小中高大連携の視点で見る情報教育

−連携と一貫を生かした情報教育−

立命館中学校・高等学校 情報教育部

教諭 脇田俊幸 酒井淳平

wakida@k12.gr.jp junpei@fkc.ritsumei.ac.jp

http://www.ritsumei.ac.jp/fkc/

キーワード 中学校<,高等学校,技術<,情報,イントラネット,webページ,世代間交流,総合


0.はじめに
 今年度の「Eスクエア・プロジェクト」学校企画において、「中高一貫教育での卒業研究レポートを利用した世代間交流」「京都歴史地図作り」「小中高大と継続した情報教育カリキュラムの検討・構築」を実施した。
  1. 中高一貫教育での卒業研究レポートを利用した世代間交流

  2.  本校では卒業研究レポート(以後卒レ)を中学3年生に課し、その上で高校に進学をしている。これは中学2年生時に自分で決定したテーマに沿って中学3年生の1年間をかけて原稿用紙30枚以上にまとめていくものである。しかし、中学2年生時の卒レのテーマ決定はなかなか難しく、また提出後の卒レはなかなか参照しにくい状態で書庫で保管されていた。
     この卒レを参照しやすくするためにwebページ化してイントラネット上で公開し、これを仲介として卒レを書き終えた高校1年生とこれからテーマを決定していく中学2年生の間で世代間交流を図る企画を立てた。(2.〜7.)
  3. 高校1年生の実践 図1は活動風景

  4. ・単元 後輩に自分の書いたレポートを伝えよう!
    生活一般2単位のうち1単位を「情報」の時間として設置しており、その時間を利用。
    ・対象者 立命館中学校出身の高校1年生(一部に立命館中学校以外の出身者)
    ・ねらい、目標
    • 卒レを更にまとめ、適切な表現方法で表現できる。
    • 中学2年生向けに、卒レのwebページを作成し、“卒業研究レポートとは?”を発信し、これから取り組む中学2年生の支えになっていくことを目指す。
    • ものを作る喜びや、正しく伝える難しさを経験することで、今後のプレゼンテーションを主体とした授業に対する準備をする。
    • 第三者(中学2からの評価をうけることで、自分の卒レを振り返り、見直す。
    ・利用場面 普通教科「情報」 「情報収集」「情報発信」の部分
    指導計画(学習の展開、時期、活動内容)
     1学期にHTMLの基礎を学習した。2学期の授業をすべて卒レのwebページの作成に使った。これは冬休みにある中学2年生の卒レのテーマ決定に間に合わせ、参考にしてもらう必要があるためである。
    2学期の授業展開(別紙1に4限目までの指導案)
    1時間目  何でみせる?自分のレポート   チェックリストを使って
       レポートの準備、webページ全体の構成とトポロジー、ページごとのデザイン
    2時間目  どう見せる?自分のレポート   全体の構成、デザインの完成
    3〜8時間目  よっしゃ作ってみよう!   webページ製作作業
    9時間目  さあ中2へ公開しよう!   サーバへのアップロード
    10時間目  ちょっと待て、なんか変だぞ私のページ   最終チェックと追加作業
    11時間目  お疲れ様、やってみてどうだった?   自己評価、授業評価
      デザイン、リンク、ページ構成のチェック、授業評価
    ・事前準備、必要な物品等

    図1


  5. 成果と課題(高校1年生)

  6.  一度書き終えた卒レをもう一度見直すことで、自分のやってきたことを振り返るいい機会となった。また良く知るクラブの後輩から直接感想を言われた生徒も何人かいたようで、そこでは生徒同士のつながりが深まっていった。
     「中2に見せる」という目標は良い動機付けとなっている。大半の生徒が「webページを作成するのが楽しかった。」という意見だった。しかし、中には「中2に見せる」という目標を忘れてしまい、「遊んでしまった。」という生徒もあった。途中で例えばメールや掲示板を利用した中2全体との交流時間が必要だったかもしれない。更に生徒全体の制作意欲を高めることができたのではないか。webページ作成のスキルを減らすように、より簡便なwebページ製作ソフトの利用をしていきたい。

  7. ワンポイントアドバイス(高校1年生)

  8.  学校において情報発信の一つとして教員、生徒がwebページを作成することが多くなっています。ただ「作ればいい」から「何を作るのか?」「誰に見せたいのか?」を考えさせながら作っていくことが必要になってきている。身近な人に向けて発信していくことからはじめると、顔を思い浮かべながら作成することができて、うまく動機付けすることができる。

  9. 中学2年生の実践

  10. 単元 「先輩のwebページを見よう!」(2時間)
    利用場面 情報の授業(技術、総合的な学習の時間)
    指導計画・指導案・単元観  生徒は中学3年時の卒レのテーマを、中学2年の段階から事前指導を受けて、テーマを決めていく。教員は「自分の好きなもの・調べたいことをテーマにしなさい」と言うが、大半の生徒にとっては自分でテーマを決めて、調べてまとめる経験がなく、自分が書きたいものの想像すらつかない生徒も少なくない。
     そこで本校の高校1年生情報Ibの授業で、卒レのwebページを作成しているのに注目し、憧れの高校1年生のwebページを見ることで、自らの卒レへの意識づけとイメージ作りをねらいとして本単元を設定した。
    学習の展開
    今年度は冬休みを卒レのテーマを仮決定する時期とした。そこで情報の授業では、まず二学期の終わりに本単元1時間目として先輩のページを見て卒レへの意識を高める時間、三学期の初めに本単元2時間目として自分の卒業研究レポートのテーマと関連させて先輩のwebページを見る時間とした。各時間の学習内容と生徒が記入するワークシートの質問は以下の通りである。
    ワークシートの内容
    • (1時間目)先輩のwebページを見て)気に入ったページ、すばらしいと思ったページとそう思った理由を書きなさい(3つか4つ選ぶこと)
    • (1時間目)上で選んだページから1つを選び、その人の卒レについて「感想」「疑問」「すばらしいと思ったところ」などコメントを書きなさい
    • (2時間目)自分の卒レと関係がありそうなページと、その人の卒レのテーマ、読みたいと思った参考文献を書きなさい
    • (2時間目)自分が卒レを書くとすればどういう構成にするか。タイトルと、1章「・・」2章「・・」という章構成を書いてみよう
    ・事前準備 高校1年生作成のwebページをwebサーバへアップロードしておく。
    ・授業 ワークシートをもとに各自で作業。教員が巡回。
    生徒の解答例・1時間目
    (1)「死刑制度の廃止について」 すごく興味をひかれて見入ってしまった
    「血液型と性格」 バッチリ当たっていてびっくりした
    (2)「映画〜映画はなぜおもしろいのか〜」自分の意見もたくさん書いてありすごい。


  11. 成果と課題(中学2年生)

  12.  「卒レ」と言われても想像すらつかなかった生徒が多かったが、そんな生徒たちも先輩のwebページを見る中で、自らのテーマのことなどをいろいろ考えたようである。その結果、三学期の早い段階で全生徒がテーマの仮決定をすることができた。先輩たちの選んだ卒レのテーマが多岐にわたっており、そして内容が濃いものであると実感した生徒も多かったようである。
     一方、今後への課題もある。「先輩の卒レの内容をもう少し深く読みこみコメントを書く」意図からはずれ、先輩のwebページをすべて見ず、興味あるページのみを見る生徒、先輩の卒レの内容ではなく先輩の名前だけに注目してしまう生徒がいたこと。先輩のwebページを見たばっかりに、逆にその中からテーマを決めようとしてしまう生徒がいたこと。先輩の卒レを見るという段階で終えてしまい、先輩にメールで質問をするなど、もう少し踏み込んだ実践ができなかったことである。自分のテーマと似たテーマの卒レがなかった生徒へのフォローができなかったという点も反省点である。

  13. ワンポイントアドバイス(中学2年生)
  14.  今回の実践そのものは本校独自のものであるが、異学年の生徒間のつながりを作るきっかけとしてコンピュータ・ネットワークがあるという視点でとらえればどこの学校にでも応用可能な実践であると思う。今回は先輩の卒レを見るという実践でとどまったが、メールなどを使えばもっと有意義なつながりができたはずである。こうした学年を越えた縦のつながりは現状ではクラブ活動以外では作りにくいが、しかし生徒たちにとっては大切なものであり、コンピュータ・ネットワークは"縦のつながり"を作る可能性を持つのである。

  15. 京都歴史地図作り 図2は伏見稲荷での活動風景
  16. インターネット利用の意図
     インターネットに学校が接続することは、学校が他の学校や、学校の外の世界と接続され、学校、時代、世代を越えた交流を図ることにある。しかし、交流をするときには自分達の足元を、つまり「自分達は何処にいるのか?」を理解している必要がある。
    そこで交流の第一歩として立命館中学校情報メディア部の生徒を対象に、地域に出ていろいろなものを探し歩き回る「京都歴史地図作り」企画を始めた。

    図2

    ・単元名 京都歴史地図作り (クラブ活動、総合的な学習の時間)
    ・指導計画 指導案
    対象 立命館中学校 情報メディア部
    企画実施日 9月11日(部員への説明)、17日(第1回フィールドワーク実施)、11月25日(第2回フィールドワーク実施)、12月14日(第3回フィールドワーク実施)、1月12日(第4回フィールドワーク実施)まとめは通常活動日に実施。
    フィールドワーク、まとめの手順
    (ア)京都の詳細な地図を用意(今回は深草周辺)
    (イ)石碑や看板など些細なものも含めて詳細な説明とともに地図上にプロットしていく。説明は、ノートやPDAを利用して記録。
    (ウ)情報教室にてまとめ作業(webページ化、CD-Rに焼き付け)をする。
    学習の展開
    1回目 参加者4名 深草駅に9時に集合の後、藤森駅へ向かって探索を開始した。
     「七面天女」などの石碑を発見。師団街道沿いに石柱発見
    2回目 参加者4<名 伏見稲荷を中心に探索。降雨のため、途中打ち切り。
    3回目 参加者4名 伏見稲荷の境内の外を中心に探索。Visorを利用開始。
    4回目 参加者12名 通常の活動時間に探索。伏見稲荷の境内を中心に探索。
    利用機材
    @デジタルカメラ 8台 あればあるほど比較検討できる記録が残る。
    AHandspring社Visor 2台 ノートパソコンより手軽にメモを取ることができる。


  17. 成果と課題、ワンポイントアドバイス(クラブ活動)

  18.  コンピュータの前に座りがちな生徒を外へ連れ出したことで、自分達が何処にいるのか?(伏見稲荷、深草近辺)とネットワーク社会(教室内)を少しでも結びつけることができた。当初の目的と方向性が変化した上、企画した4回すべてで参加者が少なくメンバーが度々入れ替わり、毎回クラブ全体の意識を高め続ける必要があった。調査研究活動は伝える相手がいないと不発になってしまいやすい。伝える相手を作るために、次年度は古都京都の地の利を生かして、主に修学旅行生を対象にしたポータルサイトを構築することを検討したい。修学旅行での調べ学習に役立つコンテンツを集め、データベース化することで、クラブ員一人一人が活発に活動し、地域の時間的な流れ、空間的な流れを意識し方向性をつけていきたい。同時にモバイル環境、PDAや携帯電話もこれからの情報教育に必要不可欠になるとみられるので、その利用も考えていきたい。

  19. 小中高大と継続した情報教育カリキュラムの検討・構築

  20.  小中高大と継続した情報教育カリキュラムを検討するために、まず、小中高大の教員のつながりを作るため、話題提供と情報技術講習を軸にした情報教育セミナーを7月8日、12月16日の2回開催した。参加者は10人、40人であった。何人かの先生と共同でカリキュラムの検討に入る予定であったが、校務などの折り合いがつかず、直前で終わってしまった。次年度の課題として、修学旅行のポータルサイト構築と並行して考えていきたい。