バーチャル校外学習
−校外学習にモバイルコンピュータを持ち込んだテレビ会議放送−

小学校第5学年 社会
大井町立西原小学校 原田 康志
harada@saitama.email.ne.jp
http://www.ne.jp/asahi/nishihara/saitama/index.html#index

キーワード 小学校,5年,社会,校外学習,自動車工場見学,学校間交流,テレビ会議


インターネット利用の意図
 協力校と共にメールやテレビ会議を使って、学校間交流を行ってきた。これまでは、教室同士を結んで情報・意見交換を行ってきたが、近年飛躍的に進歩しつつあるモバイル回線を利用すれば、学校外からの発信も可能なのではないかと考えた。
 コンピューターを教室から持ち出せるなら、地域の情報や校外学習の様子をリアルタイムで発信し、受け取ることができる。そのことにより、情報を送ろうとする児童、受けようとする児童双方に、これまでとは違った学習の効果が期待できるのではないだろうか。
 使い勝手の良い「校外学習用コンピューター」を仕立て、協力校に郵送して工場見学や地域の紹介等にテレビ会議を用いてもらい、他の学校では擬似的に見学を行う「バーチャル校外学習」を実践してみたいと考えた。
 
1 機器の選定と設定・実験
 校外学習の実際では、引率教師は児童の安全確保はもちろんのこと、学習がよりスムーズに行われるよう様々なことに配慮しなければならない。そのため持ち出す機器は、極力軽く小さく、取り回しの楽なものでなくてはならない。このことを最優先に機器の選定をした。
 
(1) 使用機材等
・B5ノートパソコンと増強バッテリ(写真参照)
強力なバッテリーは不可欠である。下側に少々張り出すが、そのために持ち歩く際は、むしろグリップしやすく使いやすい。
・USB-CCDカメラ
小型軽量の点は良い。教室からの使用では問題ないが、現場から詳細なレポートをするためには、オートフォーカスやズームのきく8mmVTR等をUSB接続した方が良いという反省がでた。写真:校外学習機
・PCカード型PHS電話機
当初N社のPHS電話機をケーブルとPCカード経由で接続した。しかし校外学習用機材は、通信しながら移動できることが望ましいため、持ち運びの面で失格。また本校の所在地が電波の圏外で使用を断念せざるをえなかった。
 そこでケーブルのないカード型を採用した。D社の場合は64K通信エリアが広く本校の教室、職員室、校庭からも通信ができた。当初から予想できたことだが、使用場所が電波の圏内かどうかということが、決定的な要素である。
・テレビ会議ソフト「MS Net Meeting」「Cu-SeeMe Pro V4.0.1」
テレビ会議にはいろいろな種類があるようだが、ここでは「安価で誰でも使える」ことを考え、上記のソフトを使用した。性能がよくても、機材や通信費が高額になれば、多くの学校に参加を呼びかけることはできないからである。特にNet Meetingは無料で誰もが持っている点が素晴らしい。Cu-SeeMeもバージョンアップして、かなり使いやすくなった。
 安価であるだけに、いかなる状況でも快適に通信できるというわけにはいかない。協力校と実験をくり返しながら、よりよい設定や使い方のコツを学んでいく必要がある。
・外付けスピーカーとヘッドセット
 実際の校外学習では、周りの騒音で音声が聞き取りにくい。そこでメインにやりとりする児童はヘッドセットの使用が大変有効である。また、そうすると周りの児童には相手校の音声が聞こえなくなるため、アンプ内蔵の乾電池式外付けスピーカーが必要である。B5ノートパソコン内蔵のスピーカーは貧弱なため、複数人で聞くには不向きである。従って音声出力端子には二股分配機をつける必要がある。こうして、取り回しの良いことを目指した校外学習機は、必要に迫られて次第にコード類が多くなってしまうのである。
・屋外用出前箱(写真参照)
 屋外からの校外学習であると、よほどの曇天でない限り、液晶画面が大変見にくくなってしまう。そのため周辺を囲って暗くする必要がある。写真は、地域のお年寄りに麦踏みを習う際使用した、「屋外中継出前箱」である。このような工夫は不可欠である。
 
 




写真:屋外用出前箱


(2) 設定

CU-SeeMe Proの設定(低速回線でも良好な送受信をするために、双方で合わせる)
起動後−[カンファレンスコンパニオン]−[ツール]−[プリファレンス]
   −[ネットワーク]ネットワーク帯域幅で「モデム56k」を選択
   −[拡張設定]オーディオは「G723 5.3kbps」を選択
          ビデオの「選択可能なビデオコーデック」は「H.263」を選択
          「ビデオサイズ」は「QCIF」を選択
通信上のコツ
 ハウリングする場合はオーディオを「全二重」にせず、話す時だけマイクスイッチを押して話すと聞きやすくなった。
 電波状況の悪い時は、「静止画像」にすると、その分音声の通りが良くなるようだ。
児童に「ゆっくり」「はっきり」話すことを練習させる。言葉が終わったら「どうぞ」と締めくくるよう約束する。聞き取りにくかったり、表現が不足したりする場合は、チャットで補足する。
 無償のNet Meetingであれば学校のLANの中で練習しやすいので、チャットや会話の練習をするとよい。ヘッドセットがあると便利である。
 
2 単元名 「私たちの生活と工業生産」自動車を作る工業
(1) 単元について
 近代的な工業では、自動車生産の例に見るように、各関連工場からの部品の供給のもと、組み立て工場での機械を駆使した流れ作業による大量生産により、性能のよい自動車が作られている。よりよい自動車を作るための工夫や努力、関連工場の負担、海外にも広がる自動車生産などを理解させると共に、問題点にも気づかせてゆきたい。
 
(2) ねらい
〈社会科として〉
○自動車生産を例に、日本の自動車工場では、組み立て工場を中心に、各種の関連工場が連携し合っていること、新しい技術の開発や機械化に伴って、人と環境にやさしい車作りがいっそう進んでいることなどを発表できる。
○地図や資料、また工場見学などを通して、組み立て工場や、関連工場の様子、各工場間の相互依存、海外に広がる自動車生産などについてまとめることができる。
〈身に付けさせたい情報活用能力〉
○通信相手の意図をくみ取り、それに沿って応答しようとする。
○見聞きした情報を整理し、相手に分かりやすく伝えようとする。
○相手からの情報を受け読め、さらに質問したり、感想を持ったりすることができる。
 
3 指導計画
○各校、教科書単元に沿って「自動車工業」の学習をする。
○見学校が、自動車工場を見学する旨を掲示板にて発信する。
○見学に行けない学校は、疑問点やさらに詳しく知りたいことを整理しMLにながす。
○各校が掲示板・チャット・MLを自由に使い、児童間で自動車工業についての情報交換を行う。
○自動車工場からテレビ会議を行い、見学の実際を中継、質疑応答をする。
写真:バーチャル校外学習交流掲示板

事前に出された質問例:

僕達、私達は自動車について調べています。しかしまだわからないことがあります。それをできれば作野小学校のみなさんに聞いてみたいのですがよかったら教えてください。
・工場内のそう音は、どれぐらいの、大きさですか。耳が痛くなるほどですか。それとも、あまり大きくないですか。
・電気自動車は、1kmにどのくらいの電気を使うのか?
・車の部品を傷つけないないための工夫は?
・自動車工場のエンジンを作っている場所は、どのようなにおいがしますか?
・働いている人達は、売り上げを上げる工夫は、していますか?また、あるなら、どんな工夫ですか?教えて下さい!!
 
4 学習の展開記録(10月10日実施)


時間

自動車工場見学校

教室待機校
9:30


10:35







11:00
 
・事前に打ち合わせた観点で工場内を見 学。記録を取ったり質問したりする。
(テレビ会議には代表6名が対応)
・テレビ会議接続
・あいさつ
・事前に受けていた質問事項に回答す 
 る。
・分からないところは、担当者に答えてもらう。
・即答できない質問については、後日メールで返事をもらう。
・おわりのあいさつ
 
・さらに聞きたい内容がないか確認
・テレビ会議準備
 (学級の全員が参加)

・あいさつ
・質問をし、回答を聞く。


・さらに生じた疑問についてたずねる。


・おわりのあいさつ
 

写真:テレビ会議

児童のやりとりから
Q:工場では、一日に何台くらい作っているのですか。僕たちは、一日に500台ぐらい作られていると思います。
A:工場では1日に2900台くらい作られています。(…どよめき)
Q:ハイブリットカーは、一般の乗用車と比べて、どのくらいの排気ガスをへらすのですか?
A:排気ガスの二酸化炭素が2分の1になります。
Q:プレス工場では、耳栓をして作業していると本に書いてあったのですが、耳栓だけでプレスの音はしのげるのですか。
A:私たちは組み立て工場を見たので、プレス工場の音は分かりませんが、組み立て工場の音は、あまりうるさくなかったです。
 
授業後の子どもたちの感想
児童A:ぼくは自動車のことが好きなので,中原小の子の質問にいっしょうけんめい答えました。中原小の子に工場見学の説明をすることになっていたので、気合いを入れて見学しました。代表になってテレビ会議に参加できてとてもいい経験になりました。
児童B:ぼくたちの街はトヨタのすぐ隣だから,自動車工場見学がかんたんにできるけど,そうでない学校が多いことにびっくりしました。ぼくたちは恵まれているんだなあ。だから,見学できない子たちの分まで,細かいところまでよく見て見学してきました。他の学校の子と勉強するのは楽しいです。
 
5 成果と課題
(1) 成果
・発信側としては、実際に自動車工場を見たことのない友だちに、自分の見聞きしたことをしっかり伝えなければという意識があった。そのために細部にわたって注意深く見学をすることができた。
 また、必ずしも良いとはいえない通信状況の中で、ことばを選びながら、ゆっくりはっきり相手に分かりやすく話そうとする工夫があった。他者に伝えようとすることで、情報を整理し、考えをまとめるなど、より学習が深まったと考えられる。
・受信側としては、事前の調べ学習をじっくりと行い、分かることと分からないことをきちんと整理することができた。また、同じ学年の友だちの言葉で説明されることで、より理解が深まったようである。
 
(2) 課題
・ハード面では問題が多い。特に電波状況はいかんともしがたく、事前の見通しが甘かった。例えば瀬戸からの中継は良好であったが、埼玉県東秩父村から紙すきを発信しようと試みたが全くの圏外であった。今後の通信機器の発達を待ちたい。使用機器においては、よりよい装備を追究すると次第に外付け品やコード類が増え、結局使いにくくなってしまう。このマイナス面を少しでも軽減するためには、校外学習の下見を周到にし、事前に担当者との打ち合わせや、立ち位置を検討しておく等の準備をすることくらいであろうか。
 
ワンポイントアドバイス

・事前にメール、掲示板、チャットなどを使い交流を深めておく。見学の観点や疑問点をやりとりしておくことで、当日が生きてくる。
・中継では、なるべく現物を見せるようにする。また、専門家にそばにいてもらって質疑応答すると良い。
・なるべく実施する場所、時間帯で通信実験をしておく。見学先担当者との打ち合わせは不可欠。工場などは撮影禁止の所も多い。
 
 
参加・協力校等
愛知県安城市立作野小学校 千葉県柏市立中原小学校 三重県美杉村立太郎生小学校  千葉県袖ヶ浦市立平岡小学校 柏インターネットユニオン(テレビ会議Meeting Point )
 
参考文献
「翼をもったインターネット」影戸 誠  日本文教出版