誰もが指導できるIT学習

〜メディアリテラシー育成のための授業プランの作成〜

小学校全学年 総合的な学習の時間

大津市立平野小学校 上杉 康晴

キーワード:小学校 全学年 リテラシー カリキュラム


企画のねらい

本校は100校プロジェクトに参加し先進的な実践を行ってきた。全小学校にネットが組み込まれるのを前にして、最も現場の教師が欲しがるものは何か?そう考えると一過性の大きなプロジェクトよりも普段着で気軽にできるネットの利用である。特に、情報活用能力の育成は、年間計画を作成しただけでは実際の指導は行えない。そこで、教師誰もが指導できる系統化されたIT学習の授業プランを作成し、各学年の総合的な学習の時間に位置づけ定着化を図り、児童の情報活用能力の育成を図りたい。


1 IT学習授業プランの作成

  1. ねらい

 本校は、100校プロジェクト、新100校プロジェクトに引き続き、先進的ネットワークモデル事業に参画し、専用線接続による様々なかたちのインターネットの教育利用を図ってきた。5年間の研究によって、情報収集、発信、交流等考えられる実践を開発し、各学年のカリキュラムに位置づけることができた。
 これら先進的な取り組みも、児童の適切な情報活用能力の向上があってこそ教育的な効果が上げられる。本校も、情報活用能力の育成に関わる年間指導計画を作成し、児童のメディアリテラシー向上を図っているところである。
 しかし、ここで大きな問題にぶつかっている。
 実際の指導に当たる指導者(教師)のメディアリテラシーの違いによって、指導に差異が生じてきたのである。教師のリテラシー向上のための研修会の開催を月一回と頻繁に行っても、その溝はなかなか埋められないのが現状である。
 国の施策、教育情報化プログラムによって全国の学校にインターネット接続が行われる。それに伴い、コンピュータも導入される。そうした中で、日本の全ての学校が、こういった問題に出会うと思われる。早急に普通の教師が指導できるIT学習授業プランを作成し、スキルとして情報活用能力を子どもたちに身につけさせていく必要がある。
 授業プランの内容としては、スキルの項目、実施時期や使用ソフト、授業の進め方(発問)、到達度目標、教材・ワークシートなどが考えられる。
 それらをネット上に位置づけ、どの学校からでも使用できるようにすればコンピュータ利用ももっと身近なものとなるであろう。
 普通の教師が指導して、しかも子どもに力がつくそういったプランをめざす。


(2)
IT学習(リテラシー学習)の位置づけ
 本校では、今年度、70時間の総合的な学習の時間を設定している。その時間の中から、各学年10時間程度の時間を
IT学習の時間として位置づけることとした。実施時期については、IT学習で学んだスキルを発展利用できる教材との絡みを考えるとともに、学期に偏りがないように配慮した。
(3)情報活用能力の分類と
IT学習
情報活用能力は、情報活用の実践力・情報の科学的理解・情報化社会に参画する態度の3本の柱から育成されるものである。本校で取り組む
IT学習では、デジタル情報のハンドリングを行うことができるスキルを高める(情報活用の実践力)中で、メディアの特性を理解し必要に応じた選択ができる力(情報の科学的理解)や「人」との豊かな関わり(情報化社会に参画する態度)を大切にし、単なるコンピュータ操作の向上を図る活動に陥らないようなカリキュラムの作成を心がけることとした。
 そうした視点を活かすために、3分野(ドキュメントベース、データベース、コミュニケーション)に分類し、各学年の系統性を重視したプロジェクトベースのカリキュラムを考えた。

ドキュメント

ワープロ、画像処理等のスキルを高め、コンピュータの特性について理解を深める学習。

データベース(WWW)     

WWW上を中心とする情報の収集の仕方を学び必要に応じた情報を選択・発信することができる力を育てる学習。

コミュニケーション

BBSEmailを中心に、自己表出できる学習を設定し、「人」との関わりを大切にする学習。

図1:IT学習の内容と3領域

学年

ドキュメント

www(データベース)

コミュニケーション

1年

はじめてのお絵かき

がっこうたんけん

おてがみ/絵日記T

2年

写真を使って

インターネットって?

おてがみ/絵日記U

3年

文字入力って

年賀状を作ろう

草花を調べよう(リンク集)

昔の暮らしを調べよう

自分の詩を掲示板に

4年

観察日記を書こう

文集を作ろう

方言調べ(検索エンジンを使って)

委員会に提案しよう(掲示板を使って)

5年

カメラマンになろう

ホームページを作ろうT

情報倫理学習

掲示板ディベート

6年

DTP

ホームページを作ろうU★

電子メールを使って

障学級

お絵かき

カレンダーを作ろう

インターネット探検

ともだちになろう(メールを使って)


(4)授業プランの構成 
 “教師誰もが指導できる”授業プランの作成を心がけた。そのために、実際の児童とのやりとり(発問や指示等)を例示し、授業で必要となるワークシートの作成にも力を入れた。また、使用ソフトについては、汎用性のあるソフトを使用することで、多くのソフトを有しない学校においても実践できるようにした。
 できた授業プランは、1冊の冊子にまとめることができた。

(5)利用・稼働環境
 先進的ネットワーク地域モデル事業に大津市が参加しており、その傘下の学校として専用線によるネットワーク接続が可能な状況にある。メディアセンターを中心として、職員室、保健室、校長室、各普通教室へのLANも設置済みである。

a)使用機種  教師機 NEC MATENX MA45D  
    NEC MATENX MA30H  
  生徒機 NEC MATENX MA46H 11台
    NEC 9821 XA10 8台
    FUJITSU DESKPOWER S165 1台
b)周辺機器 デジタルカメラ OLIMPAS 860L 8台
    OLIMPAS 830L 3台
  プリンタ EPSON 3000C 1台
    EPSON 770C 2台
c)使用ソフト 一太郎スマイル スタディノート FRONT PAGE EXPRESS

2 実践事例

 各学年(障害児学級含む)3領域すべてにわたり、授業プランを作成したが、その中から第6学年の「ホームページを作ろうU」(データベース領域、図1★)について詳しく説明することとする。

 この授業は、総合的な学習の時間に実施した「歴史史跡ガイドブックを作ろう」の学習活動の一つとして組み込み実践した。

(1)実施時期及び総時間数   6月〜7月  全20時間

(2)単元指導計画

指導計画

留意点

○大津市の歴史史跡について調べよう。

  ◎インターネットの利用

☆大津にもだくさんあるなぁ。
☆大人向けのガイドブックしかない。

  • 大津市のホームページや観光協会発行のガイドブックを手がかりに調べさせる。

○実際に行ってみよう。

   (図2)

 

  • 班別活動を組む。見学する場所、行き方等について自分たちで企画させる。
  • できる限り多くの歴史史跡の中から選択させるために、教師の体制を整え、保護者にも協力を呼びかける。
  • デジタルカメラを使用し、ガイドブック制作に必要な写真を撮影させる。

○ガイドブックを作ろう。(図3)

  • ホームページの作り方を学ぼう。

       (別掲)

◎インターネットの利用

  • 調べた情報をまとめさせ、どんな情報を発信するのかを考えさせる。
  • 多くの人にみてもらいたいという願いからネット上に発信する。

○ガイドブックを見てもらおう。

 ◎インターネットの利用

  • 調査した近くの小学校の人たちや観光協会の人に見てもらって指摘を受ける。
  • 間違っていたり、指摘を受けたところを改善させる。

  

図2 現地での調査活動        図3 ガイドブック制作活動

(3)利用場面  「コンピュータでガイドブックを制作しよう」

学習活動

活動への働きかけ・備考

FRONT PAGE EXPRESSの使い方について知ろう。

  • 日本語入力モード、文字の大きさ、背景の変更、画像の挿入の方法、リンクの方法について指導する。
  • 複数画像を使用する場合については、表を使用すると見やすくなることを教える。

ガイドブックを制作する。

  • 現地見学で撮影してきた画像一覧を見て、使用する画像を選択する。
  • コンピュータは各班3〜4台使用できるようにし、同時作業が可能なようにする。
  • どの情報を掲載するか、どのような表現をするか、班別にしっかりと検討させる。
  • 情報に誤りがないか、見やすくできているか自己評価させる。

できたページをネットにアップしよう。

  • FTPを使用して、サーバーにアップする。

   

(4)ホームページづくりを終えて

 「ガイドブックをつくる」という明確な課題を持った授業プランであったために、ソフトの操作方法については、非常に意欲的な姿がうかがえた。また、6年に至るまでに、文字入力等のリテラシーが高まっているために、コンピュータによる表現になっても、それほど制約を受けずに行うことができ、改めて、系統化されたリテラシーの向上の必要性を痛感した。制作途中、大津市歴史博物館発行の資料の中の写真を使いたいという児童がいた。児童は、歴史博物館に連絡をとり掲載の許可を得るなど著作権のあり方についても学習するに至った。

3 成果と課題

 各学年3領域にわたる1冊の授業プランを完成させることができた。発問から使用ソフト、そして、データの保存方法に至るまでの指導すべき内容を具体的に書き込んだものである。これを作成することにより、多くの教師が、どのように指導すればいいかをあらかじめ頭に描くことができ、すべての授業を実施することができた。本校の場合、複数教師による指導は、人的な問題から無理な状況にある。従って、各学級担任が一人で指導していかなくてはいけない。そうしたときの教師の不安を取り除くことができる授業プランになったようである。その授業にあわせて、各教師が、自分の指導すべき内容についてあらかじめ教材研究する。そのことが、定期的な情報研修会にも勝る教師の情報リテラシーの向上につながった。「やらなければいけない」そうした教師の意識改革にもつながったようである。

 また、このコンピュータリテラシーの育成を基礎基本の一つとして、総合的な学習の時間に各学年10時間程度の時間を設定できた。このことは、指導する時間が確保されたことばかりでばく、学校全体としての取り組みであることを認識できたことに大きな価値がある。

 さて、児童の反応であるが、授業プランに示されている多くの学習は、単にコンピュータやソフトの使用方法を学ぶばかりでなく、学習成果が見えるようにしている。初めてのお絵かきを楽しんだ児童は、印刷された自分のお絵かきを見て、友達との会話を弾ませ、自分の作品として持ち帰ることができた。年賀状を作った3年生は、自慢げに家に持ち帰った。家庭で作り方について親に教えている児童もいるそうである。ホームページを作った児童は、家庭から自分の作ったホームページを見て、家族の人に紹介している。低学年は、高学年がやっている活動を目にしてあこがれを持ち、自分もやってみたいと感じたようだ。また、高学年は、今まで学んだ技術を利用して自分なりのこだわりを発揮できるようになった。一つの活動をするにしても、選択肢が大きく広がったのである。

 この情報リテラシー育成のためのカリキュラムを実施することが、児童の情報活用能力を育むためのすべてではない。この授業プランで培ったリテラシーを、教科、また、総合的な学習の時間で生かしていくことが必要になる。そのためには、教師自体がこれに満足することなく、各単元で利用できる場面を想定していかなくてはならない。今年度は、いくつかの学年で、リテラシーを発揮する単元を総合的な学習の時間に設定することができた。来年度以降も、さらにこの授業プランを使いやすくするために改善を加え、培ったリテラシーを発揮できる教科・単元のあり方を模索していきたい。

 ワンポイントアドバイス

 本校は、情報教育の研究を始めたのが8年前になる。現在の6年生は、1年生のときからコンピュータやネットワークを身近な物として感じ、多くの実践をする中でリテラシーも向上していた。これから、導入される学校については、同じ6年生であっても、こうしたリテラシーが付いていないと想定して上で、カリキュラムの開発を行う必要がある。また、そのカリキュラムについても、数年間は、見直し検討作業が必要になるだろう。本校のカリキュラム、及び、授業プランについては、下記アドレスにおいて公開しているので参考にしていただきたい。

http://www.otsu-edunet.ed.jp/~hirano1e/new/index.html

参考にしたURL

文部科学省 新学習指導要領 

情報化の進展に対応した教育環境の実現に向けて (情報化の進展に対応した初等中等教育における情報教育の推進等に関する調査研究協力者会議  最終報告)       http://www.mext.go.jp/