学外インターネット利用情報共有構築実験
―学校外からインターネットとできる教科での利用―

中学校1年・数学
應義塾普通部
数学・コンピュータ  荒川 昭
arakawa@kf.keio.ac.jp
http://www.kf.keio.ac.jp/~arakawa/dmc/index.html

キーワード 学習指導要領、デジタルコンテンツ、3つのコミュニケーション、数学


インターネットの利用の意図
 2001年度に全国の小・中・高等学校にインターネット環境が、2005年には各教室からインターネットの接続環境が提供され、インフラが整備されてくる。平成6年度から始まった100校プロジェクトのように、先進的なプロジェクトから、どの学校のどの先生も利用できる便利な教育のツールとして、インターネットの教育ツールとしての位置付けが大きく変わってきている。
 このことはパソコンの導入率や教員のリテラシーなどが大きく変化してインフラ面での整備がされて、どのように利用されるべきかミレニアム・プロジェクトのなかでも述べられている。
 100校プロジェクトなど先進的なプロジェクトでは様々な利用法が提案されてきており、メールやWEBの掲示板、Cu-SeeMeNetmeetingなどを利用した学校間交流や、調べ学習などの情報検索や協調学習などのプロジェクトベースのインターネット利用中心に提案されている。しかし、プロジェクトベースの取り組みは、いくつかの問題があり、生徒が問題解決の手続きを学んだり、生徒のモチベーションを高めるには有効であるが,授業時間の中でプロジェクト活動を実施する時間の確保や、生徒が学ぶ学習指導要領の範囲の問題がある。
 日本のように学習指導要領で学習する学年や内容が定まっていると、プロジェクトが学習範囲を超えてしまうために制限されることなど起こる。
この中、本プロジェクトでは普段の授業について、文部科学省のデジタルコンテンツのプロジェクトとリンクしながら、学習指導要領に沿った授業で使えるコンテンツの開発をおこない、それにコミュニケーションツールの利用を考えた数学デジタルコンテンツ(DMC)を開発した。これによってデジタルコミュニケーションをとることができるようになったので、いつでも(学校の授業以外の時間)、どこでも(教室以外の場所)、インターネットの利用環境があるところで利用することができ、従来の生徒―教師のコミュニケーションに加えて、共通の学習指導内容について教員同士でのコミュニケーションや教員と保護者のコミュニケーションを図ることができる。コミュニケーションツールは、コンテンツを入れ替えることによってどの教科でも利用することができ、生徒が授業に欠席した場合、従来はなかなかその内容を知ることはできにくかったが、欠席した生徒のキャッチアップすることができる。また、前段階として、インターネット技術としてデスクトップパソコンへLINUXのインストールをおこなったり、学校活動の保護者への情報開示のアンケートをとることで、学校はどのような情報を保護者に示すことを期待されているかの調査をおこなった。今後のインターネットの重要な位置付けとなると思われる。

1.単元名 関数
ねらい日常の事象を数学的に処理することによって、数学のよさを味わう。
事象を変化と対応の考えで見る目を養う。
身近な事象の中から、ともなって変わる2つの数量を取りだし、それらの変化や対応の関係を考察する能力をのばす。変数と変域の意味を理解する。
指導目標
1年の関数では、事象の中からともなって変わる2つの数量を取り出すことが大切である。多くの事象の中から2つの数量を取り出して、その関係を考察することができる能力を養う。
比例・反比例については小学校でも学習しているので、その基礎にたって比例・反比例の考え方は同じであること、変域を負の数の範囲にまで拡張したことによって、表・式・グラフの表現に変化が及ぶことを捉えさせる。
グラフの扱いでは、曲線として扱うのは初めてであるので、座標平面上に点を多く取り、実際にグラフをかき、滑らかな曲線になることを理解できるようにする。
  1. 事象の中から、ともなって変わる2つの数量を取り出して、その変化や対応の仕方に着目し、関数関係の意味を理解する。
  2. 関数関係を表すのに、表、式、グラフなどが用いられることを理解し、それらによって、関数関係の考察ができるようにする。
  3. 変域を負の数の範囲まで拡張して、比例・反比例の式とグラフの特徴についての理解を深める。
利用環境 コンピュータ教室
     NEC pc9821Xa13 pentium133MHZ 24M 1.3G 生徒用 48台  
     NEC Multisync pro15           生徒用 48台
     Internet Explorer
2.指導計画
時数 指導内容

変化と
対応

 
ともなって変わる2つの数量
○日常の事象の中に関数関係を見出す。
○変数、変数の意味、変域の表し方
○関数の意味
○関数を表・式・グラフで表すこと
2比例

反比例
比例

 
 


 
 

○比例の関係を関数としてとらえること
○比例の関係はy=axの式で表せること
○比例する2量の関係を式に表して問題を解くこと

 
 
 
 

座標と比例のグラフ

 
 

○座標の意味を知り,平面上の点の位置を座標を使って表すことができるようにする。
○比例のグラフの特徴を知り、平面上の点の座標を使って比例のグラフをかくことができるようにする。


反比例 ○反比例の関係はy=a/xの式で表せること
○反比例のグラフの特徴を知り、そのグラフをかくことができるようにする。
○反比例する2量について、問題を解くこと

 指導案
学習活動 留意事項 備考

ログイン

予習問題を各自がとく。

2つの数量で正比例になっているものを答える

扉のページのコンテンツを見る。
問題を読んでから
ビデオのコンテンツをみて
観覧車の問題を考える。

生徒に質問機能で答えさせる。

変わる量と変わらない量について考えを発表

次のページへ
生徒1人1人がログインして、予習問題のページをみて問題を解く。

全員が解き終わっていそうな時は、集計機能を利用して、生徒の理解度を確認しておく。(図)

 
 
ビデオコンテンツ見せて
考えさせる

 
質問機能で送られた答えや質問を見て確認しておく。
インターネットの利用

デジタル数学のコンテンツのページにインターネットエクスプローラーを利用してアクセスする。

初めての場合は、生徒各自がログイン名とパスワードを設定する。

予習機能の利用

質問機能・わかったボタンの利用

 
リンクしているので次のページへ
問1 右の図のような窓があります。    
この窓をあけていくとき、開けた部分の横の長さにともなって変わる量は何ですか。いろいろあげなさい。
イメージが沸きにくい生徒にはアニメーションを見せる。 

変わる量を見つけ、それらをノートにまとめよう。

 
 
問3のコンテンツを見て
表の値を考えていく。
このアニメーションの動きと実際の窓の開け閉めとの違いを意識させる。

動いて変わる量をまとめる

面積について

長さについて

 
 
アニメーションを見てイメージを持ってから考える。

数量を入れる意味を意識させる。

例えば、上の問題で数量関係はどの時に必要となるのかを考えさせる。
問3 前ページの問1で、窓をχcm開けたときの開けた部分の面積をcm2として次の表を完成しなさい。
χcm  0  10  20  30  40  50  60  70  80 
cm2  0


yの値の求め方の確認

xが90の時のyの値を聞いて見る。

アニメ-ションでみた時にどこに数量関係が必要か確認する。

復習問題を解く

長方形の面積として
y=90χの式を利用して求められることを確認する。

χの変域
yの変域についてまとめる。

 
 
 
 
 
 
 
 
最後に復習問題を解く
理解度を確認する。

3.学習の展開
 文部科学省のデジタルコンテンツのプロジェクトともリンクしているが、まず授業に必要なデジタルコミュニケーションを授業前コミュニケーション、授業中コミュニケーション、授業後コミュニケーションの3つのコミュニケーションにわけた。
 それぞれ授業前のプレテスト、わかったボタン、質問機能、復習機能などの機能として、デジタルコンテンツとして音声や動画を取り入れた教科書準拠のコンテンツにさらに、コミュニケーションツールをプラスして効率良く授業ができるようなツールを作成し、このDMC(デジタル数学コンテンツ)を利用して授業を行った。
3.1 授業前機能(プレテスト)
図1プレテスト機能
生徒は各自で答えを入力する。(図1)この結果は教員だけが見ることができる。クラスの生徒の理解度を確認しながら授業に臨むこととができ、個人の履歴を授業後に見ることができる。
3.2 実際のコンテンツ画面
図2 実際のコンテンツ
ビデオやflashをとりいれたデジタルコンテンツでさらに質問やわかったボタンが利用できる。(図2)

3.3 復習機能
図3 集計機能 図4 復習機能
本時の授業が解答の集計、分析する機能(図3)や復習テスト(図4)を設計した。
4.成果と課題
本時の授業について生徒に無記名でアンケートをとった結果が次のようになった。
5はとても強くそう思う、またはとても良い 3がどちらでもない、1はとても強くそうは思わない、またはとても悪いということで、アンケートを実施した。
表1 本授業やシステムについてのアンケート


5

4

3

2

1

合計
平均
標準偏差
コンピュータリテラシー

51

57

50

41

16

215

3.40

1.24

インターネットを使いたいか

137

50

24

2

2

215

4.48

0.80

授業前調査

35

66

82

8

9

200

3.55

0.97

授業中の質問機能

39

66

76

9

4

194

3.65

0.92

授業後の調査

31

49

98

7

5

190

3.49

0.90

動画・音声の利用

87

60

35

6

8

196

4.08

1.05

今回の動画・音声の利用

73

69

38

6

6

192

4.03

0.99

今回の解説

44

74

62

12

2

194

3.75

0.91

集中度・自己評価

28

72

59

33

9

201

3.38

1.05

関心・自己評価

63

76

43

11

7

200

3.89

1.03

興味・自己評価

64

75

46

8

8

201

3.89

1.03

理解・自己評価

71

75

37

8

8

199

3.97

1.03

本システムを利用しますか。

51

57

43

19

28

198

3.42

1.34


 表1の結果をみると教科書などでは表現に限界があるが、マルチメディアを利用して、音声やビデオを取り入れたコンテンツについても期待していて、今回の利用についても評価が高かった。また、それぞれの機能についても生徒が良い評価している。また、実際の場面では家でも利用できるどうかを10人ぐらいの生徒から質問され、日頃数学が得意でない生徒も予習問題の答えを積極的に確認してくるなど授業に積極的に参加する意思があった。まだ、開発のコンテンツが一部しかないという問題もあるが、学習指導要領に沿ったインターネットを授業で利用するという新しい方向性は良いことが確認され、今後このような形で、家庭からも授業用のコンテンツを学習することができると、教師間のコミュニケーションや不登校の生徒に対しても授業を提供ができ、インターネットについても普段の学習に利用できるようになる。
ワンポイント・アドバイス
 この取り組みの中で,コンテンツにビデオを取り入れた。現在はrealvideoやwindows media playerなどがデジタルビデオをエンコードして、インターネット上でも見る形式に変換してくれる。しかし、ビデオは圧縮すると画質が落ち、不鮮明で見ることができないなどの問題点がある。このあたりは回線が太くなると帯域の問題が解決されて良くなると思われる。本プロジェクトでは今後インターネットを利用してコンテンツを評価してもらう予定である。もはやインターネットは特別なときに利用するのではなく、いつでも、どこでも、学習の場をインターネットの接続環境のあるところに変えていくと考えられる。このプロジェクトに興味のある方は荒川までメールしてください。
参考文献 学校図書 中学校数学1