福島県立盲学校

○ネットワーク利用状況

 今年度は全盲生がメールを利用できる環境整備とメールを利用しての実践を行った。

・実践項目1 全盲生のメール利用環境

 概要

    全盲生がメールを利用するためには音声合成装置を利用して行う。この装置を動かすことが出来る環境はDOS上である。Windwos95のDOS窓を利用し行った。

  ・パソコン本体   NEC9800シリーズ

            DOS/Vマシン(FJITSU FMV)

  ・OS       Windows95 MSーDOS/6.2

  ・メールソフト   tsworks Ver2.25

            DーMail Ver2.2 (DOS汎用)

  ・補助機器     音声合成装置 FMVS101

            音声ソフト  VDM

  ・LANボード   TDK LAK−98025

  ・TCP/IPドライバ  アライドテレシス TCP/IP Ver6

・実践項目2 オンラインディベートへの参加

 概要

  オンラインディベートをとおしコミュニケーション能力の向上と論理的思考の向上を図った。

 オンラインディベートとは

   ディベートとは一般に肯定派、否定派のグループに分かれ直接対面しながら行うものであるが、これをメール等を用いネット上で行うものである。

 オンラインディベートの特徴

   ハンディーの克服になる。

   ネット上で行うため直接対面してはコミュニケーションが困難なケースでも意思の疎通が図れる。お互いハンディーを意識することなくコミュニケーションがとれる。

   例えば、視覚障害者と聴覚障害者が直接対面したケースではそれぞれの言語が違うためコミュニケーションは困難である。視覚障害者は音声言語であり聴覚障害者は視覚言語(手話)である。お互い障害がある部分が使用言語であるため意思を伝えることは難しい。

   しかし、ネット上では電子言語になるためそれぞれアクセスしやすい言語に変換できるためコミュニケーションが成立する。

 対象生徒

  ・本校対象生徒 高等部普通科1年生

  ・相手校生徒  清泉女学院高校

 オンラインディベートの進め方

  立論:自分の立場を明確にし論題に対しての意見を明らかにする。

  尋問:立論に対して疑問と思う点を質問する。

  反駁:相手側の立論、尋問のやり取りをふまえ最終的な自分たちの意見を述べる

 オンラインディベートのテーマ

   A子は「妊娠3ヶ月に入ってますね。」医者からそう告げられたとき目の前が真っ暗になった。自分に限って妊娠しないだろうとたかをくくっていたのが失敗だった。A子は就職がすでに決まっている大学4年生、彼は、大学院2年生、そのまま博士課程に進む予定である。つき合い始めて一年になる。A子は妊娠の事実を真っ先に彼に伝えた。その時のA子の気持ちは正直言って産もうとも、おろそうとも決めかねる、白紙の状態だった。ずるいようだが、彼の反応を見て考えようと思っていた。ところが、彼は「ええっ!・・・でも、安易に生むわけにはいかないじゃないか…これからのことを考えるとおろした方が・・・」と言った。彼の気持ちも分かる…。しかし…どうしよう・・・。彼を説得して産もうか…それぞれの将来の夢を考えれば、今は子どもを産まないほうがよいのだろうか・・・A子の気持ちは次第と支離滅裂に…。

   論題:この状況でA子は A 産むほうがよい B 産まないほうがよい

 立論

  肯定側立論(以下は全盲生が書いた文章です。)

 ーーー メール引用 ーーー

  私たちが思うにはたとえ3カ月とはいえども生命であることには変わりがないのだからそれを殺してしまうのは人を殺してしまうのと同じことだと思います。やはり子供を作ってしまったのだから責任を持って産み・育てるべきだと思います。

  世の中には子供がほしくても何らかの理由で産むことができない人もいるのです。それにもかかわらず自分たちの将来が心配だからと言って子供を堕すなどという考えはまったく身勝手なことでべつに子供を堕さなくてもいいのではないかとおもいます。家族の力を借りて育てていくと言う方法も意味のある豊かな生き方ではないのでしょうか?

 ーーー ここまで ーーー

  否定派立論

 ーーー メール引用 ーーー

  清泉女学院高校否定側立論

  清泉P組「産まない側」立論です。どうぞよろしく。

  私達は産まない方に賛成です。この場合、A子と彼が結婚して子供を産んでも、幸せにはなれないだろうと思うからです。

  まず第一に、A子の就職が決まっていることです。この就職難の時代に、せっかく勝ち取ったものなのに子供を産むということで、その仕事をあきらめざるを得ないし、もし産休をとると、今後その会社でやっていくのにたくさんの支障が生じてくると思います。そのようにして、仕事をあきらめてしまうのは、社会にでないまま残りの人生をすごす、視野の狭い人間になる可能性がある。もし子供を産んでから、仕事をやり始めるといっても、今の日本の社会では、子供がいるというのは、女性の社会進出の妨げにもなるだろう。

  次に、これは第一に挙げたものと近いが、二人はまだ、将来の夢への道の途中にいるということです。彼は、博士になって、それをいかした仕事をするために勉強しているところである。そして、A子は多分、理想とする会社に入り、将来的にはこんな事業をしようなど、たくさんの夢を抱えているはずである。このまま、結婚して子供が産まれても、夢を打っちゃらないといけないから、後々問題が生じてくるだろう。

  第三に、A子と彼には、子供を養うだけ後からがないと思われるからである。まだA子も彼も学生だから、親の保護を受けているだろうし、またそうでないにしても、自分一人養っていくのが精一杯だろう。そんな二人を親に持っても、子供は経済的な援助をしてもらうことが出来ないとおもう。

  そして、彼が、乗り気ではないということだ。もしA子が、産むことを決意したとしても、A子と彼の心には、彼がいった、おろしたほうがいい、という言葉が残り、わだかまりが残るだろう。彼にして見ても、自分が若いのに父親になってしまったら、責任も重大だし、しかも、まだ学生だから嫌だろうし、二人にとっても今これからの人生を決めてしまって、子供のために未来の望ましい生活を諦めてしまうのも、早すぎると思うのだ。

  もし、A子が彼の反対を、押し切って子供を産んだとしよう。彼もA子も望んだわけではないから、結婚しても子供がつなぎ合わせた家族であって、そこに幸せが生まれるとは限らない。そして、彼もA子も子供を養い教育するために疲れ果てて、いつも、子供があのとき生まれていなかったら、と後悔するかも知れない。

  それに、A子が医者から妊娠を告げられたとき、目の前が真っ暗になったように、彼もA子も今はまだ子供を受け入れる用意も準備も出来ていないのではないか。

  彼もA子も望んでないのに、産んだとしても二人は、子供を幸せに育てていくことが出来るだろうか。二人はまだ学生で、自分が子供を産む前に一人前の大人になれていないのだ。そんな二人が子供を育てるのは無理である。

  後悔しながら生きるよりも、今勇気を出して、輝く未来を手に入れたほうが良い。子供を作るのは、一人前になって他人の面倒も見れる様になってからでもおそくはない

 ーーー ここまで ーーー

   この後、尋問、反駁とつづく。

 成果

  ・今回のテーマはやや難解であったが、生徒はめげることなく取り組み論理的思考の進め方を学習できた。

  ・文字入力に慣れ文書作成が出来た。

 課題

   メールを書く上での問題点として文字入力の遅さが上げられる。

   全盲の生徒は普段は点字を利用しているが、メールを書くときには墨字を利用する。点字には漢字がなくその概念と適切な使用が十分には理解出来ていない。そのため文章を書くのに時間がかかる。また、音声を利用しての漢字の選択は慣れと時間が必要である。

   例  「コウテイ」のように同音異語がある場合の漢字選択は

     肯定 コウテイテキノコウ サダメルノテイ

     皇帝 コウタイシノコウ テイコクシュギノテイ

と漢字を読む音を聞き分け使いこなして行かなくてはならない。この選択が正確に出来るようにな るには経験と時間が必要である。

○100校プロジェクトに参加して

  100校プロジェクトに参加して、視覚障害者のインターネット利用環境は整ってきた。その積み重ねにより今回他校とのオンラインディベートが出来るようになった。これまでは環境整備に力を注いできたが、これからは教育実践へと重点を変えることが出来る。その中で更なるメールの利用法を検討し実践を深める必要性を感じる。