平成12年度「Eスクエア・プロジェクト 学校企画」実践報告書

・企画タイトル
動画データベースとテレビ会議システムを活用した総合的な学習「心の書」創り

岐阜大学教育学部附属中学校   関谷義道・井上志朗・吉田竹虎・山口正浩

キーワード
 中学校,1年生,総合的な学習,データベース,動画, テレビ会議、家庭


・インターネット利用の意図

 ・岐阜大学教育学部附属中学校は、大学と専用線で結ばれており、高速の通信が可能になっている。校内ネットワークも充実し、サーバー機が7台、クライアントが150台ほどあり、生徒は授業中だけでなく休み時間や放課後などに自由にパソコンを利用している。
 
また、学校と生徒の各家庭をインターネットで接続し、学校と家庭との連携のあり方についても実践研究を進めている。学校での生徒の様子は毎日Web上に公開され、その日のうちに自宅から生徒の様子を知ることができる。教師と保護者との連絡や相談もEメールを使って行われることが多くなってきた。  本実践では、以上のような環境のもと、インターネットを利用した実践として、“総合的な学習「心の書」”を設定した。

1.単元名 総合的な学習「心の書」

 ・「心の書」のねらい

 「心の書」は毛筆の『書』と、パソコンの文字による『めざす言葉』を融合させたものである。望ましい心の持ち方の『めざす言葉』(パソコン文字)と、その言葉の心を書いた『書』(毛筆)とを、展示ケースに入れて、自分の部屋に掲げ、自分の心の励ましになる作品創りを行うものである。創りあげた心の書の作品は、常に新しい作品と入れ替えができるようになっている。これまでの[道徳]は、知識だけの強要型に終わりがちであった。そこで、この『心の書創り』は、生徒自身の手でみずから“心の糧”になるものを製作し、自分自身の自覚によって、自分を高めていく学習を可能にするものとして[総合的な学習]に位置付けた。
 
筆字の『書』には、《心》があらわれ出ると考えられ『書は心なり』と言って尊重されてきたという伝統がある。この書の伝統を思い起こし、《心の書創り》によって《心のはたらき》があらわれ出るような学習を考えたのである。
 『めざす言葉』を創るパソコンの文字としては、Microsoft社のPowerPointを使用した。これは、独創的な文字や背景、絵、写真などを創造的に組み合わせることが可能であると考えたからである。

 

2.指導計画、指導案

・対象、時数など

   学習者・・・中学1年生(152人 4クラス)

   時間数・・・30時間程度の実践(週に1時間)(TT体制)

   作品数・・・5作品

   展 示・・・Web上に登録し誰でもどこからでも見られるようにする。
             また、自分の家等に展示し、作品を入れ替えられるようにする。

・実践環境

  コンピュータ支援学習室(ネットワーク、テレビ会議システム)等

・学習内容

  ○心の書…書道  ○Web上からの情報収集…情報活用能力 

  ○めざす言葉、ねうちみつけ学習…道徳

  ○作品ケースつくり…美術  ○作品のデジタル登録…コンピュータの活用

・指導案

 生徒はまず、本校ホームページの「心の書創り」(メディアプレイヤーを利用した動画データベース)の手引書を参考に、一人一人が主体的に、『書』を書く。そして、分からない時は、テレビ電話で自宅におられる関谷義道先生(ボランティアの書家の先生)にアドバイスを頂く。<動画データベース>
 
次に、『書』に関わる『めざす言葉』を創る。生徒はPowerPointを使い、自分の心を表す、文面とそのレイアウトを考えることになる。文字だけでなく、背景や挿絵、レイアウトなどいかに自分の気持ちを表すようにするのか、創造的で楽しい学習である。<パソコンソフトの活用>
 
自分で作成した『書』と『めざす言葉』による「心の書」作品は、裏打ちし、作品ケースに入れ、デジタルカメラで撮影する。その写真をデータベースとして登録する。<作品データベース>
 
その作品に対して、本人の感想と、生徒相互の評価(ねうちみつけ学習:具体的なよいてんを探し記入する)を行う。さらに、Web上に登録し、自宅からも閲覧して保護者がコメントを記入できるように工夫されている。

<家庭からのFTP>

3.学習の展開

・動画データベースを利用

 「心の書」の見本『書』は書家の関谷義道先生にお願いし、書いてみえる様子をデジタル保存(メデイアプレイヤー形式)した。一つの文字に対して5・6通りの見本と、その書き順を示した動画を準備した。例えば“心”という字には「自由な気持ちで、びくびくしないで、のびのび書いた作品見本」「生き生きと元気に、いきおいよく書いた作品見本」「自分に書ける書き方で本気で力づよく書いた作品見本」を準備して頂いた。その作品データベースはホームページ上に登録し、自分の好きな文字の、好きな書き方を参考に書が書けるようにしてある。
 デジタル形式の動画であるので、必要な時に途中で再生を一時停止にして書き方を真似たり、早送りをしたりすることが容易に行なえる。生徒にとっては書き順や筆の力の入れ具合が分かりやすく、大変効果的な教材見本になった。

・テレビ会議システムを利用

 NTTのフェニックスシステムを用いて、ご自宅にみえる書家の先生と学校とをテレビ会議システムで結ぶ実践を行った。これは、生徒が教室で見本を参考に、作品を書いた後に、テレビ会議システムで、ご自宅にみえる書家の先生に、アドバイスをいただくというものである。
 
生徒にとっては、憧れの先生に、書を見せながら直接アドバイスをいただけるという、非常に貴重な体験になった。
 
また、書家の先生にとっては、わざわざ学校まで足を運んでいただかなくても、ご自宅において、生徒と話をすることができ、移動をしなくてもよいというメリットがあった。

・生徒作品のデータベース化

 生徒の作品はデジタルカメラで撮影し、Web上にデータベースとして登録し、どこからでも閲覧が可能な状態になっている。学校だけでなく、自宅からも相互に見合うことができる。しかし、名前も出ているので、プライバシー保護の為に、PTA用のパスワードを設定し、関係者以外は見られないように工夫してある。
 このデータベース化の場面では、四国ラインズ社の「イントラバケッツ」というソフトを使用した。このソフトの特徴は以下のようである。 @どんな形式のファイルも添付することができ、データベース的な役割りを果たす。 A検索機能が充実しており、掲示板としての活用が有効である。 BWEB形式に保存することができ、インターネットを使いどこからでも閲覧が可能である。 CWEB形式を読み取り(ブラウザから開く)、修正することができる。(セキュリティーの為にパスワードを設定することも可能)
 生徒は、学校の授業の中でお互いの作品を見合い、具体的なよい点を評価する“ねうちみつけ学習”を行なう。そのコメントを作品データベースに記入していくのである。
 さらに、今回の実践は、イントラバケッツを使い、学校で作った生徒の作品紹介のページを家庭でも見て頂き、保護者の方にも作品に関わっての励ましのコメントを自宅から書いてもらうというものである。
 保護者の方の、「夢」という作品に対する励ましのコメントの一例を載せる。
・左の書には、力強さが感じられます。自分の頭で考える、人の痛みがわかる人になって欲しいです。右の絵のように、お日様の光をたくさん浴びて、まっすぐ自分の道を進んで行ってください。

・「書は心を表す」この作品のように、大きくて夢がたくさん、ふくらんで来ますように。小さな事にくよくよ悩まず前向きに未来を見つめてほしい。そして、この字を書いた時の事を思い出してほしい。


 自宅からでも生徒の作品を見ることができるのは、保護者の方には学校での様子が分かると好評であった。また、それに励ましのコメントを書くことができることは、生徒にとっても大きな励みとなった。
 生徒や保護者の方が、自分や自分の子供の作品だけでなく、他の生徒の作品を見ることができるのも、生徒の意欲づけに効果的であった。

 次に実際に使用した、学習プリントを示す。


実践指導プリント

《めざす心の書創り》作品

―その1―

◆学習のめあて 私たちは、どんなことをやるときにも、[やる気][元気][本気]の気を燃やして、やれるようになることが基本です。
◆こういう心の書創りが出来るようになるには、

 ☆[やる気]で、のびのび書ける書き方を工夫して書く。
 ☆
[元気]に、生き生き書ける書き方を工夫して書く。
 ☆
[本気]で、力いっぱいに書ける書き方を工夫して書く。

◆出来た作品の中から、一番のびのび、生き生き、力強く書けていると感じられる作品を選びましょう。

  やる気でのびのび書いた作品見本

注意

@ 作品見本を真似て書いたのでは、自分の作品にはなりません。真似ごとにならないように気をつけましょう。
A 字の形や書き方を、頭で考えたように書こうとすると、不自然なつくり事になってしまいますから、注意しましょう。
B ホームページから、参考にしたい作品にインプットして、書くときの筆動きをヒントにして作品創りをしましょう。
C 同じような書き方で書かないで、一枚毎に新しい書き方を工夫しよう。

 

 
やる気でのびのび書いた作品見本

 

 

 

4.成果と課題

総合的な学習『心の書』は、毛筆とパソコンの文字の融合と、それを創る過程において生まれ出てくる一人一人の心の成長を願った実践である。その実践において、コンピュータネットワークを利用した動画データベース、テレビ会議システムやWeb形式による保護者との連携は効果的な手段であった。

動画データベースでは、作品製作の分かりやすさはもちろんのこと、なかなか見させていただくことのできない書家の先生の作品製作の過程を動画でデジタル保存することができ、貴重な財産となった。

テレビ会議システムでは、人の移動が必要なく離れた自宅と学校とを結ぶ実践が可能であり、これからの様々な活用が期待できることが分かった。

Web形式による保護者との連携では、生徒の作品製作において格段の意欲向上がみられたし、保護者の方には学校での学習の様子が理解して頂けた。また、教師側も保護者の方の視点になって実践を見直すことができた。

一方、課題としては、生徒作品はパスワードを使い、保護者・生徒以外の方は見ることができないようになっているが、実践が進めば進むほどプライバシーの保持は重要な問題になってくる。

また、この実践は一つの方法であり、パソコンは道具にすぎない。さらに、より有効なパソコン等の教材の開発および活用により、より生徒の立場に立った本質に迫った実践を繰り返していきたい。

・ワンポイントアドバイス

 書家の先生等、一般家庭と接続する場合は、本校のように専用線では直接結ぶことができず、ISDN回線を活用することになる。学校の環境に合わせて、接続方法を考慮する必要がある。

・岐阜大学教育学部附属中学校のURL

  http://www.fuzoku.gifu-u.ac.jp/chu/index.asp