インターネットと図書資料を用いた「検索の女王」コンテスト
〜メディア・リソース・センタを利用した複合的な情報検索の試み〜

桜丘女子中学・高等学校 http://www.sakuragaoka.ac.jp
検索の女王コンテスト http://www.sakuragaoka.ac.jp/kensaku/
品田 健(国語科) shinada@staff.sakuragaoka.ac.jp
キーワード/総合的な学習の時間,調べ学習,検索,図書館,グループ学習,コンテスト


インターネット利用の意図
 体験的に「有効かつ正確」な情報の取捨選択能力を育成することを意図して,様々なテーマに関する問題をグループで検索方法や検索結果を検討しながら回答するコンテストを行うことを企画した。コンテストの会場として図書資料とインターネット検索を自由に行える空間であるMRC(メディア・リソース・センタ)を用意した。インターネット上の情報の「即時性,多様性」を特に意識させたい。

1.「検索の女王」コンテスト
 (1)ねらい
 本校ではコンピュータを使った教育を以前から進め,インターネットを教育活動に活用しようという試みを様々に行ってきた。その成果として生徒が作成したWebページがいくつかのコンテストなどで高い評価をいただいている。これらの取り組みの中で私達は調べた情報の「正確さ」というものの重要性を痛感した。図書資料で得られる情報のように,その情報の正確さに高い信頼を置けないのがインターネット上に存在する情報の現実であることを認識してはいたが,どこからどのように情報を得て,どのようにその正当性を評価するのか,教育の場でのアプローチに苦心していた。
 幸いにも学校全体の改修によって図書資料とインターネットに無線LANで接続可能なノートパソコンがそろった新しい形態の図書館であるMRCが完成し,この環境で決められたテーマについて複合的な情報検索を行い,集めた情報について比較検討することが効率的にできるようになった。授業での情報検索学習の成果を確かめ,また生徒に対する「情報の正確さの重要性」の意識づけを高めることをねらいとして本コンテストを企画,運営している。

(2)利用環境・稼働環境
 本コンテストはMRCを会場としている。本校のMRCについて次のWebで紹介しているのでご参考いただきたい。(http://www.sakuragaoka.ac.jp/shs/stimes/no161/P1.htm

 
2.決勝までの計画と展開〜「検索の女王」コンテスト2000秋〜
(1)企画《7月〜》
 コンテストの企画・運営は実行委員会で行っている。この委員会は元々分掌上に存在したものではなく,私を含む数人の教員が雑談の中で思いついた企画を,校内の分掌である「教際化委員会」に取り上げてもらい,教際化のメンバーと情報科の教員,有志教員の集合体として成り立っているものである。分掌としての仕事ではなく,教育活動において教科を超えてメンバーが集まって活動しているというのは本校で進めている「教際化」の一つの成果と自負している。もちろん学校に開催を認定してもらい,全面的なバックアップを受けている。

(2)事前指導《4・5月》
 インターネットを使った情報検索に関しては,中学生はコンピュータの時間,高校生は情報の時間を使って検索エンジンの種類や使い分け,キーワードの選び方などについて指導した。本校では入学と共にIDとパスワードを発行し,校内のコンピュータを活用させているため,6月の大会前にこれらの指導は終了していた。また,MRCの使用方法についても入学後のオリエンテーション期間に情報科と司書から説明をクラス毎に行っている。よって,生徒は日頃の学校生活の中でMRCを使った情報検索は行っているので,今回の大会前には特別に指導をする必要はなかった。

(3)作問《10月〜》
 当初は委員会のメンバーのみで作問を行っていた。しかし過去2回の反省として,どうしても出題分野に偏りが生じてしまうことがあり,問題をジャンル毎に出題する方式を採ると共に,教際化の委員を通して各教科での作問を依頼することにした。
 結果的に今まで以上に幅広い分野から多くの問題が集まり,出題内容も専門的な視点での検討が加えられたものとなり,意図したことがかなり達成されたように思う。加えて,ネイティブ・スピーカの教員が作問に関心をもって取り組んでくれて,コンテストに新たな刺激を与えてくれたことも大きい。
 また,出題内容が雑学的なものになりがちであるので,大学入試問題などを踏まえた出題も意識してもらうようにした。出題の際に,大学入試で類問があることを示したが,特に高校高学年では関心が高まったようである。答をテキストではなく,社会に存在する情報の中から自らで探し出すことができるという体験は自律的な進学教育への展開にもつながるのではないだろうか。
 出題ジャンルは試験的に国語・英語・科学情報・社会・保健スポーツ・生活一般とした。どの分野に含めるべきか頭を悩ませるものもあり,ジャンルについてはまだ今後の検討が必要であると思われる。
 
(4)予選
 予選は各クラスのコンピュータ,もしくは情報の授業で行い,成績上位の1チームをクラス代表として選出する。参加は中学全学年,高校は情報の授業がある1年生からは全クラス,2・3年はクラスや担当教員の申し出によるとした。第1・2回コンテストで優勝を逃したからか,受験を控えた高校3年生からの参加もあったのは少々心配もしたが,嬉しいことであった。
 授業内での予選となるため,情報やコンピュータの授業がないクラスは担任と相談の上,ロングホームルームの時間をもらって実行委員の何名かが手伝いに行って予選を行ったりもした。
 予選問題は第2回までの問題や使っていない問題のストックを使って,そのクラスを担当する情報科の教員にお願いしている。作問,実施時の監督,機器のトラブルシューティング,採点までと授業担当者の負担は非常に大きいが趣旨に賛同してもらい協力を得ている。
 予選の結果,各クラスから16チーム,そして第1・2回で連覇した高校2年のチームをシードとして加えたため,合計17チームが決勝に進出した。
3.決勝 《1125日(土)》
(1)日程
 中学1年から高校3年までの参加となるので,各学年の放課後講習や行事の都合を考慮すると日程の設定がなかなか難しい。また,MRCをコンテストで貸し切ることになってしまうため,一般の生徒の使用を2時間近く制限することもあって,できるだけ支障のない日程を設定するように心がけているが調整には苦労している。
 
(2)係分担
 係は次のようなものを設定している。
  • 決勝問題まとめ,ルールブック作成
  • コンピュータ準備(時間節約のため,事前に設置,動作確認をしておく)
  • ビデオ撮影(監督,トラブル対応と兼務)
  • デジタルカメラ撮影(監督,トラブル対応と兼務)
  • 司会進行,ルール説明
  • 監督兼トラブル対応
  • 採点・参考資料検証(当日参加教員全員)
  • 発表(結果張り出しと終業式での表彰)

  • (3)スケジュール
     決勝は以下のようなスケジュールで行った。
     11401230 MRC会場準備(コンピュータ準備)
     13001315 入室・場所抽選・ルール確認
     13151355 コンテスト(実施時間40分)
     1400       MRC明け渡し
     1430〜    採点・参考資料検証,反省会
     
    (4)ルールブック
     ルールブックは毎回改訂を行っている。今回は,ジャンル毎の出題・優秀賞の授与,決勝時間の変更などを改訂した。
     *ルールブック抜粋*
    ◆チーム編成
    ・1チーム2or3人とする。一般参加チームはコースや学年の組み合わせを問わない。
    ◆問題
    ・決勝問題は30問とする。
    ◆使用パソコン
    ・MRC内のノートパソコンのみをチーム毎に1台使用。開始前にNetscapeCommunicatorを起動して動作を確認する。問題があれば挙手し,コンピュータを交換する。問題提出後に交換することは原則として認めない。NetscapeCommunicator以外のアプリケーションの利用は禁止。検索エンジンは桜丘情報教育メニュー内のBR> ◆図書(資料)の使用
    ・MRC内の図書については,各グループ同時に2冊まで使用可能。(中略)手に持っていたり,床に置いてはいけない。いちいち返却すれば、最終的には何冊でも見ることはできる。使った資料は必ず元の場所へ返す。図書の取り扱いも審査に含まれる。取り扱いマナーの悪いチームは減点の対象となる。
    ◆予選中の諸注意
    ・MRC内のルールを守る。大声を出す,走り回るなどの行為は減点。
    ◆回答の注意
    ・回答するのに使った資料を明記すること。インターネットの資料はURLを,図書については書名・著者名・出版社名・分類番号・該当ページを記入する。
    ◆採点方法
    ・全問題回答後、提出。教員はその時刻を記録。
    ・正答率,所要時間,減点などを含めて総合判定する。
    (5)決勝問題
     予選が20題,決勝では6ジャンルから5題ずつ,全部で30問の出題とした。
     *決勝問題抜粋*
    @英語分野
    ・英単語の中には「panic=Panという牧神が起こした恐怖」のように,ギリシャ神話に語源がある単語がいくつかあります。皆さんが知っている”music”という英単語も,あるギリシャ神話の中の女神が語源です。では,この女神の名前は何でしょうか?
    @科学情報分野
    ・米国商務省が1999年に発表した報告書での造語で,情報を持つ者と持たない者との格差のことを何というか? 富裕層がデジタル機器を利用し情報を得てさらに経済力を高めるため,貧困層との経済格差が広がるとされる。
    @生活分野
    ・ジェンダーとは何か? @健康スポーツ分野
    ・長年の生活習慣などにより骨の量が減ってスカスカになり,骨折をおこしやすくなっている状態,もしくは骨折をおこしてしまった状態のことを何というでしょう?
    @社会分野
    ・死刑囚として,無実を訴えながら39年におよぶ獄中生活のまま獄死したあるテンペラ画家が関わったとされる,終戦直後の混乱期に起きた大量毒殺事件とは?
    @国語分野
    ・ノーベル文学賞受賞者・川端康成の受賞講演の題は「美しい日本の私」でした。では,1994年にノーベル文学賞を受賞し,「あいまいな日本の私」と題して受賞講演を行った日本人は,誰でしょうか
     ちなみに,問題用紙はステープラなどで綴じてなく,ばらばらにできるようにしてある。チーム内で分担してそれぞれが作業を進めるためで,今回からはチーム毎に問題用紙それぞれにヘッダをつけて認識できるようにした。

    (6)決勝の様子
      
       画像(1)       画像(2)        画像(3)
     事前にノートパソコンはテーブルに出してある。入場した生徒はくじで割り当てられたテーブルに着席してルール確認の説明を受ける。問題配布直後,まずはグループ内で問題を検討してインターネット検索,書籍検索のどちらを使うかを決めてから動き始めるところがほとんどである。(画像(1))1チームにノートパソコンは1台なので,一人がインターネット,残りのメンバーが図書検索となる。効率的に探すには十進法分類とそれに対応した棚の位置が頭に入っていないといけないので,日頃の利用状況が差になって現れる。(画像(2))同じ問題に複数のグループが同時に取り組んでいる為,最も「使える一冊」をいかに探し出すかが結果を大きく左右する。その点,インターネットは同じデータに同時アクセス可能だが,必要なデータの絞り込みが書籍よりは難しい。(画像(3))

    (7)採点
     作問者が用意した模範解答を使って採点を行っている。別解の可能性がある場合は,生徒が解答に記録した資料に実際にあたって確認している。この検証の中で公式と思われるサイトでの誤りを発見したり,また出題者も知らなかった解答を得ることもあり,出題者側も知的刺激をとても受けている。生徒のために始めたコンテストではあるが教員側が得ているものも大きいことは嬉しい誤算である。

    5.成果・課題  総合優勝は前回に引き続き高校2年生のチームとなり3連覇した。2・3位も高校2・3年が占めるかに思われたが,3位に中学生が入賞した。
     コンテストでの取り組みや結果を見てみると,単に知識や学力を問うものではなく,問題解決能力を試すというのがこのコンテストの目指すところであるのだが,その目標に対して本校で行っている様々な「調べ学習」の取り組みの成果が現れているように思える。このようなコンテストを行っていることで,日頃の学習活動の中で自ら調べる姿勢がより促進されることを期待している。
     総合優勝したチームをはじめとして,まず辞書などの情報源の確かな資料にあたり,それで対応できないものをインターネットで調べるという基本方針をどのチームも身につけつつあるようであり,「有効かつ正確」な情報の取捨選択能力の育成という目標も明るい未来が期待できそうである。
     今後の課題としては,まず何よりも問題の精選である。ジャンル分けや進学教育に結びつく出題など試行しているが,誤答分析など行って改善する余地は大いにある。また,「調べ学習」を進学教育に相対するものと考えられることも多いが,進学教育においても問題を自分で解決していくという姿勢は必要であり,これからいかに進学教育と融合させるか,つまりいかに「総合的な学びを経験する場」としていくかが求められていると考えている。
    ワンポイント・アドヴァイス・・・MRCという恵まれた環境に頼るところも多いが,結局は教科の枠を超えて教員同士が楽しみながら進めることができたことが大きい。「総合的な学習の時間」を実りあるものとする為のヒントはここにあるのではないか?