インターネットを活用した実践をささえる

学校情報化マネージャーの役割についての研究

中学校・総合的な学習の時間
長谷川元洋
松阪市立中部中学校
ghase@logob.com
http://www.city.matsusaka.mie.jp/edu/tyubu/

キーワード:学校情報化マネージャー、情報化推進コーディネーター、総合的な学習の時間、情報教育


 2002年度から本格実施される「総合的な学習の時間」を試行した学校から、実践事例が多数報告されるようになってきた。事例の中にはインターネットを活用した学習活動場面が多く、これまでの学習活動より効果があったという報告が多くみられる。しかし、その実践を参考にしても、なかなか思うようにできないという声も聞く。これまでの経験から、インターネットを使った授業実践を行うためにはいろいろな準備が必要であり、学校全体の情報化を進める役割をする教師が必要であると考えている。学校間交流などの実践は連係プレーによって、成立すると考えている。インターネット、オフラインの両方を組み合わせた連携プレーにより、情報教育の実践を成立させたる実践を行い、学校情報化マネージャーの仕事を分析しようとした。


 

  1. 単元名
  2. 主として、総合的な学習の時間など、情報機器を活用した学習活動

  3. 研究の実施体制、スケジュール
    1. 実施体制

    2. 情報教育係3名、大谷(総合的な学習の時間全体を計画、第2学年の職場体験学習を担当)、林(コンピュータの環境整備を担当、第3学年の総合的な学習の時間におけるインターネット利用のサポート)、長谷川(外部との折衝、校内LANの設計、計画、企画立案、第1学年の総合的な学習の時間における実践原案提案)が連携をとりながら、実践、研究をおこなった。

    3. 実施スケジュール

      • 6月 CEC E−Squere学校企画の補助をもらうことが決定
      •     総合的な学習の時間 スタートのための準備を行う。
      • 7月 総合的な学習の時間を試行
      •    学校に中古パソコンを寄付する活動を行うボランティア団体のプロジェクトに応募するにあたり、市教委と交渉。
      • 8月 中古パソコン寄贈されることが決定
      • 9月 第2学年職場体験学習
      •    校内LAN構成変更計画
      • 10月 ケーブルテレビ回線に切り替え、校内LANの構成変更
      •     第一学年外部講師を迎え、講演会、パソコン部テレビ会議交流
      • 11月 第3学年 文化祭で展示発表
      • 12月 パソコン部 中学校間交流 オフラインミーティング
      •     第3学年 まとめ
      •  1月 第1学年、第2学年 成果発表会、研究のまとめ

    4. 実施環境
      ダイアルアップ回線接続 64Kbps(9月まで)、 ケーブルテレビ回線接続 384Kbps(10月より)、 インターネット端末 1台(4月)、10台(11月より)、17台(1月より)

     本校では2000年度より、総合的な学習の時間の試行を始めた。総合的な学習の時間ではインターネットを活用した学習場面が多くなることが予想されたが、正規のインターネット端末は1台しかないという環境であった。


  4. 実践の紹介


  5. 本年度は「総合的な学習の時間」の試行のため、学年ごとに取り組む内容、取り組む形態をわけておこなった。第1学年は11講座から選択し、テーマ別の学習活動、第2学年では職業体験学習をテーマとした学習活、第3学年では平和学習をテーマに学習活動をおこなった。
      第1学年は11講座から選択し、テーマ別の学習活動、第2学年では職業体験学習をテーマとした学習活動、第3学年では平和学習をテーマに学習活動をおこなった。
     
     
    写真1.中学校間交流でのPC分解組立実習の様子   
    第1学年のさまざまなテーマ別の学習活動、第2学年の大きな共通テーマのもと、小グループに分かれ、体験活動が中心になる学習形態、 第3学年の大きな共通テーマのもと、調べ学習、まとめ学習が中心になる学習形態をとり、3つのタイプの実践を進めながら、どのような支援、準備が必要かを研究した。

     また、「総合的な学習の時間」の本格実施の際に実践可能なものとして、パソコン部で行った中学校間パソコン部交流(写真1参照)、国語科での古典学習「芭蕉ネット」
    http://www.city.matsusaka.mie.jp/
    edu/tyubu/haikutaisyou/indx.html
     参照)
    実践も支援、研究の対象とした。                     

     

  6. 学校情報化マネージャーとしてのサポート

 2.で述べたように総合的な学習の時間、パソコン部の活動、国語科の古典における発展学習「芭蕉ネット」等をサポートしながら、学校の情報化を進めてきた。これらの多岐にわたる実践を成立させるためには担当教師一人では実践不可能であり、校内、校外で連携をとりながら行った仕事を<表1>にあげることにする。

総合的な学習の時間などの教育実践は複雑な要素を含むため、教師が監督、コーチ、プレーヤー、サポーターなどの複数の役割を校内、校外で連携を図る必要がある。また、情報化推進コーディネーターの配置がすすめられようとしているが、派遣が実施されるとコーディネーターとの連携も必要になってくる。学校情報化マネージャーのサポートをスポーツのチーム運営にたとえると、基本操作のサポート(基本練習)、環境整備のサポート(グランド整備、用具の準備、手入れ)、実践運営にかかわるサポート(練習試合、大会引率、他チームの顧問との連携)、情報化推進コーディネーターとの連携(外部コーチとの連携)というように考えることができる。
 本研究では自分自身も実践を行いながらであったため、プレーイングマネージャーとしての立場であった。他の先生の実践のサポートをしながら、時にはワンポイントリリーフをしたり、自分のリリーフを頼んだりしながら、実践を進める形をとってきた。この点は忙しい学校現場で実践を成功させるために重要であると考える。
 実践事例集には授業で何をしたという点と生徒の様子が中心に書かれ、その実践を成立させるための準備が書かれることは少ない。また、機械には弱いという先生が校内や校外の先生の協力を得て、実践する例もあるが、実践を成立させるためのサポートは謝辞の一文にまとめられ、表面に出てこないことが多いと感じた。
 スポーツの有名チームの監督が書いた本や練習方法を解説した本を読んで真似をしてもなかなか成果がでないことと同じように、実践事例集にある先進事例が実践可能な状態に整える役割が学校内にないとなかなかうまくいかないと強く感じた。

5.情報教育は連携プレーで成立

 以下は今年度、実践を行うために参加したMLで流れたメールの数である。

校内情報教育係打ち合わせ用ML 187通(4月4日から1月20日まで)
アインシュタインプロジェクト用ML 254通(9月1日から11月6日まで)
中学校間交流打ち合わせ用ML 392通
287通(6月19日から10月11日・第1回テレビ会議まで)
105通(10月12日から12月11日まで・第2回オフラインミーティングまで)

 10月10日に行った総合的な学習の時間、パソコン部の活動の中で行ったボランティア団体アインシュタインプロジェクトによる著作権レクチャーは他校とのテレビ会議も組み合わせたため、400通を越えるメールによって打ち合わせ、準備を行い、連携プレーによって、実践を成立させた。
 情報教育はチームプレーによって成立する。学校全体で情報教育を行っていくためには学校情報化マネージャーの存在が重要になるであろう。

<表1>学校情報化マネージャーとしての仕事
<インターネットの利用に際してのセキュリティー管理>
 ・インターネット利用に関しての保護者向け説明会
 ・Webページ作成のガイドラインの作成、提案
 ・職務上作成した文書の著作権についての取り決めの作成、提案
 ・インターネットとは別系統にした公務処理用ネットワークの構築
 
・ウイルス情報の連絡、回覧
 ・インターネットとは別系統にした公務処理用ネットワークの構築
 ・生徒向け著作権レクチャーの企画
 ・ネット社会の歩き方 http://www.net-walking.net/ を使った実験授業
 ・フィルタリングシステム導入の検討、テスト(SFSの導入テスト)http://www.cec.or.jp/es/E-square/books/raiting/index.html
 ・インターネット活用ガイドブック,モラル・セキュリティ編の職員への回覧、配布 http://www.cec.or.jp/books/index.html
<教師の仕事環境の整備>
 ・職員室内LAN(インターネット用、成績処理用の2系統)の構築
 ・成績処理用の別系統ML
 ・プリンタの共有、MOの共有など
 ・個人のパソコン購入相談、代理購入
 ・端末のLAN接続設定
 ・個々の先生が操作に困った時のサポート
 ・スキャナー、CD−R、MOの設置
<学習環境の整備>
 ・イントラネットサーバーの導入
 ・インターネット接続可能パソコンの入手
 ・中古PC、古いPCパーツの入手
 ・中古PCのインターネット端末としての再生
 ・インターネット端末の管理、整備
 ・テレビ会議システムの入手
 ・テレビ会議システムの多地点接続設定の依頼
 ・生徒がコンピュータを使う場面でのサポート
 ・ISDN回線からケーブルテレビ回線への変更に伴うルーター設定、LAN構成の変更
 ・インターネット @ ホームの図書室への配置 http://www.cec.or.jp/es/E-square/books/kyoudou/handbook/ATHOME/index.html
<他の先生のサポート>
 ・デジタルカメラの使い方の説明         ・ワープロ、表計算ソフトの使い方の説明
 ・ワープロ文書への写真の貼り付け方の説明  ・ホームページの使い方の説明
 ・検索サイトの使い方、使い分け方の説明    ・メールの使い方の説明
 ・プロバイダーの紹介    ・教科、実践にかかわるメーリングリスト、メールマガジンの紹介
 ・パソコンをインターネットに接続する際の設定の説明
 ・プロキシーサーバーを設置した場合の設定変更の仕方の説明
 ・レーザープリンタ導入の際にネットワークプリンタの設定変更の仕方の説明
 ・メールソフトのインストールの仕方、設定の仕方の説明、アドレス帳、シグネチャーの設定などの説明
 ・メールにデータを添付して送る方法の説明
 ・ccの意味の解説  ・画像ソフトの使い方の説明
 ・FTPソフトのダウンロード、インストール、設定の仕方の説明
 ・FTPソフトを使ったWebページ更新の仕方の説明
 ・ファイル操作の説明  ・表計算ソフトのグラフ機能の説明
 ・選択数学の授業でインターネットを活用した実践の紹介、サポート
 ・スキャナーの操作方法の説明   ・フリーの画像編集ソフトの紹介
 ・壊れた個人ノートパソコンの修理  ・データバックアップの仕方の説明
 ・インターネット @ ホームの配布 http://www.cec.or.jp/es/E-square/books/kyoudou/handbook/ATHOME/index.html
<学習実践のサポート>
 ・交流学習プロジェクト参加に際しての相談
 ・国際交流プロジェクト参加申し込みの企画申請書についての相談
 ・国際交流プロジェクト参加決定後、事務局との対応についての協力
 ・プロジェクトの紹介  ・プロジェクトの立ち上げ
 ・実践をすすめるための打ち合わせようMLなどの準備、運営
 ・実践で掲示板の立ち上げ準備、運営  ・実践計画を立てる際の原案提示
 ・初心者の先生が慣れるまでの窓口役  ・初心者の先生が発言しはじめるまで、MLでの代理発言
 ・交流実践が停滞しそうな際の指針提案  ・パソコン室での調べ学習にT・Tとしての協力
 ・交流校の先生への実践のまとめを行うため、アンケートの協力依頼
<外部との連携>

 ・E-Squereプロジェクト申し込みに際し、教育委員会への決裁の申請、申し込み
 ・アインシュタインプロジェクト http://www.einstein-project.gr.jp/ 参加に際する教育委員会への決裁の申請、申し込み
 ・中古PC受け入れに際する財務上の手続きについての調査
 ・国際交流プロジェクト申し込みに際する申請手続きを説明
 ・核融合研究所のプロジェクト申し込みに際する教育委員会への決裁の申請、申し込み
 ・アインシュタインプロジェクトの著作権レクチャーに際する打ち合わせ(メール総数約400通)
 ・中学校間交流に際して、他3校の先生と打ち合わせ
<校内の情報教育係での連携>
 ・職員室での相談
 ・MLでの相談

 パソコン部中学校間交流
  菰野中学校(三重県)、南山国際中学校(愛知県)、滝中学校(愛知県)

 芭蕉ネット
  長浜北中学校(滋賀県)、石山中学校(滋賀県)、南島中学校(三重県)

情報化推進コーディネーターの役割についての考察 長谷川元洋、森喜世子、南和美
日本教育工学会研究報告集 JET2000-4 pp.99-105