域に根ざした学校を目指して −インターネットの活用を軸に−

                       茨城県立岩井高等学校 齊藤 達也

キーワード 地域社会 インターネット 研修講座 姉妹都市


インターネット利用の意図

 インターネットの活用を軸に、市民を対象にしたパソコン講座や小中学校の教師を対
象とした研修講座を行い、また、英語の授業や英語部の活動に姉妹都市との交流を積極
的に取り込むなど、地域とのつながりのある活動を通して、地域に根ざした特色のある
学校を目指す。 

1 実践内容

(1) 背景
 本校では100校プロジェクト(ネットワーク利用環境提供事業)によって,平成7
年6月にインターネット利用環境が整備され,その後の新100校プロジェクト,それ
に続くE2プロジェクトに参加し,各教科と国際交流でのインターネット利用を中心と
して現在まで活用してきた。また,平成8年度からはその環境を利用して地域との関係
を深めるために,市民講座を開催し,現在まで毎年続けている。これからの新教育課程
も鑑み地域に根ざした学校をめざし,インターネットの活用を考えた。

(2) 実施計画
 インターネットの活用を軸に地域との連携を深めるための活動として,次のようなも
のを考えた。

活動項目 時期 本校関係者 地域関係者
1)市民講座 6月中旬 職員 岩井市民,岩井市教育

委員会

2)姉妹都市(パインブラ

 フ)交換学生との交流

7月中旬 生徒・職員 姉妹都市交換学生,

岩井市姉妹都市委員会

3)岩井市小中学校教職員

研修

7月下旬 職員 岩井市立小中学校教師
4)姉妹都市の学校との

 電子メールによる交流

9〜12月 生徒・職員 姉妹都市の学校の生徒

・職員

5)パインブラフ代表団と

 の交流

11月 生徒・職員 パインブラフ姉妹都市

委員会


(3) 実施結果
1)市民講座(6月中旬)
 岩井市教育委員会の要請で,生涯学習講座「パソコン入門教室」を本校職員約10名
が講師となり、6月13〜16日, 20〜23日の8日間の日程,18:00〜20:30の時間帯で,計
20時間の時間を使い,インターネットを中心としたパソコンの利用法を理解していただ
く内容とした。講座内容は,

講座内容

配当時間

@パソコン(Windows)の基本操作 1時間
Aキーボードタイピングの基本 1.5時間
BWWWの利用方法 1時間
C電子メール 1.5時間
Dワープロ 5時間
E表計算 5時間
Fホームページ作成 5時間
合計

25時間

とし,受講者にパソコンを使って,どのようなことができるのかを体験していただくこ
とを主眼においた。講座の初期の段階において,WWWと電子メールの利用方法について
説明し,講座が始まる前の時間帯を利用して,自主的にインターネットが利用できるよ
うに配慮した。また,その時間帯はキーボードのタイピングの練習にも充てられた。電
子メールは特に講座の参加者間,また参加者と講師とのコミュニケーションに役立てる
意味もあった。指導テキストは,生徒の指導に使用していたものをベースに作成した。

2)姉妹都市交換学生と生徒の交流(7月中旬)
 岩井市では姉妹都市交流として交換学生のプログラムを毎年行っている。姉妹都市の
アーカンソー州パインブラフ市から数人の高校生が岩井市を訪れ,3週間ほどホームス
テイをする。その後,岩井市在住の生徒数人(岩井高校の生徒とは限らない)がパイン
ブラフを訪れ,3週間ほどホームステイをして交流するというものである。パインブラ
フの高校生達が訪れた時に歓迎パーティが行われるが,そのパーティには5年前から英
語部の生徒が参加し,交流を深めた。そのようなこともあり,本校生徒で交換学生とし
てパインブラフを訪れた生徒も数人いた。2年前からはパインブラフの高校生達が岩井
を訪れたとき,岩井市姉妹都市委員会にお願いして,学校を訪ねて貰い授業に参加して
貰うなど,交流する機会をつくってきている。これは,姉妹都市交流をもっと日常的に
するために,パインブラフの生徒と本校生徒ととの交流の機会を増やし,その延長線上
で電子メールによる交流プログラムを実現できればと考えてきたからである。本年は3
人の女子生徒が岩井市を訪れ,本校に来校し,1年生の英語の授業,3年生のコンピュ
ータを使った国語の授業,2年生の書道の授業に参加した。
 また,岩井市主催の交換学生歓迎パーティには一昨年パインブラフを訪れた本校生
徒と英語部生徒数人が参加し,交流を深めた。

3)岩井市小中学校教職員研修(7月26日)  
 本校教師が講師となり、1日の日程で
インターネットの利用を中心に、教材開
発の研修会を実施した。約30名の先生方
が参加し,午前中はWWWを使った情報検
索と電子メールを使った情報交換などの
内容を扱い,午後は本校入江教諭が開発
した「四択問題作成ツール」を使い,参
加した先生方にウェブ教材を作成してい
ただく内容とした。取りあえずブラウザ
があれば教材を提示でき,手軽に作成で
きるので,初心者の先生方にもコンピュ
ータを利用した教材開発も簡単であるこ
とを理解していただけるよう心掛けた。
 LANの構築についても扱うことも考え
たが,時間的に余裕がなかったこともあ
り,今後日程調整がつけば研修会を行うということになった。

4)姉妹都市の学校との電子メールによる交流
 1年生と2年生の英語の授業を使い、パインブラフの高校生との電子メールでの交流
を行うと考えた。そのために交流相手校を探すために,以前岩井を訪ねたことのあるパ
インブラフ在住の方数人に交流相手の学校の紹介依頼のメールを出した。また,パイン
ブラフ市内の高校でホームページを持っている学校にはウェブマスター宛に,交流希望
のメールを出した。しかし,残念ながら調整がつかずにこの電子メールによる交流のプ
ログラムに関しては,実施することができなかった。しかし,今後も相手校との調整が
出来次第,実施の方向で検討していこうと考えている。

5)パインブラフ代表団との交流(11月)
 岩井市とパインブラフの姉妹都市交流
は1985年に始まり,2000年が15周年にあ
たり,パインブラフの姉妹都市委員会の
代表団が岩井市を訪れることになってい
た。前回,1995年に代表団が岩井を訪れ
たときには,そのうちの5,6人の方々
に岩井高校を訪問した。今回も代表団の
方々に本校を訪問していただき,生徒達
との交流をしていただくことを考えてい
た。しかし,代表団の滞在期間が短かっ
たことと,行動予定が直前になってやっ
とわかったこともあり実現しなかった。
 しかし,代表団の中に縄文土器に興味
を持っている方がいたので,考古学の専
門家である本校の社会科教諭にお願いし
たところ,その方のために縄文土器など
を準備してくれた。忙しい日程をぬって
本校を訪れたその方に縄文土器について
解説するという機会を持つことができ,
その場に居合わせた考古学に興味を持っ
ている生徒は短時間であったが,その方
達と交流することができた。
 また,岩井市が主催した歓迎パーティ
には,本校教諭1名と2年前にパインブ
ラフを訪れたことのある生徒と数人の生
徒が参加し,代表団の方々との交流を深
めた。その中で,代表団の方に上記の電
子メールでの交流の計画について話した
ので,今後の進展に期待している。 

6)その他の取り組み
@ 岩井市商工会パソコン講習会
 岩井市商工会からの依頼により,岩井市商工会の設備を使って,生徒達とパソコン講
習会の講師を担当した。第1回は12月6日,13日,20日,27日,第2回は1月10日,17
日,25日,31日の18:00〜20:30の各4日間10時間の講座で,内容はワープロソフトと表
計算の初歩を扱った。受講者はパソコンの初心者で,第1回目が5人,第2回目が6人,
計11名の方々の指導をさせていただいた。講師として参加した生徒は2年生4人,3年
生5人の9名で,12月の前半2回と1月の後半2回を2年生が,12月の後半2回と1月の
前半2回を3年生が担当した。教師1名も講師として加わっていたので指導はほとんど
マンツーマンで行われた。参加した生徒達は,授業や放課後CAI教室に残っていた生徒
達に呼びかけ,募った。講師を担当することに決まった生徒達は,放課後CAI教室残っ
て講習会で使用するテキストを使って自学自習し,わからない部分については教師が指
導した。

A 岩井青年会議所ホームページ作成講座
 岩井市青年会議所の依頼により,3月19日の18:00〜21:00の時間帯でホームページ作
成講座を行う予定になっている。講座の内容は,ワープロソフトを使いホームページを
作成し,完成したhtmlファイルをサーバーに転送するまでを行い,参加者が自分のホー
ムページを立ち上げられるようにすることが講座の目的である。約30名の参加者が予定
され,本校教師数名と有志生徒によって講座を担当する予定である。

B IT講習会
 茨城県からの依頼により,2月19日(月)〜23日(金)の5日間と3月12日(月)〜
16日(金)の5日間の2回にわたって,18:00〜20:30の時間帯でIT講座を担当すること
になった。政府主導で行われるIT構想の一環で県が主催するものであり,内容は,「パ
ソコンの基本操作・簡単な文書の作成・インターネットの使い方・電子メールの使い方
などの基本的な技能」を12時間程度の講習時間で行うものである。受講者は,初めてパ
ソコンに触れる方も対象とし,各回40名で,市民講座と同様に10名程度の教師が毎講座
5人程度になるように分担して行う予定であるが,生徒達にも講座のインストラクタと
しての協力を呼びかける予定である。

2 成果と課題

(1) 実践を終えて
 今回の学校企画では,インターネットを中心とした講座や講習会を実施し地域に貢献
すること,姉妹都市交流を通して地域との繋がりを深めることの2つが中心であった。
前者については,計画以上の依頼があるなど一定の成果が得られたが,後者については
一番取り組みたかった姉妹都市の学校との電子メールによる交流ができなかったことが
残念である。

1)地域貢献
 市民講座については,今年度で5回目となり,市民の間にも定着してきている。また
また,小中学校の先生方の研修会を通して,小中学校の先生方とのつながりもできてき
た。このように学校の持つ施設・設備や技術・知識を地域に還元していくことは今後ま
すます重要になっていくものと考えている。今回のようなインターネット関係以外にも
地域に学校を開放していくことは当然考えられる。かつて学校は地域の文化の中心であ
ったが,その地位を徐々に失ってきたように思う。しかし,今回のIT講習会をはじめと
して,今はその復権のチャンスであると考える。地域に学校が貢献し地域との関係が強
化されることによって,地域が学校を支え,学校の教育力が高まるものと期待できる。
 また,今回行った岩井市商工会の講習会に生徒をインストラクタとして参加させたこ
とは,今後の学校の地域への取り組みについて,1つの展望を持たせてくれた。今まで
も校外清掃など生徒達が地域にでて奉仕する学校としての取り組みは若干あったが,今
回のように生徒1人1人が市民の目に映る形で貢献する場はなかった。参加した生徒達
は,自分の意志で参加し,他の人に教えるということを体験した。教えることの大変さ
や自分の家族や教師以外の大人と接することも体験できたし,何よりも自分の行動が他
の人のために役立つという貴重な体験をすることができた。このような体験は,教育の
中で非常に有効であると考えられる。社会的にはまだ1人前ではない発展途上の高校生
達が,社会のために役立ち,またそのフィードバックとして社会に評価されることは,
生徒達に生きる自信を持たせる。今後,「総合的な学習の時間」の中でこのような生徒
達が主体的に地域に入って貢献していく活動を考えていきたい。

2)姉妹都市交流
 姉妹都市交流については,今年度の取り組みで大きく前進させることはできなかっ
た。交流相手校を決定できなかったことが1番の問題であったが,それはパインブラフの学校
にとって,本校との電子メールによる交流に魅力を感じないことも考えられる。つまり,
本校では英語の授業での交流を想定し,交流を通して英語をコミュニケーション手段とし
て使ってみるという意味を見いだせるが,相手校がどのような教科でどのように対応する
のかまでは考えなかった。

(2) 今後の課題
1)インターネットを中心とした地域への貢献
 地域に貢献していく場合に1つ問題となるのは,教師の負担増であるが,校内研修会な
どによって,学校の中での全体のスキルアップができれば,講座などをより多くの教師で
分担することによって,負担増を押さえることも可能かと考えている。
 また,生徒をこのような取り組みへ参加させていくことの有効性について実感したが,
今後「総合的な学習の時間」での生徒の地域貢献については,学校内で議論して行く必要
を感じている。

2)姉妹都市の学校との電子メールによる交流
 英語の授業での単なる電子メールの交流ということではなく,社会科の授業などで共通
課題をプロジェクトして取り組むという枠組みが必要かと考えている。その時に英語の教
師と連携を行うことで,本校で交流に期待している英語の実践的な利用を実現できる。そ
のためにも姉妹都市の学校と教師間での交流を立ち上げ,インターネットを利用した授業
での交流について話し合っていきたい。
 

ワンポイントアドバイス
 本校のような県立高校は,今まで地域との関係がそれほど密接だったとはいえない。今
後は,新教育課程における「総合的学習の時間」などにおいて地域の協力が必要になる。
また,一方自治省による「日本新生のための新発展政策」(平成12年10月19日)の具体的
な施策として「IT講習会」が学校を中心とする施設を利用して行われることになった。
このようにインターネット環境を利用して,学校と地域とが連携するとてもよいチャンス
であると思う。また,学校の地域貢献に生徒を主体的に参加させていくことは,生徒達の
成長にとっても有効であると思う。