5.15 国際環境教育プロジェクト
札幌市立幌南小学校 藤村 裕一
 
5.15.1 概要
 
 環境教育は,子どもたちの足下から見つめ直して行っていくことが,自分たちにとって身近な問題であることを自覚すると共に,自分たちにできることを考え,実践していくことにつなげるためにも好ましい。
 しかし,環境問題について子どもたちが学習を進めていくと,環境の問題が国境を越えたグローバルな問題であることに気づき,世界の人々が協力しなくては解決できないと考えるようになってくる。
 そこで,環境問題について,世界各地の仲間たちと意見交換をしたり,それぞれの国の実態や先進的な取り組みについて交流したり,共同で活動を行ったりするために,インターネットを中心としたネットワークを活用していくことができるようにした。
 今年度は,日本各地の学校,アメリカ,ドイツ,ミクロネシア,フランス,ベラルーシ,カナダ,シンガポール,インドネシアの子どもたちと,本校の「地球を守り隊」が様々な交流を行った。
 また,環境問題について学ぶに当たって,「閉じた教室での学習」から「開かれた教室での学習」への変革も意図し,子ども同士が交流するだけでなく,様々な分野で活躍されている全国各地の大人の方にネットワークを通して学ぶ場面を,数多く取り入れた。
 
5.15.2 実施
 
5.15.2.1 実施に当たっての基本方針
 
 本校で,国際環境教育プロジェクトを実施するに当たり,以下のような基本方針のもとに,インターネットをはじめとしたネットワークの利用を行った。
 
 (1)「共に学び,共に生きる」ことをめざして
 これまで個性尊重の教育を推し進めてきた中で,少年がナイフで人を傷つけるなど心が痛む事件が相次いでいる。私たちは,何か足りないものがあったのではないかと反省を重ね,個性を尊重すると同時に,これからは「共に学び,共に生きる」ことの大切さが実感できる教育を最も重要視していこうと考えた。
 そこで,本校におけるネットワーク利用教育も,「人を介さない人間疎外の冷たいコンピューター利用教育」ではなく,「人とのつながりの中で学ぶ温かいネットワーク利用教育」にしていこうと考えた。
 このことは,これまで3年間,インターネットなどを使ったネットワーク利用教育をすすめていく中で,教師も子どもも実感してきた「インターネットは,コンピューターとコンピューターの結びつきではなく,人と人との結びつきである」「ネットワーク上のすべての人々が共同学習者,先生」ということと重なるものでもある。
 (2)体験−情報−体験のサイクルの中で
 本校は,バーチャルな世界の情報のやりとりだけで学ぶのではなく,あくまでも子どもにとって最も大切な教育手段である体験を核にし,体験−情報−体験というサイクルの中でそれぞれのよいところを生かしながらインターネットを生かしていくようにしている。
 右の写真(学校のすぐとなりを流れる豊平川での清掃ボランティア)のように,地球規模の環境問題についても,自分たちの足下から考え,自分たちにできることから行動していくようにしている。
 
 
5.15.2.2 ゴミ・プロジェクト
 
 今年度実施した二つのプロジェクトのうち,中心的なものが,ゴミ・プロジェクトである。以下は,その概要である。
 
 (1)世界のゴミによる環境破壊の実態を,世界の仲間・長期海外旅行中の日本人と共に調べる
 
 
 本校では,子どもたちにとって最も身近な環境問題として,ゴミによる環境破壊を取り上げ,世界の仲間たちと共に考え,協力して活動している。
 平成9年度の活動は,子どもたちが海水浴でよくいく小樽市銭函海岸の漂着ゴミを仕分けする体験から,始めた。海の家の方々の協力で集めたゴミは,子どもたちの想像をはるかに超える量があり,しかも子ども用の駄菓子袋など明らかに自分たち子どもが捨てたとわかるものがたくさんあると共に,遠く長野県から漂着したものや,さらにはロシアや韓国から流れ着いたペットボトルやビニール袋があった。(右写真)このことから,街から川へ,川から海へというゴミの動きの他に,国境を越えたゴミによる環境破壊を含め世界各地でゴミによる環境破壊があるのではないかと考え,ミクロネシア,アメリカ,ドイツ,ベラルーシ(旧ソ連)などの仲間に,それぞれの地域でのゴミによる環境破壊の実態調査を呼びかけた。
 また,アメリカ大陸を歩いて横断中の関口さん一家,中国を歩いて横断中の「平成の遣唐使隊」ともインターネットを通して連絡を取り合い,アメリカ・中国の自然の様子やゴミによる環境破壊の様子を教えていただいた。
 このような共同調査の結果,ミクロネシアやハワイの海岸に日本からのゴミが大量に漂着していること,中国やベラルーシ,ロシアなど世界各地で,ゴミによる環境破壊が進んでいることがわかってきた。(上の写真は,ミクロネシア・ウォレアイ島のの仲間たち)
 (2)世界の仲間とゴミ拾いボランティア,リサイクル活動
 
 このような実態がわかったところで,世界の仲間たちと相談して(ミクロネシアとは,衛星を使ってリアルタイムの意見交換を行った),身近なところで自分たちにできることをと,ゴミ拾いボランティアやリサイクル活動をいっしょに行うことになった。当初は,「世界共通リサイクルデー」として,共通のリサイクルデー1日を特定の日に設定しようとしたが,学期の区切りや休日・長期休業など各国の学校事情等で1日に限定することが難しいことがわかった。そこで,「世界共通リサイクル週間」を設定して,世界の仲間たちと共に活動した。)
 ミクロネシアからは,ビニール袋,プラスチック製のビーチサンダル,空き缶などが捨てられているとの報告があった。(右写真)中でも日本のインスタントラーメンの袋を拾ったと報告は,子どもたちを驚かせた。また,山形県・岡山県など国内各地の学校でもいっしょに活動してくれ,子どもたちを随分力づけてくれた。
 
 (3)インターネットを介して知り合った人たちから学ぶ
 今年は,インターネットを通して交流した方,インターネットで知り合った方が紹介してくださった方などに,子どもたちが直接会って,環境問題や大自然,リサイクルのあり方について学ぶことができた。その一例が,下の写真のような,文部省宇宙科学研究所のロケット博士・的川教授(宇宙のゴミ,生命・地球の大切さ,国境を越えて地球を守る大切さを,マーズ・パス・ファインダーの火星着陸をNASAから報告し帰国した直後に来校),アメリカ大陸を歩いて横断した関口さんご夫妻(帰国後来校し,大冒険とアメリカの大自然について話してくれた),チェルノブイリで被曝したベラルーシの子どもたち(環境破壊で命を失うことさえあること,悲劇に負けずに明るくたくましく生きることのすばらしさ,ベラルーシ・ロシアの環境破壊・リサイクル事情を教えてくれた),Earth Shopのニールさん(リサイクルと再生品を使うことの大切さ,再生品のすばらしさを教えてくれた)
 このように,インターネットで人に学ぶ活動は,直接会って学ぶ活動につながる可能性も数多く秘めている。
 
 (4)古紙回収が行き詰まった原因を,全国の様々な立場の大人から学ぶ
 
 
 子どもたちが,がんばって集めた古紙を回収業者の方に渡そうとしたところ,これまでお世話になっていた方は廃業し,他の業者でも回収を断られたり,有料回収になると言われたりして,困り果てると同時に強い問題意識を感じて,その原因を探り,何とか解決したいと活動を始めた。その際,ネットワークを通して協力を呼びかけたところ,わずか2日間で,全国の消費者,消費者団体,行政,回収業者,製造業者,環境関係のシンクタンクなど,実にさまざまな立場の方々が,30通以上のメールを寄せてくれた。親切に寄せられた情報,励ましの言葉に,子どもたちは,ネットワーク上の人々の温かさに感激し,真剣に原因の関連を突き詰め,これまでのリサイクルに出すだけの「集めるリサイクル」から再生品を積極的に使っていく「使うリサイクル」への発想転換が必要なことに気づいていった。このときに出会った人々との交流は今も続き,さらに広がってきている。(上は,全国から寄せられたメールの一例)
 (5)アメリカ・ウィルソンスクールと合同でのヤップ・デー
 
 これまで,交流してきたアメリカ・ジョージア州にあるウィルソンスクールの仲間たちが,ミクロネシア・ヤップ州の自然を大切にし,自然と共生しようとする考え方や生活・文化に学ぶ行事「ヤップ・デー」をしようと提案してきた。
 子どもたちは,日米同一プログラムで「ヤップ・デー」を行おうと,電子メールで打ち合わせを行い,ヤップ州のゴミが出ない自然の恵みによる食事を実際に食べてみたり,自然と共生する人々の生活の仕方についてクイズ形式のゲームをしてみたりと,楽しみながらヤップ州の文化を学ぶことができるように工夫して計画を立てた。
 そして当日は,ウィルソンスクールがヤップ州出身の人を教室に招待して,活動し,その情報を本校の子どもたちがもらいながら活動を行った。子どもたちは,計画段階からいっしょに相談し,「同じ活動」を共に行ったことから,一体感を大いに深めることができ,次に挙げる
 
 
5.15.2.3 開発と自然プロジェクト
 
 1月に,これまで交流してきたミクロネシア・ヤップ州の教育長長官フェラロップ氏とトーマス先生,アメリカのジェリー先生,フランスのサリ先生などが,環境教育に関する国際シンポジウムに出席するため東京に集まり,今後の活動について話し合った。
 1998年のゴミ・プロジェクトの進め方を打ち合わせると共に,新たなプロジェクトの可能性について検討したところ,各国の取り組みの共通点から,「開発と自然」をテーマに,2月から活動を始めることになった
 フランスでは,クマなどの野生生物が開発によってその生存を脅かされている実態を調査・報告し,アメリカからは開発と野生生物や森林などの自然破壊との関係を調査・報告することになった。
 日本では,本校の「地球を守り隊」が,原始林が広がりシカやクマ・キツネなどが住んでいた本校の校区がどのように開発され,それにともなって野生の生物がどのような影響を受けたのか,また,現在身近なところにどのような生物が生息し,えさとして人間が出す残飯をあさるなど,人間の生活がどのような影響を生物に与えているのかを報告することになった。
 現在,子どもたちは,報告を作成するための調査活動を行っているところである。なお,このプロジェクトの進行に当たり,「地球を守り隊」に関する取材で出会った動物写真家の目黒氏が,「地球を守り隊応援団」として協力してくれている。
 
5.15.3 効果と課題
 
 古紙回収問題を学習したときに,全国の見ず知らずの方たちが,子どもたちのために大変親身になって相談にのってくれたり,「地球を守り隊」の活動を通して多くの方たちが電子メールやリアルタイムの対話などで熱い思いを語ってくれたりした「人とのつながりの中で学ぶ温かいネットワーク利用教育」は,子どもたちに「人」のすばらしさ,「共に生きる大切さ」を実感させる上で大変有効であった。
 ネットワークというバーチャルな世界での交流では,子どもたちの社会性が薄れていくのではないかという懸念の声をよく聞くが,実際の子どもたちは,逆に人と交流するすばらしさを知り,ネットワーク上でも,実社会でも積極的に人にかかわり,人から学ぼうとするようになった。
 また,ネットワーク上での交流がそれだけに終わるのではなく,実際に本校に来校していただいたことから,ネットワーク上で交流していけば,それは決してバーチャルなもの,薄っぺらで表面的なものに終わるのではなく,はじめから実際に合うことから始めた人と人とのつながりと同じように,とても温かいものになるのだということを実感していった。
 特に,ネットワークを介さなければ不可能な人々との出会いもあり,教師と子どもだけの「閉ざされた教室」での学習から,実に多彩な学校外の教育力を導入した「開かれた教室」での学習へ変革で,これまで難しかった「実感を伴った熱い思いに学ぶ」ことを可能にし,子どもたちも様々な問題について,納得や教官を伴った力をしていくことができた。
 今後の課題としては,翻訳・通訳ボランティアを増やして一人にかかる負担を減らすことと共に,教師が人的交流をコーディネートする支援をしなくてはならないことがあるであろう。しかし,これも学校内はもちろん,地域の人々と力を合わせることによって,その負担が減っていくだろうと考えられる。