ものづくり教材Web化プロジェクト
山梨県立甲府工業高等学校 教育情報部 手塚幸樹
 
キーワード:ものづくり,異学科交流,ネットライブ,ビデオオンデマンド


インターネット利用の意図:
 工業高校の専門教科や実習等の科目はペーパーだけで理解することは難しい。工業教育のノウハウを,光ネットの活用でわかりやすく理解できて,最新技術もリアルタイムに得られ,自宅で自学自習が可能なコンテンツの作成やシステム開発を活動目的とした。Web化やインターネットライブ(ネットライブ)等は主に電子工学部(部活動)の生徒が中心で学年や学科の枠をこえ,異学科交流しながら,活動できる体制を考えた。


1 背景(状況と課題)
http://www.kofu-th.ed.jp/
(1)状況:本校のネット研究のバックボーンはふたつ。平成8年度より3年間,山梨県よりインターネットを活用した国際交流事業実験校に指定され活動。詳細は http://www.kofu-th.ed.jp/iowa/ を参照。現在は平成10年度より3年間,文部省・光ファイバー網による学校ネットワーク活用方法研究開発事業の実践研究校の委嘱を受けて活動中。詳細は http://www.kofu-th.ed.jp/hikari/ を参照。
(2)課題:学校全体で行った実践研究から得た課題がある。この中に本プロジェクトに関連した項目があるので以下に示す。
@課題研究,授業,実験・実習や製図コンテスト,ロボットコンテスト(ロボコン),プログラムコンテスト(プロコン)等の教材は難しい。教材がペーパー中心なのでWeb化,マルチメディア化して興味関心を持たせたい。既存領域の素早いWeb化が望まれる。
A遠隔授業等で最新技術動向を得る。
Bマルチメディア教材の共同開発に大きな進展がない等。
 
2 活動の概要http://www.kofu-th.ed.jp/monodukuri_pj/
 ふたつの実践研究の課題を視野に,ものづくり教材Web化プロジェクトを行った。
(1)対象:主に本校の機械科,電気科,電子科,建築科,土木科の各科各学年の30名前後の電子工学部員の生徒。
(2)実施内容:工業教育の既存領域や最新技術のWebページ化,ビデオオンデマンド,TV会議やネットライブ等による遠隔授業が主な活動。電子工学部をホームページ班,ビデオ班,ライブ班,ロボット班等に分けて活動。各班に班長がいるが全体のプロジェクトリーダーは3名の3年生。技術サポートは主に電子工学部顧問の飯島慶一郎先生をはじめ教育情報部の先生方。活動場所は第1コンピュータ室。ここは41台がネット接続され,ブラウジング,メール,ワープロ,表計算,CAD,言語等の学習が可能。メンバーの情報交換は電子会議室やメーリングリスト(ML)を活用している。
(3)日程
1学期:プロジェクトの概要説明,スケジュール,役割確認,作成準備,環境確認。
2学期:Web化の準備と作成,ものづくりWeb教材作成,ネットライブとビデオオンデマンドの活動,MLで情報交換,プレゼンテーション作成,プロコン応募。
3学期:まとめと研究発表。
(4)主な設備
@ハード:
・ネットライブ中継と多地点TV会議サーバのPC Gateway Performance(1)
・デジタルカメラ用ビデオキャプチャケーブル IOデータ USB-CAP2(2),GV-BCTV/USB(2)・教室描画用液晶プロジェクター NEC ViewLight VT440J(1台),SANYO LPXG300(1台)等。
Aソフト:
・ビデオサーバ等 RealNetworks社 RealServerBasic7.02(2),RealProducerBasic8.5(2)
・多地点TV会議サーバ等 楽墨堂 LiMServer2.200同時20版(1),LiMFree2.200(10)
・ML 深町賢一 fml(1)
・WWW 全文検索システムNamazuProject Namazu v2.0.4(1)等。
(5)活動内容
@教材のWebページ化(主に電子工学部ホームページ班)
●目的:実習や課題研究の情報をWebページ化(図1)。ネット接続していれば,どこでも誰でも実習や課題研究等の学習内容が閲覧できることを目的とした。またWeb化したことでWWW全文検索システムでの高速検索が可能。ホームページ班は公式ページ作成も担当。タグによるページ作成のポリシーを先輩から受け継いでおり,スキルがある。ホームページ班は参加メンバーが多く,学科学年が混在してるなかで異学科交流しながらまとめている。当然部員以外の協力も仰いでいる。情報交換はML等で頻繁に行っている。             図1 ものづくりプロジェクトページ
●コンテンツ:■機械科実習と課題研究。■電気科工業基礎と電気実習。■電子科工業基礎と電子実習と電子情報技術S。■工業高校リンク。■進路情報とリンク等。
 
A電子科課題研究によるプログラム作成(電子工学部ホームページ班と連動)
 電子工学部と課題研究の生徒が,数名重なってプログラム作成している。教材のWebページ化プロジェクトと連動しているので,ここで紹介する。
●目的:ネットワーク言語Java(ジャバ)等により,学習に役立つプログラムを作成。
●コンテンツ:以下は,タイトル(仮称)と概要。■星座:VRMLで12星座,説明はJAVA,シミュレーションは3Dソフト。星座がわかる。■電子情報用語集:工業高校の教科書の専門用語集を作成。■エンジンルーム:車種は3種類。知りたい所をクリックで説明表示。環境問題:地球環境問題について現在・過去・未来の問題点をまとめた。■人体のすべて:人体について勉強できる。■公式集:工業高校で学んだ公式の計算と専門用語の説明。
 
Bネットワーク技術の習得とコンテンツ作成(主に電子工学部希望者)
 ネットでシステム構築が学習できる教育コンテンツと実際の機器を使って学習できるプログラムの寄付を受けた。詳細はスリーコムジャパン教育ソリューション http://education.3com.co.jp/ を参照。現在,ネット構築学習システムとして活用している。2〜3学期にWebコンテンツ(NetPrep)を用いて,電子工学部員で講習会を行っている。システム構築の習得や関連したWebコンテンツ作成のお手本にしている。
 
Cネットライブ(主に電子工学部ライブ班) http://www.kofu-th.ed.jp/real/
●概要:本校ネットワーク活用促進委員会(ネット委員会)の公開講座分野の先生方の協力により,ネットワークによる授業,実験・実習,学校行事のリアルタイム公開をインターネットで行っている。
●経過:99/06/10ビデオサーバにより遠隔授業実験が開始。99/07/12ネット委員会の会議をインターネットで生中継。仕組みや構築等Realシステムを活用したページは充実。PHS等によるモバイルでの送信実験も99/11/18開始。TV会議等による遠隔授業は主にNetMeetingを活用。ネットロボコン等,多地点TV会議はLiM-ServerとLiM-Free2200を用いている。
●主なコンテンツ:■電気科:電力技術「遠隔授業〜発電の仕組〜」■電子科:通信技術「衛星通信・衛星放送システム」ノートPCと液晶プロジェクターとPHSを活用して,普通教室の黒板に張った模造紙にマルチメディア百科事典による人工衛星の歴史や通信衛星等のWebページを描画。■学校・校外行事:行事ライブは充実。中学生体験入学や学園祭は3チャンネルで配信。高校総体はPHSライブ。ロボコンライブ等は校外で2チャンネル配信して,表情と作品を分けた。■課題研究発表会:各科課題研究発表会をライブ。発表内容のレジュメはWeb化して公開。質問や意見はktn-ml@kofu-th.ed.jp等のMLや電子メールで求め,学習効果を相互に高めた。■ネットロボコン:TV会議を利用してネットで結んだロボコンを実施。第1回参加校は八幡工http://www.hachiman-th.ed.jp/(キースクール),春江工,甲府工。第1回開催にあたりML開設。メンバーの情報共有化に協力。第1回の映像配信は電子工学部ライブ班,ロボット製作は数名のロボット班が担当した。他,画像配信に関わり各種多地点TV会議システムの可能性について研究。第2回大会から採用した多地点TV会議システムは楽墨堂のLiMサーバ。価格,操作性,技術支援体制等総合判断して3校で採用を決定した。このサーバはネットロボコンをはじめ,kiif等の複数の研究グループのルームが用意され,活用されている。
 
Dビデオオンデマンド(主に電子工学部ビデオ班) http://www.kofu-th.ed.jp/archive/
●概要:ネット委員会の沓間正先生をはじめ公開講座分野の先生方や放送委員会との協力により,ビデオサーバによる蓄積動画の長時間コンテンツ(最長2時間)の提供が可能。数多くの既存VHSビデオやミニDVがビデオ班の手によりWeb化されている。2学期よりSMIL (Synchronized Multimedia Integration Language) 等のマルチメディア言語での作成も進展。
●ビデオコンテンツ:合計50本程度(00/01/30現在768MB)の情報がビデオサーバより配信。■機械科課題研究「宝飾品のデザインと製作」等の学科教科情報が約15本。■部活動「野球部2年ぶり7回目の甲子園出場」等約5本。■学校紹介は「英語版」等約5本。
●ビデオコンテンツ作成の効率化の可能性(DTPP):ビデオオンデマンド等PCによるビデオコンテンツ作成には多くの時間がかかる。編集を効率的に行うソフトとしてNHK放送技術研究所で研究開発されたDTPP(Desk-Top Program Production)がある。本校と東放学園を会場に放送文化基金・制作者知的支援研究会が主催した「DTPPを使用した教材制作セミナー」が開催され,県視聴覚担当の先生方が参加。ビデオを制作し,高度な編集技術を取得。セミナー開催の原動力は,本校視聴覚担当の三神幸子先生。尚,情報交換等にdtpp-ml@kofu-th.ed.jp等のML開設。セミナー開催に協力した。この技術が生徒へ還元できると,来年度以降のビデオオンデマンド作成の効率化に期待が持てる。
 
EITで「ものづくり」支援 http://www.kofu-th.ed.jp/densikiki/
 @〜Dで述べた積み重ねから,新たなネット教育の構築に期待している。参考までにエレクトロニクスチャレンジ教室を紹介する。山梨県委託事業として小学生に「ものづくりのすばらしさ」を体験させ,山梨県に定着するエンジニアを育成することが目的の企画。主催は山梨県職業能力開発協会。先生方はITの基盤を支える民間企業の電子機器技能検定委員のエンジニアの皆様。指導する教材はトランジスタ応用キットで,電子ブザー等を製作する。今年度,この教室を実施した小学校は,長坂町立秋田小学校,高根町立清里小学校,櫛形町立豊小学校の3校。このメンバーから山梨県立産業技術短大で開催されたジュニアスキルフェスティバルに参加。ソーラー水陸両用車を製作。この作品で競技を行い1日楽しんだ。    図2 フェスティバルのモバイルシステム
 このチャレンジ教室をPHS等によるモバイルシステム(図2)を活用したITで,小学生のものづくり体験に協力した。甲府市・山梨大学附属小学校へビデオサーバにより遠隔授業実施。TV会議により製作後の感想などで意見交換も持った。また授業実施までにML等を開設し,各小学校の先生方とエンジニアの方々で情報の共有化等を行い円滑な授業展開を図った。期間中は,雷が発生してネットが不調だったこともある。ネット交流の多くの場面で山梨大学附属小学校奥山賢一先生にはお手数をおかけした。感謝申し上げる。尚,今回のネット交流に際して,各小学校へのTV会議等の構築支援に地元出身の工業高校生と教員が協力する機会を数回得られたが,多くの場面に工業高校生のスキルを生かせる可能性を感じた。工業高校生とこの企画のリンクが今後の課題。
 
3 成果と課題
 ネットワーク活用に関わる調査・研究のまとめを先生と生徒に行った。その一部に本プロジェクトに関係している項目があるので以下に紹介する。詳細は本校の文部省光ファイバー網による学校ネットワーク活用方法研究開発事業実践研究校報告書00/11/29を参照。
(1)アンケート
・ PCや光ネットを利用で教科指導面で生徒の興味関心が維持でき,専門教科の既存知識や新技術を深めることができた。(先生7割弱,生徒6割)
・PCや光ネットの利用で,先生や生徒の情報発信や活用能力や表現能力が向上した。(先生7割,生徒6割)
・公式ページはものづくり教材として満足。(先生6割,生徒3割)「先生方の満足度データに比べ生徒データは半分。閲覧機会の問題もあるが,全学科にわたる教材コンテンツの充実が課題」
・遠隔授業等は生徒の教科理解度向上に役立った。(先生6割,生徒項目なし)
・公式ページのビデオオンデマンドは教材として満足。(先生5割弱,生徒5割)「先生データのポイントが低いのは内容充実の低さと考える。既存領域をスピーディーにコンテンツ化する研究が必要。今後の課題」
・インターネットTV会議やネットライブ等,モバイルで現地のエンジニアの皆様に講義していただいたことは,教科の理解度向上に役立った。(先生6割,生徒4割)「生徒データの「役立たない」項目にポイントが入った。感想等から,画質や音質の問題。高速専用回線でもTV画像とインターネットTV会議画像を比較されるとその差は大きい」
・教育情報部がコアになりネット委員会を主催したことは良かった。(先生8割弱,生徒項目なし)「学校のIT化にはコアなる分掌が必要と考えられる」
・公式ページの作成は電子工学部がコアになり進めて良かった。(先生項目なし,生徒4割弱)「公式ページ作成は生徒会やクラスなどを中心に作成を考える必要もある」等。
(2)課題
・教材コンテンツ開発は進展したが,作成に遅れ。全学科教科に展開できる工夫が必要。
・授業,課題研究,実験・実習や製図コンテスト,ロボコン,プロコン等の成果Web化に努力したが,スピーディーに既存領域の公開ができない。工夫が必要。
・遠隔授業,ビデオオンデマンド等は,全学科教科の既存領域の掘り下げが望まれる。興味関心をひくコンテンツなだけに,教員の異学科交流などが必要。
・ネット交流は電話や出張の下準備が重要。分掌で各教科学科を支援する体制作りが必要。
 
4 まとめ
 学年や学科の枠をこえて,異学科交流しながらまとめた「ものづくり教材Web」は,プロコンの結果や研究発表の様子,アンケート結果等から,工業教育のノウハウをネット上で学べ,最新技術もリアルタイムに得られ,自宅で自学自習が可能になったWebコンテンツと考えられる。最後にこのレポートをまとめるにあたり関係した全ての皆様に感謝申し上げる。特に甲府工業高等学校の小林秀男教頭先生,飯島慶一郎先生,三神幸子先生をはじめとするネットワーク活用促進委員会の先生方に深く感謝申し上げる。

ワンポイントアドバイス
・ネットでのコンテンツ公開により学習機会が拡大。「いつでも」「どこでも」「だれでも」学習できる可能性あり。ひとりよがりでないコンテンツの可能性大。
・Web化により興味関心を高める効果的な教材コンテンツになる可能性あり。
・教材を生徒と教員が一緒に取り組むことで,教員自身が教科を再認識。生徒の理解度も促進できる可能性あり。
・機械,電気,電子,建築,土木のコンテンツを作成しているが,組み合わせで目的の異なるコンテンツが再構成できる可能性あり等。
 
参加校,協力校等の名称
放送文化基金・制作者知的支援研究会,NHK放送技術研究所,東放学園,山梨県高等学校視聴覚教育部会,滋賀県立八幡工業高等学校,福井県立春江工業高等学校,山梨県立谷村工業高等学校,楽墨堂,山梨県立総合教育センター,財団法人やまなし産業支援機構,山梨県職業能力開発協会,山梨県電子機器技能検定委員,長坂町立秋田小学校,高根町立清里小学校,櫛形町立豊小学校,山梨大学附属小学校,スリーコムジャパン教育事業部,コンピュータマインド,山梨県情報技術教育研究委員会,山梨県立甲府工業高等学校ネットワーク活用促進委員会
 
参考文献・URL,引用文献・URL等:
・文部省光ファイバー網による学校ネットワーク活用方法研究開発事業実践研究校報告書,甲府工,00/11/29
・Eスクエア・プロジェクト http://www.cec.or.jp/es/E-square/