学校ミニ図書館化による情報教育の展開
〜オープンスペース分散配置図書のネットワーク管理をめざして〜

神奈川県横浜市立本町小学校


インターネット・図書検索ソフト利用の意図
 本校は,オープンスペースの学校であるがゆえに,「学校のどこにどの本があるのか分からない。」「貸出返却は学年毎に行わないと,管理ができない。」などの問題点がある。また,本校至近にある横浜市中央図書館は,最新の図書検索システムを導入しインターネット検索も公開している。徒歩5分のこの施設との連携を図ることも重要である。分散配
置されている図書を「いつでもどこでも検索・貸出」体制が実現されることを目指した。


1.単元名「ブックトークを楽しんで本を読もう」
 1)ねらい
○わら細工作りをきっかけにして,イネに関わりのある本や手紙,詩などの本をブックトークで紹介し,なかなか読むことのできない本に親しむことを考えている。
○また,市立図書館の方のブックトークをきっかけに児童が読書に親しむばかりでなく,校内の図書を簡単に検索したり,インターネットで検索したり,市立図書館に行って図書を読んだり,市立図書館の方とふれあったりすることも期待する。
 2)単元目標
○図書館の方のブックトークを関心をもって聞き,読み物を楽しんで読もうとする。
○ブックトークの内容の大体を聞き取り,読みたい本を見つけることができる。
○ブックトークを聞いて思ったことを話したり,手紙に書いたりすることができる。
○テーマとの関わりから,物の名前や事象などを表す言葉に気付くことができる。
 3)利用場面
○ブックトークの後,様々な図書に興味関心をもった子供たちが自分のテーマに合った図書や好きな作者の本を探す際に活用する。その際,参考図書の閲覧に加えて,図書検索ソフトウェアとインターネット検索も可能な状況にしておく。本実践では低学年のため,簡単な検索にとどめるが,今後ネットワーク対応検索・貸し出し返却に発展し,高学年での委員会活動など積極的な活用が期待される。
 4)利用環境
○図書検索ソフトウェアについては,本実践ではネットワーク対応版の導入が間に合わなかったため,スタンドアロン版一台での実践となった。今後は学年1台の窓口クライアントを配置し,全学年での貸し出し返却システムへと発展させる。
○インターネット検索については,横浜市中央図書館・神奈川県立図書館の検索システムへの小学生版リンクを行っている。また,キッズリンクなど子供向け図書紹介コーナーへのリンクによる対応も行っている。
2.指導計画・指導案
 1)学年・組・人数・指導者 2年1グループ37名 平野進
 2)単元名 「ブックトークを楽しんで本を読もう」
 3)単元について
 (1)児童の実態と教師の願い
 1学期からの読書タイムに教師の読み聞かせを行ってきた。関心をもって聞き,そして,自分でも読みたい本を探し進んで読むようになってきた。2学期からは,地域の協力者による読み聞かせも始まり,楽しい絵本の紹介もあり,本に親しむ態度が少しずつ育ってきている。まち探検で図書館を訪れた時にも,本を借りる児童の姿も見られた。
 また,児童は5月からはイネを育て,籾蒔き・田植え・稲刈り・脱穀等を経験してきている。そして,数日後には育ててきたわらを使ってわら細工を行う予定である。
児童は,わら細工をつくること や読書をすることを楽しみにしているところである。
 さらに,1月より暫定的ではあるが,図書検索ソフトウェアの導入が進み,市立図書館と同じように学校内の図書を検索できるシステムが構築されている。インターネット検索・図書検索ソフトウェア・ブックトーク紹介をうまく組み合わせて,児童の読みたい本が簡単に手にはいるようにしたい。
 (2)学習活動を効果的にする情報・資料活用と図書館のあり方
○児童が意欲的に本を読むということを考え,今回は数日後に迫ったわら細工作りをきっかけとしたブックトークとした。児童の興味や関心と結びついた活動となろう。
○資料ということを考えると,なかなか学校だけではそろわなかったり,分散配置の書架のどこにあるのか分からないということがあげられる。そこで,今回は市立図書館の方のお力添えをいただき,より多くの図書を準備し,児童の思いに少しでも添えればと考えた。
○地域で児童が育っていってほしいということもあり,市立図書館の方に依頼することとした。これをきっかけに読書に親しむばかりでなく学区の図書館を利用していく態度も身についていってほしいと考えている。
○自分の興味のある本を探す手段として,インターネット検索や図書管理ソフトウェアがあることを知り,市立図書館の検索システムと合わせて,自ら進んで活用していく態度を身に付けていってほしいと考えている。
 4)指導計画


5)本時展開



 
ねらい
 市立図書館の方のブックトークを興味をもって聞き,楽しい本がいろいろあることを知る。また,自分が読んでみたい本を見つけ,読もうとする。





























 
   学 習 活 動 の 流 れ と 支 援

1 本時の主題を確認する。
市立図書館の方のブックトークを楽しんで本を読もう
  ○市立図書館の方を紹介し楽しくブックトークできるよう雰囲気づくりに努める。

2 市立図書館の方のブックトークを楽しむ。
  ◎市立図書館の方のブックトークを楽しもう
  ・あっ,教科書にでているお話の作者が書いた本だね
  ・手紙の出てくるお話の続きもおもしろそうだよ
  ○児童の素直な感想を大切にし,読書に結びつくように取り上げる。

3 自分で読んでみたい本を選び読んでみる。
  ◎本を選んで読もう 
  ・いっぱい本があるな    
  ・へえ。コンピュータでも調べられるんだ便利だな。図書館と同じだ。 
  ○児童が選択できるよう本を見やすく並べる。
  ○図書検索ソフトウェアやインターネット検索も使えるようにしておく。
  ○なかなか選択できないでいるAさんには,どんな本が読みたいのか聞き,
   一緒に探したり,中身を読んであげたりして選択できるようにする。

4 本時の学習を振り返る。
  ・いろいろな本を紹介してくれてうれしかったな。
  ・また,コンピュータを使って読みたい本を探してみよう。
  ○市立図書館の方にお礼をいい,明日,続きを読むことを伝え,楽しく読み続け
  られるようにする。
 
 
ブックトーク本の紹介場面
インターネット検索場面

図書検索ソフト画面

3.学習の展開
 本校では,毎週水曜日の朝15分間,地域協力者による「読み聞かせ」の時間を実施している。この時間は早朝と言うこともあり,参加者の多くは保護者であるが,図書の選択・貸し出しなどについて学区内にある横浜市中央図書館の方にもご支援をいただいている。
 今回の授業では,その発展として横浜市中央図書館の方にご来校いただき直接子供たちに語っていただくこととなった。また,事前に「稲」に関する図書をまとめて貸し出ししていただき,図書検索システムにも事前に登録しておくことで,コンピュータ・ネットワーク活用も図った。
 子供たちは,横浜市中央図書館の方のブックトークをたいへん熱心に聞き,読書への興味関心が大いに高まっていった。
 自分で読みたい図書を選ぶ時間になると,まずは多くの子が学習センターに並べてあった図書に向かっていった。この段階では,身近な具体物(図書)があるため,コンピュータ・インターネットへ向かう子はいなかった。
 しばらくして,本を選び直したり,2冊目の本を選んだりする段階で,教師側からもコンピュータ検索やインターネット検索を薦め,数人の子が試してみるようになっていった。しかし,あくまでもこれは検索するだけのものであったので,目的の本が見つかるとすぐに並べられている図書コーナーにもどっていった。
 今後,見つけた本の貸し出し返却が手軽にできるようなシステムが構成されれば,2年生でも自らの手で「検索」「貸し出し」「読書」「返却」という流れで読書に親しむことができることであろう。
 また,本時の授業構成とは直接関係ないが,授業後に横浜市中央図書館の方に電子メールでお礼の手紙を書きたいという子もいたことは,図書館と学校がつながることの意味を再認識させられた。

4.成果と課題
 本校は,1985年の校舎建築の際,フルオープンスペースの学校として設計された。そこには図書室という構想はなく,学校中全てが図書室つまり一つの図書館として機能することが想定されていた。しかし,現実には「学校のどこにどの本があるのか分からない。」「貸出返却は学年毎に行わないと,管理ができない。」などの問題点があった。
 また,本校至近にある横浜市中央図書館と神奈川県立青少年図書館は,最新の図書検索システムとバーコード貸出返却システムを導入している。必要な図書を学校で探すよりも地域図書館で探す方が簡単という逆転現象を解消することも必要なこととなっていた。
 学校中に分散配置されている図書を「いつでもどこでも検索・貸出」体制が実現されることは,今後の学校教育にとって重要なことである。そのことを目指して今年度の研究は進められたが,実際には予想を超える障害により計画は遅れてしまった。
1)実施スケジュールの遅れ
 当初計画では,10月にはシステムが稼働し,1月にはネットワーク対応版を活用した授業実践を公開する予定であった。しかし,ネットワーク対応版図書検索システムが予想よりもはるかに高額(公立図書館などと同等システムで数百万円)であり,しかも小学生が簡単に使えるユーザインタフェイスがなかなか見つからなかった。
2)実施環境の縮小変更
 当初計画では,全クライアントでの図書検索・図書貸し出し返却を構想していたが,これもシステム価格の問題により変更せざるを得なくなった。そこで,最小システムとして,6学年それぞれが独立して貸し出し返却を行うことができ,図書検索に関しては全館ネットワークを生かしたものとする方向で再検討を行うこととなった。
 11月になり,ようやく地元神奈川県の企業で「エル・メイト」というソフトウェアを2001年5月に小学校ネットワーク対応版を公開予定で共同開発することで合意して,システム導入を進めることとなった。そのため,1月の公開授業研究における使用状況は,前ページまでの報告の通り,スタンドアロン版での暫定使用授業となってしまった。
 また,2年生のメディアリテラシーでは今回のように,1)ブックトークによる具体的な図書紹介,2)インターネットによる情報検索,3)図書検索ソフトウェアによる検索という他メディアの活用による授業実践には多少無理があったように感じている。
 本原稿を執筆している現在も,ネットワーク対応版の正式稼働に向けて全校図書約4000冊のデータ入力を5年生情報委員会が進めている。(1月の授業実践では,「稲」に関する図書データしか入力していなかった。)この作業を行っている子供たちの本システムに対する期待感はたいへん大きく,データ入力から自分たちの手で行っている手作りの全館ネットワーク図書管理システムの意識が高まっている。
 本報告は,2001年1月31日の段階のため,年度を超えた5月にずれこんでしまった本格稼働の報告が含まれないことをお詫びするとともに,今後の課題として,2月以降も活動を継続していくことを明記して報告とさせていただく。