特殊教育諸学校間の情報教育に関する共同学習
高等部1〜3年 商業,総合的な学習の時間
宮城県立西多賀養護学校 浅利 倫雅
キーワード 養護学校高等部,商業,総合的な学習の時間,インターネット,共同学習
 
インターネット利用の意図
 特殊教育諸学校に在籍する児童・生徒は,それぞれの障害に基づく種々の困難を改善・克服するために必要な知識,技能,態度及び習慣を養うことを目標に学校教育が進められている。しかし,実際には,障害に基づく困難を乗り越え,社会参加し社会自立することはそう容易なことではない。
 本校は身体機能の低下に伴って,学習活動の様々な場面で困難が生じてくる筋ジストロフィーの生徒が大半を占める病弱養護学校であり,これまでもパソコンをノート代わりに活用してきた。現在ではインターネットも自由に活用することができるようになり,各種の情報収集に役立ている。
 本実践では,特殊教育諸学校間での情報通信機器や情報通信ネットワークを活用した教育活動をとおして,積極的に社会参加及び社会自立するための知識,技能,態度及び習慣を養うことを支援したいと考えた(図1)。
 
1.指導目標
 この学習活動では,障害のある生徒のインターネットの活用を促進し,共同学習や交流教育によって,特殊教育諸学校に在籍する生徒の社会参加及び社会自立を支援したい。
 本校の生徒は隣接する国立療養所西多賀病院に入院しており,病棟と学校という限られた場所での生活を余儀なくされている。高等部では2,3年生を対象に,幅広い経験をとおして卒業後の生活について考える一助とするために進路体験学習を実施しており,さらに今年度からは総合的な学習の時間も設けた。また,バリアフリーについての関心も高まってきており,それらの情報をインターネットを活用した教育活動の中で有効に活用したいと考えた。
 宮城県では「福祉のまちづくり条例」を平成8年に制定しており,2001年には「バリアフリー国体」も開催される。そこで,進路体験学習の機会にもバリアフリーについての調査活動を行い,街づくりや施設・設備について考察させる。共同学習では,成果として完成したホームページを協力校に見てもらい,E-mailにより意見交換等を行う。情報を整理し,自分のものとして表現し,相手に伝えることができること,相手の意見と比較できることを指導目標としたい。
 
2.指導計画
 指導に際しては,情報通信ネットワーク等についての基礎的学習が必要となる1年生を,2,3年生と分けて計画を立てた(図2)。
 1年生は,情報処理(4単位)の時間の2単位分で実施する。1年生は現地調査を行わないので,ホームページの見方や検索エンジンについて学習した後,「バリアフリー国体」や宮城県と仙台市の「バリアフリーの街づくり」に関する条例について,インターネットを活用させ調べさせる。また,E-mailについて学習した後,2,3年生の進路体験学習で行う現地調査活動についてE-mailを活用させて意見交換を行わせる。
 2,3年生については,進路体験学習の中で調査活動を実施させる。調査活動は総合的な学習の時間(1単位)に行い,プレゼンテーションやホームページ作成は文書処理(3単位)の時間に行う。
 文書の作成や活動計画の立案に必要となる情報収集は,インターネットを活用させて調べさせ,計画の発表にはプレゼンテーションソフトを活用させる。調査活動実施後は,1年生とE-mailで意見交換を行いながら,報告書を作成させ,ホームページにまとめさせる。
 最後に感想や意見をまとめさせるアンケート調査を事後指導として実施する。
 共同学習については,年間を通じてE-mail等での意見交換を行う予定だったが,本校独自の進路体験学習を総合的な学習の時間に実施することになったことに伴い,ホームページ作成後に行うことにした。
 
3.学習の展開
3.1 1年生
 1年生は,インターネット等の情報通信ネットワークの活用が初めてである。そこで,4単位の情報処理の2単位分は教科の学習内容について学習し,残りの2単位分をインターネットの検索やE-mail,ホームページ作成等の情報通信ネットワークの基礎的な学習として展開していくことにした。対象生徒は4名である。共同学習終了後はセキュリティや著作権,情報モラルといった内容も学習する予定である。
 
3.2 2,3年生
 この学習の中心となって活動を展開するのは2年生で,対象生徒は4名である。総合的な学習の時間と文書処理の時間を中心に学習し,進路体験学習の中でバリアフリーについて現地調査を行う。その結果をホームページで公開し,協力校とE-mailで意見交換を行う。3年生は,授業内容との関係で時数が少なく,対象生徒も1名である。
 
(1) 調査活動のねらい,場所,日程の計画
 総合的な学習の時間に活動した。各自がそれぞれに調査を行いたい場所や交通手段等について,資料やインターネットを活用してまとめる。情報を客観的に分析し,計画を立てることは,本校の生徒に限らず特殊教育諸学校に在籍する生徒の多くが苦手とすることである。そこで,時間はかかるが,生徒の主体的な活動として設定し,情報収集に関わること,情報の整理に関わること,相手に分かりやすく伝えることを十分に学習させたいと考えた。
 
(2) 調査活動計画の発表
 文書処理の時間にプレゼンテーションソフトを活用して活動した。プレゼンテーションでは,発表する内容をよく整理し,要点を分かりやすく相手に伝えることが目的となる。ソフトウェアを活用すると,効果音や文字の動きに関心が向いてしまい,その効果ばかりを工夫したがることが多い。そこで,スライドショーで表示される内容が重要であることを理解させるように留意して作成させた。スライドの構成は教師側から提示したが,作成されたスライドショーは活動内容の違いばかりでなく,生徒の持ち味を反映したものとなった(図3,図4)。これまで,概要を伝えることに苦手意識を感じていた生徒たちだったが,この学習をとおして,整理の仕方が徐々に身に付いていった。
 
(3) 現地調査活動
 総合的な学習の時間として行った進路体験学習の中で実施した。進路体験学習はホームルーム担任が引率して実施したが,調査活動の際には,生徒が主体的な活動を展開できるように配慮した。
 調査活動は,予め用意したチェックシートに記入しながら,デジタルカメラで記録した。また,必要に応じてデジタルビデオカメラでも撮影した(図5,図6,図7,図8)。
 普段外出することの少ない生徒たちなので,綿密な日程の計画を立ててきた生徒もいたが,実際の調査活動では想像以上に時間がかかった。それでも自分自身の力で一つ一つチェックしていくことができたことに満足した様子が見られた。
 
 
 
 
(4) 調査報告の作成
 総合的な学習の時間では,発表会用の資料や発表原稿の作成を,文書処理の時間にはホームページの作成を行った(図9)。また,進路体験学習後は1年生から質問のE-mailが届き,E-mailによる意見交換も行いながら作成を進めた。
 ホームページの作成では,情報を整理し誰にでも分かりやすいものを作成するように心掛けさせた。その際,ホームページにおけるユニバーサルデザインについての考え方も他のホームページを資料として紹介した。調査活動で得られたバリアフリーに関する情報はとても多く,生徒が短時間でまとめ上げるには難しかったが,試行錯誤を繰り返し,何とか形ができあがった。デジタルカメラで撮影した画像も多かったため,画像を再確認しながら,分かりやすく見ることができるように工夫させた。
 また,宮城県の「福祉のまちづくり条例」と今回の調査活動との結果を比較,検討させてバリアフリーに関する各自の考えをまとめさせた。
 
(5) 発表会と学習のまとめ
 学習活動の進行状況と行事等との調整のため,進路体験学習の発表会の実施を2月に変更することになった。発表会は,総合的な学習の時間として実施する予定である。また,学習のまとめとして,アンケート調査を行う予定である。
 
4.成果と課題
 企画の段階では,調査活動を2回実施する予定だったが,授業時間等の設定や他の行事との調整で,11月に1回しか実施できなかったことは残念だった。10月にはホームページも概ね完成させ,メーリングリストによる意見交換を行う予定だったが,年度末までずれ込んでしまった。
 しかし,総合的な学習の時間を活用して進路について考えさせる時間が確保できたことや,進路体験学習の事前調査を十分に行えたことは有意義だったと考える。特に,事前調査で得られた多くの情報から,各自が必要な情報を整理し,調査活動のポイントとなるチェック表を工夫して作成できたことは,これまでにない成果だったと言える。また,調査活動でも,デジタルカメラを活用することで,正確な情報が得られ,説得力あるホームページを作成することができた。これは,当初から共同学習を実施することを伝えたことが,第三者から客観的な評価がされるという意識を高め,より慎重に情報を分析し,自分のものとして再構築しようという意欲を持たせることができたのではないかと考える。
 今回の実践では,調査活動の計画立案の段階で大幅に遅れたため,計画が予定通りに進まなかった。進路体験学習での調査活動は,筋ジストロフィーの生徒の進路指導や総合的な学習の時間の実施との関連という意味では意義深いものとなった。今後は,新指導要領の実施に向けて,特殊教育諸学校における情報教育のあり方と,教科の学習内容との関連を明確にした実践を検討することが課題である。
 
ワンポイント・アドバイス
 プレゼンテーションソフトを初期の計画立案の段階で活用させたことは,生徒に計画の概要と調査のポイントを明確に理解させることができ効果的だった。共同学習では,テーマをより焦点化し,シンプルな内容のものにすることが必要だと感じた。
 
参加協力校
 宮城県立ろう学校
 
参考URL
 宮城県 夢プラン推進室     http://www.pref.miyagi.jp/yumeplan/
 株式会社ユーディット      http://www.udit-jp.com/
 バリアフリー国体を応援する会  http://www.midegai.com/