「高校生による商店街支援プロジェクト WebPage請け負います!」
〜インターネットを利用した地元商店街との連携事業と新型インターンシップ〜
高等学校3年生・商業
山口県立徳山商業高等学校 黒川康生
キーワード 高等学校,3年,商業,Webpage作成,地域との連携
インターネット利用の意図 商業高校では、商業の各分野に関する知識と技術を実践的活動を通して総合的に習得させ、経営活動を主体的、合理的に行う能力と態度を育てることを目的とした「総合実践」という授業がある。これは、商業経済、簿記会計、情報処理などの関係知識・技能を総合的に身に付けるために、模擬会社、模擬市場による取引実習を中心に学習するものである。しかし、これは学校内だけの顔見知りによる取引実習となりやすく、現実のビジネスの多様性や厳しさ、また、緊張感や達成感も得にくい状況になってきている。そこで、地域の協力のもと、実際のビジネスに近い形の実習はできないものかと考え、地元商店街のWebPage作成を請け負うベンチャー企業的な実習を実施することにした。現在本校では、インターネット関連設備が充実しており専用Webサーバもあるため、生徒が作成した各商店のWebPageを実際に全世界へ発信することができる。つまり、実際の企業との物販的取引は金銭が絡むため難しいが、サービス的取引であれば金銭的な問題を回避しながら、実際のビジネスに近い体験ができると考え、インターネット関係サービス分野での実習をすることにした。 |
1 生徒による商店街WebPageコンテスト
(1) ねらい
昨年の「商店街WebPageコンテスト」から得た経験をもとに、今回の企画のねらいを次の4つに設定した。
1)生徒側としては、これまでの学習方法では難しいと思われる問題解決能力や企画力、創造力、社会人としてのコミュニケーション能力等の育成、また、相手の要望・ニーズをくみ取って考え行動することや現実のビジネスの現場での緊張感や厳しさを体験させる。もちろん、これまで学習してきたWebPage作成の知識・技術を実際の現場でいかしながら、その深化をはかる。
2)インターネットを通じて、地元商店街あるいは個々の商店の様子、またその取扱商品等の報告・広告・宣伝・調査することによって、活気が薄れていく地元商店街の活性化を支援する。また、商工会議所、商店街等の要望により、インターネットへの対応が遅れている地元商店街が、今後バーチャルモール等を立ち上げる際の基礎部分を作っていく。
3)将来的に、全国の高校生が各地元商店街のWebPageをつくり、「高校生による地元商店街WebPageコンテスト全国大会」開催のための下地を作る。また、「高校生から見た地元商店街の現状と課題、活性化案Webデータベース」作りの実現に向けての可能性をさぐる。
4)昨年この企画を実施して出てきた課題を解決するため、実験的にモバイルコンピューティングを導入し、その有効性を検証する。また、モバイルコンピューティングの新しい利用方法を考える。さらに、iモード用WebPageの作成もてがけ、インターネットの活用の広がりに対応する。
5)モバイル機器を導入し、グループウェアのWebサイトや無料レンタルHDのビジネスへの活用を模索する。
6)生徒及び学校が、地域社会あるいは地元経済界との連携を密にすることにより、生徒及び学校の活性化を図る。
なお、上記のねらいを達成するために、生徒がWebPage作成会社を作り、自ら商店街を営業して回り、実際にWebPageを作成、公開することになるが、この取り組みは情報通信産業を視野においた新しい型のインターンシップと考えている。予定では、担当商店や取扱商品、顧客ニーズ等を把握し、企画力をアップさせ、的確なWebPageを作成するために、夏休みに生徒が担当商店で2〜3日程度研修をすることになっている。
(2) 指導目標
1)企画力の育成
これまで学校内の学習では、教員側が準備し内容・方法まで決められていることが多く、生徒自ら新たに考え出す、創造するという機会はほとんどなかった。しかし、社会からは何かを新たに作り出していける創造的な人材が求められている。情報を収集し、クライアントの要望を聞きだし、自分たちのアイディアも織り交ぜたWebPageを作成させたい。
2)コミュニケーション・プレゼンテーション能力の育成
いかにコンピュータ関係の技術を持っていても、最後は周りの人とのコミュニケーションがうまくとれないと良い仕事はできない。商店の人(クライアント)とのコミュニケーションとグループ内、つまり職場内でのコミュニケーション。会社でうまくやっていくためにはどちらのコミュニケーション能力も必要である。
3)WebPage関係知識・技能の深化
WebPageを作成していく上で重要なことは「3S」と言われ、「スキル」「センス」「スピード」をさす。情報を伝える技術とそのデザインセンス、そして素早い更新が良いWebPageのポイントだと考えられいてる。WebPageを作成しながら、必要な知識・技能は自ら学習して身につけていく姿勢が大切である。
4)ビジネス感覚の育成
ビジネスでは時代の流れ、消費者のニーズなどに敏感に対応していかなければならず、絶えず相手のことを考えた行動が成功の秘訣である。今回の場合、WebPage作成を依頼していただいた各商店の要望を的確につかむと同時に、その商店がターゲットとする消費者のニーズも考えながらのWebPage作成が求められる。少しでも担当商店のプラスになるようなWebPageを作成させる。
(3) 利用場面
ここでは、次のような学習場面でインターネットを活用していく。
1)情報収集の手段
WebPageを作成する前に、まずWebPageとはどんなものかを生徒に調査させた。これまでは、単純にWebPageを見るだけであったが、WebPage作成するという視点で見ていくと、様々なデザイン、構成、テクニックなどを認識するようになる。
2)WebPage作成段階
4人1グループ38チームが、地元商店街の各商店と綿密な打ち合わせの後、各商店ごとにWebPageを作成する。完成までには何度か画面をプリント印刷して商店に持参し、打ち合わせをかさねる。また、既にインターネットを利用している商店とは、電子メールでの打ち合わせをしているチームもあった。
3)WebPageの公開
平成11年12月に、完成した38商店のWebPageを本校のWebサーバにアップロードし生徒が作成した地元商店街のWebPageを公開した。その後も商店の要望により、また、クリスマスや正月の歳時に合わせたWebPageの更新を行っている。
(4) 利用環境
1)使用機種 Fujitsu40台 Frontier90台(すべてAT互換機)
2)使用OS Windows95/98
3)サーバ環境 第1サーバ(ファイルサーバ/Linux)
第2サーバ(ファイルサーバ/NetWare)
第2サテライトサーバ(WindowsNT)
第3サーバ(校内Webサーバ/Linux)
第4サーバ(Web・DNS・Mailサーバ/Linux)
第5サーバ(DHCPサーバ/Linux)
キャッシュサーバ(Linux)
4)通信環境 LAN:100Mbps(光ケーブル/UTP)
WAN:1.5Mbps(光ケーブル)
ISDN回線:3回線
専用アクセスサーバ ルータ ファイアウォール
5)使用ソフト WWWブラウザ(Internet Explorer)
メールソフト(Outlook Express)
WebPage作成ソフト(Home Page Builder)他
フォトレタッチソフト(Potoshop,PhotoMagic)他
6)周辺機器 デジタルカメラ スキャナ カラープリンタ 他
2 指導計画
期間 |
指導計画 |
留意点 |
4月 5月 |
・総合実践の目標を提示 ・1、2年で学習してきた知識・技能の復習 ・ビジネスマナーについて ・これからの情報社会を生き抜いていくためには(インターネットを使っての情報の収集方法) ・生徒のグループ分けと役割分担の決定 ・営業活動(Webサイト作成・管理を依頼してくれる商店を生徒自らの手で探す。) ・HTMLによるWebPage作成の練習 (☆Windows98のメモ帳で作成) ・インターネットでWebPageのデザイン、構成、テクニックなどを調査 ・担当商店との打ち合わせ、WebPage作成開始 ・担当商店業種と同じ業種のWebPageを検索し参考にする。また、まだWebPageを見たことのない商店の場合は、同業種のWebPageをモバイルコンピュータを活用し閲覧してもらい、商店との打ち合わせ時に役立てる。 ★インターネットの利用 |
・総合実践の授業は、他の授業と違い会社と同じ感覚でやっていくことを強調し、生徒に社会人としての自覚を芽生えさせるようにする。 ・また、個々人の仕事だけでなく、グループでの仕事を多く与えることによって、会社で仕事をうまくやっていくためには、協調性が必要だということを認識させる。 ・基本的なビジネスマナーの実体験となる営業活動であることを認識させる。 ・今回の実習は、実際の商店のWebPageを作成し公開するわけであるから、いい加減な対応や作品は絶対に許されないことを強く認識させる。 ・基本的なHTMLを理解しておいた方が、今後WebPage作成専用ソフトを利用するにしても便利がよいことから、練習段階ではHTMLそのものをテキストで記述して、WebPageを作成させる。 ・WebPageの調査については、見やすく分かりやすいページとはどんなものかを調査させ、時にはWebPageのソースを見て学習させる。 |
6月 7月 |
・本年度の徳商ビジネスコンテスト「生徒による商店街WebPageコンテスト」の説明と準備 ・トップページの立ち上げ 第1回目の「生徒による商店街WebPageコンテスト」校内予選発表大会開催。生徒と教員で審査。 ★インターネットの利用 |
・発表は、WebPageの内容もさることながら、プレゼンテーションの能力を磨く場でもあることを認識させ、わかりやすい発表を工夫させる。 ・今回のコンテストは途中経過であって、基本的にWebPageは絶えず最新情報を掲載していくものだということを理解させる。 |
夏休み |
・担当商店での研修 |
・研修の目的は良いサイトを構築するための担当商店理解のためであることを認識させる。また、担当商店の人達と仲良くなることが活性化への第一歩であることも気づかせる。 |
9月 10月 11月 12月 |
・コンテンツの充実 ・企画の提案 ・日経インターネットアワード2000受賞 理由と他の受賞サイトの検証。 ・「魅力のある街」について担当商店のメンバーと考え、コンテンツに加える。 ・インパクに出展する徳山市のバックアップ。 ★インターネットの利用 |
・季節や商店街のイベント等のタイミングをはずさないようにコンテンツを充実させ、更新していく重要性を理解させる。 ・なぜ、本校のサイトが受賞したかを、考えさせることによって、さらに活動の目的を明確にさせる。また、他の受賞サイトを検証することにより、Webの有効的活用を知る。 ・各商店の商品やイベントを提案させることによって、単にWebペーを請け負うだけでなく、企画力を付けさせる。 ・インパク徳山市パビリオンのコンテンツや企画を考え、提言することによりユーザービリティ・アクセスビリティにたったWeb構築を考えさせる。 ・モバイルコンピュータとWebグループウェアを有効的に活用することにより請負業本来の業務のスピードを上げる。 |
1月 |
・「生徒による商店街WebPageコンテスト」最終審査。事前にプロのWebデザイナー数人による技術・デザイン審査を行う。 ・県、市、商店街、市民の関係者によるプレゼン、コンテンツ審査を発表会形式で行う。 ・次年度に引き継ぐためのページを作成する。 ★インターネットの利用 |
・プロのWebデザイナーの審査を受けることにより正しい知識を深めるとともに、興味関心をさらに高める。 ・発表会の審査基準を明確にし、各自他の商店の評価をすることにより、幅広い視野で1年間の取り組みを分析させる。 |
2月 |
(引き続きWebPage作成) ・授業時間は無いが、2月中はWebPageの更新を現3年生が行う。また、各担当商店への挨拶参りをさせる。 ★インターネットの利用 |
・最後まで、責任をもって仕事にすることの大切さを理解させる。 |
3月・4月は、商店からの要望があれば、情報処理系の部活動の生徒がWebPageの更新にあたる。5月からは、新3年生がWebPageの作成・更新にあたる予定。
3 学習の展開
担当商店との1回目の打ち合わせが終わり、商店側の要望や店内、商品等の写真やパンフレット、資料など、WebPage作成のために必要なものがほぼそろって、実際のWebPage作成に取りかかる時の授業展開。
(1) 目標
1)実際の会社での仕事に照らし合わせ、仕事は1人でするものでなく周りの人と一緒にやっていくものだということと、その時に、どのようにすれば効率よく仕事が遂行できるかを考え理解させる。
2)WebPage作成関連の知識・技能の向上と自己学習能力の育成
(2) 展開
学習活動 |
指導上の留意点 |
収集した情報をもとに、担当商店のWebPage上のイメージカラー、コンセプトなどを考える。また、商店の紹介、商品の宣伝など、内容をどこまで踏み込むかもよく検討する。 |
漠然とした内容ではなく、何を伝えたいかをしっかり絞ったWebPageにするようにさせる。 |
ロゴやボタン、デザインなど統一する部分を考える。 |
作成側だけの個人的趣味で決めるのではなく、いかに見やすくわかりやすいページにするかを基本に置く。 |
サイト全体の構成を考える。トップページのどの項目からどこへリンクをはるかなど、全体の流れを考える。 |
必ず「戻るボタン」を入れることを確認させる。 |
各ページの原案図を作成する。また、必要な写真、ボタン、イラスト、その他部品を調達する。 |
ページを見る時のスピードを考えて、写真や各部品はなるべく少ない容量で抑える。 |
各ページを4人で分担して、WebPageを作成する。細かい部分は、作成しながらページ間の統一を図っていく。 |
4人で絶えずコミュニケーションをとりながら作業を進めていくことが大切なことを強調する。 |
習っていない知識、技能については、教室においてある解説本や、実際のインターネット上にあるWebPageのソースを見たりすることで、自分たちで学習する。 |
WebPageのテクニックについては教員もわからないことが多いことを伝え、自分たちで調べて使うように指示を出す。 |
各ページが概ね完成したら、それぞれのページにリンクをはり、全体のイメージを確かめる。 |
ファイル名は半角英文字でないとうまくいかないことを確認する。 |
最後にプリントアウトし、次回の打ち合わせ時に持っていき、商店側のチェックを受ける。 |
全てのWebPageは、必ず担当商店の了解を得てから公開することを再確認する。 |
4 成果と課題
生徒に実際の会社と同じ様な体験をさせる方法として、会社などに出向いて行う職場実習(インターンシップ)がある。また、学校内で行う場合は、校内で会社組織をつくり物品販売をする販売実習がある。そして、コンピュータソフト系ベンチャー企業を生徒に作らせて地元商店街のWebPage作成を請け負わせ、それを実際のインターネットで公開するという今回のこの企画は、上記2つの実習を合わせたようなものである。担当商店の決定にしても、夏休みの研修にしても教員がお膳立てした部分はない。ただ、関係会社に直接的損害を与えることや、物販取引のように金銭的問題の可能性が非常に少ないために、上記実習よりもかなり大きな自由度、決定権を生徒に与えることができる。逆に、その分責任も大きくなり緊張感も出てくる。そこから、生徒自身が自ら考え、自ら実行するということの大切さが理解できたのではないかと考える。これまで生徒の様子を見ていると、こちらのねらいは概ねうまくいったようである。校内外においてもコミニュケーションスキルのアップが重要であることを気づかせる必要がある。高度ネットワーク社会が広がり浸透するほどもっとも重要な能力となるであろう。
来年度も引き続きこの企画を続けるつもりであるが、今年度以上に実際のビジネスに近づけ、さらに魅力ある街を自らの手で作りあげられるような実習にしたいと思っている。
ワンポイントアドバイス
生徒はもとより教員も商店街等の関係者と仲良くなることが、時代に遅れた的はずれな学習活動を行わない第1歩である。 |
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