5.23 HTMLを用いて考える力を培い、平素の授業に使える
     「ネッワーク教材」の作成
高知県立高知西高等学校 藤田勇人、山崎和彦、寺尾文孝
5.23.1 概要
 
 すべての児童・生徒を対象に各教科における思考力・理解力・表現力の向上、知識・技能の取得をねらいとし、各教材を「しくみ」と「考え方」というキーワードで再構成し、HTMLによるリンク構造を与えWEB上に展開できる形態にする。
 いわゆジるホームペーによる情報発信や電子メール、Cu−See−Meなどによる交流学習も、時代が求める新しい教材や教育ではあっても、同様に大切である「教科書」の授業課題をすべて解決するものではなく、情報発信や交流学習なども、「生きる力」の育成のための一つの場面にすぎないことを忘れられてはならない。
 ネットワーク利用の一つの方向として、普通高校という特性もあり、「教科書」で教えるための教材をホームページ作成に用いられるHTML形式で作成し、教科書の内容にある「学習情報」に独自の形式をもたせた「ネットワーク教材」の開発に取り組んだ。
 

 (1)「ネットワーク教材」の活用

 これまでの授業は、「年間計画」の学習であり、最初の学習内容は最後の学習のころには「記憶の彼方」であり、そのため、「総覧によるまとめ」ができないことが多かった。これは、学習シーンとして、全体を通して学習することがないために全体的な思考力を生み難い学習となっているためである。
 そこで、
・学習内容の全体像を暗記させ、明確な学習項目を分類することでセクションから科目へ、科目から教科へと発展させ、全体の中での位置を認識させる。
・フレームのなかで各考え方にリンクを張り、基本となる考え方を理解させる。
・親しみやすい口調で発問をし、その内容に方向性・指向性を持たせる。

以上3点に注意しながら、学習内容の構造化に心掛けた。

 (2)ネットワーク教材の作成

注意する点

 *この技術は数学だけでなく、それぞれの強化・科目の学習内容を「しくみ」と「考え方に」分類することで、考える力を培う有効な手段と考えている。
 *教師の思考過程を生徒にも体験させることができる有効な教材と位置づける。

 (3)新しい教材「ネットワーク教材」の学び方の学習

 教材の在り方が新しいため、生徒自身学び方になれる必要があり、そのためにVTRの活用により、学習の姿を見せた。 つまり教材にある問題解決の考え方を、目に見える作業として表現するために、「学び方」をVTRに記録し、特に授業形態としてはそのポイントにスポットをあてて、理解を助ける目的が強く意識された小テストを実施することも、授業内容に入る前に説明として記録・録画した。 これはVTR(他者の行動)を見ることによって、学習や問題解決のアプローチがわかるように注意し、授業に対するレディネスを作ることをねらいとする。

 家庭学習の充実や欠席者のためにも、家庭でのVTR機器で再現できたらいいなと考え、授業の再現性を重視し、また、教材の作成に当たっては、既習者、未習者の違いを理解することが必要である。つまり、わかっている人(既習者)にはよい教材におもえても、未習者には必ずしもそうでない現実が、なぜ起こるのかを考えなくてはならない。

 (4) 教材作成のためのユーティリティーソフトの自作

 HTML形式のファイルは、自宅で作成するなどした場合、サーバー機へ登録時にリンクが壊れることがあり、また、ハードディスクの教材の整理をした際にも同様なことが起こり、修正するのに大変なことがあり、それを自動修正するソフトを作成した。

 (5) 教材学習のためのブラウザの開発

 市販のブラウザは学習には余計な部分があり、学習専用のブラウザを作成した。

5.23.2 実施

 授業では、科目内容と進度に応じて次のように実践した。

5.23.2.1 数学T・二次関数

  平成9年4月28日に1年生対象に実施した。授業内容は、数学Tの二次関数・二次不等式の解法において、指導目標を「関数を用いた二次不等式の解法を理解させる」、生徒の到達目標を「二次不等式を解くことができる」と設定した。

 (1) 導入

 授業の導入部分では、VTRを用いて、あらかじめこの教材の使用方法と目的を録画したものを生徒に見せた。コンピュータリテラシーの分野でも、VTRに記録しておけば、テレビ画面の前で解説や注意をうながすことができた。構成は、今日の授業で習得しなければならないもの、コンピュータの画面に向かってネットワーク教材を使って学習する生徒の姿、授業の終わりに小テストを実施すること、である。7、8分間の時間で生徒にはこの授業時間のやるべきことを伝えることができた思う。

 (2) 授業展開

 生徒の進度に応じて教材を進めることができ、ほとんど操作に関する質問もなく、授業に取り組めていた。
 まず、教材に中にある「しくみ」と「考え方」から、2次不等式の解法をまとめさせた。公式を理解させるときには、図形と言葉(数学特有の)にも注意できるように、教材を作成している。プリント教材との併用で、単なるコンピュータを用いた授業ではなく、平素の授業の中に組み入れることができた。

 (3)まとめ

 授業の終わりに小テストを行うことについては、生徒の到達度の確認と何を知っていなければならないかを知るための一つの方法と考えている。小テストの結果だけを見るのではなく、その思考課程と次の授業のため(教師側と生徒側の両方)に活用した。

5.23.2.2 数学T・確率(反復試行)

 平成9年11月21日に、1年生対象で実施した。

 (1)目標・ねらい

 目標とねらいは、次の2つである。1.反復試行の定理はいろいろな使い方があることを伝え、nCrの意味、prqn−rの意味を例題を通じて十分に理解させること、2.HTML教材のハイパーリンクという特性を生かし、ある問題に対する考え方がすぐ出てくるように練習する。また与えられた問題において、まずとっかかりに何を考えたらいいか知識としてまとめ、全体の問題のつながりを理解するである。

 (2)ネットワーク教材の選択理由

 HTML教材の選択理由は、教員が前もって教材内容をよく研究し、全体の内容の関連づけを意識して、内容を精選し作成するので、生徒が自学自習で復習するのに適した教材である。HTML教材はネットワーク教材としてインターネット上に公開し、広く意見を集めていくことが可能で、個々の教員の指導のノウハウを「再生産性」のある形式で吸収できる。また、教材データデータベースができれば、それぞれの学校の教育課程にあった内容を選び、また、手を加えて平素の授業に用いることができる。オフラインの場合、仮にスタンドアロンであっても、ハードディスクなどにコピーすることで利用できる。いずれの場合もプリント教材への転用により、コンピュータのない教室でも活用ができる。
 以下のような学習指導案に基づいて授業を実践した。

 (3)学習指導案

 a.本時の指導目標  この教材は確率の学習が一通り終わったものとして、生徒自身が全体の履修内容を構造化し、復習をすることを前提に作成している。その中で本時は以下の2点に重点をく。
・反復試行の問題をたくさん体験し、公式の本質的な意味を理解する。(知識、理解)
・コンピュータという題材を使うことで教材に対する興味、関心を引き起こす。(関心、意欲、態度)
 b.展開
ねらい
・反復試行の定理がどのような場合に適用できるか発見する。
学習活動
・教材を利用して反復試行の公式を確認する。
・教材の中にある反復試行の問題について代表的なものを説明する。
・教材の中にある反復試行の問題を見て、適当な解法を考える。
指導上の留意点および評価
・教材はあらかじめ立ち上げておき、最初にコンピュータの操作法の指導を入れる。
・コンピュータの操作が、興味を持ってできる。(関心、意欲、態度)
・説明の途中で生徒に発問する。
 c.まとめ
学習活動
    P=n−rにおいて前の係数は事象Aの起こり方の場合の数である。
指導上の留意点および評価
反復試行の定理の公式の意味を理解させる。(知識、理解)
 d.問題演習
学習活動
・あらかじめプリントに反復試行の問題を用意しておき、各自で演習する。
指導上の留意点および評価
・机間巡視して質問に答える。
・教材を利用して解法を調べてもよい。

5.23.3 効果と課題

5.23.3.1 授業流れと生徒の反応

 (1) 2次関数の実践

 VTRで、事前に生徒の学習する姿を見せておいたことは、授業内容へのスムーズな導入において、非常に効果があった。本校の場合、コンピュータ室には37インチのTV1台しかなく、教室の後ろでは通常の番組は見ることができません。そこでできるだけ、ズームした画面で、あまり多くの情報をいれなかったことが生徒の学習する姿勢を事前に形成できたのではないか。

小テストの実施も授業での目標が明確にすることができたので、ほとんどの生徒が正解であった。解法を忘れた生徒、授業時間内に十分に時間をかけれない生徒にも、この教材を後日、再利用することができた。再利用の形態は授業と同じで、プリントと小テストを用いた。もちろん、生徒は50分もかからず時間の短縮が見られ、さらに生徒にはここの学習内容の整理ができたようである。

 (2) 確率(反復試行)の実践

 反復試行の問題をたくさん体験し、P=nCrprqn−rの意味を理解できた。先生に質問しなくても、コンピュータ画面で問題が解決できるので楽しんで学習していた。プリントの難しい問題にも意欲的に挑戦していた。

5.23.3.2 効果

 新しいことを学習する生徒にとっては、用語の意味や使い方さえも、困難を伴っていた。つまりよい教材と思えても、未習者には必ずしもそうでないことがある。「学習の節約」に着目すれば、これの説明がつきます。既習者が参考書を見たときによくできていると感じることがあり、彼は仮定と結論が分かっているからこそ、思考過程の「学習の節約」が起きます。ところが未習者には「節約」された部分がないために難しく感じているのではないか。何でもないと思うことや、単純なこともこのHTML形式で載せておけば、授業の後の再利用したときに、生徒自信が必要な部分を選択する「学習の節約」がおこなわれていた。

5.23.3.3 課題

 他教科の先生方にも、「ネットワーク教材」のしくみや考え方を伝え、協力体制を整っていかなければならない。平常において、我々教員が普通に実践している授業前の準備など、HTML形式で電子化すれば、ひろくそしてより良いものになっていくのではないか。
 数学的化学的な記号と式の表示が、今以上にワードプロセッサとともにHTMLでも容易になればよい。