バリアフリーに根ざした学校図書館の情報センター化推進と他校交流

―ボランティアとの相互協力による開かれた学校づくりー

横浜市立盲学校 渡辺浩子(司書教諭)・松田基章(高等部教諭)
ホームページ:http://www.edu.city.yokohama.jp/ss/yokomou/
学校代表メールyokomou@city.yokohama.jp

キーワード:図書館・盲学校・視覚障害・ボランティア・メディア・学校交流



インターネット利用の意図
 視覚障害は情報障害であるとも言われるように、盲学校の生徒および一部教員にとっては、視覚から得られる情報の消失は、各種情報の80%におよぶとも言われる。昨今の急速なIT時代背景の中、図書メディアの急速な変遷の中、インターネットを通じて電子図書館(含む点字)や音声図書館・マスメディアの配信等によってバリアフリーの状況は急変した。その中で、学校図書館の存在意義や在り方も問われている。横浜市立盲学校では、図書館ボランティアを中心に各種ボランティアにご協力いただき、学校図書館の新しい在り方を探り、「どの教室からもインターネット!そして図書検索利用ができる図書館に!」をスローガンに、以下の内容を実現・研究・推進中である。


1.横浜市立盲学校図書館の本年度のねらいと活動内容
 横浜市立盲学校では、昨年来、Network(校内ネットワーク55教室に情報コンセント設置・有線・無線LAN接続可能)利用によるPC活用により、バリアフリーの状況は一変した。現在、児童・生徒は学校に登校するやいなや、パソコン室に飛び込み、新聞のNEWSを聞いたり、交通情報やWEBラジオの音楽を聞いたりする毎日である。図書館においても、今までの紙ベースの図書館からネットワークを通じてどこの教室端末からも、いつでもリアルタイムに利用できる状況が望まれる。

また、授業の中で生徒の興味・関心を高め社会性や人間的な幅を広げる意味で多様なボランティアの協力により、授業に反映させる、短時間で、効果的な授業展開が期待できる。また、情報活用能力を高める上で、インターネットやイントラネットの積極的な活用により、生徒の個に合わせた効果的な指導が期待できる。それらを実現するために、学校図書館としての、取り組みとして、次の(1)〜(9)の活動に実際に取り組むことにした。
  1. 点訳・音訳等のデータの電子DB化(過去のデジタルデータの整理)
  2. イントラネットへの図書データ公開
  3. 辞書CD等の教科等での活用の推進(国語・社会・英語等の活用(一部Web公開)
  4. 図書だより「まつみ」の電子データの発行(校内Web公開)他にも理科室・保健室からもWeb公開中。)
  5. デイジー図書の活用研究
  6. (テープ録音図書のデイジー化) 
  1. 点字データの電子化(各教科等での活用)
  2. 盲学校点字情報ネットワークの活用研究 
  3. 110周年記念式典・校内読書コンクール・読書会(図書館ボランティアの表彰と交流会の開催)
  4. HPで活動内容の一部をweb公開
  5. 音声対応図書管理ソフトウェア・点図活用ソフトウェア等の研究



  蓮の実   テンフレンド 

非公開 交流用掲示板 

図書館ボランティアの活動風景

港北録音グループ

2.図書館ボランティア等の協力体制と内容
 長年にわたりご協力を頂いている図書館ボランティア(約20グループ・のべ約500余名の方々)の活動状況や内容ならびに、今までの、図書館ボランティアとは異なる交流ボランティアやパソコンボランティア等様々な形のボランティアも育ちつつある。
主なボランティアグループ
デイジー横浜
 録音図書等のデジタル化
麦の会
 パソコン点訳・点図
鎌倉市点訳赤十字奉仕団
各種点訳・製本
藤沢点訳奉仕会
 英語・楽譜等点訳、絵本
蓮の実…図書館整備
あじさい/テンフレンド
手で読む絵本
ひまわり…手打ち絵本
花みずきの会…拡大写本
港北録音グループ
 対面朗読
戸塚朗読会
 音声訳          

<その他>
福祉交流 橘女子学園
 −8年目−(高校3年)
市内・県外学校との交流
海外ボランティア等との交流〜
メールボランティア
スウェーデン(在外日本人)
米国(AET)等

 
3.本年度の活動の実施スケジュール

1学期:図書部会内での年間スケジュールの検討・策定。デイジー図書の紹介と校内ネットワークを利用した図書だより「まつみ」の発行。教科での図書館利用の活性化(点訳・音訳等のデータの校内活用)。ボランティアグループとの協力体制の調整。図書館内のネットワーク化・図書整理・電子化の推進。掲示板・メーリングリストの立ち上げ(未公開)。図書のDB化推進・整理。2学期以後の推進案の協議。校内イントラネットの見直し。

2学期:創立110周年記念式典や読書会、校内読書コンクールを軸にした活動と、授業内で校外交流の実施(県外・市内・海外・本校OB等のボランティアとの交流。交流手段:WEB掲示板・メール等)。

3学期:図書管理ソフトウェアの検討(音声対応の開発依頼)。図書だより「まつみ」の発行。学校HPに図書館の紹介や活動動画などを掲載。引き続き他校交流の実施。今年度のまとめ。

4..授業実践事例
1)単元名   ・図書館の機器やソフトウェア・資料をおおいに利活用しよう。

 ・パソコンを自在(メール・HP作成等)に扱おう。
2)実践報告(授業指導略案) 
  1)授業者 高等部普通科 自立活動担当 松田基章 
  2)生 徒 高等部普通科 自立活動「情報」選択生徒     
  3 授業日程及び場所 平成1310月〜 本校3階 図書室 2階パソコン室
  4 利用環境 <1>使用機種 Acer power4100 <2>周辺機器 スキャナー デジカメ
         <3>稼働環境 校内ネットワーク環境 インターネット接続
         <4>利用ソフト 点字編集ソフトウェア「WinBES」
               OCR読み取りソフトウェア「よみとも」 
3 指導計画(基礎練習部分を除く30時間 略案)
指導計画(時間) 指導内容と留意点
1.図書館のメディアの種類を利活用しよう。

(6時間)

 

CD・DVDソフトウェアや辞書各種ソフトウェアの利用法を知る。
校内電子図書館利・イントラネットを活用(WinBES
インターネットの検索エンジンの利用。
メディアの多様な多用途の活用法。(ホームページリ−ダー、ブラウザ) ※著作権保護の観点の指導。

2.点図に挑戦しよう

(6時間)

お絵かきで今年の干支を書こう。(ペイント)弱視生徒が作成
(「麦の会」あうるさんに協力をいただいた。)全盲生徒が点検 
 点図ソフトウェア:「点図くん」(データ変換利用)
2.メールをしよう。
 毎時間扱い 
 (概算計8時間)
・たくさんの人ととの交流。
※ メール交流ボランティアを通じて、社会人としてきち
  んとした対応ができるように指導。
※ メール指導は、その後も他校と毎時間継続。
3.ホームページ作  成(8時間)

.まとめ
・HPに自分の考えをまとめよう。
※ ワープロ等に書いた文をhtml変換。(教員の援助)

 作品を校内イントラにUPの上相互評価。まとめ。反省
 <備考>
 対象生徒の適正に応じて、幅広く活用能力を高めさせるよう指導。過去の生徒作品(卒業生のHP・校内イントラ)の紹介。図書館の利用を一緒に考えたりした。特に図書館のソフトウェアを十分に生かし、司書の先生にご協力を依頼した。また、校内LANをフルに活用。画材はCD。インターネットで無料の物を収集利用。弱視の生徒は絵を描く場合もある。 
 
5.学習活動の実際と添付資料の解説
1)メールの利用
左図は、音声対応MMmmailを利用画面。
 管理は初めは、FDで、運用していたが、ファイルサイズが大きくなり、その後、パスワードをかけて、ハードディスクに置くようにした。
他校との交流メール例(点字)
(WinBESの添付ファイル)
※このほかに音声ファイル等との添付により肉声が直接やりとりが可能になった。
生徒の障害の程度により、マイク録音でのファイルのやりとりも可能になる。
※図は、都立八王子盲学校との交流例。
 
2)校内Networkとインターネットの利用
 電子図書館(校内)を利用し図書利用を促す。
図書館内の電子点字データはほとんどが点訳ボランティアにより作成された電子データです。

校内イントラネット画面

日々の出来事を早めに反映

点字情報データベースの利用

(例1)校内イントラネット画面


(例2)
↓図書だより等のWEBでの報告 

(例2)点字データの電子DB化 画面

点字データを変換
(点字編集ソフトウェアを利用)

WinBESの画面

(通常は、このまま音声で読み上げであるが、場合により点字プリンタに印字も可能)


3)ホームページ作成(昨年度の作品)校内イントラに公開
 
昨年度取り組んだ、自立訓練の校内イントラHP(高等部普通科生徒作品TOPページ)

4)点図作成ソフトウェアの利用
  ペイントで描いた絵を点図くんに読み込み→点字プリンタデ印刷
  場合によりWinBES でグラフィック変換して保存(汎用性のため)

6.授業の成果
 実際に、多数の学校とのメール交流によって、世界が広まったのは、いうまでもないようである。興味関心も高まり、授業への意欲もわいてくるようである。
 メール交換も1月に入り総数140通を越えた。(すべて高等部で共有)
 現在、HP作りのテーマは、各自が考えて行っている。来月には、各自の発表を校内イントラネットを通じて相互評価をし校内に向けて発表する予定である。(一部完成)

7.授業における交流の課題
 やはり、交流というと、相手探しが大変である。特に盲学校の生徒の場合、相手が盲学校の生徒を心から理解していないと、誤解を生じる場合もあるので十分な注意も必要となる。幸ながら、今のところ、卒業生の協力もあり、ボランティアにも恵まれている。多方面との交流を進め、世界を広げてあげたい。

墨字絵本 デイジー・テープ図書(奥)触る絵本 点字図書 墨字図書 辞書 点字プリンタ OCR CD・DVD 管理ソフト
 
↑音声対応コピー機   点字広報/雑誌↑   卓上:点字ディスプレー(ノートPC)↑ 高速ダビング機・消磁器↑

図書館内部の写真1

8.本年度活動のまとめ
 全校ネットワークを通じて、いつでもどこでも利用できる図書館をめざしている。視覚障害者にとって、点字図書等は、分厚く分冊になっており、資料等もかさばるものが多い。電子化・ネットワーク化することでノートパソコンを持ち歩くだけで各種情報を得ることが可能になる。また、校外の学校やボランティアグループとの交流掲示板の設置や、メール等での連絡で交流活動の活発化を図っている。また、授業等のいろいろな場面で、校外交流の幅を広げ、コミュニケーションを深める架け橋として、図書館を利用してもらえるように、情報を提供していきたい。

.図書館内の現状およびPC・情報関連機材
図書館内のPCはすべて校内Lan接続(インターネット接続・無線LAN使用可)。DosV系ディスクトップ4台、Nec9821系 1台、ノートPC8台(ただしノートPCは8台の内校内貸出用として5台)、司書用事務PC(2台)、点字プリンタ1台、点字  ディスプレー2台、盲情報network用1台(パソコン通信)、デイジー再生機(プレクストーク8台の他2台)、CDラジカ  セ5台、コピー機2台、墨字プリンタ:インクジェットプリンタ・レーザープリンタ各1台、拡大読書機2台、蛍光灯2台、無線LANカード(貸出用として)20枚、8ポートスウィッチングHAB4台、ボランティア活動用によりさらにPC5台追加予定。  

10.ワンポイントアドバイス
 ・外部のボランティアの協力で一味違った、授業への取り組みや、思いがけない発見がある。
 ・学校図書館を、情報発信基地、新たな地域社会との交流の場にしよう。

11.関連URL
・横浜市立盲学校図書館 研究ページ http://www.netpro.ne.jp/~watoson/tosyo/
・OCR「よみとも2000」(タウ技研) http://www.tau.co.jp/yomitomo.htm (実証実験参加‘99) 
・市盲の成果「達訓」(過去の成果) http://www.amedia.co.jp/medianow/medianow100/takkun.htm
・音声ネットワーク対応管理ソフト(ナガヲ正文堂)http://www.gakkou.ne.jp/
・「点図くん」(リコー)http://www.ricoh.co.jp/tenzu/
・チベットラサ盲学校紹介ページhttp://www.tibet.to/project/
・MMmailのホームページ:http://www2.saganet.ne.jp/miyamiya/
協力校:八王子・埼玉・松本盲学校 鹿児島水産高等学校他 海外ボランティア・元AET・横浜市内公立学校 等

↓新刊・新聞     ↓入り口    ↓(上)触る絵本・(下)墨字・点字絵本 ↓カーペットフロア ↓読み物 ↓拡大絵本


←手洗い  ↑新刊・CD   ↑卓上:ノートPC/校内lan/赤外線/拡大読書器    手前配布資料↓ CDラジカセ→

図書館内部の写真2