ストリーミングサーバーによる動画教材のVOD配信システムの構築とその授業

 

大津市立瀬田小学校 石原 一彦

キーワード 小学校 情報教育 リアルビデオ ストリーミング VOD 


インターネット利用の意図
 今年度は新学習指導要領の移行時期に当たり、「総合的な学習の時間」の完全実施に向けて準備が各校で始まっている。この「総合的な学習の時間」では情報教育の体系的な実施が期待され、本格的な情報教育の実施に向けてカリキュラムの整備などが進められている。さらに、政府のミレニアムプロジェクトでも提案されているように、各学校の情報環境を段階的に整備することが計画され、特に校内LANの構築なども環境整備の視野に入れられ、数年後には学校の情報環境がめざましく向上するものと予想される。しかし、このように情報環境のハード整備が進められるのに対して、これらの環境を生かすソフト環境が今のところ十分整っていないのが現状である。
 本企画では校内LANがすでに整備されている情報環境を前提に、校内LANを有効に利用するための学習利用のソフト面での整備を目標に、将来的に必要になる統一された環境下での教材の配信システムを構築することを目指している。具体的には、校内LANの端末からWEBベースのインターフェイスで動画教材などを自由に引き出すシステムを構築し、学習者が必要に応じて教材を引き出し(
VOD配信)、自分に必要な情報を自在に引き出す環境を整備することが目標である。

1、単元名 「文化祭新聞を作ろう」(6年「総合的な学習の時間」)
@ストリーミングサーバーによる動画教材配信システムの教育的意義
 今後の動画配信技術はストリーミングが主流になるものと予想される。今まで、動画ファイルは静止画に比べて容量が大変大きくなり、ネットワークを介して自在に配信することは難しいとされてきた。大きな動画ファイルをすべて送信し終えてから再生が始まるので、学習者はファイルのダウンロードをひたすら待つ必要があった。通信技術の飛躍的な向上により、回線速度が飛躍的に向上したとはいえ、動画ファイルをネットワーク上でインタラクティブに扱うことは技術的に難しかったのである。ところが、ストリーミングによる動画配信システムでは、送られてきたファイルを順次再生することが可能になるため、大きな動画ファイルでも比較的ストレスが少なく利用することができる。また、送られてきたファイルは再生されたものから順次廃棄されるため、端末のコンピュータに負担をかけることも少ない。
 このように、ストリーミングによる動画ファイルの配信は、現状では校内LAN環境での高速通信下で
VOD配信が可能なところまで到達している。学校には眠っている動画教材が多数ある。WEBベースによる統一されたインターフェイスによる教科別学年別の使いやすいインデックスを組み合わせることによって、これらの動画教材を教師または児童の要求によって直ちに配信される学習システムに組み替えることができるのである。これは、今までのビデオ教材の価値を飛躍的に高めるものと期待できる。従来、ビデオ教材などは視聴覚室の棚の中に整頓されて置かれてあった。教師は必要なビデオ教材を選んで、VTRのデッキを教室まで持ち運んで教室のテレビで児童に視聴させていた。ストリーミングサーバーによる動画教材のVOD配信システムであれば、教室の端末からビデオ教材を自由に選んで子どもたちに視聴させることができるのである。また、子ども自身が自分の必要なビデオ教材を選び、自分で視聴することも容易にできるようになるだろう。「総合的な学習の時間」において学習者自身が自らの必要に応じて必要な資料を選択し入手する活動が重視されるようになる。このような学習を進める上でもストリーミングサーバーによる動画教材VOD配信システムは必要になるものと考えられる。
 今後、静止画やテキストなど他のファイル形式の配信を含めて、すべての教材となるファイルは当面、WEBベースのインターフェイスによって統合されると予想される。
A瀬田小学校の校内LAN
 次に瀬田小学校の校内LANの構築について説明する。瀬田小学校はかつて児童数が1500名を越える市内でも有数のマンモス校であった。そのため、北、中、南の3階建ての校舎が3棟あり西側にも旧管理棟がある。旧管理棟には2階に図書室などがあり、その隣の生活科室というカーペット敷きの比較的大きな部屋を99年の4月にコンピュータ集中配置用の部屋に利用することになった。この部屋に私物のパソコンを10台程度設置し、ハブを置いてLANケーブルで結んだ。イントラネット用のサーバも設置し、瀬田小学校の情報教育の中心となる場の設定ができあがった。後にこの部屋は「コミュニケーション・センター(
C・センター)」と名付けられ、休み時間や放課後には子どもたちに開放されるようになった。高学年の児童で構成されるコンピュータ委員会を今年度より新設し、この委員会がこの部屋の管理を行うことになった。
 北校舎1階にある職員室にも私物のパソコンを2台置き、ネットワークでレーザープリンターを共有し、校務処理で活躍するようになった。パソコンの中に校務分掌ごとのフォルダーを作成し、担当者の文書を保存することにして、校務の効率化を図った。希望する職員には机までLANケーブルを引き、職員室のLANに接続した。
 この年の夏には、リース落ちの中古パソコンを10台私費で購入したり、知り合いから中古のパソコンを譲っていただいたりしてペンティアム200程度のデスクトップ機が20台と、ノートパソコンが6台ほど集まった。そこで、C・センターの壁面にデスクトップマシンを15台ほど配置し、ハブもファーストイーサのスイッチングハブに交換し
CAT5のケーブルを引き直した。この部屋の中央には大きな机を置いてそこにスイッチングハブと電源タップを配し、ノートパソコンがつながるような環境になった。
 10月には、南校舎3階にある高学年の空き教室(プレイルーム)にもケーブルを引き回して、5年の空き教室に端末を3台ほど置き、イントラネットがC・センターから普通教室に広がっていった。


 この年の冬になって、翌年から2年間、上月教育財団の研究助成を受けることになり、2学期末には実験用として、NTTのOCNエコノミーの回線を引き、本格的にインターネットへの接続を開始した。3学期になって、職員室とC・センターを結び、校内に分散していたネットワークがひとつにつながって、それぞれの場所からインターネットが自由に使えるようになった。それに併せて各種サーバを整備し、瀬田小学校のネットワークがほぼ完成した。さらに、5年のプレイルームに置かれていた3台の端末を5年の各教室に移動し、子どもたちは教室からインターネットを利用できるようになった。また6年生のプレイルームにも端末を2台設置した。またこの年はCEC(コンピュータ教育開発センター)の高度教育利用企画事業にも参加していることもあり、無線
LANの設備を購入して、有線の校内LANに加えて無線LANも利用することになった。無線LANのアクセスポイントを、C・センターと職員室にそれぞれ1台、南校舎の3階に2カ所設置して3棟の校舎がほぼネットワークに接続可能になった。
 2000年度になって、6年生の普通教室にもそれぞれ3台ずつ端末を置き、高学年全ての教室でインターネットを利用できる環境になった。また、保健室や校長室、障害児学級にも端末を設置して無線LANで接続し、ここからもネットワークが利用できる環境になった。現在ではCセンターに30台、校内各所に10台程度コンピュータが置かれインターネットに接続されている。(ネットワーク図参照)
B授業のねらい
 今回の授業では、瀬田小学校の校内LAN環境を活用して、文化祭で発表した6年生の演劇の様子を見て、新聞にまとめる活動を行った。単元のねらいとしては次の通りである。
C児童の実態と情報活用能力
 授業を行う6年生は、昨年度より校内の情報環境の整備に併せて徐々に情報機器に触れ、慣れ親しんできている。また、今年度より「総合的な学習の時間」として3人の6年担任がそれぞれ、情報教育・英語を中心にした異文化理解教育・福祉健康教育の分野を担当し、ローテーションしながら6年全員に指導するようにしていて、今年度はすでに情報教育として15時間程度学習してきている。また、「総合的な学習の時間」以外でも、各教科でもコンピュータをよく利用している。社会の調べ学習や、国語の作文指導などである。このような取り組みの結果、子どもたちの情報スキルは比較的高いといえる。また、6年2組の子どもたちはチャットをするのが好きで、空いた時間にはチャットを楽しんでいる。電子メールのアドレスも全員持っているが、今のところあまり使われてはいない。
 ローマによる文字入力のスキルは、今回の授業で利用する掲示板への書き込みなら1時間もあれば入力できる。画像を使った資料の作成もそれほど困難ではなくなってきている。ただ、一部の消極的な子どもたちは、進んで情報機器を活用しようとする姿勢が見られず、それにつれて児童のスキルの差は広がってきているといえる。このあたりが今後の課題である。
D本単元までの取り組み
 今回の授業で行うBBSを用いた作文指導は今年度、今まで2回実施してきている。最初の作文指導は春の校外学習の感想文であった。奈良公園での班別自由活動の思い出をそれぞれ作文用紙に下書きをして、それをBBSに打ち込んだ。担任は個々の児童の作文をワープロで一つにまとめ、印刷して文集にした。できあがった文集はクラス全員で読み合わせをして、文字表記の間違いや作文の良いところを見つけ合った。
 次の取り組みは「運動会」の作文である。これも前回と同じように文集を作成して読み合わせを行った。
 BBSを利用した作文指導の良さは、児童の推敲作業が繰り返し行えることと、効率よく文集を作成できることである。文集を作っておしまいではなく、できあがった文集をみんなで読み合わせてそれぞれの作文を全員で評価することによって意味のある作文指導ができるものと考えている。
 今回の授業では、文字ベースだけでなく、画像も組み合わせることで「レイアウト」を意識させることにしている。児童がより多くの表現媒体(メディア)を組み合わせて自分の思いや考えを表現できるようになってもらいたいからである。

2、指導計画
@「文化祭」の思い出を作文に書き、校内LANの掲示板に入力する。(1時間)
A校内LANのWEBページに掲載されている「文化祭」のリアル動画を見たり、デジタルカメラの静止画から「自分のお気に入りの一枚」を探す。(1時間)
Bワープロを使って「自分のお気に入りの一枚」の画像と作文を組み合わせてA4サイズで1枚の新聞にまとめ、印刷する。
C全員の新聞を印刷して文集にまとめ、読み合わせをして文字の間違いや文章表現の良いところを見つけ合う。(4時間)・・・国語として

3、本時の展開

学習活動

教師の支援

  1. 文字入力の練習(5分間)


 
  • C・センターに来た児童からコンピュータを起動し、タッチタイピング練習ソフトを立ち上げて、5分間練習する。
  1. 本時の学習課題を知る。
  • 本時は、事前に書き込んでおいた作文と、デジカメの画像を組み合わせてA4サイズ1枚の新聞を作成することを知らせる
  1. ブラウザーとワープロを立ち上げて、ブラウザーから文章や画像をコピーし、ワープロに貼り付ける。
  • 液晶プロジェクターを使って、実際に作成する手順を示す。
  1. レイアウトを工夫する。
  • 貼り付けた画像の大きさや位置を変更する方法を液晶プロジェクターで示し、A4サイズ1枚にうまく収まるようにレイアウトを工夫させる。
  1. できあがった児童から作成した新聞を印刷する。
  • 印刷プレビューの使い方を知らせ、全体のレイアウトや印刷イメージを確認させる。

  • 画面で確認できた児童から印刷させる。
  1. 印刷した新聞を読み返し、必要があれば間違いを直して再度印刷する。
  • 印刷ができた児童は待っている児童と交代させ、最終的な校正を行わせる。
  1. 作成したファイルを自分のフロッピィーディスクに保存する。
  • 待っている児童の作業を優先するが、時間に余裕があれば校正を行ったファイルを再度印刷させる。

4、成果と課題
 今回の取り組みでは、校内LANを利用して文化祭の様子をリアルビデオでふり返り、デジカメの画像を貼り付けてクラスの文集を作り上げることが目標であった。従来のように教室でビデオを視聴したあとで作文を書かせ、紙に焼いた写真を貼り付けて文集を作成するというやり方では大変時間がかかり、みんなで取り組んだ舞台の印象が冷めてしまうことにもなりかねない。しかし今回の取り組みのように校内LANの環境の中で、ビデオオンデマンドによる動画配信システムを活用することで、文集の作成という一連の作業を大変すばやく完成させることができた。このようなスムーズな作業の進行にはデジタル技術は欠かせないと感じている。今後は、このような校内LANのより洗練された利用法を考えて子どもたちがデジタル技術をうまく学習に利用できるようにしたいと考えている。具体的なプランとしては、学習用教材ビデオや国語の朗読用教材CDなどをデジタル化してサーバーに蓄積し、いつでもどこでも誰でもが利用できるような学習環境の整備を進めるのが目標である。校内LANによる視聴覚教材の統合化はここ数年先には実現していることだろう。