愛媛県立新居浜工業高等学校

◆インターネット教育利用の現状と展望・・宇佐美 東男

1 はじめに

  本校は瀬戸内海の南に面した新居浜市に昭和12年に設立され、既に60年を経過している。

  この街は、愛媛県の東部に位置し、気候風土は温暖で、機械工業・化学工業・金属工業・鉄工業等が発展している。また稲作や柑橘栽培も盛んな田園工業地帯である。西隣にはエレクトロニクス関連企業のある西条市があり、東隣には製紙工業が発展している三島市・川之江市があり、生徒はこれらの街から通学している。

  現在、機械科・電子機械科・電気科・電子工学科・工業化学科が設置されており、約880名の生徒たちが学んでいる。これまでの本校出身者は約1万5千余名に達している。

  学校の気風は、歴史的に進取の気象があり、新技術の導入に大変熱心である。

  生徒の研究活動やスポーツなど部活動も大変盛んである。

  本校の本格的なネットワーク教育は、教師が開発したパソコン通信「えひめ教育NET」や、ニフティサーブの利用から始まったといってもよい。これらのネツトワーク利用の取り組みが、現在のインターネット教育利用の素地になったことは確かである。

  この中で教育用パソコン通信「えひめ教育NET」は、平成3年から教育活動全般に利用されるようになった。このネットの特徴は教材データベースを構築し、どこからでも、誰もが自由に利用できることである。

  教材は主にCAI(Computer Assisted Instruction)を中心にデータベース化に取組んでいる。更に生徒・教職員・保護者・地域社会のコミュニケーション・チャンネルとして機能を果たしており、様々な分野の教育活動においてコラボレーション・システム(Collaboration System)の一部としても利用されている。これに続いて、平成7年からインターネットが導入され、幅広く教育活動に利用されてきた。

2 ネットワークの利用状況

  本格的にインターネットの教育利用ができるようになったのは、平成7年5月初旬であった。平成8年度は7年度までの実績を基に、授業で利用するテキストや指導マニュアルなども作成することに努め、現職教育に力を注いだ。9年度は、インターネット教育利用の普遍化に取組み、幅広い教育利用を試みている。また、施設・設備の拡充も行われた。

  教科指導では、何らかの形でインターネットを利用した科目は、「国語」、「社会」、「数学」、「理科」、「生活一般」、「保険体育」、「英語」、「課題研究」、「実習」、「情報技術基礎」、「工業数理」等に及び、新しい取り組みが始まっている。

  特別活動では、「クラブ活動」、「部活動」、「生徒研究活動」などで活発な利用が行われている。

  一例として、「課題研究」では電子機械科、電気科、電子工学科においてインターネット研究班を編成し、インターネットの基礎から応用までの研究に一年間取組んできた。

  研究概要は、CGIやjavaを利用したホームページ開発や海外高校生との国際交流などがある。また、インターネットの仕組みそのものを深く研究している班もある。

  また、「部活動」では放送部、化学部、無線部などが新100校プロジェクトで行われている各種プロジェクトに参加し、各プロジェクトの目標に向かって日常的に活動している。一例として環境問題を扱った「酸性雨計測プロジェクト」への参加などがある。

  また、「生徒研究活動」ではインターネットを通した地域交流を積極的に行っている。

  近隣の高等学校や中学校と交流学習を行い、本校のWWWサーバの中に参加各校のホームページを設けたり、地域文化の発信や博物館のホームページ開設なども行っている。この交流学習は、年間数回のペースで実施されている。

  「部活動」では、インターネット上でのブロードキャストの研究に取り組んでいる。現在は、イントラネットで実験中であるが、近い将来には、ビデオサーバ等を導入したいと考えている。コンテンツは、対外試合や学内の出来事、地域社会の行事、ニュースなども掲載し、校内各所及び学外からアクセスできるシステムを計画している。

  「教職員の研究活動」では、教材収集や電子メールによる国内外との情報交換など、新しい視聴覚教育への利用について研究に取り組んでいる。また、校内LANが敷設されているので、イントラネット構築にも意欲的に取り組んでいる。イントラネットによる進路指導システム、図書館教育システム、学校事務処理システム、業務連絡システムなど、教育の情報化を進めている。

  更に、地域社会との交流を目的に、様々な研修会・研究会等を開催し、地域社会と共に歩む学校教育の実現に向かって日々努力している。

3 平成9年度の成果と課題

  今年度のインターネット教育利用は、教科指導、特別活動、教職員の研究活動、地域社会との交流等の分野にとって、エポックメーキングな年となった。

  生徒たちの興味・関心を喚起し、自発的な学習活動への強いモティベーションを与えることに成功したといえる。また、教職員の情報リテラシーの著しい向上が認められた。

  現在、校内どこからでもインターネットが利用できる環境である。今後は、更に、どのような教育利用が可能か、実践を通して中身の濃い研究にチャレンジして行きたいと考えている。インターネットは、21世紀の教育のあり方を模索するための研究システムとしても、その力を大いに発揮するものと思われる。

  今後の課題としては、教育のマルチメディア化を図る上で、インターネット接続回線の高速化と、校内LANシステムの光ファイバー及びATM化が課題である。

  また、教育利用に関する有害情報排除、指導者養成、情報モラルの確立など、現職教育の分野でクリアしなければならないことは多いと考えている。その他、ネッワーク・セキュリティの確立なども重要案件として取り組んで行く計画である。

4 プロジェクトに参加して

  新100校プロジェクトに参加したことは、現在、着々と作業が進んでいる教育改革を進める上で、大きな刺激となった。

  21世紀の初頭は、本格的な情報通信社会の幕開けである。20世紀の最後に、情報通信の核ともいえる、インターネットを教育現場に導入したことは、非常にタイムリーであった。インターネットに係わる、今年度の主な研究活動を紹介しよう。

 (1)新しい教育システムの研究

    新しい教育システムの構築に関する研究に取り組んでいる。このシステムは、インターネットを最大限に利用するユニークなものである。概要は大きく分けて、ネットワーク・スタディシステムとオンライン教育ソフトライブラリー・システムの二つから成る。前者のシステムは、インターネツト上に分散して存在する教材を、学習理論に基づいた論理的関連付け(例えば教科書に準拠した教材リンク集のようなもの)や必要な教材開発などを行い、インターネット上に学習空間を構築するものである。この教育システムの特徴は、全体としての所有者や独占的な管理者は存在しない。構築に参加するものが、また、利用するものが、自主的な管理・運用を行うシステムであり、増殖を続け、教育システムとしての品質は、時間と共に向上して行くものである。更に、このシステムには、無機質な教材だけが存在するのではなく、生身の人間指導者がネットワークを通して、学習者に直接レクチャーすることも可能である。

    後者はスタンドアロンで利用するCAIシステムや学習資料としてのデータを分散的に管理し、データベース化した、教育ソフトライブラリ・システムである。

    この教育システムは、現在の学校教育や家庭教育、社会教育を補完するものである。

    部分的に実験中ではあるが、まだまだ机上の研究が中心である。今後、更に研究を進め、実現化することを願っている。

 (2)地域社会と共に歩む学校教育の実現

    地域社会と学校教育は密接な関係がある。インターネットをコミュニケーション・チャンネルとして、地域との交流を行い、現在では、インターネットを利用したコラボレーションも可能となってきた。

    地域社会との交流のきっかけ作りとして、市民対象インターネット研修会や研究会、講演会等の開催を積極的に進めてきた。

    今年度取り組んだものとして、高等学校開放講座や高等学校産業教育実技講習、小・中・高校生インターネット研修、インターネットビジネス利用・インターネットと社会等の講演、地域新入社員研修など多くのものがある。

 (3)新たな校内研修の必要性

    今年度は比較的高齢者の研修に取り組んだ。研修の方法は自由参加による研修会の実施や個別研修の形でインターネット・サービスの利用方法をはじめ、教育利用に関するノウハウが研修内容の中心である。一方、既に多くの職員が自在にネットワーク通信を利用し、多彩な教育利用を行っているため、ネットワーク通信の教育利用に対する理解や全校的なコンセンサスを得るために、教育利用に対するスキルや感性のギャップを少なくすることが目的である。

 (4)施設・設備の充実

    コンピュータ教室や視聴覚室、図書室、実習室、職員室、事務室など、校内のどこからでもインターネットが利用できる環境を構築した。いわゆる情報コンセントを主だった場所に設置することができた。現在、インターネット利用可能パソコンは約120台、サーバは3台が接続されているが、利用状況に応じて、サーバの数を増やすこともある。自分達で解決できるネットワーク関係工事等は、自分達で解決している。近い将来にはパソコン通信「えひめ教育NET」も、インターネットにゲートウェイしたいと考えている。

    インターネットを生徒たちが自由に利用できるオープン・スペースとして、図書館や視聴覚教室(21台)を開放しており、休憩時間や放課後にはWeb、FTP、Eメール等の利用で大変なにぎわいである。

5 おわりに

  世界はネットワーク通信でつながった。地球はまさしくグローバル・ブレインといっても言い過ぎではない。学校という限られた世界から、まるで鳥になったように世界に向かって羽ばたくことができる時代を迎えた。

  これからの教育は、ネットワークをいかに利用するかが、大きな課題となる。我々は21世紀に向かって、時代に対応した新たな教育観を持ち、時代のニーズである教育改革を着実に推進して行くことが大切である。