自分の考えや思いを深める道具としての
コンピュータ活用のあり方
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小学校・総合的時間
岐阜県恵那市立長島小学校
水野宏也
osashima@city.ena.gifu.jp
http://www.osashima-e.ed.jp/

キーワード 小学校、インターネット、校内LAN、著作権、ネチケット


インターネット利用の意図
 インターネットのすばらしさが、盛んに言われているが、小学生が自由に活用できるよになるには、その操作だけでなく、インターネットを含め、著作権、ディレクトリー構造、ネチケット等を早い段階から学習しておく必要がある。
 本校においても、子どもの作品や各種のデータを、ネットワークを利用し一括管理している。どのコンピュータからでもアクセスできるが、データの保存場所と管理を明確にしないと、保存場所が分からなくなったり、他人の作品にいたずらしたり、最悪の場合には削除されたりする危険がある。このような校内ネットワークの問題点と以前から言われているインターネットの問題点を明らかにし、小学校1年生でもインターネットやコンピュータを道具として、活用するのに必要な構造、マナー等をどのように指導していったらよいかを探っていった。
 
1.単元名 
(1)背景 
 各校がインターネットに接続され、盛んにその活用が試みられてきている。授業に役立つホームページから生きた情報を手に入れたり、専門家に質問したりすることが当たり前のように行われるようになってきた。
 本学校でも、3年前からインターネットに接続できる環境が整ってきた。コンピュータ室では、一人一台接続することができ、各教室でもホームページを見たりメールを送ったりできるようになった。
 これまで、この環境を生かし様々な取り組みを行ってきた。その一つとして、下記のように、コンピュータを位置づけて研究・実践してきた。
  ・コンピュータは、コミニュケーションツール
  ・環境学習は、コンピュータ活用の素材
 また、それぞれの学年の情報教育・環境教育に対する内容とねらい(図1)を明らかにし、次のような実践をおこなってきた。
  情報教育に対する内容とねらい 環境教育に対する内容とねらい





 
基本的操作とマナー
・コンピュータの基本的操作ができ、マナーを身につけることができる。
・お絵かきソフト(キッドピクス)を活用して、文字や絵を描いたりスタンプすることができる。
身近な人と自然に触れる
・自分と身近な人・動物・植物に関心をもって活動できる。


 




 
お絵かきソフト活用
・保存してある写真を開き、見たり活用したりすることができる。
・お絵かきソフト(キッドピクス)の様々な機能を理解し、効果的に使うことができる。
 
自然や社会に五感で触れる
・具体的な活用や体験を通して、自分と身近な社会や自然と関わることができる。
 






 
写真の取り込みと活用
・コンピュータに取り込んである写真などをインターネット閲覧ソフト(ネットスケープを用いて、調べ学習に生かすことができる。
・コンピュータに取り込んである写真や図をお絵かきソフト(キッドピクス)に読み込み、ガイドマップ作り等に生かすことができる。
 
地域環境を実感
・自分たちの町や市について調べ、自分たちの地域のよさを実感することができる。


 





 
インターネット活用
・インターネット閲覧ソフト(ネットスケープ)を用いて、ホームページや写真を表示でき、調べ学習をすることができる。
・文字や写真を貼り付けられるドロー系ソフト(クラリスワークスドロー機能)を用いて、各種新聞作りができる。
 
身近な人と自然に触れる
・自分と身近な人・動物・植物に関心をもって活動できる。


 





 
プレゼンテーション活用
・発表するための道具として、文字や写真を入れたプレゼンテーションを作ることができる。
・インターネットの接続方法を知り、インターネット閲覧ソフト(ネットスケープ)を用いて、ホームページを見ることができる。
 
自然や社会に五感で触れる
・具体的な活用や体験を通して、自分と身近な社会や自然と関わることができる。

 




 
学習に生かす
・インターネット閲覧ソフト(ネットスケープ)で自分に必要な情報を収集し、学習に生かすことができる。
・学習したことをホームページにまとめ発信することができる。
 
地域環境を実感
・自分たちの町や市について調べ、自分たちの地域のよさを実感することができる。
 
図1 情報教育・環境教育に対する内容とねらい

 6年生:社会科などの学習で必要な情報をインターネットを活用して取り入れた。また、環境教育の一環として環境に関して自分でできることを実践し、その内容をホームページとして公開してきた。
 沖縄平和祈念資料館、水俣病資料館などとコンタクトとり、学習指導に生かしてきたことも、その一つである。
 5年生:社会科の調べ学習として、米作り、公害や工業についてホームページから情報を得て、それをもとにプレゼンテーションを作成するなどの学習活動を行ってきた。
 4年生:全国の小学校をはじめ、多くの人たちとメール交換を行ってきた。また、秋田・沖縄の小学校などとテレビ電話会議システムを用いて、交流学習を進めてきた。
 3年生〜1年生:国語や理科学習で必要な情報を教師が取り入れ、児童に役立つホームページを利用して資料づくりをしたり、子どもの作品をネットワークを用いて保存・読み込みをしたりしてきた。
 また、全校的には「校内メール」という活動を行ってきた。毎朝、職員室から発信される情報を、各教室のコンピュータで開き、朝の会などで全校に伝える活動である。これらの活動の中で様々な問題点がでてきた。
(2)問題の所在
 いくつか問題が見つかったが、ネットワークに関するものだけでも、以下のようなことがあげられる。
@:著作権やネチケット問題
 たやすく資料を手に入れることができ、加工が簡単にできるため、公開されている内容や写真などを、管理者に無断でコピーし学習資料として用いる。メールを出したいが誰に出したらいいのか。どうやって相手を見つけたらいいか。また、授業でメールを活用し、質問の回答を得ても、お礼の返事がおろそかになりがちであった。
A:調べ学習の問題
 学習に必要なことをインターネットを用いて調べようとしても、ホームページが見つからないし、時間がかかる。自分の意図しないページにいってしまう。何を調べようとしていたのか分からなくなってしまう。このようなことによって、子どもがコンピュータを用いて調べたくないという場合もあった。
B:新しい言葉や概念・構造の問題
 新しい言葉がどんどんでてきて、十分な共通理解ができていないのに、指導案や授業などでも使われるようになってきた。中でも、リンクという概念や階層構造が分からない。
 また、子どもが自分の作品をどこへ保存したのか分からなくなってしまったり、意図しない場所に保存してしまったりすることもあった。同じ操作を何回も行ってしまい、同じものがたくさん保存されたり、同じものが何十枚も印刷されりした。 
 この他にも、アダルト関係の問題、ウィルスの問題、コンピュータと子どもの健康の問題、機種の問題など、様々な問題がある。ネットワーク社会の中で生きていかなければならない子どもにとって一歩間違えば、犯罪に巻き込まれたり、情報社会から取り残されたりするような危険を含んでいる。ネットワークを用いるならば、子どもでも知っておかなければならないことがたくさんあるが、現在の状況では子どもに教える機会が少ない。重要だと分かっていても、小学生ではその意味や理由がなかなか理解できない。ネットワークを活用した授業を行う場合に、機会を見つけて、子どもだけでなく教師にも、これらの問題とその解決方法を示していかなければならないと考えた。 
 そのために本校では、「ネットの向こうに人がいる」というキーワードを掲げ、コンピュータ活用や操作だけでなく、そのネットワーク活用利点や問題点、構造などを理解させるような時間を設け、実践を行った。
 
2.指導計画、指導案
図2 コンピュータ活用指導計画
図3 チャットのルールづくり授業

 インターネットに関わる問題をわかりやすく子どもに伝えるために、「学級掲示ホームページ構想」というものをうち立てた。これは、「学校や学級そのものを、ホームページに見立てる。」というものである。
 学校には玄関があり、それぞれの教室がある。教室の中には、まず学級目標が掲示されており、後ろの掲示板には大事な子どもの作品が掲示してある。その掲示には先生から、一言、朱書きが入れてある。掲示物を含め、学校全体を1つのホームページだと見立てることによって難解なネットワーク環境をある程度理解できると考えた。学校、教室・学級、一人一人の子どもという階層構造はコンピュータの基本構造であり、インターネットの中にも多く用いられている。
 授業の中では、もちろんのこと、コンピュータを実際に操作する中で、上記の例えをもとに、操作やネットワーク環境などについて説明を加える。このことにより、上記の問題が解決できるのではないかと考え、ネットワークの理解を加味した指導計画(図2)を立てた。
        
3.学習の展開
@:著作権やネチケットの問題
 言葉だけでなく、具体物を提示しながら理解を深める。学級に掲示してある絵や作品をそのまま、インターネットで公開されている写真や作品と見立てる。
 そこで、子どもには、下記のように理解させることができた。
「自分が一生懸命書いた絵や作品が、勝手にまねをされたり、いじられたりしたらいやだよね。もし、インターネットにある写真や作品を、勝手にまねたり、いじったら、そのホームページをつくった人は、どんな気持ちになるだろうか。」このような指導によって、インターネット上や共通ホルダーにある写真や作品を、いじったり勝手にコピーしたりしてはいけないことを、十分に理解する事ができた。
 また、学級内でメールのやりとりを行い、ネット上での約束を確かめる授業を行った(図3)。 この授業は、子どもにとって新鮮であり、「普段、あまり話したことのない子でも、やりとりができた。」などの意見がでたが、「悪口や意味のよく分からないメールもきた。」という意見があり、下記のようなルールづくりを行うことができた。
・意味の無いメールは送らない。
・相手を中傷するようなメールは送らない。    
・的確な内容を、短く。
 このような意見は、小学校4年生でも十分に理解する事ができ、電子メールの利点や欠点などについての認識を深めることができた。
A:調べ学習の問題
 さらにインターネットを社会にたとえる。すると、自分が何を調べたいかによって、質問する人や、答えてくれそうな人がいる場所が分かってくる。例えば「水俣病」について調べたいときに、検索サイトに「水俣病」と入力するのではなく、「資料館」などの言葉を同時に入力することによって、水俣病について記載されているホームページに行きやすい。このように、子どもには「もし、調べるために出かけるとしたら、どこへ出かけて、どんな人に尋ねる?」という問いかけをすることによって、効果的に検索することができるようになってきた。また、メールを出すにしても、質問に答えてくれた人にお礼をするのは当然だよ。ということはわかりやすい。
 このように、ネットワークを社会・人にたとえることで調べ学習をスムーズに進めることができた。同様に、コンピュータでホームページや作品をつくるにしても、「ホームページや作品をつくればいい」というのではなく、誰に、何のために、何を伝えたいのか。という目的をもって行うことができるようになってきた。さらに、インターネット(社会)の中には、いろいろな人がいる。いたずらや犯罪行為をしようとする人もいるかもしれない。ということを理解させることにもつなぐことができた。
B:新しい言葉や概念・構造の問題
 新しい言葉や概念・構造を、社会や学校・教室をホームページと見立てた。これによりコンピュータやインターネットの階層構造を1年生でも理解できるようになってきた。ファイルを保存するときに、「長島小学校の(フォルダー)、1年生の(ホルダー)、1組の(ホルダー)、自分の名前の所に保存しましょう。」というだけで、正しい保存場所が分かるようになってきた。同様に自分のファイルを開く場合にも、正しくホルダーを開いて、目的のファイルを見つけることができるようになってきた。また、開くフォルダーを間違えてしまった場合にも、「間違えて、迷子になったら、長島小学校に戻ればいいよ。」と話すことで、迷子が少なくなった。
 また、このような問題を全職員に理解してもらうため研究推進だよりを発行していった。
 
4.成果と課題
写真 コンピュータはコミュニケーションツール
 急速なネットワーク環境の中に子どもが巻き込まれている現状がある。今までのようにコンピュータを使えばいい。という時代ではなく、コンピュータを使う前にしっかりとしたネットワークに対する学習をしておかなければならない。このことを学校の全職員で確認する事ができ、子どもの中にも、「ネットワークといえども、普段(生活)とかわりないんだ。」と言うようになってきた。小学生の段階では、できるだけ具体物をもちいて、しかも体験的に進めなければならないと考える。今後は、ネットワークの学習を系統的に計画を立て、進めていきたい。
 
ワンポイント・アドバイス
 ネットワークは、あまりにも複雑で、雑多なものである。よく分からない面が、非常にたくさんある。また、危険も含んでいるため、躊躇する人もいる。しかし、正しく理解し、正しく使うことができればたいへん便利で有効なものであると考えている。
 これまで述べてきた内容は、各学校のネットワーク環境に合わせて行うことができる。学校にコンピュータが一台もない環境でも行うことができる。これからの時代を生きる子どもたちの資質として指導するべきものではないかと考えている。