たちの話の仕方を能力としてとらえることができるようになり,A相手に情報を伝える手段を工夫し,B「相手がどう感じるか」を考えて情報発信する必要があることに気づくことができた。
 テレビ会議を使った海峰小学校との交流と並行して,総合的な学習の時間に「将来就きたい夢の職業調べ」を行った。その取り組みでは,E-mailを使った取材活動を行った。E-mailは,テレビ会議よりも制限されたメディアであることに気づいた彼らは,E-mailの内容を非常に吟味していた。取材の意図,質問の内容が相手にしっかり伝わるかどうかを検討していた。
これらの実践を通して,自らのコミュニケーション能力を伸長させようという意識をもつようになり,地区で実施されたアナウンス講習会に自主的に参加するなどの行動が見られた。学習や様々な行事の場面で,自分の話し方を振り返ったり,友だちの話し方について感想を話し合ったりする姿が見られるようになった。担任の観察の結果だが,コミュニケーション能力が伸長してきたと感じられる。

(2)情報機器・ネットワークの利用に関して
 ネットワーク機器としては,インターネットに接続されたコンピュータ,FAX,電話などを利用した。本校で児童用の端末がインターネットに接続されたのは,今年度の夏である。児童は,新奇性もありインターネットを学習に生かそうと積極的に使っていた。学習で調べたい課題が出ると教室に配置した端末から検索を行うようになった。検索の経験が多くなるに従って,インターネット上で検索した方がいい場合と辞書を使用した方がいい場合を自分で判断できるようになった。
 また,総合的な学習で取り組んだ「夢の職業調べ」では,E-mailでの取材を通して,ネットワークの向こうには人がいること,E-mailは,文字だけのコミュニケーションであることから,文書を吟味しなければ相手に意味を伝えられないことなどを理解することができた。

(3)課題
 テレビ会議を使った交流学習は,児童のコミュニケーション能力の育成に寄与することを確認できた。しかし,学校にはISDN回線が1回線しかないので,128kで接続すると学校の電話FAX等が使用できなくなってしまった。電話回線の増強が望まれる。また,Cu-SeeMe等も今後,活用を検討していきたいと思っている。
 今年度は,ネットワークを利用した学校間交流が主だった。しかし,間接的なメディアを通した交流よりも直接交流の方が望ましいのは言うまでもない。今後は,直接交流を行えるような環境整備や予算的な裏付けをどのようにしたらいいのかについても検討していくことが必要と考えられる。
最後になったが,ネットワークの教育利用は,ネットワーク利用や機器操作が目的になる傾向がある。しかし,機器はあくまで機器であり,学習目標を達成するための道具であることを自戒したい。また,従来できなかった学習形態も高度情報通信網の整備より現実的なものとなってきている。ネットワークを利用するからこそできる学習形態,学習内容を模索したい。

ワンポイントアドバイス
コミュニケーション能力を育成するためには,自らのコミュニケーションをメタ認知させる必要がある。コミュニケーション活動の様子をビデオに撮影し,視聴することによって,客観的に自らのコミュニケーションを観察させることができる。

参加・協力校
富山県氷見市立海峰小学校  ホームページ  
http://www.tym.ed.jp/sc200/

引用・参考文献
国立教育研究所(1988)『へき地教育の特性に関する総合的研究―児童の教育環境としてのへき地性・小規模性の測定を中心に―』
三好京三(1977)『先生も涙ながれたぞ 僻地で教えた14年間の記録』,学陽書房,pp.19-20.
小松英明(1999) 小規模校における児童の主張性に関する研究 上越教育大学大学院修士論文