5.2 情報教育を根底に据えた
     インターネット活用への取り組み
            神奈川県相模原市立淵野辺小学校 霧生貴紀
 
5.2.1 概要
 
5.2.1.1 はじめに
 
 これからの子どもたちに求められる資質や能力は、激しい社会を「生きる力」であると言われています。学校においてもこの「生きる力」の育成を基本とし、知識を教え込む教育から、自ら学び、自ら考える教育への転換が求められています。 
 本校では、自分で課題を見つけ、自ら学び、自ら考え、主体的に判断・行動し、よりよく問題を解決する能力や、自らを律しつつ他人と協調し、他人を思いやる心や感動する心など豊かな人間性を身につけていくことが、「生きる力」という生涯学習の基礎的な資質の育成になると捉えています。そこで、それらの資質や能力の育成のために、教育課程の柔軟な運営を図りながら、情報教育を基盤とした総合的学習を導入して、インタ−ネット等のネットワ−ク環境を幅広く活用した新しい教育活動の創造をめざしていきたいと考えました。
 
5.2.1.2 今年度の研究概要
 
 今年度は平成7年度・8年度の2年間にわたるネットワ−ク環境の教育活動への活用の成果から「子どもたちの思いを大切に、具体的な活動を支援し”生きる力”を培っていきたい。」という方向性で研究に取り組んできました。第15期中央審議会第一次答申を視野に入れ、その願いを実現するためには、教科・領域、そして学年を越えての活動の場や時間の設定や支援体制などを新たに変える必要が出てきました。そこから生まれたのが、今年度の研究の中心となっている「チャレンジタイム」です。

 

 (1)チャレンジタイムの概要
 
  ・位置づけ・・・既存の教科などにとらわれることなく、学習や自身が課題を
          設定し、主体的に取り組む。
  ・具体的 ・・・5,6年生を対象とする。
    取り組み  年間20時間を設定する。
          児童一人ひとりの願いをもとに、個々が課題を設定する。
          課題をもとに1グル−プ10人程度にグル−プ分けする。
          全職員が支援にあたる。(本校では学校TTと呼んでいる)
 
 (2)その他
 
   昨年度の研究を継承しつつ、
   ・機器更新のため「情報教育を根底としたリテラシ−の改善」
   ・気軽にコンピュ−タ室を利用できるように「TT教師と協同体制をとること」なども研究の一端としています。
 
5.2.2 「チャレンジタイム」の実際
 
5.2.2.1 「チャレンジタイム」が動き始めるまで
 
  4月・・「チャレンジタイム」活動の内容・計画等の共通化
  5月・・5、6年生全体オリエンテ−リング
     ・「チャレンジタイム」の個人テ−マを考えよう(学年・学級)
児童からでたテ−マ例(抜粋)
・世界の歴史、世界の城をみてみたい 
・外国の遊園地ではどんな乗り物があるか・外国の料理を作りたい
・100校プロジェクト発芽マップ、ケナフ・外国のスポーツを探る
・外国の遊びをしてみたい ・インターネットでいろんな音楽を
・外国のイベントやお菓子の作り方など・バーチャル旅行
・人気の服装、日本と外国の違い・全国の犬や猫・世界の動物
・電車の種類を調べたい、鉄道、模型・世界のお金と昔のお金
・日本全国の修学旅行マップ・外国の学校は日本の学校と違うか
・星座の観察・淵小周辺の自然の様子を絵やビデオや写真で
・世界の美術館・世界各地の独特の習慣、行事、祭り
・世界のごみ問題・地球の温暖化・酸性雨に関すること

       (得意分野を生かせるよう同時に教師にもアンケ−トをとる)
     ・共通なテ−マをまとめ、10人程度のグル−プ化
     ・22グループで「チャレンジタイム」スタ−ト
 
5.2.2.2 各グループでの取り組み
 
 22グル−プの取り組みのうち、5グル−プの様子を紹介します。
(添付資料に平成9年11月27日に教育工学全国大会、授業公開で配布した活動計画案が載せてあります)
 
 (1)私たちの地球 −環境問題に迫ろう−
 
   このグル−プは、環境問題について調べたい、という願いを持った子どもたち6名で構成されています。CD-ROMやインタ−ネットを使って資料を集めてきたり、子どもエコクラブの活動に参加し境川の水質検査・酸性雨の実験に取り組んだり、と様々な活動を行ってきました。授業公開当日は個々の課題から
  ・酸性雨の実験のデジタル情報をコンピュ−タでまとめていく様子
  ・地球お助けガイドの作成
  ・児童自身の家の情報からどのくらいCOを排出しているか、地球温暖化との関わりなどについて取り組みました。

 
 (2)スク−ル大作戦
   −学校のこと見たがり聞きたがり調べたがりやりたがりになっちゃおう− 
 
 このグル−プは「学校や算数に関すること」を調べたいという願いを持った児童8名が集まっています。今まで、世界の学校ではどんな勉強をしているのか?他の小学校の修学旅行はどこへ行っているのか?などインタ−ネットや電子メ−ルを使って願いを解決してきました。授業公開当日は算数の円周率を音楽にするという合科的な活動を公開しました。円周率の数字を音に置き換えた調べをオルガンで弾いてみたり、テ−プで聞いてみたり、数字の不思議さに触れていました。

 (3)ケナフを育てよう −どんな植物か興味があるんだな!−
 
 このグル−プは新100校プロジェクトの「ケナフという植物を育て、紙にする。その様子を日本全国で比べていこう。」という呼びかけに答え活動してきた10名のグル−プです。デジタルカメラを使用しホームページにその経過を発信し、また他の学校のホ−ムペ−ジと比較しながら育ててきました。授業公開当日は紙作りの様子を公開しました。今まで育ててきた「ケナフ」。一つ一つの作業に愛着がこもり、最後にはすばらしい紙ができあがりました。
「誰に送ろうかな。」「大切にとっておこう。」などの言葉から、一年間を通してきた活動が感じられました。

 
 (4)世界の祭りや行事を知りたいなあ
 
 このグル−プには7名の児童がいます。一学期は、各自調べてきた祭りの中から話し合いでイ−スタ−祭りに決め、体験してきました。二学期はハロウィンにしぼり、より詳しい情報を得るため、電子メ−ルや地域協力者、ホ−ムペ−ジなどを活用してきました。授業公開の当日は、今まで得られた情報をもとに変身するものを作ったり、電子メ−ルでお礼の返事を書いたりといった場面の公開をしました。自分たちの祭りに役立てるための情報収集、準備なので一人ひとりが目的意識を持って活動をしていました。
 
 (5)バ−チャル旅行
  −できたらいいな、こんな旅、ワクワクドキドキ旅の計画作り−
 
  「自分だけの旅行計画を立てたい」という願いを持って集まってきた10名がインタ−ネットやCD-ROM、雑誌やパンフレットなどを使って架空
の旅行をしました。「どこに行こうかな?」と、初めのうちは場所が決まらず世界各地の情報を見て考えていた児童もいます。授業公開では今まで計画してきた内容を別の情報源を使ってさらに深めていく児童、新たな場所の旅行計画を作る児童などがいました。

 
5.2.3 今年度の研究を終えて(成果と課題)
 
 今年度から新たに取り組んだ「チャレンジタイム」。特定のクラスで取り組むのではなく学校全体で取り組んできたので技術的な進歩はあまり感じられませんでした。しかし、児童のインターネットの利用の広がり、本校教員への広まりなどを考えにいれれば、格段の進歩があったものと感じています。以下、実践を通しての成果及び課題を3点あげてみます。
  ・「チャレンジタイム」の実践を通して、子どもたちが体験を通しながら問題解決を図っていくための授業時間数はなかなか確保しにくいということを実感しました。今年度は実験的に、年間20時間設定、柔軟に対応してきましたが子どもたちにとって十分とは言えません。
  ・児童10人で1グループを基本に取り組んできましたが、個々の教師では児童一人一人の願いを解決する為の支援が十分にしきれない場面が出てきています。インターネット、地域教育力等が解決方法の一つでもあり、利用してはいますが、より教師間の関係を密にし、多様で主体的な学習の支援環境を整えていきたいと思っています。
  ・「チャレンジタイム」の評価まで、今年度の研究の中で踏み込むことができなかった。多くの場面で評価(励まし)を取り入れていくことによって、子ども自身の高まりが見られていくと思われます。
 授業公開のあと以下のような評価もいただきました。
「自分で課題を見つけ、課題解決の方法を検討し、さまざまな資料を基に自ら考え、その結果を発信していく−−中教審答申や教育課程審議会「中間まとめ」が提言する新しい教育活動の姿を実際に示した「チャレンジタイム」であった。」
(内外教育12月5日)
 今年度の研究には「今進んでいる方向性でいいのだろうか?」という不安が常につきまとっていました。しかし、上記のような評価を頂いて、ほっとしています。
 来年度は今年度の課題から、クラブと合わせた形で「情報教育を根底に据えた『総合的学習』」を進めていきたいと考えています。「児童の立場に立った」ということを忘れることなく、そして目の前の児童の一過性の変化ではな く、もっと大きな時間の流れの中での児童一人一人の成長を促していきたいと感じています。