福井市春山小学校

 今日的課題である「生きる力」をはぐくむためのさまざまな活動が展開される中,情報活用能力はあらゆる分野でますます必要とされていくと思われます。こうした高度情報化社会に否応なしに巻き込まれていく子どもたちのこれからの生活を考えるとき,インターネットリテラシーとコミュニケーション能力は子どもたちの学習活動の中で「読み書き,そろばん」と同じ次元の基本的な素養になると考えられます。以上のことから,小学校では「インターネットを活用した授業に,どのように取り組んでいったらよいのか。」という課題を設定し,実践しました。

T ネットワークの利用状況(今年度の取り組み)

 1 電子掲示板活用までの経緯

   ホームページからの情報検索を中心とした活用研究の方向が行き詰まりを見せたために,電子メールをやりとりすることによって情報交換のできるメーリングリストという仕組みに加入しました。

   メーリングリストは大勢の仲間が参加し,一人の意見をメールにして送れば,そのコピーメールが参加者全員に即座に送られるという仕組みです。これを利用すれば,子どもたちが知りたいことを投稿することで,参加者の方々からその回答やヒントをもらうことができるわけです。漠然とブラウザで検索するよりも遙かに有効な手段であると考えて,高学年の子どもたちに,メールソフトの使い方を教えました。

   春山小学校では,1年生から計画的にパソコン教育と取り組んでいますので,文字入力は4年生までにだいたい行えるようになります。このため,6年生ではメールソフトの使い方の理解も早く,すぐに使いこなせるような子どもも出てきました。

   それから,100校プロジェクトによって開かれているメーリングリストをはじめ,子どもが参加できるいくつかのメーリングリストへ加入し質問状を送りました。もちろんブラウザで情報検索した会社のmailto(ここをクリックすると自動的にメールソフトが宛先を書き込んだ状態で立ち上がってくる)や,各地の役所のホームページから拾ったアドレスにも多くの質問メールを出したりしました。

   しかし,ここで大きな問題にぶつかりました。それは,春山の子どもたちは「かな・漢字変換」方式で文字入力をしてきているので,英語でできているインターネットのメールアドレスをすいすい打ち込むことはできないということです。また,メーリングリストは加入者全員にメールが運ばれるので,日に10数通のメールが子どもたち一人一人の(春山ではグループIDを使っていますが)mailboxに入ることになり,管理上複雑になってしまうのです。

   こうした問題を抱えて,中学年の子どもたちにもメールによるやり取りを実現させてやりたいという要望から,電子掲示板の構想が持ち上がりました。

 2 掲示板を情報伝達のメディアとして

   北海道教育大学岩見沢分校のホームページには,子どもたちが自由に書き込みのできる電子掲示板が設置されています。そこでは,いくつかの小学校の子どもたちが,同一のテーマのもと,自分たちの意見や感想をのびのびと掲示板に書き込み,情報交換を行っています。春山研究チームの数名もそこに参加して,こうした掲示板を利用した情報交換がどのようなものであるかを体験し,データを集めさせてもらいました。

  その結果,以下に示すような,電子メールよりも優れている点をいくつか見つけました。

  @ 特別なメールソフトの準備がいらないこと。

    ページの方に仕掛を作っておけば,ブラウザから直接「書き込み」ができ,メールソフトなどのソフトの取り扱いを子どもたちに教えなくてもよいこと。  

  A mailboxなどという管理上面倒なものが必要でないこと。

    メールソフトを使わない以上mailboxは必要でなくなります。将来の個人的な情報交換のためには,ページ上でmailtoの仕掛けも作っておくことにしました。  

  B メールアドレスを子どもが打ち込まなくてもよいこと。

    これが一番のポイントです。ブラウザで仕掛のあるページを見に行って,そこで書き込みをしてくるのですから,アドレスなどを書き込むことは必要なくなるのです。つまり,それだけ手軽に情報交換ができるのです。         

 3 掲示板設置にあたって

  @ 掲示板のプログラムをどうするか。

    Perl言語を使ったスクリプト(プログラム)を作成すれば良いのですが,素人には取っ付きにくく,最初からの開発はたくさんの時間がかかるためにFreeSoft(無料で使用できるソフト)を使用することにしました。

   【minibbs】

     FreeSoft,使用言語Perl ver5

     解説書  HTTP://www.ask.or.jp/~rescue/cg itips/minibbs.htm

     本体   HTTP://www.ask.or.jp/~rescue/cg itips/minibbs.pl

     利用規定 HTTP://www.ask.or.jp/~rescur /support/

     設置情報 HTTP://www.ask.or.jp/~rescue/ webboard/

  A 広報に努めること。

    せっかく掲示板を設置できても,だれも書き込みに来てくれない状態ではなんにもならないわけです。そこで,CECのメーリングリストや他の機関のメーリングリストを使って,春山小学校のホームページに掲示板ができたことを各学校,各機関にお知らせし,どしどし書き込みをしてもらうようにお願いしました。

    また,地域の声をということから,PTA活動用のページや卒業会員用のページも設けました。

  B 共通の話題づくり。

    書き込みをいくらお願いしても,共通の話題がなければ,挨拶文で終始してしまうに違いありません。そこで,4年生では,1学期の国語教材で「ガオーッ」という物語教材を使って,その続きを自作しページに載せて見てもらうことにしました。

    見た人に,そこから掲示板にとんで感想や意見を書き込んでもらいます。その感想や意見をきっかけとして,新たな交流ができるのではないかと考えたのです。

 4 掲示板交流学習の結果(以下は「ガオーッ」に寄せられた多くの感想からの抜粋)

  ○ふたたび東京船堀小学校です。その6について感想を送ります。これで最後です。

   ☆絵が、とてもかわいいです。文も、とてもおもしろいです。・・すずき

   ☆文が、とてもおもしろいですね。絵もとてもおもしろいですね。・・・ほんま

   ☆ライオンは、とてもうんがいいんだね。  ・・・・・・・・・・・・もりや  

  ○おひさしぶりです!! 東京船堀小学校です。

   みなさんは、夏休みいかがでしたか?ぼくは、福井県の和泉村という所でキャンプをして、九頭竜ダムをみてきました。毎日遊んでばかりいたので、2学期が始まって勉強がたいへんです。

  ○桜南小学校の4年2組,ハッピーエンドを読んで双子が生まれてよかったね。おもしろかったよ。  

  ○ぼくは、円山小学校の4年生です。「調子にのったライオン」を見ました。ライオンさんは、お調子者だと思いました。でも、その日もお客が集まったので、仕方なかったのですね。そのライオンさんは、たのもしいですね。

  ○美麻小中学校です。まだ5月なのにこんなにたくさん勉強していて、すごいですね。子供のライオンが、大人と同じなんてすごいなあ。どんどん続きが見たくなりました。

  ○春日小学校4年,子どもがかわりにほえたのがおもしろい。子ライオンかな小ライオンかな。

U 平成9年度の成果と課題

 1 交流の成功例

   国語科の物語教材から発展して,お話の続きを作った訳ですが,これをもとに多くの人達がページを見て感想を掲示板に書き込んでくれました。その中から,さらに何回かのやりとりを通して,現在,定期的なやりとり(コミュニケーション)に成功した相手校があります。大阪の春日小学校です。掲示板の設置後まもなく書き込みをしてくれた仲間で,現在も国語や道徳をはじめ,社会科の学習などで相互に教え合っています。

 2 交流の発展として

   こうした掲示板の書き込みを中心として,コミュニケーションを図ってきたわけですが,初対面の堅さがとれ,次第に仲良くなってくるともっとテンポの速いやり取りがしたくなってくるものです。そこで,掲示板よりも簡単ではありますが,軽快にコミュニケーションのできるチャットを取り入れることにしました。

   チャットは掲示板とほとんど同じで,書き込みによって,相手とのやり取りをするものですが,書き込みは一行しかできません。そのため,掲示板のように詳細な言い回しはできませんが,プログラム自身小さく,軽快に反応します。ちょうど掲示板がワープロなら,チャットはエディタといった感じです。このチャットを使って,大阪の春日小学校4年生と春山小学校の4年生が交流しています。今のところ正規の授業中にはできないので,お昼休みの20分が勝負です。週1回程度行っていますが,四方山話に興じ入っている子どもたちを見ると,どこかほほえましい気分になります。

 3 今後の課題

   掲示板という発想はパソコン通信時代から「フォーラム」という形で作られてきました。しかし,フォーラム内で個人批判をしたり,よからぬ販売を画策したりして他人迷惑になったことがありました。こうしたことは,会員制にして信頼のおける仲間だけでやり取りするように工夫すれば解決できそうなのですが,そうなると手続きなどが面倒だというので電子掲示板を見る人が少なくなったりして本来の目的を達成することができません。

   また,子どもたちの実名をそのまま掲載していることも決して安全とはいえないと思います。こうしたことは,どのように掲示板を作成しても付きまとう問題だと言えます。

   やはりここでもモラルの問題が持ち上がってくる訳です。

   今のところ,春山小学校の電子掲示板にはそうしたおかしな書き込みはありませんが将来のことを考えれば,何か具体的な対処法を用意すべきであると思案しています。

   また,書き込まれたデータを閲覧するために現在の方法ではかなりな手間を食います。この手間は限られた子供たちの学習時間の中で結構ロスタイムを生み出すと予想されます。今後はこうした蓄積された書き込みのデータをどのように扱うかということが,重要になってくると予想されるので,そのための技術的な解決を考えていくつもりです。

V 最後に

  メールソフトのように意志のやり取りができて,使い勝手はすこぶる簡単で,メーリングリストのようにたくさんの仲間と一緒に見ることのできる,そういう仕組みを探し回って見つけた電子掲示板は,子どもたちの交流に大変役立つと感じました。 こうした試みを続けることで,子どもたちの将来において,やがてはネットニュースなども使いこなせるようになると共に,そこでのマナーをきちんと守ってコミュニケーションをすることの大切さを身につける基礎づくりになってくれれば幸いと強く思います。