タイトル
 地域と学校が融合した開かれた学校をつくり,児童の生きる力を育てるインターネットの活用

つくば市立吾妻小学校 教頭 森田 充

キーワード(小学校,全学年,全教科領域,開かれた学校,メーリングリスト,保護者や地域の人々)


企画の目的
 本校は,学区内に筑波大学がある研究学園都市の中心に位置し,保護者や地域の人々の教育に対する関心が高く,児童の学習活動にも積極的に協力してくれる方が多い。また,全校児童670人のうち,約90名(18カ国)が外国人,外国での長期生活経験がある児童が約50数名であり,外国語と日本語の2カ国語を読み書きできる児童も多い。
 また,本校には,校内LANが構築されており,1.5Mbpsの回線でインターネットに接続されている。さらに,本校のシステムには,児童用の情報交換ソフトが導入されている。このソフトは,児童一人一人が特定の人と情報交換することができるメール機能や,インターネットを通して,メーリングリストとして登録した学校や個人で電子掲示板を共有することができる機能を持っている。本校児童の主な進学先である吾妻中学校にも,同様な環境が整備されている。
 このような地域の特色,情報教育の環境を生かすことにより,新しい教育で求められている地域社会と融合した学校「開かれた学校」づくりを進め,地域の人々の力で児童の生きる力を伸ばす教育を実現することが本研究の課題である。
 「開かれた学校」づくりは情報発信に始まると考えるが,インターネットはその有効な道具となる。なぜなら,保護者を含めた地域の人々の多くはインターネットを身近な道具として活用しているので,ホームページで学校の情報を発信することは,普段子供の教育になかなか関われないでいる保護者や地域の人々に本校の情報を与えることになり,学校への理解を深めさせ,学校に協力する機会を増加させるということにつながる。
 さらに,インターネット掲示板機能を活用し,「学習の広場」「PTAの広場」「国際理解の広場」「小中学校交流の広場」「学校経営の広場」などの掲示板を運用し,
・ 中学生の先輩,保護者・地域の専門家が児童の学習の支援者となり,児童の豊かな学びを支えることができる。
・ 地域に住む外国人に対して子ども自身,保護者等が情報を提供したり,逆に必要な外国の情報をいただいたりして,共生の社会作り,国際理解教育の推進が図れる。
・ 地域の人々が学校について意見の交換をしたりして,学校と社会が融合して学校づくりを進める。
のようなことを実現したいと考えている。

図1 スタディノートを使った情報交換

1 研究の手順


 目的を達成するために,私たちは
 1)ネットワークの仕組みの整備
 2)組織作りと規約の制定
 3)会員の募集
 4)実践
の手順で,進めてきた。それらそれぞれの内容について述べる。
(1) 仕組みの整備
 まず,本校と吾妻中学校に導入されているグループウェアソフト「スタディノート」を生かして,メーリングリストを構築できるように整備した。その情報交換をまとめて表すと,上の図1のようになる。
 小・中学校の児童生徒がスタディノートを活用して書いた掲示板やメールは,一般の方々には,形は多少変わるが,自分で利用しているメールソフトでその内容を見ることができる。

 

図2 スタディノートの画面とメールソフトの画面


(2) 組織づくりと規約の作成
 この会を運営する組織は,吾妻小・中学校の教員が中心ではあるが,様々な協力を地域の人々から得られやすくするために,PTAの代表の方にも管理者として入っていただき,規約を作成し,さらには,運営の協議も行った。そこで作成した規約は下の通りです。

「吾妻ローカルネットワーク(ALN)」運営規定

1 趣旨
 本メーリングリスト(ML)は,教育活動の一環として行われるものであり,学習における情報収集の際,広く情報を得るとともに,地域の人々との情報交換ができることを目指して運営されるものです。そこで,次のような規約をもうけます。
2 管理者
l 学校長の定める者とし,吾妻小・中学校とも教職員3名とPTA会員1名の計8名を構成員 とする。
3 参加資格
 ・本校児童,吾妻中生徒およびその保護者
 ・本校職員,吾妻中職員またそれに準ずる者
 ・その他,ML管理者が特に参加を求めた,もしくは認めた者
4 メールの投稿は必ずテキスト(TEXT)ファイルで行う。
5 投稿されたメールはML参加者のみの利用に限る。
6 本ML以外での再配布やプリントアウトした後の掲示,配布はしない。例外として,本ML でやりとりされた内容・成果について,本校の教育活動の実践報告などで公開する場合があり, それについて承諾できること。
7 次のような内容のメールは投稿しない。
  ・特定の個人,団体,組織についての否定的な情報
  ・噂の類など社会的に混乱を招くおそれのある情報
  ・小中学校の学習活動において不適切だと考えられる情報
  (不適切な内容は管理者によって削除されることがあります。)
8 参加方法について
  ・入会は電子メールで受け付ける。
  ・退会は入会同様,電子メールで「退会する」意向を記述し,報告する。
※ 学校という,限られた場所時間でのコンピュータの利用なので,投稿の反応が遅くなったり,体験不足から常識的な了解事項からはずれたりする場合があることをご了承ください。指導しながら,少しずつルールや活用法を身につけさせていきます。
 

(3) 保護者への募集

図3 保護者募集の文書
図4 3年生によるアンケート調査と答え

 規約と共に,右の図3のような文書を配布し,保護者への募集を行った。
 小中学校保護者,約50名からの応募がありメーリングリストの運用を開始した。
 
(4) 保護者の理解を得る研修会
 この会の意義を知ってもらうことはなかなか難しいのが現状である。できるだけ存在とその活用方法を知ってもらうことが必要であると考えている。そのために本校では,家庭教育学級の時間を利用したりして,保護者の方へ知らせる研修会を行った。

 

 

 
 
2 実践例
 これらのメーリングリストは,アイディア次第で,学習の中で使える場はたくさん設定できる。ここでは,代表的な使い方をその学習の流れと共に紹介する。

(1) 3年の実践 −吾妻のじまん−
 3年生では,「吾妻のじまん」という学習の中で,地域の人々から意見を集める段階で本メーリングリストを活用した。街角で道行く人にアンケートをとる児童,幼稚園のお迎えに来る保護者の方にアンケートをとる児童,もいたのだが,右のようなアンケートをメーリングリストに投稿した児童もいた。このように,意見を集めるための道具として使うことは,一つの方法であることに児童が気付いたのである。
 今後,この「吾妻のじまん」をホームページ上に公開し,メーリングリストでそのまとめに対する意見を集めるためにも利用するという計画で,現在進行中である。

(2) 5年の実践 −各地の正月料理−
 5年生では,道徳の発展として,「各地の正月料理」を調べるときに,本システムを活用した。本校の保護者は,日本の各地から集まっているので,この学習も有効であった。
 その学習の流れは次のようである。
 1)ねらい  ・ 日本の伝統や文化に対する理解を深め,日本人としての自覚と誇りを持って国を愛する態度を育てる。


 
  道徳での『正月料理』から,感想を述べ合い,個人で発展として調べたいことについてテーマをもつ。











 
  テーマをはっきりさせてから,調べる手段を決める。
  <テーマ例>
    地方の正月料理について調べてみる。
    ひなまつりについて調べてみる。
    外国の正月料理について調べてみる。
  調べる手段
     普段の学習スタイルから,子どもたちから出てきた手段は,
     インタビュー・図書資料・インターネット である。
  ・『吾妻ネット』も手段の選択肢の一つとして考えさせる。
  ※返事がくるかどうか分からない『吾妻ネット』だけが調べる手段にならないように,『吾妻ネット』を手段として考えた子どもには,他の手段も考えさせるようにした。
  実際に調べてみる。
  調べた結果をお互いに発表しあう。

 この調べる段階のメールのやりとりの中で,興味深いものがあった。
 
 

 5年生のたくさんの児童が上のような正月料理の質問を一気にメーリングリストに投稿したために,右上のようなアドバイスがあった。それに対して,児童は,右下のように答えている。児童は,アドバイスを受け入れ,よりよい学習に向かいながらも,自分たちの意図を述べることができており,聞くこと・主張することに伸びが見られた。
 
(3) 6年の実践 −中学校は?−
 6年生は,中学校の生徒共情報交換をすることができることを利用して,進路指導の一環として,中学校を見学する前の情報収集のために本システムを利用した。その1時間の流れは次のようである。
1) 学級指導「中学生に聞いてみよう!」
2) ねらい 
 ・ 中学校の生活のことを知ることにより,希望や目標を持って,中学校生活を送ろうとする態度を育てる。
 ・ 吾妻ネットの活用の仕方を知り,質問をすることができる。
主な活動 教師の支援
1 課題を知る。


2 6年だけが見られる掲示板に中学生に質問したいことを書く。
3 項目を選択し,グループ内で質問が重ならないよう話し合う。
4 中学生に送る質問を掲示する。

5 今後の活動の仕方を知る。




6 後始末をする。
・「もうすぐ中学生になるけど,不安なこと,知りたいこと,疑問に思っていることをメールを通して,中学生に質問してみよう。」
・似ている質問が掲示板に載っていたら返信してみるよう声をかける。
・掲示された質問をチェックし,グループ分けをする。
・項目を板書し,どの質問を中学に送りたいか選択させる。
・誰もが見られることを話し,タイトルの工夫,言葉遣い、名前の記入などについて確認する。
・スタディノートをこまめに見るよう話し,返事が来たら,お礼やさらに質問などをし,交流を続けるように助言する。
・最後に確認をする。

B 効果

 右のようにメールのやりとりを掲示板で行った。
 6年児童は,中学校の情報を前もって得てから,見学に行くので,見学の目的が明確になり,有意義な見学ができた。また,小学校にいながら中学生との交流が深まり,先輩への親しみが増し,中学校進学への不安が解消されるという点も大きな効果である。
 

 


3 成果と課題

 メーリングリストによる,教師ではない人からのアドバイスは,専門的なもの,違った立場からのものである。またときには,学び方のアドバイスをいただくこともある。子どもにとって,校外にも,情報交換ができる人がいるというのは,子どもの視野や情報を得る体験を広げるという意味で,非常に効果が大きく,期待通りであったといってよいと思う。
 しかし,児童の質問の仕方が具体的でないという点はこれからの指導の課題である。また,保護者や地域の人々の多くの人々に参加していただけるようになるには,まだまだ,時間や働きかけが必要である。今後は,活動の様子をアピールし,より多くの人に参加していただき,当初の構想のように,複数のインターネット掲示板(メーリングリスト)を立ち上げ,地域社会と融合した「開かれた学校」を作り上げ,児童がいろいろな人と,様々な交流ができるように努力しかなければならない。