小さな声を聞き取ろうプロジェクト
―総合的な学習のひとつの方向性―
テレクラスインターナショナル・ジャパン
赤木恭子
teleclas@mbd.sphere.ne.jp
http://www1.sphere.ne.jp/Teleclas
キーワード:中学校、総合的な学習、共同学習、国際交流、テレビ会議
2002年より始まる総合的な学習につながる学習方法について学校の先生方はいろいろ考えられ、すでに実践されているところもある。総合的な学習とは、まず自分の身近な地域社会に目を向け、自分の回りにどんなものがあり、どんなことが起こっているのか認識することから始まるといっていいだろう。しかし、せっかく調査し、まとめあげた記録をただ同じクラス・学年の仲間に披露するだけでは、そこからさらに展開し、派生的に生まれるものがあるとは到底考えられない。父兄、地域の方々への発表会、さらにはいくつかの学校による発表会などを行うことによって生徒たちは達成感を得るとともに、他の意見を聞くことによって自分たちの身の回りを再認識することになる。
「小さな声を聞き取ろう」プロジェクトはこのような自分の身の回りの「小さな声」を拾い上げ、まとめて国内多地点テレビ会議で全国に発信すると共に、海外相手校との交流を図ることにより、考え方、生活習慣などの違いを理解、認め合い、自分たちの町を今後どのように住みよくするか考えるひとつの材料にしようというものである。
1−1.ねらい
2000年はミレニアムイヤーということで様々なイベントが企画され実施された。2000年2月29日、テレビ会議を用いて、一日をかけて世界一周する国際プロジェクト「GLOBAL LEAP2000」が行われた。テレクラス・インターナショナル・ジャパンはこれまでテレビ会議を用いた国際交流活動のコーディネータを行ってきた実績により、「GLOBAL LEAP2000」の日本側のコーディネートを行うことになった。これに参加した日本の5中学校がテレビ会議のおもしろさに惹かれ「もう一度テレビ会議を行いたい」ということから、今回のプロジェクトが発足した。
ただ、テレビ会議を行うだけでは1回きりのお楽しみになってしまうため、何かテーマを決めて各学校に調査し、その結果をテレビ会議で発表することとした。また、それぞれの学校に異なった国の海外相手校を決め、日常的に電子メールや電子掲示板で自分達が行っている調査を知らせ合い、日本と外国の相違点を自ら体験できるようにした。
これによって、コミュニケーション能力の向上と、他者あるいは外国人の意見を聞くことによる視野の拡大、想像力・総合力をフルに活用して物事をまとめあげる力を育て上げることをねらいとした。
1−2.テーマ
テーマの選定においては昨今の福祉に関係する関心の高さにより、「福祉」をとりあげ、シンボルを乙武洋匡氏の著書「五体不満足」とした。共通テーマは「乙武さんが私達の町で暮らしているとしたらどうだろうか」となった。各海外相手校にもこの本の英語版を郵送し、交流前の読んでもらうようにした。「小さな声を聞き取ろう」プロジェクトでは、ハンディキャップを持つ人が自分たちの町で暮らすにあたって、どんな便利なこと不便なことがあるのか実態調査し、バリアフリーマップを作成するという目標が打ち立てられたのである。
さらに、このプロジェクトのシンボルである「五体不満足」の著者乙武氏にこのプロジェクトの存在を知ってもらい、できたら最終的に乙武氏にこのプロジェクトの最終報告に立ち会ってもらいたいという参加者の総意をまとめた。
なお、このプロジェクトの参加校と海外相手国は以下のとおりである。
茨城県 取手第一中学校 ― スウェーデン
兵庫県 八鹿中学校 ― アメリカフロリダ
熊本県 玉陵中学校 ― ハワイ
宮崎県 八代中学校 ― モンゴル
鹿児島県 宮浦中学校 ― オーストラリア
活 動 内 容 |
留 意 点 |
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・第一回国内多地点テレビ会議 (1)学校紹介 (2)各校のアンケート結果と意見発表 (3)海外パートナー選び 各校の希望表明 (4)地元での活動計画の紹介 (5)今回のプロジェクトの宣言文・スローガン作りの提案とBBSの紹介 |
・事前に参加各校において「障害は不便です。でも不幸ではありません」という乙武氏の著書の一文(ヘレン・ケラーの言葉)に賛成か反対かというアンケートを実施してもらった。 |
9 |
・参加各校の海外相手校の選定、交流 参加5校の海外相手校の選定を行い、決定した学校から電子メール、電子掲示板を利用した交流を行う。 ・自分達の地域内の施設の調査 生徒達自ら地域内を歩き、学校やその他の施設の調査を行う。福祉施設を訪問し、入所者のお話を伺った学校もある。 |
・電子掲示板には写真も貼り付けることができるようにし、交流相手の名前と顔が分かるようにした。 ・ボイスメールも利用してより相手に親近感を持てるようにした。 ・翻訳には英語科の教師に協力を得るようにした。 ・調査内容、計画はすべて生徒達で行うようにした。 |
12 月 頃 |
・海外相手校とのテレビ会議
自分たちが調査した地元の福祉の現状を相手校に報告するとともに、相手校との違いを認識し、その相違点を明らかにすることによってさらなる調査の方向性を話しあった。
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・プレゼンテーション内容、原稿作成、英訳、リハーサルと生徒主体で行う。 ・相手校との接続テストを十分に行う。 |
1 月 |
・第二回国内多地点テレビ会議 @国際交流報告と地区での活動報告 A各校のアンケート結果と今後の活動 「障害は不便です。だけど,不幸ではありません」についてどのように考えますか。このプロジェクト学習を通して、考え方がかわりましたか? B今後の活動へ向けての宣言文とクロージング
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・事前に第一回回国内多地点テレビ会議と同様の内容のアンケートを行い、生徒達が調査後どのように意識が変わったかまとめた。 |
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図1.第一回国内多地点テレビ会議
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図2.写真入り電子掲示板
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図3.車椅子実習(玉陵中学校)
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図4.海外相手校とのテレビ会議
(宮浦中学校) |
3−1.成果
助成通知をいただいてから、まず参加校の担当教師が集まったワークショップを持ち、今後のプロジェクトの詳細について検討し、顔つなぎをした。これにより、先生の間に親密感や信頼感が生まれ、その後メーリングリスト上では活発な意見交換が行なわれた。このワークショップはプロジェクトをスムーズに進める大きな要因となったと言える。
また、先生方はボイスメールを使っての海外との交流や、ネットミーティングの他に新たなインターネットテレビ会議ソフトivisitを参加校内でテスト・体験するなど、お互いに情報交換を行ないながら、新たな情報機器にもチャレンジした。テレビ会議のノウハウも十分に学習してもらうことができた。
今回のプロジェクトの一番の成果は生徒達が交流を楽しく行ってくれたことにつきるであろう。第一回国内多地点テレビ会議では日本語で自由に話しができるということで、生徒たちは非常にのびやかに自由に意見を述べ、このプロジェクトの幸先が良いことを予感させてくれた。その後、独自で参加校に呼びかけて、文化祭にあわせて3校間でのテレビ会議を行い、活動の途中結果を発表し合う中学校もあった。
二学期に入ってからの電子掲示板とメールを利用した海外相手校との交流では英語がネックとなり、日本側の文章の量が少なかった。しかし、相手のことをもっと知りたい、自分のことをもっと知ってもらいたいという意気込みが周りの先生方、生徒達を引き込み段々と充実したものとなってきた。
この気持ちが爆発したのが海外相手校とのテレビ会議であった。
あらかじめ、電子掲示板で顔と名前を確認していた生徒達は、テレビ会議がつながったとたんに、あの子はどこだろう、あっあそこにいた、と目を輝かせ遠い国の友達とリアルタイムで話しができることに興奮していた。福祉の問題も大切、でも人と人の繋がりを感じる方がもっと大切と生徒達が感じとれたテレビ会議であった。
交流の楽しさを覚えたと共に、福祉の調査を行うことによって生徒達の意識も変化した。第二回国内他地点テレビ会議で「このプロジェクト学習を通して、考え方が変わりましたか」とアンケートをとったところ、調査前は障害を持つ人達に対して「かわいそう」「自分がなったらいや」といった否定的な考えの生徒が多かったのに対して、調査後は障害を持つ人達も自分たちと同じ人間、人は誰でも皆支えが必要、一緒に暮らすために自分に何ができるか考えようという肯定的な意見が大半を占めた。また、地元の設備状況の調査を踏まえたうえで、バリヤフリーが進んだといって障害を持つ人に「もう大丈夫でしょう」とつきはなしてはダメ、困っている人を見かけたら素直に“May I help you?”と声をかける精神が必要だ、との力強い意見が述べられ感激のひと時を持ったのである。
今回のプロジェクトは最初「テレビ会議はおもしろい」から入ったものであったが、ただテレビ会議を行うだけでなくプロジェクト方式にしてテーマを明確にし、自分たちで調査、報告したという点が特に注目される。
最初、障害者あるいは外国人に対してなんとなく違和感を感じていた生徒達が、調査や交流を重ねていくうちに、障害を持つ人も人間、外国の人も人間という感覚を徐々に磨いていったように思われる。相手を認めよう、受け入れようとするところから思いやりの心が養われ、自分達に何ができるのかと考える地盤ができたのではないだろうか。
プロジェクト発足時に「乙武さんをこのプロジェクトに招こう」というスローガンを打ち立てたが、最近先生方から「障害者という立場でお招きするのは失礼ではないか」という意見も出てきた。生徒達と共に課題に取り組むうちに大人の考え方も変えられてきたという良い事例である。
なお、一月末現在、まだ掲示板上での生徒達のやり取りが続いており、最終的な宣言文を練っているところである。また、通信環境がやっと整ってきたモンゴルからテレビ会議の申し出が入り、先生間で打ち合わせ中である。これにみるように、このプロジェクトを以後テーマを変え、インターネットBBSやテレビ会議を駆使した、さらに成長したプロジェクトとして次年度も続けていきたいと、参加校の先生・生徒は意欲的である。
このように、ただ生徒達のためだけの総合的な学習ではなく、先生も共に成長できるものが今後どんどん取り組まれるようになることを切に願うものである。
3−2.課題
(1) コーディネートするうえでの課題
今回のプロジェクトでコーディネータを担当したのはテレクラス・インターナショナル・ジャパンであった。15年もの間国際交流活動のコーディネートを行ってきたが、今までは1校対1校の交流が中心であった。今回のように一度に5校の相手校の交渉を行い、さらに半年間にも及ぶプロジェクト形式のものをコーディネートしたのは初めてであった。
そのため、海外相手校の交渉、選定に困難を極めた。また、国内での2回のテレビ会議を行うために5校の進捗をある程度揃えておきたかったが、できなかった。このような複数校参加型プロジェクトを進行するうえでのノウハウの蓄積が必要である。
(2) 各中学校で進めるうえでの課題
一番の問題点は平常の授業との兼ね合いであった。選択課題のひとつとして授業中に行える環境を整えられた先生もいたが、課外活動として取り組まれた先生が大半であった。生徒の都合に合わせると何もできない、という現状に悩まれた先生もいた。
もうひとつの問題点は情報技術保有者の確保であった。パソコンの利用技術はある程度あっても、テレビ会議を行ううえでの不安感があり、テレクラス・インターナショナル・ジャパンとの相談を重ねるケースもみられた。また、電子掲示板でやりとりされる言語が英語であることも重大なネックとなった。
ワンポイントアドバイス
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参加・協力校名称
日本:茨城県取手市取手第一中学校
兵庫県八鹿町八鹿中学校
熊本県玉名市玉陵中学校 http://www.edu-c.pref.kumamoto.jp/jhs/gyokuryo/
宮崎県国富町八代中学校
鹿児島県上屋久町宮浦中学校
http://www.edu.pref.kagoshima.jp/miyaura/top.html
海外:アメリカ;Aiea Intermediate School
Waipahu High School
モンゴル;Future complex School
オーストラリア;Bairnsdale Secondary College
スウェーデン;Fenix High School
参考文献:『五体不満足』乙武洋匡著
“No one’s Perfect”(『五体不満足』英語版)