総合的な学習と情報コミュニケ−ションの相互作用に関する実践研究

「POTATO ROAD 2000」アジアの食文化を題材にしたメディア融合の交流学習

山形県山辺町立鳥海小学校 教諭 東海林新司・元木幸子

                新潟県長岡市立表町小学校 教諭 篠田 賢一    

キ−ワ−ド:小学校,高学年,総合的な学習の時間,地域学習,情報教育
国際理解教育,遠隔地交流共同学習,マルチメディア利用


インタ−ネット利用の意図

 企画の目的,学校間交流,地域との交流などの意図

(1) 日本国内の複数学校や海外日本人学校などと協力して食文化を主軸に据えて学ばせる。

(2) 各校で課題解決学習を行い,積極的に地域の人材「地域の先生」を学校に招き,児童の追究について専門的分野の指導をしていただく。

(3) 地域の人々との交流から,自分たちの地域の文化について学習し,それらの結果を電子掲示板や電子メ−ルなどで情報交換を行いながら,他校と交流を深めさせる。

(4) AV機器やインタ−ネット,公衆回線などを利用しながら,児童の積極的な情報メディアの活用や他の学校との情報の交換を行わせる。

(5) 自分たちの地域と他地域に目を向けさせながら,国際理解の素地を育てていく。

 山辺町立鳥海小学校では,これまでナイロビ日本人学校との間で「そばウガリプロジェクト」(平成9・10年度),長岡市立表町小学校他複数校と「コ−ンプロジェクト」(平成11年度)と称する活動をおこなってきた。(図1参照)これらの活動は,総合的な学習の時間を視野に入れた遠隔地共同交流学習である。児童の意欲を喚起し,児童の問題意識を高めながら課題を解決していくことができるように教師は様々の配慮を行いながら児童の活動を見守ってきた。本企画は地域の人材を積極的に活用し,地域に根ざした活動をめざしてきた。その結果,地域と学校の相互にわたった児童の活動を行うことができた。地域に学び,自分たちの活動を地域に反映できるような力を児童は身につけてきている。また,インタ−ネットをはじめ数々の情報手段を用いて交流学校と共同で学習を深めた。遠隔地の学校との距離を縮めることはできないが,児童同士が遠く離れた異なる学校の児童を思い,その活動状況から自分たちの活動を振り返ることもできた。(鳥海小学校での活動名は「ポテコンプロジェクト」,他の学校との全体的取り組みは「POTATO ROAD 2000」)



1.単元名 「ポテコンプロジェクト」(POTATO ROAD 2000)(鳥海小学校5・6年)

2.指導計画

(1) 単元の目標

 1) いも栽培を通して,自分たちの地域の食文化をはじめ,いも栽培の歴史,他地域・他国のいも料理などに関心を高め,自らの課題解決に向かって根気よく活動に取り組むことができる。

 2) 地域の方との直接交流や,他県・他国の学校との情報交流を通して,栽培活動,地域の特色,交流の進め方,自らの課題追究・まとめ方に関わることについて視野を広げることができる。

(2) 活動について

 1) 児童について

   本学級の子供たちは,1学期から地区内で栽培可能な10種のいも栽培を行ってきた。昨年度とうもろこし栽培を通して複数校と交流活動を行ってきた経験が大きく影響している。地区の「いもの先生」をお願いして度々アドバイスをいただき,初めて名を聞いたいもの栽培にも取り組んできた。はじめは収穫して試食したいというねらいが主であったが,栽培過程で肥料の有無による成育の違い,葉・花の形状の違い,寄ってくる虫たち,などいろいろなことに関心が向いていった。そして,全国のいもの種類・市場価格も調べてみたい,いもの花がどれだけ知られているか調べてみたいという意欲にまで高まっていった。インタ−ネット等を活用して,交流してきた学校 (新潟,大阪,北海道,浜松,宮崎,ジャカルタ日本人学校,中国大同市希望学校)に依頼して期間限定でいもの市場価格などを調査してもらった。自分たちも休日に山辺町内の店に価格調べに出かけている。また,臨場実習で本校を訪れた山大生46名を対象に,「いもの花クイズ」やいもに関するアンケ−トを行い,自分たちの活動の成果を実感したり,さらに新たな情報を得たりした。ベトナム・韓国などから当地区に嫁いでこられた方に出身国のいも料理を教えていただく計画も進んでいる。

   活動のはじめに,「いもから広げよう学習と人の輪」を合い言葉にしてきたが,その手応えを感じている様子で,まとめ活動にも意欲が高まっている。山間地区の純朴な子供たちであり,自力追究よりも集団で行おうという傾向がみられるが,当初たてた個々の課題を各自で追究できるよう努めている。

図2
図3
写真1


2) 単元構想について

   今回の総合的な学習「ポテコンプロジェクト」は「子供の発想に基づき」,「地域をいかす」タイプの学習である。毎年全校で行うカレ−パ−テイのために「じゃがいも」を栽培してきたが,「じゃがいも」と一口にいっても種類があること,知らずに食べていたいもがあったこと,初めて名前を聞いたいももあったこと。そこから,育て方を教えていただこう,他の地区・県・国のいもについても知りたい,という学習意欲がわいてきた。交流している他県・他国の学校は,学年・活動のテ−マ・内容はまちまちであるが,「地域に学ぶ」という点で共通している。自分たちの活動を伝える対象としての他,調査依頼をして学習の広がりや深まりを図ったり,調査の仕方を学んだりしてきた。

3) インタ−ネット利用場面        

   本校の児童は昨年までおこなってきた活動で電子メ−ルの送受信,テレビ会議システム(フェニックス, NetMeetingなど),電子掲示板,メ−リングリストなどを多くの場面で体験してきた。インタ−ネットでの諸検索などもおこなってきた。本年は毎朝児童の当番が掲示板やメ−ルの着信をチェックしている。また,日本からの質問に対して中国から中国語の電子メ−ルを受信した時,児童は漢字を頼りに翻訳に挑んだ。   (図2参照)

 

(3) 指導計画(全56時間)    (図3参照)

3.学習の展開

(1) インタ−ネットによる課題  解決(情報教育)
 あるホ−ムペ−ジで自分たちの調査と食い違う情報を発見し,思い切ってメ−ルを出したところ,わかりやすく教えてもらった。   

内容:こんにちは,ぼくは,鳥海小5年のTSです。ホ−ムペ−ジ“ジャガイモ博物館”を見せていただきました。そのホ−ムペ−ジに,「芋の切り口にあく(灰)を付けると癒傷経過が遅くなってしまって腐れてしまう。」と書いてありましたが,僕達が,4月に調べたときは,「あくを付けた方が,腐りにくい」と聞いたのであくを付けて植えました。そして,12月ホ−ムペ−ジを教えていただいて開いてみました。ホ−ムペ−ジを見て,あくについてもう一度調べてみました。あくをつけたほうがいいのか,つけないほうがいいのかわからないので,地元の農業をしている稲村さんに聞いてみました。すると,あくを切り口に付けると腐る可能性が低くなると言うことを教えて下さいました。それは,あくを付けると元々ある養分を土の中に逃がさないでその養分を育つために使うそうです。僕は,「あくが癒傷経過を遅くしているかも知れないけどあくが癒傷の役目をしているのかな。」と思います。しかも,そのあくは自然の木・炭を燃やしたときにできるものでないと豆炭・プラスチックを燃やした時にできたあくでは駄目だと教えて下さいました。ぼくは,「やっぱり,自然のものには自然の物を使った方がいいんだな。」と思いました。僕は,そう思うんですけどどうお考えですか?もしよかったら教えて下さい。(鳥海小児童のメ−ルより)

(2) 地域の人材を活用した体験学習(国際理解教育)

 鳥海小学校の学区に住んでいるベトナムから嫁いでこられた方にベトナム風のいも料理を教えていただき試食した。その献立や感想をメ−ルで各学校にも伝えた。

(3) 他校との交流・共同作業(遠隔地交流共同学習)

 ポテトロ−ド2000の活動を進めているうちに,お互いの活動をもっとわかりやすく伝えようと活動紹介や学校紹介のビデオを撮影した。各学校10分程度の内容にするために,何を他校に伝えたいか,どういう順番で撮影したらよいかなどを考えながら撮った。そのビデオをDVD化したことで,他校の内容を瞬時にみられたり,他校の様子を比較できたりすることが容易になった。DVD作成には,新潟大学教育実践センタ−の御協力によった。

 感想:交流をしている学校のDVDを見ました。鳥海小のDVDは,みんなが大きな声で発表 していて,はっきり話していたので,自分たちの発表の時にまねをしたいと思いました。 自分達が育てたイモは大きくならなかったので,たくさんのイモが育っていてうらやま しく思いました。ジャカルタの日本人学校は,大きな学校でおどろきました。シンコン というイモを初めて知りました。表町小の5年生も,街頭インタビュ−をしていまいた。 花火師さんにたくさん取材をしていたので,すごいなと思いました。加茂の花火は二尺 玉だけど,長岡の三尺玉は,すごくおっきいのにおどろきました。DVDを見ていたら,そ れぞれの学校に,自分たちが調べたことを伝えたくなりました。(加茂南小児童)

4.成果と課題

(1) 地域学習の観点から

 a) 積極的に地域に入り,地域から情報を得て年間を通して主体的に活動を行うことができた。(成果)

 b) 自分たちの活動に問題が生じた時だけ,助言を求めるだけでなく,地域の人々から積極的に学ぶ姿勢を今後も育成していく必要がある。(課題)

(2) 課題解決学習の観点から

 a) 助け合いや,協力という集団型の学習から自分自身の学習課題を追究していきたいという意欲が見られ,主体性の伸長につながった。(成果)

 b) 自校だけの取り組みとちがい,他校の活動の様子から課題解決の手法を学ぶことができた。(成果)

 c) 課題作成の段階で追究の見通しを具体的な手立ても含めて持たせなかったことがあり,活動の視点が定まらなかった場合があった。(虫や害虫駆除に関する追究)(課題)

(3) 総合的な学習の時間の観点から

 a) 「知りたい・調べたい」という学習への情熱を持って,様々な方々へ様々な働きかけを行うことで,児童自身が成果を実感した。(成果)

 b) 自校の取り組みを中心に活動したため他校との交流が少し薄かったようだ。(課題)

(4) 国際理解教育の観点から

 a) インドネシアや中国,ベトナムなどのイモをはじめとするいくつかの作物の様子や料理,また学校の様子などがわかり,視野が広がり,これらの学校と交流する中で友情や友好を深めることができた。(成果)

 b) 海外との交流は,はじめ翻訳の問題や生活習慣の違いなどがあり,教師間の意志疎通が難しかったが,地域人材の活用やインタ−ネットの利用などで活動後半は軌道にのってきた。何より離れた教師が共同で作業を行った経験は貴重であった。(成果)

 c) 海外との交流に関わる交流の質と継続性が課題である。(課題)

(5) 情報教育の観点から

 a) 相手を意識したメ−ルの作成やホ−ムペ−ジでの必要情報の検索など楽しく短時間でできるようになった。また,自分たちで撮影した画像をDVDで共有することがで  きて新たなメディアに接することができた。(成果)

 b) 日本の学校とNMで直接話ができたことは大きな収穫であった。子供の意欲が大いに高まった。(成果)

 c) 学びの成果を児童が確認できる情報整理能力をさらに育成する必要がある。(課題)

ワンポイントアドバイス

(1) 通信手段:手紙とメ−ルの良さの違いのように必要な時に適切な手段を利用することが大切である。

(2) 教師間の意志疎通:離れた異なる複数学校間の教師の連絡とお互いの意志疎通を密にする必要がある。

参加校・協力校(担当者),参考URL,引用など

 参加校:山形県東村山郡山辺町立鳥海小学校,新潟県長岡市立表町小学校

     新潟県加茂市立加茂南小学校(教諭 濱井民子)

     ジャカルタ日本人学校(教諭 富樫 朗),中国大同市希望学校(張霞老師) 協力校:札幌市立手稲山口小学校(池田幸一),浜松市立東小学校(山崎章成)

     大東市立北条小学校(星野勇悟),延岡市立延岡東小学校(日高克哉)

 協力:新潟大学教育人間科学部附属教育実践研究センタ−(内山 渉)

 http://www.nice.or.jp(新潟インタ−ネット教育利用研究会)

 http://toki.ed.niigata−u.ac.jp/~tokairin/potato/index.htm(POTATO ROAD 2000)

 教えあい学びあう総合的な学習の時間(ナイロビ鳥海共同総合学習研究会)

   篠田賢一他:松下視聴覚教育研究財団 1998年5月

 総合的な学習にむけての取り組み「コ−ンプロジェクト」

   東海林新司他:日本教育工学会    1999年9月