造形教育における映像メディア表現の可能性
−発信・交流する美術に親しむ−

高等学校・美術
北海道札幌新川高等学校 吉岡 隆

キーワード 高等学校,美術,映像メディア表現,学校間交流


インターネット利用の意図
 昨年度の学校企画「美術科−インターネットを使った共同制作−」において,他校の児童,生徒とインターネットの電子会議室と絵の電子メールである「ボトルメール」を使って「さっぽろ雪まつり」の雪像のアイデア交流を行い,実際に雪まつり会場の大通公園で共同制作を行った。この雪像共同制作の様子を本校放送局の生徒達がビデオ記録したものをパソコン編集して,研究協力校へ配布し今年度のさっぽろ雪まつりインターネット交流のきっかけとした。
 高等学校美術における「映像メディア表現」では,写真,ビデオ,コンピュータ等を使った表現活動を通してビジュアルな表現・交流ができることをねらいとしている。特に最近ではパソコンの映像処理能力の飛躍的な向上により,デジタルビデオカメラや編集ソフトウェアとの組み合わせでテレビ放送局なみのビデオ編集が可能になってきた。
 研究協力校の児童・生徒たちと雪像のアイデアをデジタルカメラやコンピュータグラフィックスなどの映像メディアを使って表現し,インターネットの電子会議室を使って交流を行う。また,テレビ会議システムを使ってプレゼンネーションをしながらアイデアをまとめ,実際に雪像を共同制作していく様子をホームページに紹介していく活動を通して,映像メディア表現のさまざまな可能性を探り,発信・交流する美術に親しむ態度を育成していきたい。


1 さっぽろ雪まつり2001プロジェクト
(1) ねらい

 映像メディアの特質である情報を的確に伝達する力を利用して,自分たちの意図に合った表現方法を工夫しながら他地域の児童生徒とさっぽろ雪まつりの雪像のアイデア交流をインターネットの電子会議室やテレビ会議システムを利用して行っていく。また,実際に雪像を共同制作している様子をホームページで情報発信し,映像メディアによる情報活用能力の育成を図る。

(2) 指導目標

(3) 利用場面

この学習では,次の学習場面で映像メディアやインターネットを活用する。

  • さっぽろ雪まつりの雪像を制作する様子を紹介するビデオのパソコン編集。
  • 共同制作する雪像のアイデアの電子会議室およびテレビ会議システムでの意見交換とまとめ。
  • ホームページからの札幌大通公園での共同制作の様子の情報発信。
  • (4) 利用環境−実践に使用した機材−

  • 使用機種 SOTEC PC STATION M366 (ビデオ編集)
         Windows98 パソコン 2台
         iMac
         SONY VAIO NOTE (雪像制作時)
  • 周辺機器 フェニックス mini (テレビ会議)
          デジタルカメラ 2台
          デジタルビデオカメラ
          スキャナー
          WebCam Go Plus (インターネットライブカメラ)
  • 稼動環境  光ファイバー1.5MG インターネット専用線
           
    ISDN回線,ルータ
            校内
    LAN
  • 利用ソフト VideoStudio4,PaintShopPro6JQTVR Authoring Studio

  •         Real Producer Basic,ホタル2001

    2 指導計画

    時期

    活 動 計 画

    留 意 点

    8月〜
    9月

    ●パソコンによる雪像制作紹介ビデオの編集 ・コンテ,ストーリーボードでの企画,構成・ナレーション原稿の作成,録音
    CD-R(MPEG1形式),ビデオテープへの書き出し,研究協力校への送付

    ・はじめて雪像制作を見る児童生徒が視聴対象であることに留意させる。

    10月

    12月

    ●電子会議室での雪像アイデアの交流
    ・デジタルカメラ,スキャナー,画像処理ソフト等を使った表現

    ★インターネットの利用

    ・画像の編集加工方法がアイデアを的確,かつ印象的に伝わるよう十分吟味させる。

    12月

    1月

    ● テレビ会議システムによるプレゼンテーション
    ・各学校ごとに雪像のアイデアの候補作品を選び,プレゼンテーションを行いながら質疑応答,意見交換を行う。

    ・意見交換の中から,共通するテーマやアイデアを考えさせる。

    1月

    ● 雪像共同制作とホームページでの活動紹介
    ・デジタルカメラを使って,ホームページの掲示板に制作の様子を紹介する。

    ★インターネットの利用

    ・雪像共同制作交流会の企画,運営方法を考えさせる。


    3 利用場面

    (1) 目標
    ・写真,ビデオ,コンピュータ等映像機器を使った表現活動を通して,基礎的な機材,ソフトの使用技術を習得する。
    ・映像メディアの特長を活用し,表現意図が的確かつ印象的に伝わるように企画,構成,演出を考える。
    ・インターネットを利用して作品の伝達・交流を図る。

    (2) 展開

    学 習 活 動

    留 意 点

    • 雪像制作紹介ビデオのパソコン編集

    ・内容の構成をストーリーボードにまとめる。
    ・ビデオキャプチャーおよび編集。
    ・ナレーション原稿の作成と録音。
    ・タイトルの作成,効果音の準備。
    MPEG1ファイル形式によるCD-Rの作成。
    VHSビデオテープへの書き出し。
    ・研究協力校への送付,視聴アンケートへの協力依頼。

    雪像制作の楽しさをいかにして伝えるか。

    AVIファイルのサイズが4ギガバイトまでであることから,17分程度の作品にまとめる。
    CD-Rへ記録する為に,ファイル形式はMPEG1とする。
    ・小学生も視聴することを考慮して,VHSビデオテープへも書き出しをする。

        
    図1 パソコンによるビデオ編集    図2 雪像制作紹介ビデオの画面

    • 電子会議室(FirstClass)とテレビ会議システムを使った雪像のアイデアおよびテーマの意見交換。
    ・研究協力校の児童生徒へのアイデア募集のよびかけ。
    ・テレビ会議システムでのアイデアのまとめ。

    ・各校から提案されたアイデアから共通するテーマやモチーフをピックアップし,まとめる。

     
    図3 電子会議室での意見交換   図4テレビ会議でのプレゼンテーション

    • 最終アイデアの模型制作
    ・粘土模型を制作し,QuickTimeVR画像にする。


    図5 模型のQuickTimeVR

    ・最終的に決定したアイデアをもとに粘土で模型を制作する。
    ・原画から側面,裏面のデザインを話し合い検討する。
    ・照明やデジタルカメラでの撮影方法について検討させる。

    • 共同制作の様子をホームページで紹介する。
    ・研究協力校の活動紹介ページの原稿依頼。
    ・各校から提案されたアイデアの紹介ページの制作。
    ・制作レポート用掲示板の設置。
    ・中継用ライブカメラの準備。
    ・雪像共同制作のスケジュール調整と準備。

    ・用具,機材の準備と搬入,臨時
    ISDN回線の設置。

    ・雪像制作当日は,ホームページの更新をする時間がないことを考慮して準備を進める。


    制作レポートの掲示板は,共同制作の合間に参加した児童生徒たちがデジタルカメラで撮影した写真を休憩用の仮設プレハブからノートパソコンのブラウザからコメントをそえてアップロードするものを準備した。雪像制作が忙しい為,頻繁にアップロードはできなかったが,制作に参加できなかった児童生徒たちからの激励のメッセージが届いたりする場面もあり,双方向の交流が実現できる可能性を感じることができた。
    インターネット中継用のライブカメラは,設定した間隔で自動的に画像をFTPするもので,制作期間中まったくシステムがエラーすることなく動作していた。

    図6 制作レポートの掲示板 図7ライブカメラのホームページ
       
    図8 ライブカメラ機材 図9 ライブカメラ操作画面

    4 実践を終えて
     今回の実践は昨年度の実践をもとにさらに深めることを主眼においたので2単位の授業では時間的な制約がありなかなか取り組めない題材に放課後や長期休業を利用して生徒とともに取り組んでみた。しかし,パソコンによるビデオ編集は,編集そのものの作業時間は短くともファイルに出力するまでに5〜6時間かかり,手直しをするたびに予想をはるかに越える日数のかかる作業になってしまった。また,テレビ会議も小学校の授業時間に合わせるために定期試験の最終日の午後に日程を調整,2月の雪まつりにむけての雪像共同制作も1週間早め,1月27,28日に日程を組むなどかなり厳しいスケジュールで実践をしなければならなかった。
     だが,実際の雪像共同制作までに研究協力校の児童生徒たちへ雪像制作の紹介ビデオを視聴してもらい,電子会議室やテレビ会議で雪まつりへむけての札幌の様子を伝えることができ,最後に行なった共同制作にうまくつなげることができたと思われる。
     また,今回の実践は自衛隊の縮小にともなう雪まつりの今後のあり方として,マスコミに何度か取り上げられることになった。
     学校教育の中ではなかなか実践しにくい部分ではあるが,実際に社会に関わっての造形活動の中で映像メディアとインターネットを使った今回の実践は生徒にとって大きな財産になったのではないかと思う。今後も発信・交流する美術に親しむ態度を育成していきたいと思う。

    ワンポイントアドバイス
     大きなプロジェクトになればなるほど関係機関への協力依頼や連絡調整に膨大な時間が必要になってくる。また,研究協力校の教員どうしの連携も非常に重要である。

    研究協力校
     北海道八雲養護学校,標茶町立阿歴内小中学校,横浜市立大口台小学校,
     清川村立宮ヶ瀬小学校,春江町立春江小学校,美杉村立太郎生小学校,
     琉球大学教育学部附属小学校
    関係協力機関
     第52回さっぽろ雪まつり実行委員会,読売新聞北海道支社事業部,札幌市教育委員会,
     メディアキッズ

    参考文献
     高等学校学習指導要領解説 芸術(音楽 美術 工芸 書道)編
    企画紹介URL
     http://www.sapporo-c.ed.jp/shinkawa-h/art/p05/