山口大学教育学部附属光中学校
コンピュータネットワークを利用した取り組みは、生徒の学習の可能性を様々に広げている。特に、自分たちの学習成果を公開し、広く評価を求めるという目標をもたせることによって、生徒の学習はさらに充実してきた。本校では、授業へのコンピュータの利用はもちろんのこと、授業以外の学校生活への利用も進んでいたが、今年は、さらに学校という枠をはずして取り組みを始めた。その具体的なものは次の通りである。
・ 老人ホームとのネットワークを構築し、生徒に新しい交流の道を開く。
・ 市内の公立中学校とネットワークで結びつき、共同の研究を行う。
・ イギリスの中学校と共同研究を行う。
1 老人ホームとのネットワークを構築し、生徒に新しい交流の道を開く。
この実践は、今月にスタートした最も新しいプロジェクトである。
本校生徒は、同世代の友達との交流だけでなく、世代を越えて老人ホームで生活していらっしゃるご老人たちとの交流を行おうとしている。学校と老人ホームとは、ともに外の世界とつながりが薄いという点で非常に共通している。
この両者を直接ネットワークで結びつけるだけでなく、さらに外の世界ともつなぐことによって、さらに開かれた環境をつくり上げようと考えている。
通信のためには、ファーストクラスというソフトを利用する。本校は、このソフトを用いたメディアキッズというプロジェクトに参加している。ここに相手の「長養園」という老人ホームに参加していただくのである。具体的には、ネットワーク上に「遊びの部屋」と「ふれあいの部屋」という会議室を設けて、交流を行う予定である。
「遊びの部屋」では、お年寄りの子供時代の遊びを教えていただいたり、自分たちが今行っている遊びを紹介する。「ふれあいの部屋」では、お年寄りとともに時事問題など、今話題になっている内容について意見を交換し合う。核家族化が進む中、お年寄りがもっておられる様々な知識や経験を教えていただいたり、世代を越えてお互いがもっている経験を交流させ、生徒に新しいふれあいを体験させたい。
また、パソコンの操作方法は、実際に生徒に「長養園」を訪問し、指導させようと考えている。今後の触れ合いは、日常はネットワークを通じて行うが、最終的な目標としてできるだけ直接会って触れ合う機会を設けようと考えている。
2 光市内の中学校を横断的に結びつける地域データベースづくり
本校が位置する光市内には、4校の公立中学校がある。平成9年度をもってこれら市内の中学校にもマルチメディアとネットワークに対応したコンピュータが全て導入された。このことによって、本校とこれらの学校とをネットワークで結ぶことが可能になった。そこで、「地域データベース」づくりという共通の目標を掲げ、生徒同士を交流させることによって、新しい学習価値を生み出そうとしている。従来は、学校単位で教育活動を行うのが基本であった。しかし、学校の枠組みを越えた生徒の連携は、学習を活性化するはたらきをもっている。このプロジェクトに参加している他校の生徒のもつ個性とふれあうことによって、様々な刺激を受け始めている。
このデータベースは、光市内の産業、文化、歴史、地理、風景などに関する様々な情報を収めた総合的なものにしたいと考えている。ただ、これらの項目に関する無機質なデータを入れるだけでなく、実際に取材活動を行いながらふるさとに対して芽生え始めた感情や心情までもともに収めさせるつもりである。
本校生徒の有志がリーダーシップを発揮しながら、市内の公立中学校の生徒とともに作成中である。
3 イギリスの中学校との交流学習
これまでの本校の実践は、外国との交流という視点から行われたものが少なかった。そこで、イギリスのホーリークロスコンベントスクール(中学校)との間で次のような企画をスタートさせた。
・ 歴史教科書づくり
・ 相互評価をめざした演劇づくり
(1) 歴史教科書づくり
このプロジェクトは、次のような段階を踏む。
・ 「イギリスの歴史教科書」で日本について教えている内容と、「日本の歴史教科書」でイギ リスについて教えている内容とを交換し合う。
・ お互いの教え方について、感想を述べ合う。
・ テーマを決めて、共通の歴史テキストをつくる。
現在、生徒は自分たちが使っている教科書を英訳している。その際、英語の教師やAETの手を借りている。共通教科書づくりのテーマとしてイギリス側から提案があったのは、「第2次世界大戦」である。相手校の歴史の教師は、この話題を非常にデリケートな問題として取り上げたがっていた。
この学習によって生徒は、日本とイギリスのものの見方・考え方の違いに気づくはずである。教科書づくりにあたっては、戦争の原因にまつわる歴史認識の違いを出し合いながら一つの共通の歴史認識をつくり上げることを目標としているが、必ずしも一つの形をつくり上げることにこだわらず、作業の過程で、明らかになったお互いの違いを尊重し合うことをめざしている。
(2) 演劇づくり
本校と相手校の共通点の一つとして、両方とも演劇の学習がさかんであるということが挙げられる。演劇での交流には次の基本方針を考えている。
あくまでもつくる芝居は、日本語劇である。演劇は、たとえ共通の言語を用いていなくても動きや表情や声の調子から理解し合うことができるという特徴が考えられる。英語劇をつくることも考えられるが、言葉の壁を越えたコミュニケーションの手段として演劇を位置付けたい。
生徒は、イギリスの人々と交流するということを非常に楽しみにしている。その他、数学科からも教科書の交換から始まって交流を広げていきたいという構想がでている。
4 教師のホームページづくりによるネットワーク活用の意識の高揚
本年度、本校では教師が各自ホームページを開設しようという目標を掲げた。これには、次のような意図がある。
・ ホームページづくりを通して教師のコンピュータの操作技術を高める。
・ 全ての教師に参加を呼びかけることでネットワーク教育への共通理解を深める。
本校では、すでにほとんどの教科がパソコンを使った授業実践を行っている。しかし、ネットワークを通じた実践はまだ一部の教科に限られている。また、HTML形式で自分の主張を表現した教師も少ない。この現状を打開するための方法として考えたのが、教師のページづくりである。
この作業によって、教師のネットワークに対する戸惑いが少しずつ解消されることを期待している。最新のホームページとしては、「美術科の教師の部屋」がある。このページでは、本校美術科の教師の個人的な作品と生徒の最近の優秀作品が掲載され、更新されていく。
以上の実践の継続を中心にして平成10年度はさらに活動を充実させていきたい。