情報ネットワークを身近に感じて活用できる教育活動を目指して
― 電子会議室・電子掲示板を活用した市内全小・中学校共同研究 ―

小学校5年・国語
埼玉県幸手市情報教育研究委員会 (幸手市立栄第二小学校)
安藤康浩
yasuhiro@lemon.plala.or.jp
http://www.geocities.co.jp/NeverLand/6005/

キーワード:学校間ネットワーク、グループウェア、データベース、電子会議室、電子掲示板
       小学校、5年生、国語科、共同学習、プレゼンテーション、テレビ
会議


インターネット利用の意図
 インターネットの教育活用が急速に普及しつつある今、本市でも児童生徒の情報活用能力を育成するために、情報を収集し、活用する学習を数多くおこなってきた。そして、実践を振り返った時、「児童生徒がもっと意欲的・主体的に学習していくには、情報の発信が不可欠ではないか」と考えるようになった。しかし、実際には児童生徒に意欲があっても、教師側は「時間がない」「技術的に難しい」「知識が少ない」「相手がわかっていて情報をやりとりしたい」等の意見や要望が出され、インターネットの活用には消極的であった。
 そこで、これらの要望を踏まえて、誰もがネットワークを身近に感じて活用するために、市内イントラネット(=グループウェアソフトを利用)とインターネットを組み合わせた活用が有効ではないかと考え、実践を進めた。

実践のねらい
 グループウェアを使ったネットワークを構築した場合の可能性として以下の4項目が考えられた。
 (1) 電子掲示板や電子会議室を作ることにより、メッセージの記録やデータを蓄積することができる。
 (2) 時間的・空間的な要因に制約されることなく、各教師や児童生徒の都合のいい時間にコミュニケーションを図ることができる。
 (3) ネットワーク上の共有された空間をもつことで、参加者がそれまで不可能だった指導の知識に関する情報の共有をおこなえる機会が得られる。
 (4) 様々な意見を得ることによって、指導の知識を明らかにし、異なる視点からの分析を容易におこなうことができる。
これらのことからネットワークを構築するねらいとして
 ・情報の蓄積をしながら学校間、教師間、児童生徒間相互のコミュニケーション能力を育成する。
 ・多様な実践を展開することによって、ネットワークを身近に感じて活用することができる人材の育成をする。
の2点を設定した。 

実践の企画
 市内全小中学校教職員及び児童生徒を対象に、次のような内容を企画した。
(1) 電子会議室
 1) 対教職員・・・市内共同学習のための学習指導案作成及び意見交換をする場
          ・・・進路指導、生徒指導などの情報交換をする場
 2) 対児童生徒・・・テーマ毎のディベートの場
           ・・・共同学習テーマ毎の意見交換及び情報交換をする場
(2) 電子掲示板
 1) 対教職員・・・各学校の研究授業指導案を登録し、データベース化する場
          ・・・市内教育研究会の部会毎の活動を報告を掲載する場
          ・・・各学校の学校、学年便りを掲載する場
          ・・・市内で集計が必要な資料を掲載し、データを収集する場
          ・・・調べ学習の時間用に使用するホームページのメニュー化をする場
 2) 対児童生徒・・・教材のコンテンツを登録する場
           ・・・作品を掲載する場
           ・・・クラブ、委員会活動の報告をする場

ネットワーク構築と準備 
  7月 市内共有サーバの設置及び各校のコンピュータにグループウェアソフトを導入
  8月 市教育委員会主催のコンピュータ実技研修会を実施
      (グループウェアソフトの操作方法やホームページ作成、インターネットへの接続方法を研修)
  9月 各学校からの情報(学校紹介、研究テーマ、共同学習単元計画など)を登録
 10月〜運用開始
 12月 共同学習成果発表研究授業を実施(市内小学校全12校 第5学年 国語科)

活用実践とその様子
 (1) 学校紹介データベース
 児童生徒の自由なコミュニケーションの場として設定した。ここでは、各校の様々な施設や行事、活動の様子などを文書や画像で公開した。公開されたそれぞれの作品に自由に返事を書くことができるので、自校の情報提供をおこないながら、コミュニケーションを図ることができた。
 教師から発信としては、学校の特色を紹介したものが多かった。また、児童生徒の関心を集めたトピックは、「自分の学級では、こんな事が流行っています紹介」であった。このデータベースで参加者同士のコミュニケーション能力が育てられる可能性を発見したのと同時に、ネチケットについても身につけることができた。

 (2) 学習指導案データベース
 教師が作成した指導案をデータベース化して活用するための場として設定した。各学校でおこなわれた研究授業指導案を積極的に提供していただき、共有できる教育情報として蓄積、活用した。指導案をそのまま活用する事例は少なかったが授業の参考にさせていただいたという書き込みが多かった。これまで、コンピュータに近づこうとしなかった先生方にとって、身近な情報源となったようだ。
 また、小学校3、4年生の社会科では副読本を使用しているが、画像・映像のデータも授業で大いに活用された。今後も市内全担当学年に呼びかけ、データを蓄積し続けたい。さらに、授業で使用したコンテンツについてもいくつか登録されことにより、授業での活用のきっかけとなった例も見られた。

 (3) 学習交流データベース
 教科の中で共同学習単元を設けて、学習したことを発表したり、交流しあえる場として設定した。今年度は、市内小学校5年生全学級が国語科の授業で取り組んだ。学習の交流を進めることにより、児童の学習の場が広がっただけでなく、相手に伝えるための工夫が随所にみられ、国語科の中での情報教育をあらためて考えさせられた実践となった。


1 単元名
 調査したことを  「みんなの読書生活」(光村図書出版)

1.1 単元の意図
 児童はこれまでの国語科の学習で、自分の行動や感想を記録に残すことの意味や生活意見文の学習、問題をどうとらえ、どう解明するかという研究姿勢などについて学んできた。また、情報教育の視点から見ると、生活科や社会科での課題解決学習の中で体験的、経験的に情報を収集したり、まとめたり、発信することを経験している。今年度から始まった「総合的な学習の時間」でも、課題解決的な学習を通して児童の生きる力を育みたいと考える。これらの活動にコンピュータを中心とした情報機器の活用は不可欠であり、リテラシーの育成に関しても発達段階に即した内容を段階的に身につけさせたいと考える。本年度10月にPC新機種導入が終わり、新しい環境での取り組みが始まったばかりだが、学校紹介のページを市内のイントラネット上に発信したり、調べ学習でインターネットを活用したりする中で、児童は情報ネットワークに関心を示している。そこで、本単元では今まで学習してきたことをさらに発展させて、調査したことをまとめ、発表する活動や電子掲示板に掲載された作品を見て、感想を書き込んでいくという活動を設定した。児童は、調査した結果が書かれた文章を読むことや見ることは多いが、自ら調査し、それをまとめて発表する経験はまだ少ない。また、自分の身の回りには、知っているようで知らないことや知っているつもりになっていることが多く、研究素材がいろいろと存在することに気づくはずである。取り上げた話題についてグループで調査し、まとめていく過程も楽しく、主体的な活動が期待できる。

1.2 目標(ねらい) 
<国語科として>
 ◎生活の中で気づいたことをもとに様々な角度から進んで調査し、見る人・聞く人に分かりやすいプレゼンテーション資料を作り上げることができる。
 ○発表では、事実と意見を区別して述べ、相手によく分かるように伝えることができる。
 ○指示語や接続語に注意して発表原稿を読み返し、表現を練るとともに、文章構成を正すことができる。

<本単元で身につけさせたい情報活用能力>
 ○調査内容に沿って、アンケートやインタビューを進んで行うことができる。(情報収集)
 ○集めた情報を分析したり、解釈しながら必要な情報を絞り込む ことができる。また、集めた資料を効果的に活用することができる。(情報の選択、分析)
 ○情報ネットワークを意識した構成・内容を考え、分かりやすく伝えることができる。(表現・発信)
 ○他のグループや他校の友だちの発表を聞き、自分の感想や意見を伝えることができる。(交流)

1.3 利用場面
 この単元では、次のような学習場面で情報ネットワーク、コンピュータを活用する。

(1) プレゼンテーションについての理解
 プレゼンテーションとは何か、どのような画面を構成するのがよいのか、どのような発表の仕方がよいのかなどについて学ぶ。

(2) テーマ調査のための資料収集
 自分たちが調査したいテーマに沿って、インターネットなどを使って調査の方法や資料の収集をおこなう。

(3) 調査のまとめ
 調査したデータをもとにプレゼンテーション資料づくりをする。プレゼンテーションソフト(ロータス・フリーランス)を利用して、表やグラフを交えながら分かりやすい画面を作成する。

1.4 利用環境   

<教師用>
サーバ IBM Netfinity3500×2台
先生機 IBM PC 300PL × 1台
提示用 IBM NetVista ×1台
スキャナ エプソンGT7000S
モニタ RICOH MEDIASITE
プリンタ RICOH IPSIO Color5100
OS WindowsNT 4.00
<児童用>
パソコン IBM NetVista ×20台
OS WindowsNT 4.00
使用ソフト フリーランス2000(lotes)(ロータス社)
ノーツ R4.6.7 (lotes)(ロータス社)
一太郎スマイル(ジャストシステム)

NetMeeting v2.1 (Microsoft) 

2 実践授業指導案   

2.1 指導計画
 ※学習内容太字が利用場面で利用したもの

表1 指導計画

主 な 学 習 活 動 学 習 内 容 評 価 の 観 点


○教材文を読み、学習計画を立てる。 ○学習計画を立てる。
○教材文の理解
(工夫した箇所を見つける)
・教材文を読んで学習の見通しをもち、調査することに意欲がもてたか。


○グループの話し合い、調査計画と調査の準備をする。 ○調査テーマの決定
・調査内容の決定
・調査方法の決定
・準備
・具体的な調査内容、方法を決め、調査の準備ができたか。


○調査をし、結果をまとめる。 ○いろいろな方法で調査し、結果をまとめることができる。
・アンケートの実施・結果のまとめ
・インタビューの実施
・資料の収集、まとめ(インターネット、図書資料等)
・調査内容・方法に従って調査を行うことができたか。
○調査した結果を話し合い、まとめ方を考える。 ○グループ内で調査結果を発表し、意見交換をする。
○わかりやすく表現するには、どのようにしたらよいかを話し合う
○プレゼンテーションソフトを知る。(フリーランス)
・調査方法毎の結果を発表することができたか。
・みんなに分かりやすく伝える方法を考えることができたか。
○構成計画を立てて、分担を決める。 ○紙片にページの内容を簡単に書く。
○ページの構成計画を立て、分担を決める。
・調査したことを効果的に組み立てることができたか。


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○構成計画表をもとにページを作り、発表会の準備をする。 ・各個人で担当したページを作る。(コンピュータ)
・完成したページをグループの人とチェックする。
・ページに音声を入れる。
・グループ毎にページをつなげる。
・図や表を取り入れて見る人にとって分かりやすいページに仕上げることができたか。
12 ○調査発表会をする。 ○クラス内の発表会を実施する。(コンピュータ) ・進んで調査発表会に参加できたか。
・他のグループの発表を聞き、自分にとっての新しい情報を得たことが確認できたか。
・他のグループの発表から、自分たちの発表の仕方に有効なヒントを見つ けられたか。
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○市内調査発表交流掲示板に参加する。 ○他の学校の発表を聞く
・幸手小学校との交流発表会(ccdカメラを使ったTV会議)
○他の学校の発表を掲示板で見て、書き込み評価をする。(ノーツ)

2.2 本時の学習指導

(1) 目標
 ○調査発表交流会を行うことによって友だちの作品のよさを知り、自分たちの作品を見直して、表現方法をより確かなものにすることができる。

(2) 評価基準
 ○進んで調査発表会に参加している。
 ○それぞれの学校の発表を聞き、自分にとっての新しい情報を得たこと確認している。
 ○他の学校の作品から、自分たちの発表の仕方に有効なヒントを見つけている。

(3) 展開
※前時の学習内容:クラス内調査発表会の実施

表2 展開案(平成12年12月7日実施)

学 習 活 動 学 習 内 容 指導・援助と評価の創意工夫 時間
1 本時の学習課題を確認する。

<幸手市内小学校5年生の調査発表交流会を開こう>
○調査発表交流会の意義
・友だちの作品のよさを知る。
・自分たちの表現方法を見直す。
○これまでの取り組みを共感的に賞賛して意欲化を図るとともに、調査発表交流会を開くことの意義についても確認しておく。 2分
2 調査発表交流会の目的を確認する。(栄第二小司会) ○発表内容の要約の仕方 ○司会が発表交流会の目的を確認し、楽しみにしていることを述べるようにする。 1分
3 栄第二小学校の調査発表内容をスピーチする。(クラス代表) .  ○クラスの発表会で発表された内容の要旨を30秒 スピーチで説明させ、聞き手の目的意識を高める。 1分
4 栄第二小学校の調査発表を行う。(代表グループ) 【発表側】
○発表内容の中心の明確化
○聞き手や目的を意識した声の大きさ、話し方

【聞き手側】
○発表内容や主題の把握の仕方
○効果的な表現の仕方
○自分たちのグループ発表との比較
○表現の深まり・広がりについての評価
○相互評価、自己評価の仕方
【発表の方法】
 CCDカメラを使ったプレゼンテーション方式で行う。
グループ内の全員が発表するようにする。
※目的や相手を意識して、発表内容がよく分かるように発表することができているか(観察)
5分
5 幸手小学校の調査発表内容をスピーチする。(クラス代表) 1分
6 幸手小学校の調査発表を行う。(代表グループ) 5分
7 発表を振り返り、感想を発表する。(栄第二小→幸手小) ○感想や意見を聞き、相互評価や自己評価を行うようにする。
→お互いの発表のよさを見つけて発表するように指示する。
5分
8 交流発表を生かして、相手校やその他のグループの掲示板に感想を書き込む。 . ※相手校の発表内容や方法 についてそのよさを見つけたり、自分たちの発表と比べたりして感想を発表したり、書き込んだりできているか。(観察) 15分
9 学習のまとめをする。 ○自分たちの感想や発見に基づいて、次の発表活動へ結びつくような助言をする。 5分

・在籍児童  栄第二小 23名   幸手小  28名
・本時では、各学級の代表1グループずつが発表を行うが、他にどんな調査報告があったかを簡単にスピーチで紹介し、以後の掲示板書き込みに意欲を持たせるようにする。
・第5時間目以降個人のプライバシーに触れることも考えられるので、関わる事柄については十分配慮する。

3 学習の様子

 児童は他校との交流をたいへん楽しみにしており、研究授業後も「またやりたい。」という声が数多くあがった。また、今回TV会議に参加しなかった残り10校の児童も掲示板に投稿されたコメントを参考に、プレゼンテーション資料の作りなおしをおこなったり、自分たちと同じテーマで調べたグループの作品を読み、結果の比較などを積極的におこなっていた。

図1 フリーランスで製作中 図2 TV会議の様子
図3 ノーツの画面 図4 他校の様子(作品を見る) 図5 他校の様子(コメントを参考に、修正する)

4 成果と課題
 情報ネットワーク(グループウェア)の活用については、その方向性が見え始めた。それぞれのデータベースを有効活用するためには、教師、児童生徒が企画を持ち寄り、コミュニケーションを図りながら、活用を進めなければならないことがわかった。情報ネットワークの構築・活用は、単に物理的にコンピュータをつなぐだけでなく、人と人との結びつきが大事であることを認識できたことは、大きな成果であった。
 一方で、解決していかなければならない課題も見えてきた。
 (1) 市内の閉ざされたネットワークとはいえ、相手が存在することを常に意識させる必要がある。今後、児童生徒がいたずらや誹謗・中傷などを書き込むことがないよう、マナーやルールを指導していかなければならない。このような危機管理体制を整備する必要がある。
 (2) 学校間がネットワークで接続されたことは、今後の活用のための第1歩であると考える。市内すべての教師、児童生徒が十分に活用するためには、各校の年間指導計画を調整するなど市全体でネットワークを活用する計画を考えていく必要がある。
 (3) インターネットとイントラネットを組み合わせた活用については、まだ模索中である。各校のホームページ作成も含めて企画を練り直し、実践していきたい。
 (4) ネットワークの構築・運用については、専門的な知識と技術が必要となり、設定や管理、操作など外部の方にお願いしなければ実現不可能であった。行政の方々とも話し合いながら今後は、専門的な知識と技術を持った人材を確保する体制を整えるとともに、人材を育成する努力をしなければならないと痛感した。
 (5) 小学校での活用は、スムーズにおこなわれたのに対して、中学校での活用は教科の壁が厚くなかなか進まなかった。今後は、中学校での取り組みを企画し、実践したい。

ワンポイントアドバイス
・学校間交流を実施するにはたいへんな苦労があるように思われがちだが、計画さえしっかりしていれば、児童生徒は日常的に自由なやりとりを始めるようになる。なかなかコンピュータに近づいてくれない先生方に計画の意図を説明し、いかに賛同を得るかがポイントである。

指導者

埼玉県立総合教育センター 指導主事 山下成明 先生

参加協力

幸手市立幸手小学校 幸手市立権現堂川小学校
幸手市立上高野小学校 幸手市立吉田小学校
幸手市立八代小学校 幸手市立行幸小学校
幸手市立栄第一小学校 幸手市立長倉小学校
幸手市立栄第二小学校 幸手市立幸手東小学校
幸手市立緑台小学校 幸手市立香日向小学校
幸手市立幸手中学校 幸手市立東中学校
幸手市立栄中学校 幸手市立西中学校
日本アイ・ビー・エム(株) 教育アドバイザー 桝田佳江    埼玉リコー(株) 文教営業部 本多孝代
埼玉リコー(株) ネットワーク営業部 長田俊英  埼玉リコー(株) 文教営業部 池田容子