インターネット上から利用できる映像教材の作成とそれを利用した授業実践
−ノートパソコンとプロジェクタを使った教材提示の効果的な活用法について−

中学校理科
長野県塩尻市立塩尻中学校
理科 松澤 貴幸 桐原 寧 佐藤 直己

http://www.shio-jhs.shiojiri.nagano.jp

キーワード  中学校理科,映像教材の作成,植物図鑑
マグネシウムの燃焼,花粉管の伸長


インターネット利用の意図
これからの学習には,生徒の課題や意識を大切にしながら一方では,基礎・基本の習得を目指した授業が求められている。本校ではわかりやすい形で学習内容を生徒に伝えるため,授業にインターネットやエンカルタを使って進めることも多い。一方,理科の授業では実験前にそのやり方について教師が説明をするか,演示するのが一般的である。このときに映像を使うことができれば,教師の説明を効率よく行うことができ,実験や考察といった生徒が主体的に活動できる場を充実させることができる。このように映像機器を利用すると,わかりやすい授業,基礎・基本を大切にした授業,関心態度を重視した授業に結びつくと思われる。
以上,本研究を通してねらう点は
(1)資料を調べるだけでなく実物にあたって得たデータを,情報機器を使って互いに利用し合い学習に役立てる。
(2)ノートパソコンやインターネット上の素材を授業における提示資料として,積極的に利用しながら,その可能性と問題点を探る。
(3)授業で使える映像素材を探し,校内でも自作して教材の充実を図る
3点である。


1.自作映像教材の活用
(1)ビデオ教材を使用するねらい
 実験の手順を生徒に説明するときは,教師が実験に必要な器具を使いながら提示したり,教科書や学習カードを利用したりする。演示実験をすると準備や演示に時間がかかってしまうし,説明だけでは,生徒の想像する実験のイメージと実際に行ったときのイメージのギャップが存在するといった問題点がある。。そこで,ビデオ教材を利用し実験の手順を説明することでその問題点を解決したいと考えた。映像をつかうことで,効果的な説明ができ,実験や考察に時間をかけることができる。また,ガスバーナーなどを利用する実験では,安全性においてもビデオ教材を利用することで十分利点がある。
このようにビデオ等の映像を利用することで,わかりやすい授業,基礎・基本を大切にした授業,充実感のある授業ができるのではないかと考えられる。

1破裂した花粉
2 伸びた花粉管
3 マグネシウムの着火
(2)自作したビデオ教材

1)花粉管の伸長
花粉管を成長させる時には,ペトリ皿内の湿度や寒天培地の濃度などの影響を受けやすいため,手際よく操作しないと花粉が破裂してしまう。(図1)そのため,一連の手順をビデ   
オに撮っておくことで,実験のやり方についての理解が深ま  
り失敗することなく観察ができる。また,観察ができなかった場合にも,校地内の植物についての花粉管の伸長する様子(図2)を見ることによって,教科書に出ている写真をみるより興味をもった学習ができる。

2)マグネシウムの燃焼                   
マグネシウムの燃焼は授業でよく扱われている。しかし,マグネシウムに着火させることや完全に酸化させることが困難である。そこで下記のように燃焼皿を傾けることによって,容易に着火させ完全に燃焼させることができる。それを映像を使うことでわかりやすく説明できる。
・燃焼皿を傾けながらガスバーナーの炎に近づけ,マグネシウムに着火させる。(図
3
・金属製の薬さじでマグネシウムかき混ぜ,酸素と完全に結びつくようにする。

3)雲の発生・食塩の融解                
 この二つのビデオ教材については,3学期の単元で扱うので,教材の作成中である。

2.実践授業
(1)単元名 化学変化と原子分子
1)ねらい
「化学変化と原子分子」の単元で,マグネシウムの質量を変え,何回か燃焼させる。反応前後の質量を比較することで,マグネシウムに結びつく酸素の質量の割合は一定であることを導く。この実験がうまくいくポイントは,マグネシウムを確実に燃焼させることである。しかし,上述したように教科書の記述通りに加熱するだけでは,マグネシウムがうまく燃焼しない。そこで,本校は独自に工夫をしている。この工夫も含め実験手順を説明するビデオを作成し,授業で提示することにした。

2)指導目標
マグネシウムの燃焼前後の質量変化を測定することにより,マグネシウムに酸素が結合して酸化マグネシウムになることがわかる。

3)利用場面
マグネシウムの燃焼実験の手順を確認する際に,ビデオ教材を提示する。

4)利用環境
(a)使用機種  コンピュータ NEC PCLS50H34DV2 
(b)周辺機器  プロジェクタ EPSON ELP-3500
(c)稼働環境  理科室 コンピュータ NEC PCLS50H34DV2 
(d)利用ソフト ビデオキャプチャソフト 編集ソフト I.E. 5.0

5)指導計画


学習活動

指導・助言・評価

備 考

課 題 把 握
 
 
 


 
前時の復習をする

 
 
 
 
・前時で予想したマグネシウム燃焼前後の質量変化について意識を向けさせる。
10 ・前時の学習カード
学習課題
マグネシウムを空気中で燃焼させたとき、反応前と反応後の質量を調べよう

課 題 追 究

マグネシウムの燃焼実験の手順を確認する

 
マグネシウムの燃焼実験を行う
・自作ビデオ教材を利用し,実験の説明をする

 
・各グループを机間巡視し,助言を行う
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・ビデオプロジェクタ
・ノートパソコン
・学習カード

まとめ

実験のまとめをする。
・実験のまとめを行い,結果から考察を行う 1 ・学習カード
 
6)授業の考察
 ビデオを利用しての実験の説明ははじめてであったが,普段の説明に比べて生徒の理解が高く,スムーズに実験を行うことができた。また,説明に時間をさかれることなく,十分に実験し,まとめをする時間を確保することができた。しかし,プロジェクタを使用するため,設置や配線などの準備に時間がかかり,あわせて実験の用意もあるため教師が忙しくなるというマイナス面が新たに見つかった。実験時間の確保や手順の効率的な説明の面から考えると,やはり,ビデオ教材を提示しての説明は有効であった。
 今後は,実際に観察することが難しい事象についても,ビデオを作成し教材化をしていくとともに,VODとして準備されている教材についても利用の方向を考えていきたい。

(2)単元名「植物のなかま」
) ねらい
植物の子孫づくりやからだのつくりについての学習してきた知識を系統的に使いながら校地内で採集した植物を基本的ななかまに分け,自分の調べた植物についてコンピュータに結果を入力し,学校独自の電子植物図鑑をつくる。

) 指導目標
(a)校地内の被子植物を採集し,花や茎の形,葉の付き方,水平分布,名前の由来などについて,図鑑を参考にしながら調べることができる。
(b)校地内に生えている植物の紹介文(塩尻中学校の植物図鑑)をスタディノートを使って作成することができる。
(c)調査結果をノートパソコン,プロジェクタを使って学級全体に発表し,感想,意見などの交換を行い,友達の意見や感想を参考にしながら,よりよい作品となるように修正していくことができる。

) 利用場面
(a)身近な植物の特徴を調べ,なかまわけをする。
(b)スタディノートを使って調査結果を紹介文にまとめる。
(c)友達の紹介文を見て,意見,感想を伝えあう。
(d)調査結果をノートパソコン,プロジェクタを使って発表する。

) 利用環境  
(a)使用機種  コンピュータ EPSON SD-C23
(b)周辺機器  プロジェクタ EPSON ELP-3500
(c)稼働環境  コンピュータ教室 コンピュータ EPSON SD-C23 40
         理科室 コンピュータ NEC PCLS50H34DV2 
(d)利用ソフト スタディノートVer.5.0A

5)指導計画

(a)単元展開の概要

時間

ねらい

学習活動

1 種子植物には,被子植物と裸子植物があり,被子植物は双子葉類と単子葉類とに分けられることがわかる。
  • 花のつくりの学習などから,種子植物が被子植物と裸子植物に分けられ,さらに被子植物は,双子葉類と単子葉類に分けられることを確認する。
2 各自の分担植物を決め,校地内の被子植物について,図鑑を使って調べることができる。
  • デジタルカメラで撮影する。
  • 葉の付き方や花の形などについて調べる。
  • 校地内のどのような場所に生えているかを調べる。
3
4
調査したことをもとに,スタディノートを使って,塩尻中学校植物図鑑の作品を作ることができる。
  • 見る人のことを考えて,構成を工夫しながら,紹介文を作成する。
  • 写真や図を使いながら
5 友達の作品について意見や感想を持つことができる。
  • 作品の発表を行い,感想や意見の交換を行う。
  • 友達の作品からよい点をさがすことができる。
6 友達の意見や感想をもとに,よりよい作品となるように修正することができる。
  • 友達の意見や感想,友達の作品をもとに紹介文の修正をする。(図1234

(b)生徒の作品
(ア)ヒルガオを調べた生徒の作品
図1 ヒルガオの紹介文 図2 ヒルガオの写真

(イ)アレチマツヨイグサを調べた生徒の作品
3 アレチマツヨイグサの写真 4 葉の付き方の説明

3.成果と課題
ひとりひとりの作品をデータベースにすることによって,学校独自の植生図的な検索図鑑を作ることができた。また,生徒の意識としてもコンピュータを使ってまとめをし,発表の場があることや友達からの意見を聞くことができたことにより,意欲的に学習に取り組むことができた。さらに,友達との意見交換によって,より見る人のことを意識して作品づくりに取り組むことができた。今後,季節ごとに植物を調べ,データの蓄積をしていくことにより,充実した図鑑としていきたい。さらに発展させていけば,理科の学習だけではなく,総合的な学習の時間としても成立するものと考える。
パソコンを使って映像を授業に利用すると,短時間でポイントを絞った説明ができる。しかも,VTRと異なり,簡単に頭だしができるので,短い場面をいくつか呼び出したり繰り返し視聴させることが可能であった。いつでも使えるように整備しておくことが今後の課題である。
 ビデオ教材の作成においては,比較的容易に撮影編集ができ,デジタル化することができた。しかし,撮影にかかる時間は無視できない。専門家によってすでに作られた映像を契約によって使用できるように検討している。コンピュータを使って映像を見られるようにすることで,より効果的な提示となるようにしたいと考えている。