5.26 ガイアに集え、子どもたち

      ガイアプロジェクト平成9年度実践

上越教育大学学校教育学部附属中学校 藤田賢一郎

5.26.1 概要

5.26.1.1 ガイアプロジェクトとは

 ガイアプロジェクトは、NASAの火星探査計画にたずさわったJ.Eラブロック博士らが提唱した「地球ガイア説」から名前をいただいた。博士は、「地球は緑の生命体として生きている。そして、人間を含めて全ての動植物がそこに共生している」と唱え、ギリシャ神話の大地の女神の名を用い、地球をガイアと呼んでいる。
 ガイアプロジェクトは、「地球・こども・未来」を主なテーマに、子どもたち、学校の先生方、たまたまガイアのページを訪れた人たちが、作品を発表し合って交流したり、作品を見て考え意見を出し合ったり勉強したりできるインターネット教育プログラムです。 それから、みんなと協力してデータベースを作り、たくさんの学校の仲間達といっしょに調べたりする「学校版草の根ネットの”コラボレーション”」を目指しています。 (ガイアプロジェクトWebページより抜粋)

5.26.1.2 ガイアワーキンググループとワークショップ

 メーリングリスト(以下ML)「wshop:インターネットワークショップ」は1995年5月に「インターネットの教育利用の可能性について、ディスカッションや実践発表、フリートークなどを行う。」ことを目的に設立され、現在(1998年2月)106名の参会者からなる。参会者は、小中高の教育関係者をはじめ、大学、大学院、研究センターの指導者や学生の他、報道やビデオ制作、英語塾、都市開発、行政に関わる方々や環境保全活動の代表者など多分野にわたる。
 この「wshop」の中でインターネットの教育利用として提案、協議され実現したのがガイアプロジェクト(以下ガイア)である。
 子どもたちのコミュニティー(以下ガイアコミュニティー)の中にもML「gaea」が機能しているが、「wshop」はその下層に位置し、「gaea」に送信された子どもたちのメールやガイアのWWWを訪れた一般利用者からのメッセージは全て「wshop」に配信される。
 また、「wshop」参会者はそれぞれがガイアの運営にボランティアとしてかかわり、作業負担の軽減を図ると共に、コラボレーションの一端を担っている。
  平成9年度は新100校プロジェクトの自主企画に選定され、「wshop」の中で、ガイアにかかわること、特に総合的、横断的な学習をインターネットを利用した多校間コラボレーションによって構築していくことに関してのワーキンググループの活動を行ってきた。
 参加者は新100校プロジェクト事務局で作ってもらったガイアワーキンググループMLに登録し、そこでできた案を「wshop」に提案するシステムとした。
 また、ガイアや総合的な学習を考え、アドバイザーを募集し、MLに参加していただいている。

5.26.1.3 ガイア誕生〜平成8年度までの試行錯誤から

 ガイアプロジェクトは1995年9月、上越教育大学附属中学校、千葉大学教育学部附属中学校の生徒間で、自己紹介を電子メールで交換し合うことから始めた。回を重ねるごとに平和や福祉、環境問題についてなど、互いのテーマに沿った意見のやりとりが活発に行われるようになり、前橋第四中学校の生徒も参加して、アンケート活動による情報の収集が行われるようになった。
 その後、三重大教育学部附属中学校の生徒も加わり、MLにより、電子集会を行ったり、WWWにより、こどもたちの詩や作文、音楽作品、HTML作品等の展示を行ってきた。
 ここで、いくつかの課題が見えてきた。まず、ガイアのテーマにあった活動を既存のカリキュラムの中に位置付けることが困難であり、気軽に参加できない学校が出てきたことである。また、作品の掲載が主な活動となり、参加頻度が減少してきたり、管理が一元化し、管理元の負担が増加したりする傾向が見られるようになってきた。
 そこで、作品の掲載ばかりではなく、ガイアコミュニティーに参加することによって前述(環境、国際理解・・)のような学習効果があり、さらに、それぞれの学校等のカリキュラムにとらわれず選択でき、好きなときに参加できる柔軟性のあるプログラムの設定と円滑に運営するためのシステムの構築が必要となった。現在はWWW 上でCGI を用いてごみ問題に対する対処法をランキングの手法により意見交流したり、自動画像転送、自動HTML化システムを構築し、バリアフリー写真データベースを構築したりするなどの活動(インターネットを利用した多校間コラボレーション)を中心に置いている。

5.26.2 平成9年度実践

5.26.2.1 実践中および立案中の企画

 今年度は以下のような実践を行っている。または、ガイアワーキンググループで企画を検討中である。
(1)平成8年度より継続的に実践しているごみ処理問題の対処法をランキングの手法により意見交流する。
(2)平成8年度より実践しているバリアフリーにかかわるデータベース作りに、新たに滑り台ランキングを加えて意見交流する。
(3)Think Quest(世界中の中高校生が参加して行なわれる教材Webページ制作)コンテストへの参加を検討する。
(4)「変化」をキーワードとしたフォトランゲージによる総合的な学習の実施を検討する。

5.26.2.2 ごみ処理問題の解決に向けた9つの提言

 平成8年度より継続的に実践している企画である。
 ガイアプロジェクト上ではCGIを用い、学習者がWWW上で9つの提言をダイヤモンド型にランキングする。ランキングの結果はデータベースとしてサーバに蓄積され、 学習者はその場で自分のランキング結果を確認したり、他の学習者のランキング結果に意見を書き込むことができる。これによって、学習者の意見交流や継続的な学習が可能になっている。(資料1:ごみ処理問題のページ)

資料1:(ガイア webページより)

5.26.2.3 身の回りのバリアを考えよう

 平成8年度より継続的に実践している企画である。
 ガイアプロジェクトのバリアフリーのページには、「画像がポン(画像等ファイルの自動転送、自動HTML化システム)」が用意されており、学習者はFTPツールやHTMLを意識せずに画像等のデータベースづくりに参加できる。また、その場で送信した作品を確認できるので、リアルタイム、インタラクティブな情報通信を体験することができる。(資料2:バリアフリーのページ)

K子の作品「飲めない水」 (資料2:ガイアwebページより)



意見:そして、簡単に届く大人は水ではなく、ビールやジュースを買っているのでこの水飲み場は使いませんね。

意見:他にも、同じような意見もあったようなきがしますが、私としては、あなたのように幼児のだいたいの身長がわかるようにイラストを入れているのは大変わかりやすくていいと思います。
 最後に、4枚の滑り台の写真を自分が考えるバリアフリーの観点でランキングし、意見交流する活動を位置付けた。その際、多様なものの見方や考え方に触れ、自分が最良であると思った考え以外にも多くの考え方があることに気付くことをねらった。(資料3:滑り台ランキングのページ)

5.26.2.4 Think Questコンテストに参加しよう

 現在、ガイアワーキンググループで立案中の企画である。
 コンテストに参加するための、Webページのコンテンツ収集、作成自体が総合的な学習活動となり得ること、学校単位ではなく「チームガイア」として参加者を募ることにより、ガイアのポリシーであるコラボレーション活動となり得ることなどが論じられており、準備ができ次第「チームガイア」のメンバーを募集する予定である。

5.26.2.5 2つの写真を比べてみよう

 今現在ガイアワーキンググループで検討されている企画である。
 年代の違う2枚の写真(例えば100年前の地球と現在、あるいは東京駅周辺等)を用意し、「 2枚の写真の間にどのくらい時間が経過しているか?」「 変化の原因は?」「 変化は、一時的?普遍的?」「自然?人工的?」「 本意?不本意?」「よい?悪い?」などをフォトランゲージする。
 最後にこれから○○年後に3枚目の写真を撮りたい。「どんな写真になるか?(どんな未来に、地球に地域にしたいか?)をみんなで提案する。
 これを基本とし、2枚の写真のうち現代の方をライブカメラ映像にしてはどうかなどの案が検討されている。
 駅周辺等の地域写真のほうからは自動車のこと、人の服装、建築物・・・多くの変化の中から環境とエネルギーや福祉、人の交流などが出てくると予想され、参加校は総合的な学習の中で、環境、福祉、国際理解…等多くの観点の交流活動を行うことができる。

5.26.3 成果と課題

 現在、いくつかの学校で「平和、環境、情報、国際理解、人権、福祉・・」などの学習を従来の教科枠を越えて実施している。しかし、総合的、クロスカリキュラム的に展開されるこれらの活動は、既存の教科のような評価や発表の機会がなかった。ガイアコミュニティーはこれらの活動の発表、多校間での相互評価の場になり得たと考える。また、子どもたちはコンピュータやインターネットを情報の発信や情報を収集するための道具として有効に活用し始めた。
 成果も多いが課題も明らかになってきた。参加校のカリキュラム(実施時期)の違いが、コラボレーションを行う際、大きく影響するのである。実施時期が違っても柔軟に対応できるようなシステムも構築してきたが、実施時期を柔軟に対応できるようにするとガイアへの投稿頻度が減るというジレンマに陥っている。今後の課題として検討していきたい。